バルバトスが憑依した天海春香に対し、秋月律子が提案したのは、親衛隊の結成。
春香自身が前線に赴き、英雄として振る舞う事で、勇猛な存在としてアピールをしたうえで、様々な組織と同盟を結ぶように律子は提案する。
何故、同盟になるのか春香は疑問であったが、戦乱の歴史が組織の崩壊を勝手に招く為、次元圧縮を持つ春香の下に、勝手に集うだろうと解説。
皮肉にも、戦いの世界が、ハルシュタイン軍の増強に繋がるという考えではあったが、春香自身は納得の行く作戦内容となった。
そして、予め揃えていた律子による親衛隊の紹介。
傭兵である藤居朋の登場も合わせて、少々コントのような展開から始まってしまうが、何とか場を収めた春香の前で、1人1人説明をする事になった。
ハルシュタイン軍の親衛隊に選ばれた各面々。
その抱えている事情はどういう物であるのか?
「では、私から。私の名は上条春菜と言います。今でこそフリーですが、以前は月で、参謀役をしていたことがあります。」
最初に出てきたのは、眼鏡が特徴的な上条春菜。
同じ眼鏡の同好の士なのか、律子がやけに自信満々にふんぞり返る。
「私個人の推薦よ。モビルスーツの扱いには長けるし、頭もキレる素晴らしい子だわ。」
「最初に律子ちゃんの熱のこもった押しを受けた時は不安を覚えたけれど………、実績は確かよ。信用していいわ。」
「信用ねぇ………。じゃあ、聞くけれど、どうしてそんな人が、月に留まれなかったのかしら?」
ドヤ顔の律子や苦笑する朋の言葉を聞いても、春香の疑念は取れない。
外部の組織とはいえ、簡単に辞めている以上、いわくつきだと感じているのだ。
その言葉を聞いた春菜は、両拳を握ると、急に怒りを露わにする。
「よくぞ聞いてくれました!皆、酷いんですよ!?私がある事を提案したら、全員で批判をしたんです!!」
………と言っても、春香に対して怒っているわけでは無いらしい。
自分の過去の出来事を思い出して、頭から湯気を出していた。
春香は何となく嫌な予感を覚えながらも、問う。
「一応聞くけれど、その提案って?」
「ディアナ様眼鏡着用義務です!!」
「はあ!?」
ここで春香が………バルバトスが初めて動揺。
春菜がまくし立てて説明するには、月は「ディアナ・ソレル」という女王が管理しているらしい。
その女王に対し、何と眼鏡を付ける事を義務化した方がいいと言ったらしいのだ。
これには律子も賛同して、春菜と一緒に憤慨。
「そうなのよ。この子、眼鏡着用を推薦しただけで批判を浴びたのよね………信じられないでしょ?」
「いやちょっと待ちなさい、眼鏡って………。」
閣下がツッコミに回ってしまっている中、春菜は溜息を付く。
どうやら、春香の想像以上に、彼女も律子もかなーり重度の眼鏡愛好家であるらしい。
「皆、おかしいんですよ。ディアナ様には眼鏡が絶対に似合うと思うのに、「ディアナ・カウンター」の皆さんは猛反対。「ギム・ギンガナム」に至っては、「できるわきゃねえだとおおおおお!!」って言い放ちまして!!………結果、私は失意のままに月を追われ、途方に暮れる事になったんです。」
しかし、捨てる神あれば拾う神ありと言うべきか。
そんな春菜を見つけて声をかけてくれたのが、律子であったらしい。
「うんうん、これもきっと眼鏡の導きよね。希少な同志に巡り合えて、本当に良かったわ。」
「ちょっと、朋!?どうしてこんな女を選考したの!?強欲どころか、「メガキチ」じゃないの!?」
「いや、その言い方は無いでしょ!?せめて「眼鏡スト」で!それに、眼鏡ストな所を除けばまともなんだって………。それを除ければなんだけれど………。」
最後はやたら自信の無さそうに言う朋の言葉を受け、春香は頭痛を覚えて、頭を手で押さえる。
その理由が分からない眼鏡ストの春菜は首を傾げるが、このままでは埒が明かないと思ったのか、2人目の暴走族のような人物が前に出た。
「次はアタシだな。アタシは向井拓海。バイク弄りが趣味だ。ここに来る前は、「ベスパ」に所属していた。」
「ベスパ?「ザンスカール帝国」の軍の事よね。」
「ええ。特徴的だけれど、比較的高度な技術を持った軍ね。あんまり敵に回したくは無いわ。」
「とりあえず、貴女のベスパへの入隊理由と除隊理由が知りたいわ。」
春菜の事は一時置いておいて、冷静になった春香は拓海との面接を始める。
彼女は、サラシが特徴的な暴走族スタイルを見せながら話し始めた。
「理由か。元々アタシは、ザンスカールのある「サイド2」出身者でな。この格好を見れば大体想像が付くかもしれないが、アタシは特攻隊長的な存在で、バイクを乗り回すのが日課だったんだよ。」
拓海が言うには、そんな中でザンスカールの「女王マリア」が、地球をバイクの楽園にしてくれるという話を、同じバイク好きの「ドゥカー・イク」から聞いたらしい。
元々地球でバイクを爆走させたかった彼女は、勇んで軍に参加。
しかし………。
「けれど、実際にザンスカールがやろうとしたのは、「巨大ローラー作戦」。地球クリーン作戦と言い換えれば語呂がいいが、実際は人も街も全部踏みつぶして更地にするような計画さ。結局女王も傀儡みたいだし、奴等は地球を瓦礫の山にするしか興味が無いのかと思った時点で愛想が尽きたんだ。」
「……………それだけ?」
「ん?それだけって………いや、アタシにしてみればかなり重要な事なんだが?」
「いえ………春菜がアレだったから、貴女も滅茶苦茶な理由だと思って………。」
どうやら春香は身構えていたらしく、外見に反して真面な側面を持っていた拓海に逆の意味で怪訝な顔をしてしまったらしい。
拓海は未だ首を傾げている春菜を見て、少し納得したような顔をすると、ふらついていた時に、新設した軍の存在を知ったので、とりあえず路銀を稼ぐ為に律子に交渉したとも話した。
「本当に真面ね………。てっきり地球を「地ならし」したいと考えているかと思ったわ。」
「おま!?………いや、確かに得意な機体はそういうヤツだけどよ!?勘弁してくれ………あの地獄は。」
どうやら、地球ローラー作戦は、勝気な彼女でもかなり滅入るような内容であったらしい。
頭を抱える拓海を見て、苦労しているのね………と春香は言うと、次の人物を促す。
出てきたのは………。
「闇に飲まれよ!!(初めまして、神崎蘭子です!!)」
「おっすおっす春香ちゃん、諸星きらりだよ、宜しくおにゃーしゃー!」
「双葉杏。ねえ、疲れたからもう帰っていいですかー?」
「消すぞ!貴様等!!」
自由過ぎる蘭子、きらり、杏の挨拶に、春香………と言うかバルバトスが、遂にブチギレ。
律子や朋が、ドン引きする中でも慌てて宥めようとする。
「ちょっと春香、落ち着きなさい!」
「3人はこれでデフォなんだって!」
「その時点でおかしいでしょう!!ネジ何本ぶっ飛んでるのよ!!」
明らかに選考ミスだと感じた春香は、頭から蒸気を吹き出すが、ファーストコンタクトがこれでは仕方がない。
一方、ブチギレられた3人の方は、それぞれ喚いたり弁明したリ落ち込んだりと三者三様。
「ひ、酷い………!名誉棄損だ!賠償金を支払えーーーッ!!」
「闇の聖霊よ、風邪の囁きに耳を傾けよ!(お願い春香さん、私達の話を聞いて!)」
「にょわー………きらり達、これでも「木星帝国」では頑張ってたんだにぃ。」
最後のきらりの言葉を聞き、春香は、ん?………と首を傾げて1回ヒートアップした自分を落ち着かせると、3人に聞く。
「木星帝国?それが、貴女達の所属だったの?」
「え、ええ!何でも軍では「ナンバーイレブン」の通称で呼ばれていたらしくて、「コストイレブン」と名乗るトリオでの連携で、他を圧倒していたらしいわ!実際にテストした時も、3人での連係プレイは、光る物があったしおススメよ!」
早口で朋がまくし立てるように言い、何とか春香を早く理解させようとする。
全面的に3人の態度に問題があるとはいえ、彼女のブチギレで粛清されたらたまった物では無いからだ。
しかし、それでも素行が悪くて軍を追い出されたのは、誰の目にも明白であり………。
「貴女達、軍で何をやらかしたのよ………。」
「杏ちゃんが週休6日制を申告したから、カラス教官が怒っちゃったんだにぃ。」
「な!?きらり、お前がその馬鹿デカい図体で、カラス教官の発明品を次々と壊したのが原因だろう!!」
「泥沼に沈みし言霊は腐海の海………。(責任のなすりつけ合いは醜いわよ………。)」
「意志疎通その物が出来て無かったお前が、偉そうなことを言うなーーーッ!!あの教官が胃薬を飲み始めた時点で、相当問題なんだぞーーーッ!!」
滅茶苦茶な会話に、春香は人差し指をこめかみに当てて明後日の方向を向く。
ここまで来ると、怒りを通り越して呆れてしまった。
「………ねえ、コイツ等本当に親衛隊にして大丈夫なの?」
「まあ、ほら………インパクトも大事だからね。根はいい子達だし、多少は目を瞑って………。」
「多少、ねえ………。まあいいわ、次。」
考えるのが億劫になったのか、春香は未だに喚き続ける3人を置いて、次の親衛隊のメンバーを呼ぶ。
前に出たのは、長い髪の朋と同じくらいの年齢の女性であった。
「私は、新田美波です。ここに来る前は、「OZ」に所属していました。」
「OZ?「ロームフェラ派」と「トレーズ派」に分かれた組織だったわよね。貴女はどっち側だったの?」
「その区分で分けるならば、私はトレーズ派ですね。あの方のカリスマ性は、私達兵にとっては惹かれる物があります。」
「トレーズ・クシュリナーダ」は、エレガントに振る舞う存在だ。
兵を大切にする所は、美波を始めとした信奉者にとっては、憧れの的である。
しかし、ここで春香はやはり疑問を持つ。
「その貴女が何故、組織を追い出される羽目になったのかしら?」
普通の疑念の言葉であったが、ここで美波は顔を赤くする。
どういう意味だと思った春香は眉をひそめるが、彼女は溜息を付くと理由を告げていった。
「えっと………非常に恥ずかしい話なのですが、どうも私は、異性から見ると………何というか、好色であるらしくて。こう言えば聞こえはまだいいのですが、実際には職場で常に好奇の目で見られるので、その………風紀を乱してしまいまして。」
何でも19歳である彼女は、よくOZの男達に食事に誘われたり、成人したら飲もうと約束されたり、付き合わないかと絡まれたり………と、人気の的であったらしい。
それだけならばいいのだが、日に日に兵士達の行動がエスカレートしていった為、トレーズ率いるOZのエレガントさの崩壊に繋がってしまっているのだ。
「………ぶっちゃければ、兵士達がスケベになってるだけじゃないの。それって、OZじゃなくて、QZ(クズ)よね。」
春香に憑依しているバルバトスは、男性的な側面を持つが、当然ながらシステム故に、美波を性的な目で見る事は無かった。
だからこそ、色気に惑わされる人間は愚かに映ってしまう。
「ちなみに、そのトレーズはどう言ったの?」
「あの方は気にしないで下さったのですが………私自身、色々と耐えられなくなってしまい、組織を脱退する事にしたんです。」
美波は路頭に迷っていた所で、この新設する組織の話を聞いたらしい。
女性だけで構築するのならば、自分でも大丈夫かなと思ったらしいのだ。
それに関しては、春香も肯定する。
「そういう点においては大丈夫よ。私、天海春香も立ち位置は女性。元々女性としての魅力をアピールする部隊になるのだから、貴女1人が悪目立ちする事は無いわ。それでも貴女に不埒な瞳を向ける輩がいるのならば、それは成敗すればいいだけのことだしね。」
春香の言葉を聞き、美波は笑顔を見せる。
そして、上機嫌に跳んだ後で、上品に会釈した。
「ありがとうございます。ならば、この新田美波、貴女の望む平和の為に、誠心誠意仕える事を約束します!」
「内面は比較的まともそうね。………じゃあ、次。」
出てきたのは、ちょっとだけふくよかな娘。
彼女は気合を入れると、自己紹介。
「三村かな子です!お腹がすきました!!」
「お前は何を言っている!?」
単刀直入に告げるかな子に、思わずツッコミを入れてしまう春香。
タジタジになった彼女は、勢いで言ったらしく謝罪。
「す、すみません………実は私、バルチャーのリーダーをやっているんですが、物凄く貧乏で………。毎日の食費とおやつ代を稼ぐために、後輩の子とジャンク品を採掘するだけじゃ、やっていけなくなったので………危険手当が高いって噂があった、春香さんの親衛隊に志願したんです。」
バルチャーはハゲタカとも呼ばれる組織で、ジャンク品を売り払っている無法者達の集団だ。
場合によっては、武装して他の組織を襲う事も有り、危険視をされる事もある。
故に、実力があるのは分かるのだが、おやつと来るとピンとこなかった。
そんなに生きる為に、必要なモノなのだろうか?………と。
「ねえ朋………傭兵の貴女に聞くけれど、バルチャーって、そんなにおやつを食べなきゃやっていけない組織なの?」
「ええっと………ほら、おやつ代は娯楽に必要だし………。」
「……………。」
朋まで口裏合わせをしている所を見て、何か裏があると思った春香はかな子を睨みつける。
「お、おやつは女の子にとって、嗜みで絶対に欠かす事の出来ない要素なんですよ!?甘い物はストレスの解消に役に立ちますし、ぶっちゃけ、私達はおやつを食べる為に日々を生きているのです!!」
「それ、貴女の後輩も理解してくれているの?」
「も、勿論です!」
怪しすぎる力説を聞いて、より疑念を深める春香。
そもそもかな子は、ちょっとはふくよかだが、体重は標準を保っている感じだ。
おやつ好きである割には、そこまで暴食をしているようには見えない。
「………建前は分かったわ。で、本音は?」
「え?その………。」
「「おやつ代」の正しい使い道を言わないと、親衛隊に入れないわよ?」
「う、うう………。」
図星である所を突かれ、かな子は肩を落とす。
そして、自信が無さそうに顔を上げると、春香に言った。
「実は………後輩の子の親族が、その………入院していて、お金に困っていまして………。それで、地道に稼ぐ必要が出て来て………。」
「………最初からそう言いなさいよ、全く。だったら、その後輩の子達も纏めて親衛隊に入れてあげるわ。」
「い、いいんですか!?ありがとうございます!!」
パァっと顔を輝かせるかな子に対し、春香は嘆息。
働く理由が切羽詰まっているから採用しただけだが、こう感謝されると何か不思議な感覚を覚えてしまった。
「とりあえず、最後。自己紹介して頂戴。」
「………氏家むつみ。」
「………随分、無愛想ね。」
三つ編みの一番幼そうな少女は、かなり淡泊に自分の名前を述べる。
その様子は、愛想が無いというよりは、感情が乏しいようにも映った。
「ゴメン、春香ちゃん。むつみちゃんはあたしのパートナーなの。訳があって、感情表現が乏しくて………。」
申し訳なさそうな顔で告げてきたのは朋。
どういう事か聞いてみると、彼女は身振り手振りを使って説明を始める。
「実はここに雇われる前に、別の雇用主の任務で、「ロゴス」の基地兼研究所を壊滅させたのよ。それで、その時に「生体CPU」の実験中だった彼女を見つけて………。」
むつみは、薬物投与をされ始めてから日が浅かった為か日常生活への支障は無かったが、精神的に後遺症を残してしまっていた。
記憶を失っているうえに、データも抹消されている状態だったので、自分の素性すら分からなくなっていたらしい。
「………だから、貴女が引き取る事にしたの?」
「その時、女があたししかいなくてね。自衛出来るだけの実力はあるから、記憶を取り戻すまでの間、連れているの。」
「つまり、戦力にはなるって事ね。」
「ついでに言えば、この個性的な部隊でコミュニケーションを取れば、リハビリにもなると思ったのよね。」
個性的と言うには暴走している者も何名か居る気がする………と春香は思ったが、とりあえず、戦力になるならばそれで良いと考える事にした。
「この際、強いならばそれでいいわ。戦力としてしっかり働いて頂戴。」
「………分かった。」
むつみが無機質に答えた事で、自己紹介は終了。
こうして、春香の親衛隊が765プロに集う事になった。
一抹の………いや、かなりの不安を彼女は覚えていたが、とりあえずは朋も含めこの9人と歩き始める事になりそうである。
ある意味では、シンデレラガールズ以上に特殊な事情を抱えている感じの親衛隊の面々。
天海春香…バルバトスが、ここまで動揺するのは初めてかもしれませんね。
かなりコントっぽくはなったけれど、生きる為に皆が必死なのは確か。
愚民兵とは違った傭兵軍団のメンバーで、対処していく事になります。
そんな彼女達は、部隊名を何と名乗る事になるのでしょうか?
次回、PHASE4の最終話。
最後まで見て貰えると有り難いです。