持田亜里沙の記憶を、桐野アヤと柳瀬美由紀と共に追体験した本田未央は、壮絶な光景を目の当たりにする。
愛する園児達に囲まれて、幼稚園の先生として幸せに過ごしていながらも、バルバトスの消去により、全ての子供達を目の前で失ってしまったのだ。
絶望に泣き叫びながら消去という死を迎えた子供達を前にして、アメリアスに対して怒り狂う亜里沙の姿を見て、衝撃を受けながら疑問も抱く未央。
子供達を大切にする優しさを持つ亜里沙が、世界を消し去りたいと言う破滅的思考を抱くのはおかしいとアヤと口論になってしまう。
そんな中、3人が戦うのには、何か別の理由があるのでは無いか?………と問い詰める。
最終的に口ごもるアヤを前にして、美由紀は謝りながらも未央の意識を強制的にキャリー・ベースに帰還させてしまう。
こうして、未央は無事に帰って来る事が出来たが、精神体となっていた事で疲労が蓄積して動けなくなっていた。
また、目的を半分程しか果たせなかった事で、悔しさも抱く。
コア・インパクトで現れるアメリアスの勢力。
彼女達の存在もまた、無視できない存在と言える事になる。
未央の意識が元の体に戻って来た頃、綾瀬穂乃香、桃井あずき、工藤忍の下を後にした高槻やよいと黒川千秋は、緒方智絵里を探していた。
出撃前や佐々木千枝達を保護した時に、彼女が呟いていた育ての親の事を、もっとしっかりと確認したかったからだ。
やがて、彼女達は様々な場所を見て回り、展望台でたそがれる智絵里の姿を見つけた。
「あ、やよいちゃんに千秋さん………どうしたんですか?」
「えっと………さっきの言葉、どうしても気になりまして………。」
「………ゴメン、そうだよね。」
智絵里はブリッジで親族関係は忙しかった為、手を差し伸べられた時は本当に嬉しかったと述べていた。
何も知らなかった時は………と付け加えた以上、その存在は戦闘前に述べていた育ての親の事である可能性が高い。
「そうだよ………あの人で間違いないんだ。」
あっさりと肯定する智絵里を見て、やよいと千秋は顔を見合わせる。
これまでの話を全部合わせると、彼女は育ての親の事を憎んでいるのか感謝しているのか分からなかったからだ。
「聞いてもいい?貴女………何でその呪いの感情すら抱いていた育ての親の所にずっといたの?そもそも親族関係が忙しかったって………。」
「本当はみんな、私や両親の事を疫病神扱いしていたんです。」
「疫病………神………?」
悲しそうに微笑む智絵里に対し、千秋はどういう事なのか考える。
何故、事故にあったくらいで彼女達を軽蔑するのか?
そこに対しても、智絵里は答えを述べてくれた。
「その理由は、私のお母さんが学校の先生で、お父さんがそのスクールバスの運転手だったからなんです。」
「どういう………。」
「私の両親が亡くなった事件というのは、工場見学に行ったスクールバスが、その中で潜伏していたテロリストごと………コロニーの地下に当たる部分の爆発で工場の倒壊に巻き込まれた事件の事なんですよ。」
「そ、それってまさか………!?」
やよいが思わず最悪の事態を想定して引いてしまう。
それを肯定するかのように、智絵里は頷く。
「うん、そのスクールバスに乗っていた生徒も、大半は一緒に犠牲になったんだ………。」
「そんな………。」
「あの人の話だと、元々スクールバスが工場見学に来る事は、事前情報に無かったんだって。だから、本来テロリストだけを殲滅する作戦が、そのスクールバスも巻き込む事になってしまったの。」
「……………。」
智絵里の言葉を受け、やよいは酷い………と思わず言う。
千秋もまた下ろした両拳を握りしめるが、智絵里は更に寂しそうな顔を見せる。
「本当に酷いのは、そこから先だよ。連邦政府はこの失態を隠蔽するために、この一件をコロニーに飛んできた隕石の衝突によって発生した不幸な事故にしたの。」
連邦政府にしてみたら、この失態を表に出す事は出来なかったのだろう。
しかし、遺族のやり切れない想いは、そんな事で消し去れない。
故に、智絵里はこう述べる。
「だからだろうね。彼らは自分の子供達をそこに連れて来た、私の両親を呪ったんだ。」
『……………。』
無言になる2人前に、智絵里の説明は続く。
結局この話を聞いた学校側は、上手い具合に彼女の両親に責任転嫁をした。
死人に口なしである事をいい事に、あの手この手で話を情報操作したのだ。
「気が付けば、私の両親は、多数の子供達を死に巻き込んだ死神扱いをされて、私はその忌み子として軽蔑されたな。」
その時の智絵里が、どれだけ酷い扱いを受けたのか、やよい達は想像もつかない。
只、千秋は以前、格納庫で「ヘリオポリス」崩壊の責任を押し付けられると自嘲した時に、彼女が怒った理由をようやく悟る事が出来た。
千秋の立場は、当時の彼女の両親と同じであるのだから………。
「智絵里………貴女は………ずっと………。」
「だから………あの人が手を差し伸べてくれた時、私は本当に………本当に嬉しかったんです。実際に見たら絶対に似合わないですけれど、私には天使に見えたんですよ。「死神に手を差し伸べてくれた天使」。そんな言葉が私の脳裏に浮かんだんです。」
智絵里がその育ての親の元を離れられなかったのは、親族から疫病神扱いをされていたから。
智絵里が連邦軍人に対して割り切れているのは、そうした良い側面も見えているから。
だからこそ、やよいが口を開き、自分の意見を述べる。
「………感謝していたんですね。」
「うん。だけど………だからこそ………。」
やがて、智絵里は涙を流し始め、窓の外を見つめる。
胸中に飛来した、複雑な想いは、取り払う事が出来なかった。
「………やっぱり、ダメだな私。本当はあの人の事、分かっている。さっき戦った女の人が言っていた事も………。」
先の戦闘で、民間シャトルである天鹿を追いかけていたレズン・シュナイダーの言葉だ。
彼女は、汚れ仕事を引き受けなければ、軍人として一人前に仕事は出来ないと言っていた。
智絵里はその言葉を受け入れられず、本心では乗り気でない彼女を逆上させてしまったが、冷静になれば、その意味をしっかり理解出来る。
「世界の平和を守るには、誰かが汚れ役を負わないと、何処かで歪みが出て大きな被害が出てしまう。世界を管理するには誰かが歯車となり、その維持に貢献していかないと、多くの人が不幸になる戦争が起こってしまう。私の恨み言に対し、あの人が謝罪と共に何度も言った通りなんだよ。」
結果的にではあるが、そういう人達も世界には必要となっている。
しかし………。
「でも、それを認めてしまったら、私は………私の両親は………。」
「智絵里さん………。1つだけ聞いてもいいですか?」
やよいがおずおずと質問をする事で、智絵里は首を傾げる。
かなり悩んだ様子であったが、やよいは思い切って告げた。
「もしも、死んだその人と話す事が出来たら、智絵里さんはその人に、何を言って欲しいんですか?その人に………どうして欲しいんですか?」
「………分からない。」
智絵里は目を伏せ、涙を流しながら答えを返す。
「だって………死んだ人となんて、話せるわけがないもの………。」
そんな弱々しい声が、展望台に響き渡った。
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キャリー・ベースは「マゼラン残骸」での連邦とジオンを巻き込んだ戦闘の影響で、しばらく少し離れた地点で待機となる。
コア・インパクトに関する報告も、連邦軍のチャンネルを使ってユーグ・クーロ達にしないと行けなかったし、地球に大気圏突入をするのは、少し時間が経ってからになった。
その間に、各自は鍛えたり、準備をしたり、休んだりと色んな事を行う。
「そうっすか。未央ちゃん、寝込んじゃったんすね………。」
「うん………色々と話を聞くのは、目を覚ましてからになりそう。」
高森藍子が格納庫で、吉岡沙紀と話をする。
柳瀬美由紀に精神を連れられて、彼女達の母艦へと単身飛んでいった彼女は、体と離れた影響なのか疲弊をしていた。
その為、今は喜多見柚に事情を話して貰った、渋谷凛や島村卯月に看病をして貰っている所だ。
命に別状は無いが、目を覚ますまでは少し時間が掛かるだろう。
「じゃあ、その間に少しでも修理をしておきたいっすが………どうっすか?由愛ちゃん、小春ちゃん。」
沙紀は整備士として、補佐をしてくれている成宮由愛と古賀小春の2人に無線で聞いてみる。
彼女達はプチモビでハンガーの隅に置いてある藤原肇のヅダと美由紀の半壊したガンダムレオパルド、反対側の隅にあるダルマにされた未央のパワード・ジムを色々と調べていた。
「ヅダは無理にリミッターを2度も外した影響か、状態がかなり危ういです………。レオパルドは、修復しようと思えばできるかもしれませんが………。」
「パワード・ジムは、新しく作り直すくらいの気持ちがあった方がいいかもしれませんね~。有り合わせのパーツで、組み替えちゃいます~?」
どうやら修復が一番難しいのは、やはりパワード・ジムであるらしい。
沙紀は悩んだ挙句、手持ちの小型モニターを操作し、何かの画面をホログラムで出す。
それは、ジムの顔をしたモビルスーツであった。
覗き込んだ藍子が沙紀に問う。
「………新しい機体?」
「凛ちゃんがフルアーマー7号機を貰ったうえに、卯月ちゃんがGディフェンサーを手に入れた事でジムⅢ・ディフェンサーを使えるようになったじゃないっすか。そう考えると、未央ちゃんだけ、機体の質………と言ったら失礼だけど、落ちてしまうんすよね。」
「じゃあ、未央ちゃんの機体も一緒にパワーアップさせようと………。」
「元々オーブで仲の良かった3人だし、連携の息も合うと思ったんすよ。いざという時は、3人の力が役に立つかもしれないし………。」
だからこそ、密かに沙紀は予備パーツをやりくりしながら、パワード・ジムの改造案を考えていたのだ。
只、明らかに大幅な改装が必要になる分、どうしても資材を捻出するのには苦労する。
でも、先の戦闘で機体が見事にダルマにされてしまった事で、それも急いで考えなければならなくなった。
「構想は練っているから、後は形にするだけ。只、今考え直すと、レオパルドのパーツも必要になるんすよねぇ………。」
故に、沙紀は迷っている。
レオパルドをそのままガンダムとして修復するか、いっそ未央の為にパワード・ジムの一部として強化素材にしてしまうか。
総合的に考えれば、単純にガンダムが増える前者が有効だ。
しかし、今のシンデレラガールズに、レオパルドの武装を十二分に活かせるだけの弾薬………ミサイルポッドを代表とした榴弾は無い。
それこそジムⅢ・ディフェンサーやフルアーマーガンダム7号機といった他の機体に使う分だけで限界であったのだ。
「こんな機体が手に入るなら、ジンのD装備の復元を待っておけば良かったっすね………。まあ、どちらにしろ、1回の出撃で弾薬は無くなりそうだけれど………。」
「じゃあ、今のままだと………。」
「美由紀ちゃんがミサイルを全部パーッと使っちゃったのもあるっすからね。レオパルドは解体して、パワード・ジムの改装に回すのが、一番無難になりそうな気もするっす。」
改装後のパワード・ジムの姿を描いたホログラムを回転させながら、沙紀は深々と溜息を付く。
整備士は、こういう細かい所でも苦悩を抱く。
常に前線に立つ者達を、万全の状態にするために。
その努力に改めて、藍子は感謝しながら、最後に沙紀に告げる。
「沙紀ちゃん達は、本当に凄いね。それで………その機体ってもう名前が決まっているの?」
気になったパワード・ジムの、改修後の機体の名称。
沙紀は少しだけ頭を掻くと、少しだけ照れくさそうに述べた。
「カーディガン………。パイロットを守って欲しいって意味を込めて………「パワードジムカーディガン」ってのが、アタシの考えた名前っす。」
全ては大切な仲間達を、敵の攻撃から守って貰う為に。
沙紀、由愛、小春は裏方ならではの仕事を、こなしていく事になる。
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その頃、コロニー「765」の宇宙港では、秋月律子が迎えに出向いていた。
相手は、地球から民間シャトルを乗り継いできた9人のメンバー。
「さて、わざわざ地球からでむいてくれてありがとう。これから皆には、ハルシュタイン閣下………天海春香と面会をして貰うわ。」
並んでいたのは、藤居朋、氏家むつみ、上条春菜、向井拓海、新田美波、三村かな子、諸星きらり、双葉杏、神崎蘭子。
「そして、その場でこれからの詳細を彼女に話す。これから大変だと思うけれど、頑張って頂戴ね。」
彼女達は、バルバトスによる洗脳によって集められた愚民兵では無い。
あくまで、雇われた形の様々な形で傭兵になった者達であった。
「それじゃあ行きましょう。我らが閣下の栄光の未来の為に!」
故に律子は期待していた。
イエスマンでは無い彼女達の働きに。
アプロディアの下に集うシンデレラガールズに、アメリアスの下に集う謎の部隊。
そんな中、バルバトスの下に集う者達も、本格的に指導する。
緒方智絵里さんの重い昔話。
小説版のガンダムUCが元ネタとなっています。
ガンダム世界に詳しい人ならば、彼女の育ての親が誰か想像が付いたかもしれませんね。
一方で、吉岡沙紀さん達が考えているのが、本田未央さんの新機体…パワードジムカーディガン。
ビルドファイターズシリーズの機体ですが、こういうアレンジ機体として登場させる事で、活躍の場を作る事が出来たらいいと思っています。
カーディガンって名前、結構センスあると思うんですよね。