モバジェネワールド・リメイク   作:擬態人形P

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第40話 PHASE3-16『進み続ける者』

26歳の安斎都が綾瀬穂乃香、工藤忍、喜多見柚に語る事にした、13年前に転移してきた桃井あずきと見てしまったグローブ事件の真相。

見境なしに男はなぶり殺しにされ、女は犯されるという地獄絵図から逃れる為に、必死に逃走した2人は、鎮圧部隊の先遣隊であったユウ・カジマに保護された。

 

あずきは、親友達の名前を泣き叫んだ事が切っ掛けで、マスター・P・レイヤーに保護されていた忍と再会する事ができ、ギリギリの所で精神が壊れずに済んだ。

だが、深い傷とトラウマを負ってしまい、活発なあずきの姿で無くなっていたのだ。

 

彼女自身が黙っていたとはいえ、親友の心の傷に気付けなかった3人は悔しい想いをする。

しかし、結局は自分自身で解決をしていかないといけない中、あずきは何処かで光明を見出せるのか?

 

 

 

昼になる前、あずきは穂乃香と共に、艦内を散歩していた。

部屋に戻っても落ち着かないし、かといって外は被害にあった「シャングリラ」の街の人達が抗議しているから出られない。

だから、只々漠然と艦内を散歩していたのだ。

 

「………………。」

 

あずきは無言であった。

都のお陰でようやく親友達に謎であった過去のトラウマの一件を理解して貰えたが、だからといって彼女を蝕んでいる根本の原因が解決するわけでは無い。

目を閉じると、今でも自分や都に手を出そうとする狂った連邦兵達の姿が映る。

その恐怖から、解放されるわけも無いのだ。

 

「あずきは………弱いね………。」

 

ポツリと呟いた言葉は、隣を歩いていた穂乃香に響いた。

いつの間にか足を止めてしまっていた彼女は、俯きトラウマを克服できない自分を責める。

こんな弱い自分で、在りたいわけが無いのだ。

 

「………誰だって、あずきちゃんのような経験をすれば………。」

「ありがとう穂乃香ちゃん………でも………アレ?」

 

穂乃香の気遣いの言葉も届かない中、あずきは目の前の部屋が騒がしいのに気づく。

そこは、シミュレータールームであった。

 

「誰か利用しているのでしょうか?」

 

穂乃香と2人で覗き込んだあずきは、驚いた。

片方の利用者は、渋谷凛。

そして、もう片方の利用者は………。

 

「う~、負けました!もう1回お願いします!」

 

相変わらず痛々しい包帯が体に巻かれていたが、怪我明けの栗原ネネに見守られながら、高槻やよいがシミュレーターから立ち上がって、凛にお願いをしていた。

その様子を見て、あずきは思わず叫ぶ。

 

「やよいちゃん!?もう大丈夫なの!?」

「あ、あずきさん、穂乃香さん!こんにちは!」

 

やよいはあずきと穂乃香を見ると、お辞儀をする。

その姿はガルウイングとなっており、彼女が無理をしていない事が分かる。

 

「ちょっと、忍さんを見習って、凛さんと30番連続で勝負して貰っているんです!今17回連続で負けましたけど、次は勝ちますよ!」

 

小さな力こぶを作ってみせたやよいは、機敏に動きながら再びシミュレーターに向かおうとする。

努力の鬼というか、スタミナお化けの忍を見習う時点で、とんでもない事だと思ったが、それよりもやよいの前向きな姿勢に、あずきは唖然とした。

彼女は、前日の初陣とも言える戦闘で人を殺し、敵大将機………マシュマー・セロとも激闘を繰り広げた。

何とか助かった後は、命を奪った罪悪感から嘔吐し、力尽きてキャリー・ベースに運ばれてきたのだ。

それなのに………。

 

「何で!?何で、そんなに元気でいられるの!?人を殺して吐いていたのに!?」

 

言ってしまった後で、あずきは思わず口を塞いだ。

自分が、とてつもなく配慮に欠けた言葉を叫んだのは、明確だった。

思わず体を震わせたあずきに対し、やよいは一度椅子からゆっくりと立ち上がると、あずきを見る。

その目には悲しさがやはり含まれていたが、彼女の事を責めはしていなかった。

 

「ご、ごめ………。」

「謝らなくていいですよ。私だって柚さん達の昔話を聞くまでは、命を奪う練習をするこのシミュレーターを毛嫌いしていましたから。」

「じゃあ………何で………。」

「ずっと未熟なままだと、765プロの仲間を含め………このシンデレラガールズの人達も………誰も守れないからです。」

 

初めての戦闘をこなしたやよいの戦いは、お世辞にも上手いとは言えなかった。

勿論、初陣なのだから、これが普通だと言われればそれまで。

しかし、それに甘んじていては、今度は上手くいかないかもしれない。

上手くいかないという事は、死にも繋がる。

 

自分が死ぬだけならば、まだ良い。

だが、その死によって、釣られて仲間が被害にあう危険性すらあるのだ。

 

「朝、ニューロの襲撃で被害にあった、「シャングリラ」の人達がいましたよね。あの人達が狂ったのは、戦いがあったからです。」

 

この艦やブランリヴァルを取り囲んでいる人々は、ミハイル・ニューロの襲撃の巻き添えになった人達だ。

ジャンク山の人々に責任を求める所は、人の醜さが集約されているが、そもそも戦闘が無ければ起こらなかった悲劇。

ネネと語ったやよいは、そんな人達を増やさない為にも、バルバトスの好きにはさせられないと感じたのだ。

 

「また………戦場に出たら、人を殺すんだよ?怖く無いの?」

「怖くないと言ったら、嘘になります。………でも、私はもう撃ってしまいましたから。だったら、撃ちたくない人の分まで、守りたいと思ったんです。それが、身勝手な人達であっても。」

 

やよいは「シャングリラ」の民のような犠牲を、もう出したくないと言っているのだ。

戦いを起こさないようにするのが一番だが、起きてしまったのならば、せめて守れる者は守らなければ後悔に襲われる。

 

撃ってしまったから、せめて自分が撃つべき者に回るというのは、やよいが初めてキャリー・ベースに来た時の夜にネネに気遣われた事であった。

今ならば、そのネネの立場に回ったからこそ、その言葉の意味をしっかりと理解する事が出来る。

そして、優しいやよいだからこそ、より明確に守りたい………と、抱く事が出来る想いでもあるのだ。

勿論、甘ったれた感情かもしれないが、それが彼女の戦う理由となっていた。

 

「だから私………もっと強くなります!強くなって………みんなを助けるんです!」

 

笑顔を見せるやよいを茫然と見つめていたあずきは、ポロリと一粒涙を流す。

数日前まで、弱く押しつぶさせそうになっていたアイドルの少女は、戦士になろうとしていた。

そんな進み続ける年下の少女を見ていたあずきは、自分の弱さが情けなくて仕方なかったのだ。

 

「悔しい………。」

「え?あ、あずきさん!?どうしたんですか!?急に泣き始めて!?」

「ゴメンね、やよいちゃんが悪いわけじゃないの………。でも、あずきは凄く………悔しくて……………ッ!」

 

どうして、ここまで自分は無力なのか。

どうして、ここまで自分はネガティブなのか。

どうして、ここまで自分は前に進めないのか。

 

怒りとも取れる感情に支配されたあずきは、拳を握りしめ、唇を噛み締め、下を向き本気で悔しがる。

やよいはワケが分からずネネと顔を見合わせていたが、そこで凛の持っていたタブレットが反応した。

 

「あ、うん………奈緒?ゴメン、ちょっとやよいの相手しててさ。そっちで勝手に対応してくれない?」

「アレ?誰ですか………?」

「うちの隊長が様子を見にわざわざ車を飛ばして、ブランリヴァルから来たんだって。途中で石を浴びせられて大変だったみたいだけれど、無事に着いたみたい。」

 

どうも、治療中の部下である北条加蓮や辻野あかりが心配になって、外が危ない中、ユーグ・クーロが1人でやって来たというのだ。

ここら辺、ユーグという男も、仲間の為ならば無茶をするものである。

 

「まあ、仕方ないか。隊長、仲間を沢山失っているんだし。」

「凛ちゃん………ユーグさんって、強いの?」

「え?そりゃ、ファントムスイープの隊長だし、私よりもよっぽど………って、あずき!?」

 

あずきは最後まで話を聞かず、シミュレータールームを飛び出す。

穂乃香が慌てて凛ややよいに頭を下げて追いかけるが、何を考えているのかは、彼女にも見当が付かなかった。

とにかく、あずきが何をしようとしているのか分からない以上、穂乃香は心配で仕方なかったのだ。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

あずきは通路を、とにかく無我夢中で走った。

そして、治療を終えた怪我人の休息場所として開放しているモビルスーツハンガーまで走ると、目的の人物を見つけた。

彼………連邦軍人であるユーグは、神谷奈緒や砂塚あきらと話をしており、現状を確認している最中である。

 

「ユーグさんッ!!」

 

突然走って来たあずきの大声に、奈緒もあきらも驚くが、彼女の目にはユーグしか映っていなかった。

ユーグの方はあずきの登場に、僅かに目を見開きはしたものの、その真剣な………というより、まるで奈落の底から這い上がろうとしているような必死さを見て、何かを感じていた。

 

「君は確か………。」

「あずきを………あずきを、鍛えて下さいッ!!」

 

勢いのままに言い切ったあずきは、深々と頭を下げる。

追いかけて来た穂乃香は、いきなりのあずきの言葉に動揺を隠せないでいた。

 

あずきは、やよいの強さを目の当たりにした事で、自分もその強さを得たいと感じたのだ。

しかし、ユーグは安易に、分かった………とは言わなかった。

 

「………君の事は、カジマ大佐から聞いている。勿論、君の過去も。」

 

彼はあずきの前まで来て、小柄な彼女に合わせて膝を付き、右手を伸ばした。

穂乃香はあずきの懇願を聞いてくれる証だと思ったが、それが間違いだとすぐに気づかされる。

あずきは、「連邦軍人に襲われかけた」トラウマがある。

 

「この手を………握れるか?」

「ゆ、ユーグさん!?」

 

トラウマを抉るような度胸試しを行って来たユーグを、思わず非難する穂乃香であったが、彼は無視をする。

ジッとあずきを見て、手を伸ばすのを止めない。

 

「手を……………?」

 

あずきは、思わず震えていた。

あの紅蓮の炎に包まれた街で、屈強な連邦軍人の男の手に………正にユーグのような手に、襲われかけた。

そんなゴツゴツな手を提示されて、何も感じないわけが無い。

今にも手で掴みかかり、自分に何かしてくるのでは無いか?………という不安が、彼女を襲う。

尚も、ユーグはあずきを見つめながら静かに告げる。

 

「この手を握れなければ………鍛える事は、とてもでは無いが出来ない。時期尚早と言わざるを得ないだろう。君は………覚悟を持てるのか?」

「あずきは………あずきは……………!」

 

ガチガチと歯を鳴らす、あずき。

穂乃香はもう止めて欲しいと、口元を押さえるが、ユーグの言う通り、男の手を明確に握れないようでは、とてもでは無いが鍛える事なんてできないだろう。

 

(この手を………取れないと………!)

 

昔を思い出してしまい、あずきは過呼吸気味になるが、絶対に目線だけは離すものかとユーグを睨みつける。

そして、先程、必死に強くなろうとしていたやよいの姿を思い出した。

 

(やよいちゃんは………あずきも守ろうとしている………。)

 

手を汚したからこそ、手を汚していない者を守りたい。

やよいの純粋で悲しい想いは、あずきも守ってみせると言っているようなものであった。

自分より年下の少女が………健気に戦おうとしている。

それが………許せなかった。

 

「ユーグさん………!あずきは………!あずきはぁッ!!」

 

ユーグに対し、敵意を持って挑むような感情で1歩踏み出したあずきは、その手を………右手で思いっきり弾き飛ばした。

やっぱり駄目なのか………?と、穂乃香は思ったが、あずきは更に1歩踏み出すと、何とユーグに飛び込み、ガブリつくように抱きしめたのだ。

 

「……………。」

「あずきは………連邦軍人が嫌い。あずきに変な事してくる男の人が………嫌い!でも、でも………!!」

 

ユーグの耳元で遠慮なく叫ぶあずきだが、彼は表情を変えず、その言葉をしっかり聞いていた。

あずきは一段と深呼吸をする。

そして………。

 

「何よりも………!!弱くて惨めなあずき自身が!!一番、大っ嫌いッ!!」

 

もはや、雄たけびを上げるように彼女は咆哮していた。

守られるだけの自分が、もう嫌だから。

何かを守れるようにならないと、失うだけだから。

元の世界を失い、仲間を、恩人を失いかけたあずきの出した答え。

 

光明というには、反骨心も混じっている分、あまり大それた感情では無いのかもしれないが、変わりたいという確かな意志があった。

ユーグは、その叫びを聞いたうえで、静かに耳元で呟く。

 

「君のトラウマを治すには、かなり厳しい事をしなければならなくなる。それでも………変わりたいか?」

「うん………変わりたい。もう、泣いてばかりの自分は………イヤ。」

 

最後は涙声になってしまい、礼儀も何も無くなってしまったが、ユーグは静かにタブレットを取り出し、通信を繋いだ。

出てきたのは、ブランリヴァルの艦長である浅野風香。

 

「風香………すまんが、そっちはしばらく任せる。俺は連邦軍人として、過去の汚点の尻ぬぐいをしなければならない。」

「そう言うと思いました………。あずきちゃん、結構ナイスバディなのに、よく男の人に飛びつく覚悟がありましたね。」

 

風香は嘆息しながらも、しばらく、滞在をしている高垣楓や姫川友紀の手も借りて何とかします………と、苦笑いを浮かべる。

そして、あずきに優しく語り掛ける。

 

「もう、離れても大丈夫ですよ。ユーグ大尉を臨時講師にして、強くなって下さい。」

「……………えっと、本当に?」

「一応、ブランリヴァルとファントムスイープ隊を任されている艦長ですから、これでも権限はあります。ついでに言えば、ユーグ大尉を銃殺刑にも出来るんで。」

 

割と容赦の無い事を言うとあずきは思った。

しかし、ここでユーグの背中に思いっきり爪を食い込ませている事に気付いたので、慌てて離れて………足がもつれて後ろに倒れそうになり、穂乃香に支えられる。

 

「鉄は熱い内に打て………だな。早速だが、専用のウェアに着替えてトレーニングルームに行くといい。」

「え………?シミュレータールームじゃないんですか?」

「君のトラウマを、治すと言っただろう。先にやるべき事がある。」

 

ユーグはそう言うと、穂乃香には忍や柚を、トレーニングルームに連れて来るように求めた。

 

 

僅かながら光明を掴みそうになっている、桃井あずき。

その根深いトラウマを払拭する為、ユーグは何をする気なのか?




高槻やよいさんは、覚悟を決めました。

罪を抱えてしまったからこそ、平和に暮らす者達の為に、自分が武器を取って戦うという覚悟を。
多分、自分が非力なままで守られていても、誰もやよいさんに文句は言わなかったと思います。
でも、やよいさんは運命によって戦う側に回ってしまった。
だから、甘い感情を抱えたままでも、進み続けようと思っているのでしょうね。

そんな年下の少女の覚悟を見て、「悔しい」と感じた桃井あずきさん。
鍛えて欲しいと頼まれたユーグ・クーロは、彼女を試す真似をしますが、綾瀬穂乃香さんにしてみたら、気が気では無かったでしょう。

皆がそんな複雑な感情を抱える中、次回、あずきさんにとっての試練です。
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