モバジェネワールド・リメイク   作:擬態人形P

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第36話 PHASE3-12『贖罪の機会』

ハイゴッグを従えるケンプファー乗りのミハイル・ニューロ。

その猛攻を安斎都は、ザクフリッパーで耐える。

ボロボロになりながらも、頭脳戦でハイゴッグを全滅させ、ケンプファーの武装すら奪ってみせた彼女は、ユーグ・クーロを始めとした増援の到着まで凌いでみせた。

 

砂塚あきらに引っ張られる形で戦線離脱をした都に代わり、ニューロの言う死闘の続きを希望したのは、ユーグでも夢見りあむでも無く、辻野あかり。

彼女は、集中して「種割れ」を起こすと、ゾゴックで有り得ない程の戦闘力を発揮し、ケンプファーを撃破してしまう。

 

索敵等の援護をしていた綾瀬穂乃香が目を開く中、疲労したあかりは、りあむに連れられて、キャリー・ベースへと連れられて行く。

次元圧縮プログラムが無くなった事で、増援の心配が無くなり、ファントムスイープ隊は、ニューロが荒らした街への救助活動にも手を割く事になった。

 

 

戦闘は終結したが、「シャングリラ」の被害状況は酷い状態。

そして、怪我人が次々と運ばれていったキャリー・ベースでは………。

 

 

 

今回の戦闘では、ジャンク山に住まう者達を含め、市民への被害が酷くなっていた。

ジュドー・アーシタは、アーガマの独房に一旦放り込まれる事になり、反省する事に。

ムウ・ラ・フラガも、色々と気にはなったが、アークエンジェルの事を最優先にする為、コロニーから脱出して貰っている。

 

キャリー・ベースに収容された怪我人の中には、肉体だけでなく、精神の不調を訴えた者も合わせれば、6人のパイロットがいる。

シンデレラガールズが、栗原ネネと高槻やよい、藤原肇。

ファントムスイープ隊が、北条加蓮と辻野あかり。

ユウ・カジマ大佐の下からの出向者だと、安斎都。

 

一般人の重傷者を医務室に受け入れる為、ネネとやよい、肇達は自室で治療を受ける事になり、加蓮は空き部屋を借りる事に。

あかりと都も、加蓮と同様の処置が取られる事になっていた。

 

「参りましたね………。」

 

そんな中、運んでもらったあきらや、怪我人を受け入れているファントムスイープ隊の隊員の手で、ストレッチャーに乗せて貰った都は途方に暮れていた。

降ろして貰ったキャリー・ベースのモビルスーツハンガーでは、穂乃香に連れられてきた桃井あずきが、顔を覆って泣き崩れていたからだ。

 

「そんな深刻な顔をしなくても、生きていますよ?」

 

都は笑みを見せるが、パイロットスーツの所々を血に濡らし、口の端から吐血していては説得力が無い。

嗚咽するあずきは、やよいが臨時パイロットになった時と同様に、自分が力になれなかった事を悔いていた。

 

勿論、キャリー・ベースでやよいの看病をしていた彼女が、何かを出来たわけではない。

それでも、力を付けていれば、戦場に立てていたかもしれないと思うと、後悔が止まらなかった。

 

「あずきの………恩人なのに………!あずきは………結局何も………!」

「都さん………傷がある程度治ってからで構いません。あずきちゃんと過去に何かあったのか、教えて下さい。」

「穂乃香ちゃん!?」

 

あずきが思わず穂乃香を見上げるが、絞り出すように呟いていた穂乃香の目は真剣そのものであった。

これまでは都の事を含め、あずきは自分が消去された世界から転移してからの事を、誰にも喋っていない。

それだけ、彼女にとってはトラウマであり、触れられたくない事があったからなのだと思ったからだ。

しかし、これだけ恩人という都の怪我に取り乱してしまうのならば、その事情を知ろうとしない事は逃げなのだと穂乃香は理解した。

 

「ゴメンなさい、あずきちゃん。でも、私は今、あずきちゃんと「同じ後悔」を想っているの。自分に力があれば、誰かが怪我をしなかったのかもしれない。だから………貴女の事も、しっかりと知っておきたいんです。」

「不快になるというレベルじゃ、無いですよ?」

「構いません。もう、大切な仲間であり、親友である人の苦しむ姿を見たくはないんです。トラウマに踏み込む事になっても………支えてあげたい!」

 

都の注意喚起に対しても、穂乃香は強い言葉で頷いた。

あずきは無言であったが、都はまた少しだけ笑みを浮かべると彼女に告げた。

 

「いい親友達を持ちましたね。………分かりました、貴女と忍さん、柚さんには話します。」

「ありがとうございます。」

 

それで、都はストレッチャーで連れていかれる。

あずきは思わず俯きそうになったが、立ち上がると治療を行うファントムスイープ隊の人達に視線を移し、頭を下げて最後までその様子を見ていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「大変んごねぇ………あずきちゃんも苦労しているみたいですし。」

「あかりちゃんの顔も、今は酷いけれどね。」

 

一方で話題に上がった工藤忍は、りあむと共にあかりをストレッチャーに乗せていた。

どういうわけか、戦闘後のあかりの顔は青ざめており、目の下に酷いクマが出来ている。

あかり曰く「過去」の代償らしいのだが、忍もそこは把握していない。

分かっているのは、あきらとりあむの2人は、その過去を含めて理解し受け入れているという事だ。

 

「少し眠るといいよ。キャリー・ベースのベッドはこれでも快適だからさ。」

「あんまり大きくない艦なのに、そういう所はいいんだね。」

「りあむさん、余計な事は言わないで下さい。………じゃ、忍ちゃん、後は任せます。」

 

ストレッチャーの上で本当に眠り出したあかりを見て、忍は軽くりあむを見る。

それは、戦闘をする度に危うい状態になるあかりに対する疑惑であった。

 

「………本当に、大丈夫ですよね?」

「いざという時は、ぼくもあきらちゃんも、あかりちゃんの「薬」を持ってるから大丈夫。」

 

薬という物を使う時点で、あかりの状態は普通でないと思う忍。

だが、前に思い切って当人に状態を聞いた所、彼女はこう言っていたのだ。

 

(なんていうか………普通に過ごしていても命をすり減らしていくだけから、自由に生きたいんです。気遣うなら、そこら辺で気遣ってくれると嬉しいかなって………。)

 

あかりの残された寿命はどういうわけか、現時点では長くない。

それでも、ファントムスイープ隊であきらやりあむと仲良く過ごしていたいのが、あかりの本音であるのは確かであった。

 

「アタシも、そうやって相談して欲しいんですけれどね。」

「本当に酷くなったら、流石に話すんじゃない?………ぼくが言うのも何だけど、余計な事であかりちゃんを傷つける方が、迷惑だよ。」

「………そうですね。」

 

忍は、りあむの言葉を受けて、無理やり納得させる。

あかりとシミュレーターを楽しむのも、半分はライバル意識がある所もあるが、半分は彼女と楽しい時間を過ごす為。

彼女が望むのならば、変に対応を変えてはいけないと感じた。

 

「とりあえず、ベッドまで連れて行きましょうか。空室案内しますから。」

「ほいほーい。………あれ?そういえば、肇ちゃんが捕まえた、ぼくと同じ位の年っぽいのに、ぼくより遥かにしっかりしてそうな女の人、どうなったの?」

「千秋さん………だっけ。目を覚ましたら、自分の足で検査着に着替えて独房へと歩いて行きましたよ。今は藍子ちゃんと未央ちゃんが見ていますね。」

 

ファントムスイープ隊の面々と共に、あかりを空室まで案内していく中、忍はりあむに黒川千秋の事を説明する。

捕虜になった彼女は、どうもキャリー・ベースの面々に逆らう気は無さそうであった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

キャリー・ベースの独房は、流石に寝室や医務室とは違い、快適空間というわけでは無かった。

その一室で、千秋は正座をして静かに座っている。

表情は、流石に明るいというわけでは無かった。

 

「……………。」

「食事だよ。………といっても、ネネちんが今寝込んでいるから、冷凍食品で我慢してね。」

「分かったわ………。」

 

本田未央がレンジで温めて来た食事を、千秋は静かに食べる。

その様子を静かに眺めながら、未央は通路の端に背中を付けて膝を抱えて座り込む。

もう1人、高森藍子はその隣に立っており、静かに千秋を観察していた。

 

「黒川千秋さんだっけ?じゃあ、くろちーと呼んでいい?」

「どうぞ………。」

 

早速あだ名を付ける未央は、マイペースに千秋を見る。

彼女は彼女で千秋の様子を、ずっと観察しているようであった。

 

「ほのっち………索敵や敵機の照合を担当している穂乃香ちゃんの話だと、くろちーはアーガマを撃つのを躊躇ったんだよね?」

「………ええ。」

「人を殺すの………というか、周りに被害を出すの………イヤだったの?」

「……………。」

 

千秋が「ヘリオポリス」の居住区で子供の亡骸を見て、動揺してしまっていたのは、未央も藍子も肇から聞いている。

それ故にこの千秋という人物が、非道な行為を繰り返すクルーゼ隊の中では異質な存在であるというのも、分かっていた。

未央の質問に、千秋はしばし無言であったが、逆に質問をした。

 

「今回の戦闘で………被害はどれくらい出たの?」

「正直、酷いよ。コロニーは崩壊してないけど、沢山の人が怪我をして………命を落としたかな。」

「そう……………。」

 

千秋は俯く。

その手がギュッと握られて震えていたのが、未央にも藍子にも分かった。

彼女は後悔しているのだ。

自分の行いが、人々の犠牲に繋がったのだと。

 

「一応言っておくけれど、くろちー自身は被害を出してないよ。被害を出したのは、他の部隊。………まあ、そのクルーゼ隊もやろうとした事は清々しい程に外道だったけれど。」

 

未央は、包み隠さずに自分の考えや状況を述べる。

彼女は初対面の相手………それが敵に対しても良く言えばフレンドリーで、悪く言えば馴れ馴れしい部分があった。

本人もそれを理解しているから、普段はセーブしようとしている部分は多少あるが、今回に限っては、それは無しにしている。

藍子は何も言わずに、ジッと未央と千秋の会話を聞き、その間の千秋の反応を確かめていた。

 

「くろちーはさ………何の為に戦っているの?」

「野蛮なナチュラルから、コーディネイターの同胞を守る為よ。………少なくとも、肇と対峙するまでは、そうだった。」

 

千秋と未央の世界における、コーディネイターとナチュラルの確執は根深い。

互いが互いを殲滅しようと考え、実際過去には「血のバレンタイン」と呼ばれるナチュラルによる、コーディネイターのコロニーを核攻撃で破壊する事件もあった程だ。

だからこそ、英才教育により、互いが互いに対して憎しみを持つようにされていく。

千秋もまた知らぬうちに、そういう教育を施されていたうえで、コロニー破壊事件があったのだ。

それ故に、反ナチュラル思想に染まっていたのだと、今、彼女は理解している。

 

「私は………結局、ナチュラルの事をどうしたいのかしら?」

「じゃあ、単純な質問。くろちーは、未央ちゃんを八つ裂きにしたい?」

「え!?」

 

自嘲気味に呟いた千秋は、じっと見ていた未央の言葉に、思わず驚愕する。

彼女は、自分がオーブ出身のナチュラルだと説明した。

流石に会話している相手が、今、正に対応に悩んでいるナチュラルだとは思っていなかったのだろう。

千秋は茫然としてしまっている。

そんな彼女から目を離す事無く、未央は言葉と紡ぐ。

 

「私は生まれた所が良かったんだね。だって、同じナチュラルのしまむーとも、コーディネイターのしぶりんとも、仲良く過ごせているんだもの。」

「……………オーブは国としては、最悪よ。中立といいながら武力を整えているし。」

「まあ、くろちーから見たら、そうなのかもしれないね。………でもさ、自分の価値観を全て国のせいにして責任逃れをしまうのって、それこそ最悪じゃない?」

「!?」

 

容赦の無い未央の突き刺さるような言葉に、千秋は思わず手にしていたスプーンを取り落とした。

こうやって会話をしているだけでも、自身に根付いた反ナチュラル思想が自然と前に出てしまう。

その事実が、千秋を恐怖に陥れようとしていた。

尚も未央は立ち上がると、柵越しに千秋を見下ろし、静かに問う。

 

「コーディネイターが殺されたからって、ナチュラル全てが悪なの?武装しているからって、オーブの事情も理解しようとしないし、そもそも住んでる人達みんなが悪なの?」

「そ、それは………!?」

「だったら、未央ちゃんは悲しいな………。私を八つ裂きにしたいと考えているなんて………。」

「違う………ッ!!私は貴女を殺したいなんて、これっぽっちも思ってない!!私は………本当は、あの子供も犠牲になんてしたく無かったッ!!」

 

思わず床を叩いて叫んだ事で、千秋はハッとする。

今、自分は何を言ったのかと。

未央は、優しく千秋に微笑むと藍子の方を見た。

意図を理解した彼女は、軽く溜息を付きながらも、盗聴用の小型モニターを取り出す。

そこには同じく溜息を付いた、まだブランリヴァルに待機していた高垣楓が映っていた。

 

「今の言葉が………くろちーの心の底の本音じゃないの?コーディネイターとかナチュラルとか、そんな価値観関係なしの。」

「私の………本音………。」

「というわけで、今みんな忙しいから手伝って。」

「手伝って………え!?」

 

未央はモニター越しに楓の許可を貰うと、鍵で牢の扉を開けた。

思わず千秋は唖然とするが、未央は満面の笑顔で告げる。

 

「被害が酷いって言ったでしょ?猫の手も借りたい状況なんだ。私達だけサボってたら、バチが当たっちゃうよ。怪我人の人達、助けに行こ!」

「え?え?………そ、それでいいの!?」

 

未央の奇行に思わず千秋は藍子を見るが、彼女はキャリー・ベースの千川ちひろに連絡を取る。

そのうえで携帯端末を閉じると、千秋を見据えて言った。

 

「流石にモビルスーツに乗せる事は出来ませんし、監視は私達が付きます。でも………貴女もパイロットをやっているのならば、治療の応急処置などは出来るはずです。………だったら、今の状況でやらなければならない事は、決まってくるのでは無いのですか?」

 

藍子の方は、未央ほどフレンドリーでは無い。

元々軍に所属していたのだから、当然といえば当然だ。

しかし、元ティターンズ故に「間違った行動」を取った後に贖罪の機会が欲しいのは、彼女も納得出来た。

 

「行きましょう。今度こそ、貴女の手で、本当に貴女が救いたかった人々を助けに。」

「……………ありがとう。」

 

捕虜である事には変わらない。

それでも贖罪という形で、自分のやりたい事をやらせてくれる2人に、千秋は素直に感謝の言葉を述べた。

 

 

怪我人の収容が終わる中、シンデレラガールズの様々なクルーの想いが渦巻いて行く。

そんな中、捕虜となった黒川千秋は、新たな一歩を踏み出す事になる。




戦いが集結すれば、全て終わり…というわけにはいかないのが、辛い所。
むしろ、終わってからが本当の戦いと言えるのかもしれません。

綾瀬穂乃香さんは、安斎都さんのニューロとの戦いで、かなり思う所があったみたいですね。
だからこそ、踏み込む道を選んだ。

逆に工藤忍さんは、複雑そうな事情を抱える辻野あかりさんに対し、夢見りあむさんからその時が来るまで待ってあげるべきだと諭されます。
りあむさんが意外…と思うかもしれませんが、彼女は面倒見がいい部分もあるんですよね。

そして、黒川千秋さんは贖罪の機会を得る事に。
こういう距離感をコントロールして詰める事の出来る本田未央さんの強みは、かなり有り難い物だと思っています。
コミュ力に長けている人物だからこそ、発揮できる武器なのでしょうね。
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