「シャングリラ」を立ち、地球へと向かうシンデレラガールズ。
高槻やよい、綾瀬穂乃香、桃井あずきはシミュレーターを活用して、実力を鍛えていく。
その中で、一応捕虜扱いの黒川千秋にも助言を求め、着実にあらゆる状況に対応できるようにしていた。
一方、格納庫のモビルスーツハンガーでは、吉岡沙紀、成宮由愛、古賀小春の整備士トリオが中心となり、ほとんどの機体の修繕を終えていた。
これで敵の襲撃があっても大丈夫になったが、ふとした話題から、緒方智絵里が「ヘリオポリス」崩壊の責任のあり所について問う。
千秋は、捕虜になった自分に全ての責任を押し付けるのでは無いか?………と推測した事で、珍しく智絵里が声を荒げてしまった。
何かしら背負っているものがありそうな、智絵里に、やよいや千秋は疑念を抱く。
その頃、キャリー・ベースから遠く離れた所では、小さな子供達3人が大気圏飛行用の装備をしたモビルスーツに流されており………?
果たして、このモビルスーツとパイロット?………の正体は何なのか?
地球へと向かうシンデレラガールズに待っているのは………?
満天の星が並び、ビームが飛び交う中で、やよいはゲルググキャノンを駆っていた。
複数の敵機が彼女に襲い掛かるが、シンデレラガールズで鍛え続けた彼女は実力が高まっており、次々と撃破をしていく。
(これなら………!)
自信を得た事で、やよいは突き進んでいく。
ある敵はビームで撃ち抜き、ある敵は斬り捨てて破壊する。
その繰り返しを行っている内に、彼女の目の前に目的の機体が見えた。
「ハルファス………ガンダム!」
青黒い不死鳥とも呼べるその存在は、神々しさと禍々しさを醸し出しており、やよいを出迎える。
この敵を倒せば、全てが終わる。
この敵を倒せば、全てを取り戻せる。
「これで………みんなを!!」
「裏切り者。」
「え………?」
ゾワリ………とした感覚が、やよいを襲った。
ハルファスガンダムから聞こえた声に、彼女は衝撃を受ける。
何故ならその声の主は………。
「い、伊織ちゃん!?無事………!?」
「どうして、私を置いて逃げたの?どうして、私の言葉に耳を貸さないの?どうして、私と戦おうとするの?」
それは、765プロの水瀬伊織。
やよいの親友であり、最も信頼の厚い相手。
だが、今の彼女は………やよい達の討伐対象であるハルファスガンダムに乗っていた。
「ま、待って伊織ちゃん!私、伊織ちゃんと戦いたくなんか………!!」
「嘘つき。アンタはそう言いながら、私達と戦っているじゃない。765プロの仲間なのに、春香達と敵対しているじゃない。」
「そ、そんな!?」
やよいはすぐさま敵対の意志が無い事を示す為に、武器を捨てようとする。
しかし、どういうわけか、手に持った「ビーム・ナギナタ」が離れない。
尚も、ハルファスに乗った伊織の言葉は続く。
「酷いわよね。ずっと一緒に過ごして来た仲間より、ほんの僅かな間しか過ごしていない奴等を選ぶ。私、アンタがそんな奴だとは思ってなかったわ。」
「ち、違うよ!伊織ちゃん、私は………!!」
精神攻撃のように響き渡る伊織の言葉に、やよいはコックピット内で頭を抱える。
しかし、金縛りのように動けなくなったゲルググキャノンに対し、ハルファスガンダムは、手を伸ばし、禍々しい青白い剣を作り出す。
「もういいの、私が馬鹿だった。でも、止められなかった私にも責任があるわ。だから………。」
振りかぶった青白い剣は鎌の形へと変わり、やよいへと襲い掛かる。
真っ二つにして、その命を絶つ為に………。
「私の手で………殺してあげる!!」
次の瞬間、やよいは……………。
――――――――――――――――――――
「ひゃあああああああああ!!?」
「寝室の中」で、やよいは身を起こして絶叫する。
目を見開き、口をパクパクとさせた彼女は、慌てて自分の全身を触り、体に異常が無い事を確かめる。
「……………ゆ、夢?」
「やよいちゃん!しっかりして下さい、やよいちゃん!?」
「ね、ネネさん!?」
ここで、やよいは一緒に寝てくれている栗原ネネの存在に気付き、自分が悪夢を見ていた事を悟り、途端に安堵する。
ネネは冷蔵庫の中からお茶を取り出し、コップに入れてくれたので、それを飲んで落ち着く。
「何があったか………聞いてもいいですか?」
「は、はい………実は……………。」
どうも、かなりうなされていたらしく、やよいはネネに悪夢の内容を、ゆっくりとであるが語る。
そして、その上でこうなった理由を考える。
「「ヘリオポリス」のシークレット・ユニットが言っていましたよね………。確か………。」
ヴァル・ヴァロを駆っていたケリィ・ニューロの事だ。
彼は激高した喜多見柚にやられる際に、こう告げていた。
(水瀬伊織からの情けだ。忠告はしたぞ。次からは、問答無用で抹消に掛かる。)
あの言葉の意味が確かであるのならば、やよいを逃がした伊織は既にもう、「普通の状態」で無いのは確かであった。
バルバトスの手駒として洗脳をされてしまい、やよいにすら牙を剥く存在。
「何で今頃………この事実に気付いたんだろう………。」
ネネに語るというよりは、自問自答をする形で呟くやよい。
その理由は、簡単であった。
今までは、戦おうとする事に必死になっており、心の余裕を持つ事が出来なかったから。
戦いに真正面から向き合ったからこそ、やよいは伊織がバルバトスの私兵として、自分の下に襲ってくるのでは無いか?………と気付く事が出来た。
いや………気付いてしまった。
「とりあえず、服を着替えましょう?」
「はい………。」
嫌な脂汗だらけになったやよいは、ネネの言う通りに着替える。
こういう酷い悪夢は、「サイド7」で神谷奈緒を殺したと錯覚した時以来である。
しかもその時は、こうしてネネが添い寝をしてくれた事で、安心感から抑える事が出来ていた。
だが………流石に伊織が関わるとなると………「代役」で安心させてくれていたネネでは不十分であったのだ。
「ゴメンなさい、ネネさん………。折角ネネさんが気遣ってくれているのに………。でも、もしも………もしも、伊織ちゃんが敵として出て来たら………私………。」
「大丈夫ですよ。やよいちゃんにとって、親友なんですから。………大切な人が操られて、殺意を向けられるのが、怖い気持ちは………自分に置き換えれば、ちょっとは理解出来ます。」
ネネは正直に答える。
彼女もまた、妹がいる存在なのだ。
その妹に襲い掛かられたらと、想像したのだろう。
「少し………散歩しましょうか?今は就寝時間ですから、気晴らしには逆にいいかもしれません。」
「そうします………。」
皆が寝静まっている時間だからこそ、艦内とはいえ外の空気に当たるのはいいかもしれない。
そのネネの案にやよいは乗る事にした。
――――――――――――――――――――
深呼吸をしながらネネと共に歩くやよいは、色々と考えてしまう。
ハルファスガンダムのパイロットの事を。
もしもバルバトスがやよいに対して精神攻撃を行って来るのならば、水瀬伊織のように765プロの仲間を搭乗者に選定する可能性も十分に有り得た。
(どうしよう………。)
一応、こちら側には、鹵獲のプロである藤原肇がいる。
しかし、彼女の愛機であるヅダが不完全な状態となっている今、それも難しいのかもしれない。
そもそも、ガンダムという名称が付くからには、ハルファスガンダムだって恐ろしい実力を持っているはず。
やよいの我儘で、只でさえ危険な戦いなのに、自分の命を危険に晒してくれとは言えなかった。
「私………みんなに迷惑掛けてばかりですね………。」
「これは仕方のない事です。むしろ、765プロの面々を人質に取っているバルバトスに問題があるんですから………。」
「でも………あれ?あそこにいるのは………。」
やよいは通路の奥で、2人の人物が会話をしているのに気付く。
というより、1人がかなり辛そうにしているのを、もう1人が気遣っている感じだ。
肩を抱えて気遣っているのは、一応捕虜扱いの千秋。
そして、気遣われているのは………。
「………大丈夫………大丈夫………、まだ………生きている………大丈夫………。」
「どうしたんですか、智絵里さ………?」
「ひゃあああああああ!?」
いきなり別の人物に話しかけられたからなのか、その人物………智絵里が大声を出して驚きを露わにする。
お陰で智絵里もやよいも後ろに転げそうになるが、咄嗟に千秋とネネがそれぞれを支えて大事には至らない。
「わわわ、私です、やよいです!落ち着いて!」
「び、ビックリした………。」
「こちらこそゴメンなさい、いきなり驚かせてしまいまして。」
「ううん、大丈夫。こっちもゴメンね。」
互いに謝ったが、やよいは、何かに怯えるような智絵里の様子が気になり、千秋にも問う。何故、就寝時間であるのに、2人は艦内を出回っているのかと。
基本的にキャリー・ベースはアプロディアが管理をしているので、パイロットは決められた時間に就寝を取る事が出来る。
その気になれば、舵や索敵もある程度はこなしてくれるので、ブリッジではあるが、クルーも布団を持ち込んで休む事が出来るのだ。
「私は、ネネに教わった通りに朝食の下ごしらえをしに向かっていたのだけれど………。ここで震える智絵里に遭遇して………。」
「本当にゴメンなさい………ちょっと怖い夢を見ちゃってね。それで、目を覚ましちゃって落ち着いていたの。」
「智絵里さんもですか………?」
智絵里の言葉に、やよいは驚く。
彼女もまた、智絵里と同じく悪夢に悩まされて目を覚ましたのだ。
奇遇だと感じたやよいは、折角なので何かヒントになるかもしれないと思い、同じく驚いている智絵里と千秋に夢の内容を語る。
洗脳された765プロの水瀬伊織が、高槻やよいを殺しに来る夢を………。
「怖い………夢だね。」
「怖いです………もしも、その子が実は本当に私を恨んでいて、夢が現実になったら………。」
素で伊織がやよいを恨んでいる事も、有り得ないとは言い切れない。
何せ仕方なかったとはいえ、形としては、やよいは伊織を見捨てて逃げたのだから。
一方で智絵里は、やよいの言葉を聞き………少し悩んだ挙句、呟き始める。
「………私ね、ある人に恨まれているんだ。」
「え?」
「その人は連邦の軍人さんでね、私の………育ての親なの。」
思わずやよいと千秋は、ネネを見た。
ネネは真剣そうな顔で、1回だけ首を縦に振る。
彼女が知っているという事は、シンデレラガールズの初期メンバー全員が知っている事実という事だろう。
やよいは困惑しながらも、智絵里に言葉の続きを聞いてしまう。
「ど、どうして………育ての親が、智絵里さんの事を………?」
「………その人は………、私の両親を殺したの。」
一瞬だが、場が静まり返った。
やよいと千秋は、もう一度ネネを見てしまう。
彼女もまた辛そうな顔をしている所を見ると、どうやらその言葉も真実であるらしい。
しかし、だとしたらどうしても疑問は生じる。
何故、智絵里の育ての親が、実の両親を殺したのかを。
「………正確には、その人は特務部隊の人でね、私の両親はある任務に巻き込まれて、死んじゃったの………。罪滅ぼしだったのかな………、その人は、身元の無くなった私を、自分の下で養うって言ったんだ。」
やよい達の疑問にも、智絵里はしっかりと答えていく。
まるで一文一句、自分の想いを口に出す事で、再度自身の感情を確かめていくように。
「あの………智絵里さんは、受け入れられたんですか?」
「受け入れられなかったよ………。私のお父さんとお母さんを奪った仇だもの。私、その人の事が許せなかった。だから、何度も何度も恨み言を言ったよ。何日も、何週間も、何か月も、何年も。」
普段の気弱な姿からは信じられない位に、負の感情を吐き出す智絵里に対し、やよい達は肌寒い物すら感じる。
何度も何度も強調するあたり、積もり積もった憎悪がかなりの物だったと推測出来てしまう。
尚も、智絵里の独白は続く。
「でもね………あの人は、自分の行いを止めようとしなかった………。非道な任務なのに………。残虐な行為なのに………。だから、私、心の中でその人こそ死んでしまえばいいんだって、何度も思っちゃったの。そうしたら………。」
「そ、そうしたら………?」
「………そうしたら、本当に死んじゃったの。」
再び嫌な静寂が4人を襲う。
千秋はチラチラとネネの方を見て、智絵里の言っている事の整合性が正しいかを確認するが、彼女はアイコンタクトで、少なくとも前から聞いている事と一貫していると示した。
智絵里の独白は止まらない。
「ある日、一緒に任務をしていたっていう、私と同じくらいの年の男の人が来てね………。その人は死んだってことを、教えてくれた………。生身の身体を、ビーム・アックスで斬り裂かれて消滅したんだって………。」
「そ、そんな死に方………。」
あまりにも惨たらしい最期に、やよいは思わず引いてしまう。
智絵里は自分の身体を抱きしめて震えながらも、言葉を止めない。
止められない。
「私、怖くなった………。死神が私の願いを叶える為に、その人に残酷な死を与えたんじゃないかって。その人は、私が呪い殺してしまったんじゃないかって。それからかな………時々、死神の夢を見るようになったの。」
智絵里の話が正しければ、夢の中では大きな鎌を構えた死神が立っているらしい。
その死神の前には育ての親が言って、彼女に何か言っているのだが、全然その内容は聞こえないのだという。
彼女は、寂寥感の漂う笑みを見せながら、諦めきったように呟く。
「多分、私に対して、ずっと呪いの言葉を言っているんだと思うんだけれどな………。」
「そ、そんな勝手に!?」
「だって私、その人に対して、最後の任務に出かける間際まで、ずっと恨み言をぶつけていたんだよ………?きっと、お前も人を呪う死神だから、こっち側に来いって何度も言っているんだと思う………。そして私も、いつかその人のように、ロクでもない死に方をするんだって………。」
「智絵里さんッ!!」
いつの間にか、恐怖心から震え始めていた智絵里に対し、やよいが叫ぶ事で正気に戻す。
彼女は、ハッとして首を左右に振って、夢の内容を振り払うようにすると、やよいに弱々しく笑みを向ける。
「ご、ゴメンね………勝手に語っちゃって………。私が言いたかったのは、やよいちゃんの友達はまだ生きているんだから、大丈夫って事なの。」
「生きているから………大丈夫ですか………。」
「うん、生きているって事は、まだやり直しが効くって事だもの。洗脳されていても元に戻すチャンスはあるし、もしかしたら説得できるかもしれない。私はもうその人が死んじゃったから、夢で呪われてもどうする事もできないけれど、やよいちゃんはまだ、間に合うから………ね。」
「智絵里さん………。」
正直、智絵里の言葉には説得力があったものの、やよいは一概に安心はできなかった。
これまで彼女とは、あまり踏み入った話をしていなかったので、ここでこんな危うい話を聞かされるなんて思っていなかったからだ。
しかし、それならそれで疑問に思う事は幾つか出てくる。
例えば、桃井あずきが連邦の軍人を苦手としていたように、智絵里も自身をここまで追い込んだ連邦の軍人に嫌悪感等を持っていてもおかしくない。
それなのに、「シャングリラ」では特にそうやって気にする様子は無かった。
他にも、そんなに憎悪を抱いていた人物であるのに、ずっと一緒に居た理由が分からない。
早い内に別居するという選択肢は無かったのだろうか?………とは、やよいも千秋も思った。
だからこそ、やよいは智絵里に問おうとした時であった。
艦内に警報が鳴り響き、ブリッジにいるであろう千川ちひろの放送が聞こえてくる。
「この先の「マゼラン残骸」より、次元圧縮プログラムが広がっています。パイロットは、すぐに搭乗準備をお願いします。」
「い、急ごう、やよいちゃん! 」
「あ、智絵里さん!?」
モビルスーツハンガーへと走っていく智絵里を追いかけるやよい、千秋、ネネ。
自身の悪夢に悩んでいたら、思わぬ話を聞かされてしまった高槻やよい。
果たして、「マゼラン残骸」にて彼女達を待つ者は………?
高槻やよいさんに襲い掛かる新たな悪夢。
冷静に考えれば、洗脳した水瀬伊織さんを差し向ける可能性は十分にあり得るんですよね。
戦いに向き合えなかった事で、今までは自覚出来てはいませんでしたが、ここで気付いてしまう事に。
そして、そんな彼女にアドバイスを送ろうとした緒方智絵里さんから、とんでもない爆弾発言を聞かされてしまえば、困惑するのも無理はないわけで…。
智絵里さんの育ての親は一体、何者なのでしょうか…?