モバジェネワールド・リメイク   作:擬態人形P

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第68話 PHASE5-7『珍妙な来訪者』

「AEU軌道エレベーター」の軍事基地で襲って来たゼクス・マーキスのトールギスのシールドを半壊させたのは、キャリー・ベースからの渋谷凛のガンダム7号機による長距離射撃であった。

更に、工藤忍のジム・スナイパーⅡ(ホワイト・ディンゴ仕様)が母艦のスーパーソニックトランスポーターを狙撃で狙い、脅しをかけた事でゼクス達を撤退させる。

 

無事に基地から脱出したシンデレラガールズは、安全圏までキャリー・ベースを加速。

その際に高槻やよいは、ガンダムエクシアのパイロット………刹那・F・セイエイと貴重なコミュニケーションを取る。

刹那は、彼女とウッソ・エヴィンと、またどこかの戦場で出会う事になると思うと話し、2人の共感を得る事に。

こうして、刹那とウッソはそれぞれ自分達の居場所へと去っていった。

 

数時間後、キャリー・ベースの格納庫内では、エンジン回路の修理が進められており、艦長の高垣楓と整備士の吉岡沙紀が頭を悩ませる事に。

安全な場所での修復を求めた結果、アプロディアから「イングレッサ領ノックス」を勧められる。

沙紀や成宮由愛、古賀小春の負担が大きい事から、「イングレッサ」で誰かを雇う事も必要かと楓は神谷奈緒と話をしていたが、そこに話しかける人物が。

 

それは、成り行きでキャリー・ベースに回収されていた輿水幸子であった。

 

 

 

「………あ、何だ。お前、まだいたのか。」

「ちょっと!?まだいたのか………じゃないですよ!?勝手にそちらの組織に服従させておいて、それはあんまりじゃないですか!?」

 

あからさまに邪険に扱う奈緒の言葉に、幸子は思わず反論。

とはいえ、さっきまで初めて敵機を撃墜した動揺から、トイレで嘔吐していたのだ。

奈緒から見たら、頼りなさげに映るのは仕方ないのかもしれない。

また、それは楓にも言えた。

 

「そうですか。ゴメンなさい、もういいですよ。この艦から出て行って下さい。」

「出ていけ!?いやいやいや、それは無いんじゃないんですか!?あんなモビルアーマーとかを倒したんです。今頃ギロチン使いが目を血眼にしてボク達を探していますよ!?そんな中で、1人で出ていけだなんて普通言いますか!?」

「はっきりしないな………何が言いたいんだ、お前?」

 

早口でまくし立てる幸子の意図が分からなかった奈緒はその真意を問う。

そもそも彼女は、ソレスタルビーイング………あの刹那達の組織に合流したかったはずだ。

願いが叶わなかった時点で、このシンデレラガールズにいる意味はない。

だが、幸子は奈緒の言葉を聞くと、オッホン!………と前置きをしたうえで、大仰に自分の胸に手を当て話し出す。

 

「………先程の話を聞いていますと、この艦は今、人手不足に悩んでいるご様子。しかし、何やら特殊な事情がある故に、仲間を募るのが難しいみたいですね。だとすれば、聞き分けの良い凄腕のパイロットが、喉から手が出るほど欲しいのではありませんか?」

「実際に欲しいのは整備だけれどな。そもそも、そんな凄腕なんて何処にいるんだよ?」

 

幸子が何を言いたいのか何となく予想が付きながらも、敢えて奈緒は彼女に問う。

案の定、幸子は満面の笑顔で、自分の体を逸らして告げた。

 

「それは、勿論目の前に………。」

「ワロス。」

「ちょ、何笑っているんですか!?これでもモビルスーツの扱いは、得意なんですよ!?」

「さっきの戦いぶりで得意って言うか?」

 

失笑した奈緒は、盛大に溜息を付く。

百歩譲って幸子は、機体の操縦技術は何故か得意かもしれないが、戦闘経験は完全に素人である。

これなら、まだ先程の戦いでゼクスのトールギスに真っ向から挑むことの出来たやよいの方が、戦力的に換算出来るだろう。

しかし、幸子は癇癪を起こすと奈緒に反論をした。

 

「あのトールギス相手に怯んで喚いていた貴女だけには言われたくありません!それに、アレはボクじゃなくてモビルスーツが悪かったんです!!パイロットを活かすには、それに応じたモビルスーツがありませんと。きっと、ボクに似合うのは、あのガンダムのような物なのです。」

「お前なぁ………。」

 

支離滅裂とも言える言い分に、奈緒は言い返す気力も無くす。

一方で幸子は、楓の方を見るとアピールをした。

 

「ですから、どうですか?艦長さん。名機が入った時の為に、凄腕パイロットを今のうちに確保しておくのは!」

「いいですよ、歓迎します。」

「まあまあ、そう遠慮などせずに………って、あれええっ!?」

 

速攻で了承された事で、次のアピール文句を考えていた幸子は、拍子抜けしてしまう。

奈緒もまた、楓があっさりと受け入れた事が信じられず、思わず聞いてしまった。

 

「まさかの即答!?というか、本当にいいのか艦長!?」

「凄腕かどうかはともかくとして、これからの戦いに向けてパイロットが足りないのも事実です。隊長機2機がお釈迦になった事情を鑑みれば、戦力の補強も必要ですよ。」

「そう言われると………。」

 

楓の言う言葉を、奈緒は理解する。

藤原肇は、高機動のヅダでないと、その持ち前の接近戦に対するスキルを十全には活かせない。

高森藍子もまた根っからの狙撃手であるので、ハイザック・カスタムを失った今、恐らく力を完全に活かす事は出来ないだろう。

一応、黒川千秋のシグーアサルトや工藤忍のジム・スナイパーⅡ(ホワイト・ディンゴ仕様)といったパイロットや機体はあるが、シンデレラガールズ全体の戦力ダウンは避けられない状態だ。

だとしたら、腕前はともかくとして、話の分かる仲間の存在は必要だと言えた。

 

只、そこまでの事情を理解していない幸子はというと、戸惑いながらも笑みを浮かべて喜んでいる状態だ。

 

「そ、そうですよね!流石艦長、話が分かる………。」

「但し、その際に貴女に頼みがあります。」

「ボクに頼み事?勿論イヤです!」

「奈緒!縄持って来て!!この子、亀甲縛りにして、逆さ吊りにするから!!」

 

逆に満面の笑顔で、割と本気で言ってのけた楓の言葉に、幸子だけでなく奈緒も戦慄。

冗談を言っている顔じゃないと分かった奈緒は、思わずアイコンタクトで従うように幸子に伝えた。

無論、幸子は途端に余裕を無くし、必死になる。

 

「ちょっ!?小さい子もいるのに、何やろうとしているんですか!?分かりました、分かりましたよ!聞きますからドSプレイは止めて下さい!………で、何を聞けばいいんですか?」

「ふふっ、まあたいしたことではありません。この艦にいる以上は、一応艦長である私の指示には従って欲しいだけですよ。生き残る為にも、この先仲間との連携は必須になりますからね。命令系統は守って欲しいだけです。」

「まあ、そういう事ならば、別に構いませんけれど………。」

 

意外にも無茶ぶりをされずに、普通に艦長らしい事を言われた幸子は、更に拍子抜けしたように受け答えをする。

その様子に満足したのか、楓は笑みを浮かべて幸子に握手を求めた。

 

「それでは、これからよろしくお願いしますね、幸子。」

 

こうして幸子には部屋が与えられる事になったが、栗原ネネに案内される後姿を見送りながら奈緒は楓に問う。

 

「………何を考えてるんだ、艦長?」

 

艦の事情があるとはいえ、正直怪しい人物を仲間にしたのだ。

奈緒にしてみたら、楓の考えている事が気になって仕方なかった。

それ故に、楓は笑顔を浮かべたまま奈緒に言う。

 

「では、貴女も一緒に確かめに行きますか?」

「行くって………?」

 

意味深な言葉を呟く楓に、奈緒は首を傾げた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

個室に案内された幸子は、去っていくネネに感謝を述べる。

そして1人になった所で、部屋の中を一通り確かめたうえで、テーブルの前の椅子にドッカリと座り込んで大きく息を吐いた。

 

「やれやれ、ソレスタルビーイングに接触しようと思ったら、思わぬところに来てしまいましたね………。あの艦長があっさり受け入れてくれたから、1人路頭に迷う心配は無くなりましたが、果たしてこの組織で、「アレ」について、満足な結果が得られるかどうか………?というか、受け入れて貰って言うのもなんだけれど、あんな艦長でこの艦、大丈夫なのかな………?」

 

そう嘆息すると、何気なく懐から「何か」を取り出し、ジッと見つめる。

しばらくその長方形の物を見つめていた幸子は、目を細めて静かに呟いた。

 

「……………さん。」

 

ところが、ここで部屋の扉がノックをされたので、咄嗟に持っていた物を仕舞う。

 

「幸子。楓ですが、今宜しいでしょうか?」

「艦長?………どうぞ。」

 

すると、部屋の扉が開けられ、奈緒を連れた楓が入って来た。

幸子は椅子を用意しようとするが、彼女は笑みを見て制すると彼女に話しかける。

 

「失礼します、幸子。ちょっと貴女にお聞きしたい事があって来ました。」

「………何ですか?また、ドSプレイでか弱い少女を脅そうって言うんですか?」

「そんな事はしませんよ。只、どうしても気に掛かる事があったのです。………本当はあの場で聞いても良かったのですが、あまり大人数に聞かれない方が、貴女に都合が良いと思いましたのでね。」

「………何を聞きたいのですか?」

 

楓の言葉に、幸子は冷静に………いや冷徹とも言える冷たい言葉を返した。

この反応に、後ろに控えていた奈緒は内心、それまでコミカルな面ばかり見せていた幸子とは違う彼女の一面を垣間見る。

質問者の楓の方はというと、わざわざその場に立て膝を付くと、真剣な顔をして静かに幸子に聞いた。

 

「先程の戦闘で、突如介入した粒子を出すエクシアと呼ばれるガンダム。やよいの話が確かならば、ソレスタルビーイングという組織になりますが、貴女は当初、彼等の仲間になろうとしていましたね。」

「そうですよ。まあ結局、彼等はボクを無視しましたから、仕方なくこの艦を選んだんですけれどね。」

 

ぶっきらぼうに答える幸子は、それまでの縋りつくような彼女とは、明らかに違った。

奈緒はその彼女の姿に、それこそ昔、「出来損ない」と言われていた自分と同じような「闇」を感じる。

そんな中、楓の質問は続く。

 

「何故、彼等の仲間になりたかったのか、話して貰っても宜しいですか?」

「………言いたくないと答えたら?」

 

その奈緒の予感は、この幸子の言葉で核心に変わる。

明らかに幸子は、人には言えない何かを抱えていると思った。

楓は突き放すような返答に目を一瞬伏せると、ジッと彼女の冷たい目を見つめる。

 

「貴女が話さなくても、大体の予測を付ける事は出来ます。あのガンダムが襲来した時、私達は勿論、基地の人々も彼………刹那さんがソレスタルビーイングだと誰も分かりませんでした。しかし、その中で貴女だけが、彼の襲来を正確に察知し、それに合わせてモビルスーツを強奪し、あの場に現れた………。まるで、あの日、あの時間、あの場所で、あの出来事が起こる事を、事前に知っていたかのように………ね。」

 

そうでもなければ、AEUイナクト指揮官機を強奪して、軍事基地へと乱入するといった大博打をする事はしないだろう。

行動自体はかなり杜撰ではあったが、幸子は明確にソレスタルビーイングの仲間になる為の意志と手立てを考えていたのだ。

この楓の言葉に、当の幸子は椅子に座りながらも無言を貫く。

それは、言っている事を肯定しているのと同義であった。

更に、楓の推理は続く。

 

「……………。」

「………貴女は、あの世界軸の人間でありながら、あの時間軸に生きている人間ではありませんね。少なくとも、貴女はあの事件よりも未来の世界に生きている人間。次元の歪みが頻発している世界なのです。何かしらの拍子にタイムスリップなどをしても、おかしくは無いでしょう。しかし、その中でわざわざ基地を襲う輩に身を寄せようとするのには、それ相応の理由があるはず。」

 

幸子はジッと楓を見つめてばかりだ。

だが、その顔は奈緒から見て、完全に勧誘を持ちかけていた時とは雰囲気がまるで別人のように違っていた。

どちらの幸子が本当の姿かは分からない。

だが、この姿を見せられると、コミカルに振る舞っていたのが、仮面のようにすら思えてくる。

一方で、その幸子の表情の変化に構わず、楓の推理は最終段階に至った。

 

「これは私の予測ですが、貴女の本来の時間軸では、ソレスタルビーイングは、「何か」と密接に関わっているのでは無いでしょうか?そして、その「何か」こそ、貴女が戦いのリスクを負ってでも求めているものなのでは?」

「……………だとしたら、どうします?」

 

幸子は顔色を変えず、その推理を認めた。

自身が、ソレスタルビーイングの存在する世界軸の未来から来た人間である事を。

そして、その未来でソレスタルビーイングが関わる「何か」が、自身に関係している事を。

楓はその言葉を聞くと、立ち上がり静かにかぶりを振る。

 

「これ以上は無理に問いません。只、貴女があの世界軸の知識を持ち合わせているのならば、私達に教えて欲しいのです。正直な所、私達にとっては、あのガンダムもイナクトも、未知の区分でしかありません。そのような中で、少しでも知識を持ち合わせている人がいてくれるのは、本当に有難い話なんですよ。」

 

成程………と奈緒は、ここで楓の考えを理解した。

敵モビルスーツの索敵や解析は、アプロディアと深く繋がっている綾瀬穂乃香が行ってくれる。

しかし、次元圧縮の影響を受け始めたばかりの幸子の世界軸のモビルスーツは、彼女達でも「UNKNOWN」と示され、謎に包まれたままだ。

ティエレンを鹵獲した時も、その特殊なコックピットの全容に、沙紀達が驚いたほどである。

だからこそ、楓はその世界軸の情報を持ち合わせる幸子を勧誘する事で、その対策に当てようと考えたのだ。

 

「それに、私達は必然的に次元の歪みに関わっていく部隊なのです。場合によっては、ソレスタルビーイングや、貴女の求める「何か」と遭遇し、その知識が役立つかもしれませんよ?」

 

楓はまた笑みを浮かべると、幸子にシンデレラガールズの良さを告げる。

だが、幸子は楓の真意を、十分に理解したのだろう。

ずっと冷徹な瞳を向けていたのに、ニヒルな笑みを浮かべると皮肉気味に呟く。

 

「……………最初から、情報目当てで勧誘しましたね?」

「情報込みだと言って下さい。戦力としても期待しているのも、確かなのですよ。」

「やれやれ………どうやらボクは、いい人に拾われたみたいですね。」

「お褒めの言葉、ありがとうございます。」

 

あくまで皮肉めいた姿勢を崩さない幸子であったが、椅子から立ち上がると胸に手を当て、笑みを崩さない楓に告げる。

 

「………仰る通り、ボクにとっては、あの事件は「過去」の話に当たります。本当は未来で平穏に暮らしていたんですが、ちょっとした不幸で次元の歪みに巻き込まれて、過去に飛んできたんです。」

「その「ちょっとした不幸」と、ソレスタルビーイングが密接に関わっているのですか?」

「いいえ。」

 

幸子は、楓の言葉に目を閉じて首を振る。

しかし、再び開いた瞳は、やはり奈緒から見て、何処か陰りがあるように思えた。

 

「………只、「5年後」の世界で、彼等はその関わりのある組織と対立をしているんです。」

「5年後の世界で?その組織とは………。」

「独立治安維持部隊「アロウズ」。彼等こそ、ボクの求めている部隊であり………ちょっとした因縁を持つ相手です。」

 

 

あくまで平静を保って告げる幸子の言葉に、楓も奈緒も、無言にならざるを得なかった。




ひょんな事からキャリー・ベースに同乗する事になった輿水幸子さんが、正式に仲間になりました。
その理由について、艦長の高垣楓さんは色々と考えていたみたいですが…。

コミカルに振る舞う幸子さんと、冷徹な視線を向ける幸子さん。
この小説の中においては、どちらが本当の幸子さんと言えるのか…?
「アロウズ」と呼ばれる組織の動向も気になりますし、まだまだ謎を抱えていそうです。

さて…短いですが、PHASE5は次回でラスト。
もうちょっとだけ、今回の話にお付き合いください。
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