怪我人の収容が行われる中、シンデレラガールズのクルーの心情にも変化が起きる。
綾瀬穂乃香は、桃井あずきの過去のトラウマを知る為に、安斎都に、後にグローブ事件の詳細を語って貰うようにお願いした。
工藤忍は、あまり寿命が長くないという辻野あかりについて悩むが、夢見りあむにより、頼りにしてくれる時が来るまでは、好きにやらせてあげるのも優しさだと諭される。
独房では、反ナチュラル思想の間違いに気づかされた黒川千秋が、本田未央と高森藍子によって、怪我人を救いに行くのが贖罪だと教えられ、外に出る事になった。
皆が自分に出来る事を考え、行動を起こしていく。
そして、その想いは今回の戦いの功労者達にも影響していた。
キャリー・ベースの一室では、藤原肇が頭に包帯を巻いて寝込んでいた。
彼女を看病しているのは、緒方智絵里。
その部屋の扉がノックされると、吉岡沙紀が入って来た。
「………どうっすか、肇ちゃんの様子。」
パイロットとしての出撃を終えてから、智絵里も沙紀も民間の怪我人の収容や、破損したモビルスーツの整備などを行っていた。
しかし、流石に休憩時間を取らないと倒れてしまうと言われ、こうして休息の合間に傷ついた仲間の様子を確認しに来ているのだ。
「………症状は脳震盪だって。被弾した時の揺れで頭をぶつけて、古傷が開いたみたい。血は酷かったけれど、そこまで深刻な怪我じゃ無かった。内部出血とかも大丈夫。だけれど………。」
「たまたま………っすよね。下手すれば、命が飛んでいたっす。」
智絵里の説明を受けて、沙紀が重苦しそうに嘆息する。
至近距離でダギ・イルスの拡散ビーム砲を受けたのだ。
咄嗟に防御態勢を取ったとはいえ、当たり所が悪ければ、コックピットが吹き飛んでいてもおかしくは無かった。
「私のせいで………。」
その原因の一端を作った智絵里は、思わず目を伏せる。
彼女の機体がダメージを受けた事で、肇はより逆上してしまったのだ。
智絵里にしてみれば、自分を庇って彼女が傷を負ってしまったようなものであった。
しかし、落ち込む智絵里の肩を叩きながら、沙紀は冷静に釘を刺す。
「それは言わない約束っすよ。………アタシだって、あんなの対処できるわけがない。」
そして、眠っている肇の顔をマジマジと見つめて無事を確かめた後に、沙紀はもう1つ溜息。
天井を見上げて腕を組むと、心の底にある本音を呟く。
「………整備としては、もっといいモビルスーツを渡す事が出来なかったかって、いつも後悔するっすよ。」
「それこそ、言わない約束じゃあ………。」
「分かってるっす。限度があるという事も。でも、納得なんて………。」
理解はしているのだ。
今のシンデレラガールズの状況じゃ、どうしようもない悩みであるという事も。
だが、それで物分かり良く納得できる程、17歳である2人は年を重ねていなかった。
しばらく部屋の中が静まり返ったが、やがて智絵里の方から沙紀に質問をする。
「………ヅダの方はどう?」
「元が元っすから、かなりきついっす。ぶっちゃけ、乗り換えた方が安定っすよ。肇ちゃんじゃなければ………。」
ヅダの土星エンジンは欠陥要素が強く、限界以上に出力を上げると自壊する危険性がある。
実際、今回の肇は、感情に任せてヅダを暴走させてしまった為に、エンジンから煙が吹き、かなり危うい状態になっていた。
加えて、拡散ビーム砲により右足が失われ、格闘戦用のヒート・ホークとシールドも破壊されているので、このまま処分してしまった方が楽である。
だが、接近戦に特化し過ぎている肇は、高機動のヅダとの相性が凄まじくマッチしており、下手に乗り換えるとその力を十全に発揮できなくなってしまう。
今まで行っていた鹵獲が出来なくなるばかりか、射撃が下手過ぎる事も有り、一気に役立たずになってしまうのだ。
それ以上に重要なのが………。
「確か………、「育て」のお爺さんから貰ったモビルスーツなんだよね。肇ちゃん、お爺さんの事、凄く慕っていたから、ヅダを直してあげたいけれど………。」
智絵里の言葉に、沙紀は考え込む。
今のシンデレラガールズに玄人向けの機体が無い以上、ヅダは無理やりにでも修復するしか無いだろう。
でないと、肇は出撃をさせても戦力にならない。
「………とはいえ、あそこまで壊れていて、何処まで修復できるか。」
「私も手伝うよ………。ここにいても、何も出来る事ないから………。」
「ありがとうっす。それじゃあ、お願いするっすよ。」
時計を見て、そろそろ休憩時間が終わりだと踏んだ2人は、もう1度だけ肇の様子を確認して、彼女が静かに寝ている事を確かめてから、部屋の電気を消して出ていった。
――――――――――――――――――――
肇は夢を見ていた。
10年前の夢を。
といっても、あの悪夢のような記憶では無く、「その後」の出来事だ。
(うわあああああああん!!うわあああああああん!!)
(これ、泣くな!泣いても死んだ者は戻ってこん!!)
老年の男性に保護をされて1週間後、6歳であった肇は泣き叫んでいた。
死地とも言える場所から安全な場所に保護された事で、それまでの悲しみが爆発してしまったのだ。
(おかあさああああん!!おとうさああああん!!おじいちゃああああん!!)
(………といっても、その歳でアレを受け入れるのは無理があるな。)
家族の亡骸だったものに埋もれていた肇は、その現実を受け入れる事が出来ない。
叫べば帰って来てくれると感じていたのか、失った者を追い求めてしまった。
だからこそ、老年の男性は1つ拳を叩くと手を打つ。
(よし、聞け!肇!!)
(………ひっく………あう?)
老年の男性の大声に、肇は僅かながら泣き止む。
男性は立て膝を付いて肇の目線の高さに合わせると、その頭に手をポンと当ててニカリと笑みを見せた。
(今日からワシがお前の「おじいちゃん」になってやるわい!遠慮なく甘えていいぞい!!)
(……………おじい………ちゃん?)
唖然とする肇に対し、老年の男性はうんうんと頷きながら、くしゃくしゃと頭を撫でてくる。
その温かさが、少しだけだが彼女を正気に戻していく。
尚も、男性は笑みを見せながら、落ち着かせるように告げた。
(そうじゃ。だから、もう泣くな。泣いたら、お前の家族も悲しむ。代わりに笑うんじゃ。これからの人生、いっぱいいっぱいな!)
太陽のような老人の男性の笑顔を茫然と見つめていた肇は、やがて、彼と共に10年間を過ごす事になる。
「……………ウモ………ンおじい………ちゃん……………。」
自身の原点とも言える出来事を僅かに思い出したのか、肇は一粒だけ涙を流す。
そして、自分を導いてくれた育ての祖父の名前を、静かに呟いた。
――――――――――――――――――――
一方、別室では北条加蓮が、ベッドで寝込んでいた。
その脇腹には包帯が巻いて有り、怪我が酷い事が傍目からでも分かる。
彼女の看病は、渋谷凛と神谷奈緒が担当していた。
「大丈夫か、加蓮?」
「うん、大丈夫。いつもの事だし、もう慣れているから………。」
「そうは言っても、毎回これじゃ、心配にはなるよ。」
加蓮は、高槻やよい達をハイゴッグで庇った時の衝撃で、古傷が開いてしまっていた。
その後、やよいが無理やり加蓮の機体を動かしたお陰で、彼女も無事でいられたが、正直、傷は深刻ではあった。
「やよいには感謝だね………。傷が回復したら、お礼言っておかないと。」
「ねえ、加蓮。いっその事、これを機に専属オペレーターになったら?」
苦笑いを浮かべている加蓮に対し、凛が提案する。
出撃の度に、自身の古傷を気にしていなければならないのは、特務部隊のパイロットとしては致命的だ。
だからこそ、前線に出てほしくは無いのが、仲間であり友である凛や奈緒の正直な感情であった。
「それは………イヤかな。」
しかし、加蓮は弱々しく笑みを浮かべながらも拒否する。
その様子に呆れた奈緒が、頭を押さえながら言う。
「お前な………ハッキリ言うけれど、「あの時」の怪我、治って無いんだろ?そんな身体じゃ………。」
「分かっている!でも私は、隊長や凛、奈緒がいなければ、生きていなかった!!」
思わず叫ぶ加蓮であったが、それでまた古傷が痛んだのか顔をしかめる。
だが、自分の抱いた想いを隠そうとはしなかった。
「私、死んでいた………。動かないコクピットの中で………。「アレ」に潰されて………。」
「加蓮………。」
加蓮は、死にかけた所をユーグ・クーロ率いるファントムスイープ隊に保護された経歴がある。
その時の加蓮は非常に危うい状態で、もう少しで「ひき殺される」危険があったのだ。
尚も、加蓮の独白は続く。
「本当は、凛や奈緒の旅についていきたい。一緒に戦いたい。役に立ちたい………。でも、悔しいな………この傷じゃ足引っ張っちゃうから………せめて、部隊の中では………。」
加蓮は、かなり熱い性格をしている。
出来る事ならば、シンデレラガールズと共にバルバトス打倒の度に付いて行きたいのが本音だ。
しかし、それが無理だと分かっているからこそ、彼女は何とかファントムスイープ隊の一員として役に立ちたかった。
本当はこうして寝込んでしまった事も、悔しくてたまらないのだ。
「………じゃあさ、加蓮。1つだけお願い、聞いてくれるかな?」
「お願い………?」
凛の静かな言葉に、涙目になっていた加蓮はベッドの上で首を傾げる。
奈緒も同様に見てくる中で、彼女はそのお願いを告げた。
「私達はこれから、ハルファスガンダムを倒しに行く。だけれど、辛い旅路になると思うんだ。何が起こるか、正直分からない。どれだけ掛かるのかも分からない。もしかしたら………途中で誰かの助けも必要になるかもしれない。」
「助け………。」
「そう。だから加蓮には、私達がどうしようもなくなった時、力になって欲しいんだ。」
「私が凛達を助ける………?あの時、凛達が私を助けてくれたように………?」
「そういうこと。」
加蓮がゆっくりと腰を上げる中、凛は深く頷く。
バルバトス打倒の度は、本当に何が起こるか分からない。
だからこそ、何かしらのバックアップが欲しいのも事実であった。
尚も凛は、軽く冗談を言ってみせる。
「だって、奈緒じゃあ、頼りにならないもん。」
「うるせえよ。まあ、後ろで支えてくれる奴がいた方が安心なのは、確かだろうけどさ。」
「凛………、奈緒………。」
奈緒はニヤリと笑みを見せると加蓮に正直な想いを告げる。
「そういうわけだ。お前はもしもの為の切り札なんだから、下手に前に出て簡単にくたばるんじゃ無いぞ。」
「そうそう、また3人で組む夢、諦めているわけじゃないんだからね。」
凛も同調し、加蓮に強気の笑顔を見せる。
3人はシンデレラガールズでも、名乗りたいチーム名があった。
その夢を諦めたくない想いは、奈緒も凛も同じであったのだ。
2人の想いを感じ取ったのだろう。
加蓮は思わず嬉しさで泣きそうになった自分の目を腕でゴシゴシとこすると、凛達を見つめて笑った。
「………うん、分かった!絶対に駆け付けるから!約束………守って見せるから!!だから2人とも、その前に死んだら駄目だよ!!」
「モチの………!」
「ロン!!」
想いを確かめ合うと、3人誰からでも無く自然と右腕を伸ばし、固く手を重ねた。
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白衣に着替えた千秋は、未央や藍子と共に、キャリー・ベースの格納庫………今は臨時の病棟と化している場所で、怪我人の治療を施していた。
ザフトで応急処置の技術を習っていただけあり、彼女の手際はそれなりにいい。
「これで良し………。下手に動いたら傷口が開くから、大人しくしているのよ?」
「うん………お姉ちゃん、ありがとう………。」
感謝の言葉を述べられるたびに、良心が痛む千秋であったが、これも贖罪なのだろうと自分に言い聞かせる。
手当を受けた子供に優しい笑顔を送った彼女は、監視役も兼ねている2人に、モビルスーツが外の現場に出ているか聞いた。
「しまむー………えっと「ヘリオポリス」で、砲撃戦装備でビームを撃っていた子が、ジムⅢで出ているよ。………と、戻って来たけれど………。」
帰還したジムⅢのコックピットから降りて来た島村卯月の表情は、あまり良くは無い。
彼女はモビルスーツのマニュピレーターを使い、戦闘で崩れたジャンク山からスクラップ品をどかす作業を担っていた。
つまり、それ相応の亡骸も見て来たという事だ。
未央が駆けつけると、千秋の現状を含めた事情を説明し、操縦を交代しようか聞いた。
「大丈夫………。ちょっと水分を補給したら、すぐに出るから。」
「無理だけはしないでね。はい、ドリンク。」
「ありがとうございます。」
周りの気遣いに長けている卯月の口数は、珍しく少ない。
それだけ、あまり精神的に余裕が無いのだろう。
ドリンクを飲んだら、藍子と千秋に頭を下げて、すぐにジムⅢへと戻っていき、キャリー・ベースを出ていく。
「………誰か、私のシグーアサルトに乗れないのかしら?バーニアが壊れているだけなら、撤去作業とかには使えると思うのだけれど………。」
「残念ですけれど、ザフトの機体に適性を持っている人は、今は居ません。ここは、卯月ちゃんとかに任せるしかないですね………。」
一応、カジマ大佐の下から出張している服部瞳子や水木聖來、並木芽衣子も加勢はしてくれているらしい。
とはいえ、本当に猫の手も借りたい状況ではあった。
「私は………取り返しの付かない事をしていたのね………。」
「挽回は出来ますよ。それが、罪滅ぼしになるかは分かりませんけれど。」
「貴女は………。」
「私の居た組織も、そんな場所でしたから。………さて、お喋りはここまでにしましょう。」
何処か遠くを見つめていた藍子の瞳に、何か同じ匂いを感じ取る千秋。
しかし、今は1人でも怪我人を救う為に、皆が尽力をしていく。
戦いの後のもう1つの戦いは、夜遅くまで続いた。
戦闘とは違う、治療という名の戦い。
その重苦しさを経験したクルーは、夜ゆっくりと休む事になる。
但し、眠れない者もいて………。
藤原肇さんの境遇に関しては、動画版でもこの時点で説明があったので、コメントで色々な言葉があったのを覚えています。
その中で、今回の「おじいちゃん」に関しては、色々と温かい言葉が掛けられた記憶もありますね。
彼女が自身の過去を語るのは、まだ先になりますが、重たい物を抱えているのは事実です。
重たい過去と言えば、北条加蓮さんも、何かを抱えている様子。
ガンダムの世界の轢き殺す兵器と言えば…?
渋谷凛さんや神谷奈緒さんとの約束は、今後に影響を及ぼす事になります。
モビルスーツで救助活動を行うのは、水星の魔女の世界を思い出します。
学生ものと思いきや、あの世界でも色々と悲しい事がありましたよね。