ユーグ・クーロが桃井あずきのトラウマ改善として行ったのは、男の連邦軍人である自身を倒させるという一方的なスパーリングであった。
しかし、本気で防御と反撃を行うユーグを前に、あずきは成す術無く力を使い果たし、自信を喪失してしまう。
結局、自分は変われないのか?………と思った所で、手厳し過ぎるユーグに対し、堪忍袋の緒が切れた綾瀬穂乃香が殴り込んでくる。
その展開に驚くあずきであったが、複数人で挑んできても文句は無いというユーグを見て、喜多見柚と工藤忍まで加勢して、フリルドスクエアが一致団結して彼に挑むことに。
弱い自分を変える事は、どんな事があっても一生出来ないかもしれない。
でも、強い仲間の存在を自覚する事で、変わる事は出来る。
その答えに辿り着いたあずきは、身を持って教えてくれたユーグを、仲間との協力で遂にノックアウトさせた。
しかし、厳しくはあったが、彼なりに想ってくれた父性を感じ取った事で、あずき達4人は、世界を喪失した事で失った親の存在を思い出して泣きつく。
これを機に、少しずつ明るく心境を変化させられるようになるあずき。
連邦の男の人への苦手意識もある程度克服出来たが………。
ひとしきり父親代わりを担ってくれたユーグに甘えたフリルドスクエアの4人は、彼に礼を言う。
そして、泣き腫らした目を洗う為に、トレーニングルームに設置されているシャワーを浴びて来るように言われた。
これで、本格的にシミュレーターで鍛える事が出来るようになるが、ふと着替えてユーグの所に戻ったあずきの小腹が、空く音が聞こえた。
「あ………そうだ、あずき達、お昼食べて無かった。」
「ならば、食堂で何か食べてくるといいだろう。」
「折角だから、ユーグさんも行こうよ!ネネちゃんはまだ復帰出来ないけれど、冷凍食品は沢山あるし!………ズバリ、満腹大作戦だよ!」
すっかり恐怖の対象から、甘えられる対象………それこそ、あずきの本来の人懐っこさを発揮できるような相手へと変化したユーグは、少し考える。
そして、携帯端末を取り出して操作すると、誰かに連絡を付けた。
「ならば、都も連れて行かないとな。後、1人呼びたい人物がいるから、連絡を取った。」
「呼びたい人物?」
「そうだ。ここに来た時にモビルスーツハンガーで聞いたのだが、穂乃香………お前の為に密かに夜通しで作ってくれたらしい。」
「私の為………ですか?」
その意味が分からなかった穂乃香は首を傾げるが、行けば分かると言われた事で、車椅子の安斎都も含めた6人は、食堂へと向かった。
――――――――――――――――――――
食堂で冷凍食品をレンジで温めて、炊飯器で炊いたご飯と一緒にテーブルに並べた一同は、手を合わせって遅めの昼食を食べ始める。
穂乃香は相変わらず、ユーグの言っている意味が分からず首を傾げていたが、入口が開くと、中に帽子を被った吉岡沙紀が入って来た。
「お、ユーグさんの言う通り、集まってるっすね!丁度良かったっす!」
「沙紀さん………?」
「折角だから、フリルドスクエアの4人がいる時に告げたかったんすよ。………まず聞くんだけど、ユーグさんにとって、あずきちゃんは合格点すか?」
入口で身を乗り出している沙紀の質問を受けて、ユーグは口の中の物を丁寧に飲み込んだうえで頷く。
そして、ちゃっかり隣に座っているあずきを見ると、ハッキリと告げた。
「風香との約束もあるし、これから鍛えるつもりだ。短期の教育になるが、ちゃんとパイロットとしてのスキルを教える。」
「じゃあこれで、穂乃香ちゃん以外は、パイロットになれるって事っすよね。」
その言葉に、穂乃香は僅かに肩を落とす。
彼女はあずきほどのトラウマを抱えてはいないが、出来る事ならば柚や忍と共に戦いたかった。
しかし、彼女は索敵や敵機の照合を行わないといけない以上、モビルスーツパイロットを同時にこなすのは難しい。
今でさえ、解析を手伝う人形型デバイスであるぴにゃこら太の力を借りて、成り立っている状態なのだ。
下手に仕事量は増やす事は出来ない。
「私は………やっぱり、後方支援をするしか無いですね。」
「やっぱり、こないだ言っていた事を引きずっているっすね。………だと思ったんで、ちょっとアタシも工夫したっすよ。」
「そうですか………って、え!?」
素っ頓狂な声を発する穂乃香に対し、入口でニヤリと笑みを浮かべた沙紀は、中に入って来る。
その後方を見れば、一緒に緑のぴにゃこら太が付いてきていた。
だが………その更に後ろから、何と黒の渋そうなぴにゃこら太と、ピンクの女性型のぴにゃこら太が更に新規で入って来たのだ。
「ぴ、ぴぴぴぴぴぴぴにゃが、3匹も!!?」
「解析や操縦で負荷が掛かるのならば、個体を増やして役割を分散させればいい。単純っすけれど、王道な考えっすよね。ぴにゃこら太が3匹になれば、その分出来る事は増えるはずっす。」
「……………。」
完全に気が動転している穂乃香の下に、3匹のぴにゃこら太が並んで入って来て、軽く一回転して挨拶をした後、穂乃香に飛びつく。
その光景は彼女にとって眼福であったが、それ以上に先程のユーグの言葉が気になった。
「あの、沙紀さん………。このぴにゃ達、夜通しで………。」
「気にする必要は無いっすよ。今はファントムスイープ隊の人達も協力してくれる分、余裕はあるし。仲間外れは嫌でしょ?」
「あ………ああ………!」
穂乃香は立ち上がると、沙紀の所まで走って、思いっきり抱き着いた。
それなりに彼女は長身だが、沙紀はそれ以上であるので、しっかりと受け止められる。
こういう所は、女性でありながらも、沙紀はイケメンと言えた。
「沙紀さん、ありがとうございます!これで私も………私も、みんなと戦える!」
「アタシに出来るのは、あくまで整備とサポートだけっすからね。実際の戦いに関しては、ユーグさんにしっかりと教わって下さい。」
「えっと………そういうわけなんですが………。」
穂乃香は、申し訳なさそうにユーグを見る。
彼は食後のお茶を飲み、しっかりと口の中の物を無くしたうえで冷静に言った。
「構わん。何ならば、フリルドスクエアを纏めて見てもいい。恐らく1週間ほどになるだろうが、基礎を教える事は出来るだろうからな。俺の所の艦長も、そう言うだろう。」
『やったー!本当に、ありがとうございます!!』
ユーグを中心に輪になって喜ぶ少女4人。
元々親交のある忍はまだしも、他の3人もいつの間にか仲良くなっている姿を見て、沙紀は都に問う。
「何があったんすか?ハーレムになってますけれど………。」
「色々あったんですよ。色々と………。」
何とも言えない展開に、都は苦笑していた。
――――――――――――――――――――
こうして高槻やよいに続いて、桃井あずきと綾瀬穂乃香も、パイロットとしてのスキルを磨く事になる。
その間は、一応は捕虜としての扱いで贖罪の機会を得ているクルーゼ隊であった黒川千秋が、他のパイロット達と共に雑事を担う事になってくれるようになるのである程度は安心だ。
ユーグはシミュレーターの特徴を活かし、実戦的な特訓だけでなく、射撃練習などの基本的な訓練も行わせて行い、様々な状況に対応できるようにしてくれた。
更に、あずき達の願いも有り、トレーニングルームで、体術の基礎なども教える事に。
これで、あずき自身は更に己に自身を付けられるようになる。
また、日が経つに連れ、抗議をしていた「シャングリラ」の市民にも変化が出てくる。
キャリー・ベースやブランリヴァルから治療を終えた人々が集団で出て来て、逆に抗議をしてくれたのだ。
本当に悪いのは、この「シャングリラ」を襲撃した組織で、シンデレラガールズやファントムスイープ隊は、自分達を救う為に躍起になってくれたと。
実際の被害者が言う事で効果は絶大になり、抗議をする市民の人達は徐々に数を減っていった。
そして、1週間も経つ頃には、その姿は消えて落ち着きを取り戻し、キャリー・ベースに運ばれていた残りの怪我人は、ブランリヴァルへと移送が始まる。
この移送が終われば、本格的にシンデレラガールズは「シャングリラ」から出港できるようになる手筈になっていた。
「何か………変わったモビルスーツが来たわね。」
「ユーグ隊長が言うには、「トーラス」というらしいです。砲撃戦が主体の可変モビルスーツだから、コロニー内で使えず、宝の持ち腐れでしか無いから持って行って欲しいとか………。」
モビルスーツハンガーで、大分回復した怪我人を、軍用車に乗せるのを手伝っていた千秋は、白い高級感の漂うモビルスーツの存在に、目を奪われていた。
一応監視係として、共に手伝っているのは、モビルスーツで死闘を繰り広げた藤原肇。
彼女は頭の古傷が大分良くなったという事で、包帯はまだ巻いていたが、怪我人の運送を手伝ってくれていた。
肇に限らず、シンデレラガールズやファントムスイープ隊などの怪我人は、手厚い治療のお陰で大分回復している。
更に千秋の事情は本田未央と高森藍子から話を聞いているので、贖罪を行いたいという彼女を、肇は受け入れてくれていた。
「あっちの右肩のバックパックに、ビーム砲を背負ったモノアイのモビルスーツは「ゲルググキャノン」。名前の通りの機体で、シンデレラガールズが持ち運んでいい理由は、トーラスと同じです。」
「逆に言えば、今まで貴女達はこれだけの強力な機体無しで戦ってきたのね………。」
千秋は動きを止めずとも、感心半分呆れ半分で呟く。
シンデレラガールズは応急処置を施す機体も多く、特に破損をすると直すのに時間が掛かる物も多い。
実際、今回は肇の愛機であるヅダがかなりの損傷をしてしまったので、今は沙紀だけでなく、成宮由愛や古賀小春、更には緒方智絵里も協力してくれている状態だ。
「他の機体じゃ、上手くいかないの?」
「お爺ちゃんのくれた愛機ですから………一番しっくり来るんです。」
「そう………。」
肇の顔に哀愁が漂った事で、千秋は「ヘリオポリス」で対峙した時の事を思い出す。
あの時は、本当の地獄を知らないと言われたものだが、そこに関係しているのだと、直感的に彼女は悟ったのだ。
実際、肇が詳細を語らないだけで、その勘は当たりと言える。
「ところで………ザフトでしたっけ?貴女は、まだ未練があるんですか?」
「正直、分からないわ………。ここに来て、クルーゼ隊での行動が正しいとは思えなくなった。未央に諭されてから、反ナチュラル思想が正しいとも考えられなくなった。只………。」
「只?」
肇の問いかけに、千秋は少しだけ笑みを浮かべて言う。
「この艦の居心地がいいのは、確かね。捕虜で居続けるのならば、贖罪の機会を与えてくれる、この場所がいいわ。」
「そう言って貰えるのは、嬉しいですね。」
肇も少しだけ笑みを浮かべる。
怪我人の搬送はもうすぐ終わりを迎えようとしていた。
――――――――――――――――――――
「カンパーイ!!」
出立の前日の夕方………ジャンク山の北にある馴染みの酒場では、フリルドスクエアの4人がユーグのおごりで貰ったソフトドリンクで、打ち上げをしていた。
参加しているのは、ファントムスイープ隊の関係者である、渋谷凛、神谷奈緒、北条加蓮、辻野あかり、砂塚あきら、夢見りあむ。
更に、ユウ・カジマからの出向者である、安斎都、並木芽衣子、服部瞳子、水木聖來。
関係者会議を行うという事で、高垣楓と姫川友紀、更に浅野風香もいる。
そして、自己紹介を行うという事で、やよいも招かれていた。
「か、変わった酒場ですね………。」
黒子のマスターに、仮面を付けた給仕………美少女仮面・マコマコリンがいるという、怪しさ満点の場所に、当初は乾いた笑いを浮かべていたやよい。
しかし、大好物のもやしを使ったパスタを提供された事で、今は美味しそうに舌鼓を打っていた。
「もっと食べるといいヨー。沢山あるからネー。」
「栄養は取れる時に取らないとね!ボクからもサービスするよ!」
「はい!ありがとうございます!」
元気に挨拶をするやよいであったが、やがて楓に招かれ、ユーグ達の席に着く。
何か話す事があるのか?………と思ったやよいは楓の隣にちょこんと座るが、ユーグは少し真剣な顔であった。
「いきなり招いて申し訳ない。只、話しておいた方が良い内容があってな。………沢山のフェイフェイ達に、疑問は覚えているだろう?」
「あ、はい。キャリー・ベースに出入りしている人たちが、みんな同じ顔ばかりですし、双子とかそういうのでは無いと思ってはいましたが………。」
「彼女達は、クローンなんです。」
同じ席についている浅野風香の言葉に、やよいは思考を巡らせる。
クローンという言葉の意味を、知らないわけでは無い。
只、キャリー・ベースにも出入りしていたフェイフェイ達が、全員同じクローンだというのならば、何故?………という疑問は出てくる。
その理由を、ユーグ達は語ってくれるらしい。
沢山のフェイフェイ達。
彼女達は、何故生みだされたのか………?
その詳細が今、記される。
桃井あずきさんは吹っ切れた事で、本来の性格が出て来ています。
やっぱり、まだ15歳の彼女には笑顔が似合いますよね。
3匹のぴにゃこら太は、デレステでよく見かけるトリオ。
綾瀬穂乃香さんを登場させると決めた時に、折角だから揃えようとも思っていました。
動画版でもそうでしたが、この小説の吉岡沙紀さんは、とある天才整備士の弟子というだけあって、メカニックとしての才覚は素晴らしいです。
何で、彼女を選択したのかと言われると…実は当時の立ち絵の問題があったんですよね。
さて、酒場でユーグ・クーロ達から高槻やよいさんは、フェイフェイクローンについて詳細を知る事になりますが…実は、美少女仮面・マコマコリンの正体には気付いていません。
ここは、動画版準拠になります。