精神体となって、アメリアスが管轄している謎の母艦の下に飛んだ本田未央。
本来の14歳の姿である柳瀬美由紀に連れられて彼女は通路を歩き、1つの部屋の前で待機をしていた桐野アヤに出会う。
そして、部屋の中で寝込んでいたという持田亜里沙と対面し、彼女が世界を滅ぼしたい理由や子供達を手に掛けそうになった時に激しく動揺した理由を問う事に。
亜里沙はアメリアスの力で記憶を追体験させる力があると言い、未央を導こうとするが、アヤがトラウマだからと危険視する。
だが、ここまで単身乗り込んで来た未央には知る権利があると、亜里沙は頑として譲らなかった。
仕方なく、アヤと美由紀も一緒に、その一部始終を見る事で説明していく事に。
未央は、この追体験の中で、何を得る事になるのか………。
意識が一瞬だが飛んだ未央は、今度は冷たい風を肌で感じる。
何事かと思い目を開くと………驚きの光景が映っていた。
「うわぁ………。」
彼女は高空から雲を突き抜け、スカイダイビングをするように降下していたのだ。
尚、1人では無い。
広げた右手を掴むように美由紀が、左手にアヤが、そして彼女を後ろから抱えるように亜里沙がいる。
いずれも未央と同じ精神体であり、半透明であった。
「これって………。」
未央は眼前に映る巨大な街を見た。
大きなタワーを中心に広がるその機械的に反映した景色は、以前喜多見柚達フリルドスクエアから聞いた過去と同じである。
それ故に、この街がジェネレーション・システムによって繁栄する事になった、もう存在しない世界であるのだと分かった。
「すごーい!………って、このまま私、地面に叩きつけられるなんてことは………。」
「無いから安心しろ。とりあえず、昔の亜里沙さんの所に行くぞ。」
やがて、パラシュートを背負っているわけでもないのに、ゆっくりと降下速度が遅くなっていく。
未央が周りを眺めてみると、人々が発展した街を楽しそうに歩いており、談笑しているのが分かる。
確かに柚が言っていた通り、機械の統治のやり方に疑問を持たなければ、幸せな世界であると思えた。
(これが、きたみーやアプロディア達の居た世界………。)
やがて、未央達はゆっくりと1つの建物の前に下りる。
そこは幼稚園であり、中には遊ぶ為の広場や、砂場にブランコなどの用具が広がっていた。
「ここがありさ先生の………。」
「ええ………働いていた場所よ。ここで、子供達の先生………教諭として働いていたわ。」
未央を抱きしめている形である亜里沙が、説明をしてくれる。
しかし、彼女が僅かにではあるが、震えているのが未央には分かった。
「先生にとっては………。」
「みんなーーー!!おやつの時間ウサよーーー!!」
『はーーーい!!』
ここで「別の亜里沙の声」が、幼稚園の中から聞こえてくる。
未央が3人と共に入ってみると、そこでは、パペットのウサコちゃんを付け、エプロンを身に纏いながら笑顔で笑っている「当時の持田亜里沙」の姿があった。
彼女が呼びかけると、遊んでいた園児達が喜びながら彼女の下に向かう。
亜里沙は、ちゃんと手を洗いましょうね!………と言いながら、子供達を連れて幼稚園の中へと入っていく。
その顔には、狂気も恐怖も全く感じさせていない。
心の底から、子供達と戯れる事に幸せを感じているようであった。
「私にとっては………本当に天職だと思っていたわ。この道を授けてくれたジェネレーション・システムに心の底から感謝していた。この頃はまだ………。」
後ろから抱きしめる、今の亜里沙の顔色は分からない。
アヤと美由紀も、今は無言であった。
未央は静かに、3人と共に幼稚園の中に歩いて行く。
「ありさ先生達のいる教室は………あそこか。」
やがて、当時の亜里沙が園児達と仲良くおやつを食べているのが、外から分かった。
精神体故に部屋の窓の開け方は分からなかったが、アヤが先にすり抜けて見せたので、それに習って通過していく。
「せんせい!おいしいね!」
「ウサコちゃんも、おいしいかな?」
「ふふっ、ウサコちゃんも喜んでいるわ。みんな、よく噛んで食べましょうね!」
『はーーーい!!』
美味しそうに教室でゼリーを食べる子供達の満面の笑み。
未央は先生では無かったが、温かな物を感じた。
しかし、アヤや美由紀は悲しそうに見つめており、後ろの当時の亜里沙に至っては、未央の背中に顔をうずめて、直視できない様子である。
「どうして………子供達を見られないの、ありさ先生?子供達の事………嫌いなの?」
「嫌いなわけが無いわ………。でも………私は………あの子達を守れなかった………。」
彼女の苦しい独白を前に、未央は柚の話を思い出す。
もしも、彼女の言っていた通りならば………。
ビーッ!ビーッ!ビーッ!!
『ッ!?』
ここで、未央達全員は驚く事になる。
突如けたたましいアラームが鳴り響いたのだ。
アラームは街全体に響き渡っており、子供達の不安を煽る。
「せ、せんせい!?」
「こわいよーーー!」
「大丈夫!きっと、ジェネレーション・システムが解決してくれるわ!みんな、先生の傍から離れないで!」
当時の亜里沙の言葉に、皆がゼリーを投げ捨て彼女の下に集う。
子供達によっては、しがみ付いてくる者もいたが、何とか抱きしめ落ち着かせようとした。
だが、外を見た彼女は、驚愕する。
「た、タワーが!?」
その視線を追った未央も、また目を見開く。
街の中心にあるタワーが、まるでデータが消去されるように、消え始めたのだ。
同時に彼女はこの幼稚園や周りの施設も、少しずつ消え始めている事に気付く。
「何が!?何が起こって………!?」
「たすけてーーーッ!?せんせいーーーッ!!」
「!?」
当時の亜里沙は見た。
寄り添って来ていた1人の子供の足下から消えて行っているのを。
慌てて手を伸ばし、名前を叫ぼうとするが、あっという間にその子供は跡形も無くデリートされてしまう。
「あ………ああ………!?」
いきなりの事態に亜里沙もまたパニックに陥るが、それだけでは終わらない。
恐怖で混乱する園児達が、次々と消え始めたのだ。
「いやああああああああ!?」
「やだよ!?やだよ!?やだーーー!?」
「だ、誰か!!誰か止めて!!この事態を止めてーーーッ!?」
子供達の、絶望の声が響き渡っていく。
地獄絵図だと未央は思った。
園児達は1人1人、まるで悪意があるかのように順番に消されていく。
当時の亜里沙はとにかく子供達を落ち着かせようとするが、事態は収まるどころか加速する。
幼稚園の部屋も次々と消えていき、それが園児達の恐怖心を更に煽ってしまう。
「お願い!こんな真似は止めて!お願いだからッ!!」
もはや祈るような当時の亜里沙の叫びも虚しく、園児はどんどん消えていき、後1人少女が残るだけになってしまう。
その少女も消え始め、助けを求めるように手を振るわせていた。
「せんせ………。」
「大丈夫だから!大丈夫だからぁッ!!」
絶対離さないと思い、亜里沙は強く強く抱きしめる。
しかし、それがまるでトドメになったかのように、少女は抱きしめられた部分から折られるように体がガラス細工のように砕け、一気に消えていく。
「たす………け………。」
その少女は、最期まで信じられない顔をしていた。
幼い園児が、自分の死を受け入れられるはずがない。
突如何が起こったのか分からず、絶望に顔を歪めながら………消滅した。
「……………。」
自分を抱きしめる事になった当時の亜里沙は、無言で座り込んでいた。
その頃には、床も空も全て無くなっており、宇宙に投げ出されていたが、彼女だけは全く消えていなかった。
だが、目の前で愛する子供達が、無残に絶望を抱えながらデリートされた事実が、彼女を打ちのめしていたのだ。
「何で………?何でこうなったの………?」
「バルバトス………何で、みんな消したの………?」
そんな当時の亜里沙や未央達の耳に、弱々しい少女の声が聞こえてくる。
しかし、それは園児の声では無く、システムの声………アメリアスの物だと、未央は直感で悟る。
当時の亜里沙も、それに気づいたのだろう。
わなわなと体を震わせながらも、上を見上げて吠える。
「何で消したのよッ!?ジェネレーション・システムは、子供達に幸せな未来を届ける為に、作られたんでしょッ!?何でその子供達が、みんな絶望のまま消えていかないといけないのよッ!!?」
その顔には先程までの優しい先生としての姿は無かった。
涙を流し、怒りを爆発させる。
その怒号に恐怖したのか、アメリアスは涙声で呟く。
「分からない………。分からない………。」
「分からないじゃないでしょッ!?返してッ!!子供達を返してッ!!何で私だけ………私だけが生き残ってしまうのよーーーッ!!」
「貴女を手放したら………私が消えるから………。だから………。」
「ふざけないでッ!!園児たちに罪は無いでしょーーーッ!!?何でみんなを生かす道を取らなかったのよーーーッ!!!」
亜里沙の絶望の叫びに、未央は気おされて何も言えなかった。
子供達を愛していた故に………ジェネレーション・システムに裏切られ、無残に奪われた事で、亜里沙は心を壊されたのだ。
やがて、顔を手で押さえ泣き喚く彼女を見ながら、未央の意識は遥か彼方に飛んでいく。
子供達の絶望の叫びと、亜里沙の怒号は、耳から消えそうになかった。
――――――――――――――――――――
気付いた時、未央は今の亜里沙の部屋に元のように立っていた。
知らぬうちに涙を流しており、棒立ちをしている状態だ。
右手は相変わらず美由紀が握っているが、その手に込められた力は強い。
アヤは顔を手で覆う亜里沙をなだめており、何とか落ち着かせようとしている。
その様子を眺めながら………未央は一言呟いた。
「……………やっぱり、変だよ。」
「変って………お前!?」
「だって、ありさ先生!あんなに子供達の事大切にしているんだよ!?それなのに、どうして世界を滅ぼしたいって考えるのさ!?」
涙を流したままであったが、思わず未央はアヤに食って掛かった。
世界を滅ぼすという事は、当然ながらその世界に住まう子供達も、全員殺戮するという意味だ。
そんな事をしたら、亜里沙は今度こそ立ち直れなくなるだろう。
幾らバルバトスによって世界を呪う事になったとしても、子供好きの彼女がやっていい行為だとは思わなかった。
「亜里沙さんの事、何も分かってもいない癖に、偉そうに言うな!!」
「じゃあ、きりのんは分かってるの!?」
「お前よりはな!!」
「だったら教えてよ!?何でありさ先生は、子供達が好きなのに、世界の破壊者になりたいのさ!?」
一歩も引かない未央に対しアヤは睨みつけるが、やがてチラリと亜里沙を見る。
彼女は耳を塞ぎ、恐慌状態に陥っていた。
とても今の彼女から、説明を聞き出せる状態では無い。
仕方なく、アヤは頭を掻きながらも話をしていく。
「………さっきも言っただろ?毎日夢に見るって。目の前で消えた園児達の呪詛の声が、ずっと響き渡っているんだよ。」
「だから憂さ晴らしで周りを不幸にしてるの!?」
「そうは言っていないだろ!?」
「でも、さっきの戦闘でやっている事はそれじゃん!!ありさ先生は………いや、みゆみゆやきりのんも、自分で人を不幸にしたい性格だとは私は思えない!!」
未央もここまで来たら、かなりの頑固者であった。
もしも、民間人を襲うティターンズの凶行が許せなかったからとか、アプロディアの下に集うシンデレラガールズが許せなかったからとかなら、まだ理由は納得出来た。
しかし、世界に住まう人達を関係なしに滅ぼすのならば、話は別だ。
彼女達が破滅的な思考に陥ったのには、まだ何か別の理由があるはずである。
「本当は………疑問に思っているんじゃないの?私達がのうのうと幸せそうに暮らしているのが、そんなに許せない?そこにありさ先生の愛した子供達が含まれていても?」
「それは………。」
「ゴメンね、未央ちゃん………流石にそろそろ限界。亜里沙ちゃん、また壊れるから。」
ここで、ずっと黙っていた美由紀が未央に告げる。
未央は思わず文句を言いたくなるが、彼女の顔には陰りがあった。
「みゆみゆ………?」
「あのね、ここには色んな立場の人達がいるの。アヤちゃんも言ったけど、亜里沙ちゃんだって色んな事情があるから………だから、本当にゴメン!」
美由紀はそう言うと、彼女の手を放す。
すると、未央の体が途端に透明になっていく。
「待ってよ!ズルいよ!!そんな勝手な事で………!」
「最後にありがとね。みゆき達、敵なのに信用して心配して………本気で怒ってくれて。」
未央の意識は部屋から飛んでいく。
彼女が更に言葉を紡ぐ前に………目の前が真っ白になった。
最後に映っていたのは、本当に申し訳なさそうなアヤの顔と、悲しそうに微笑む美由紀の顔。
亜里沙を含め、彼女達3人が世界を滅ぼしたいだなんて、未央は絶対納得できなかった。
――――――――――――――――――――
「………未央!未央!!」
「あ………れ………?」
気付いた時、未央は独房の前で、高垣楓に抱きかかえられていた。
何故か体に力が入らなかったが、命に別状は無いらしい。
どうしてこうなっているのか楓に聞くと、美由紀の手を握った途端、こうして倒れたというのだ。
「みゆみゆは………?」
「それが、反応が無くなっていて………。」
高森藍子が同じように倒れていた24歳の美由紀を見て、首を傾げる。
脈はあるし心臓は動いているのに、死んだように動かないのだ。
「そっか………みゆみゆ、元の体に戻ったから………。」
「元の体って………どういう事?」
柚が驚く中で、未央は事情を説明しようと体を起こし………しかし、すぐに倒れてしまう。
どうやら、知らぬ間にかなりの体力を使ってしまったらしい。
「続きは部屋で、ゆっくりとしてからにしましょう。体がもう動かなくなっています。」
ここで、意外と力自慢である藤原肇が、楓の助けを借りて未央を背負う。
未央は先程までの事を思い起こしたが、強い疲労感を感じ、今はしばらく休むべきだと悟った。
「ゴメンなさい………みんな、私………。」
「申し訳ありません。貴女には、無理をさせましたね。」
楓が謝る中、未央は目を閉じる。
すぐに睡魔が襲い掛かり、ゆっくりと夢の世界へと思考が飛んでいく。
未央はこうして、帰還を果たした。
亜里沙の壮絶な過去を、土産として。
しかし、目的は残念ながら、半分程しか達成できいなかった。
本田未央さんが追体験する事になった持田亜里沙さんの記憶。
しかし、それを知った事で猶更、彼女達の持つ破滅思考との矛盾点を抱きます。
何故、愛する子供達を滅ぼす道を選んでしまっているのか。
残念ながら、その事実はこの時点では分からなかったですね。
とにもかくにも、未央さんは無事に戻って来れた。
これが、一番の土産かもしれません。