コア・インパクトで現れたアメリアス勢力の柳瀬美由紀は、大量のザクタンクとヒルドルブ、そしてドム・ノーミーデスを駆使して、「ノックス」の街を破壊しに掛かる。
その残酷な行為を止めさせようと、パワードジムカーディガンを駆る本田未央は、ストライカー・カスタムを操る藤原肇などの力を借り、彼女の下まで行く。
アメリアスやボスと呼ばれる人物の命令で、無理やり従わされているだけなのだと言い、破壊行動を止めるように美由紀を説得しに掛かる未央。
しかし彼女は、世界を壊された自分の中に、破壊衝動や妬み等のどす黒い感情も持ち合わせていると言い、未央機も遠慮なく攻撃しに掛かる。
友達だと思っていた少女に殺意を向けられ、防戦一方になる未央。
しかし、自機の後ろに逃げ遅れた親子が現れた瞬間、彼らを守る為に反射的に美由紀を撃ってしまう。
ところが、タイミング的に先に攻撃できるはずであった美由紀は、子を庇う親の姿に、自身の両親の姿を重ね合わせてしまい、未央達を撃つ事が出来なかった。
復活できる肉体を持っているとはいえ、結果的に1回美由紀をその手で殺してしまった未央。
彼女は戦闘が終わっても、美由紀の亡骸を抱きしめ、慟哭していた。
「ノックス」での戦闘が終了した翌日の夜、シンデレラガールズの母艦であるキャリー・ベースは、北方にある「アラマハン山脈」で離陸準備を整えていた。
ジェネレーション・ブレイクに巻き込まれたジョルジュ・ド・サンドと別れた後、グエン・サード・ラインフォードが戦闘後の混乱を防ぐ為、街から彼女達を移動させてくれたのだ。
実際、それだけ戦闘での被害は大きい物であり、例えばソシエ・ハイムは、ディアナ・カウンターの攻撃で父親を失い、心に影を落としていた。
彼女は、今はロラン・セアックとメシェー・クンが見守ってくれている。
だが、彼女がディアナ・カウンターと戦うと言い張った際は、ロランを悩ませてしまった。
そんな彼らも十時愛梨と共に、今はシンデレラガールズの下で一時的にシミュレーターを駆り、色々と勉強している最中だ。
夜間のブリッジでは、高垣楓と千川ちひろが、機器のチェックを行っていた。
キャリー・ベースは吉岡沙紀達の修理によって、再び万全の状態で離陸できるようにはなっていた為、ちひろは少し楓に笑みを向ける。
「エンジン出力良好です。キャリー・ベースは、問題無く飛び立てますよ。」
「そうですね。………これで、もう、完全に後戻りは出来なくなりましたからね。」
楓から返って来た言葉に、ちひろは一瞬首を傾げるが、すぐにそれが高槻やよいを指している事に気付く。
「ノックス」の戦闘では、やよいと未央が、かなりの精神的ダメージを負ってしまった。
特に前者は、高木順二郎社長と敵対した事で、完全に765プロと決別してしまったのだ。
「……………良かったのですかね?正しさはともかく、14歳の子供の判断として。」
ちひろの言う通り、正しさで見れば間違っているだろう。
765プロに行けば、洗脳されるのは目に見えている。
そういう意味では、決別という言葉も厳密にはニュアンスが違う。
だが………やよいは、まだ14歳だ。
大切な仲間のいる組織に背を向けるのは、耐えがたい物があるだろう。
何より、その離反行為で、「ノックス」の街に更なる被害が出たのだから、本人は責任を感じているはずだ。
「これから洗脳された765プロの面々が襲ってくる。その時にどう対処するか………私達も責任を持って、考えなければならないですね。」
楓の呟きは、重く辛い物であった。
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キャリー・ベースの近くでは、やよいが手頃な大きさの石に座り込んでいた。
彼女は一晩経っても、眠れていない。
眠ったら確実に、悪夢を見るからだ。
そんなやよいを心配して、喜多見柚と緒方智絵里が言葉を掛けにくる。
「……………。」
「ねえ、やよいチャン………。」
目の下にクマを作っているやよいは何処か虚ろな視線であったが、おもむろに柚を見ると、静かに笑おうとする。
心配を掛けまいと気遣った行為であるだろうが、結局は上手く笑えていない。
「ねえ、柚さん………。私、これで正しかったんですよね………。」
「それは……………。」
柚が悩む間にも、やよいは言葉を紡いでいく。
まるで、そうしなければ、自分を見失ってしまいそうだから。
「だって、バルバトスは、柚さん達の大切な人と世界を、全部消し去ってしまったんですよ?それだけじゃない………バルバトスは、他の世界も次元圧縮によって、滅茶苦茶にしようとしているんです。そんなことになれば、きっと世界中の人達が、不幸になります。だから、アイツに従う真似だけは、絶対にしちゃいけないんですよね!」
やよいは強い口調で言った。
けれども、その言葉には、彼女自身の意志が組み込まれていなかった。
あくまで、柚達が酷い目にあったから、そうしなければならないと、言い聞かせているだけだ。
だからこそ、柚もすぐには返答できなかった。
「アタシは……………。」
「大丈夫ですよ!私は、負けません!例え、どんな刺客がやってきても、皆の足手まといになんかッ!!」
先の戦闘で未央や栗原ネネに守って貰った事を、相当気にしているのだろう。
戦士として戦おうと決めた自分自身を、無理やり叱咤しているとも言える。
そんなやよいの痛々しい姿を見て、悩んでいた柚は、遂に耐えられなくなって叫ぶ。
「やよいチャン!お願い、無理しないでッ!!」
「何言っているんですか!?私は無理なんてしていませんッ!!バルバトスは柚さんの敵なんですよッ!絶対に許せない敵なんですよッ!!」
柚の言葉に、やよいは反論する。
そうしないと、壊れてしまいそうだからだ。
だが………やはりそこに、やよい自身の主語は無い。
故に、柚もまた言葉を止められなかった。
「それで………ッ!それで、やよいチャンの想いが!!やよいチャンの心が押し潰されたらッ!!」
「私は嘘をついていません!バルバトスは倒すべき敵です!!皆の為に、倒さないといけないんですッ!!私はシンデレラガールズなんです!!今の765プロは敵なんですッ!!そう………今の765プロのみんなは………ッ!」
必死にやよいは、柚達が苦しむからと理由を付け、自身を諭そうとする。
でも、顔をしかめ歯ぎしりをするやよいの心は、今にも砕けそうであった。
「ダメ!やよいちゃん!!」
その姿に、「昔の自分」を重ねてしまったのだろう。
智絵里が、思わず彼女を抱きしめた。
「智絵里………さん?」
「我慢しなくていいんだよ!みんな、分かっているから!やよいちゃんが私達の仲間で、一生懸命頑張ってくれているって!!」
戦闘中にも聞けないような智絵里の大声であったが、やよいは振りほどけなかった。
耳を塞ぐ事も出来なかった。
尚も、智絵里の言葉は続く。
「だから、泣きたい時は泣いていいんだよ!我儘を言いたい時は、思いっきり言ってもいいから!私達、ちゃんとやよいちゃんの涙、受け止められるからッ!!」
智絵里はやよいを抱きしめ、涙を流す。
その温かさに触れた瞬間、やよいの中で何かが崩れる音がした。
「……………温かい、事務所だったんです。」
ポツポツと滴り落ちる涙と共に、自然と言葉が出てしまう。
我儘だと分かっていても、止められなかった。
「春香さん、千早さん、雪歩さん、律子さん、あずささん、真さん、亜美、真美、美希さん、響さん、貴音さん、小鳥さん、社長………そして、伊織ちゃん。」
今は変わってしまった、大切な765プロの仲間。
洗脳される前は、優しかった大切な仲間達。
その笑顔が脳裏を横切った瞬間、やよいは衝動を抑えられなくなる。
「みんな………みんな、優しかったんです。優しい事務所だったんです。優しくて温かかったんですよぉ………。私………私………本当は………本当は………!みんなと戦いたくなんか………!うわああああああああああああああああああッ!!」
心の奥底の本音を封印していたダムが決壊する。
これ以上は何も言えなくなり、やよいは智絵里にしがみついたまま泣き崩れてしまう。
智絵里は立て膝を付き、号泣するやよいをしっかりと抱きとめていた。
その涙は、しばらくは止まりそうに無かった。
やよい達の様子を、少し離れた所で、見守っている影が3人いた。
渋谷凛と島村卯月、そして輿水幸子である。
泣き叫ぶやよいを見ながら、卯月は呟いてしまう。
「もしも、やよいちゃんの仲間が………、765プロの人達が立ち塞がったら、私達はどうすればいいんだろう?」
「討てばいいんじゃないんですか?ボク達が代わりに。」
「なっ!?」
冷酷な幸子の言葉に、卯月が思わず食って掛かろうとしてしまうが、彼女は自身の発言を撤回しようとしない。
むしろ卯月に冷徹な目を向け、静かに持論を紡いでいく。
「相手は洗脳されているんでしょう?躊躇ったら、討たれるのはやよいさんですよ?卯月さんは、自分を捨ててでも戦おうとした彼女を、見殺しに出来るんですか?」
「それは……………、でも、やよいちゃんの大切な人を奪ったら、それこそやよいちゃんが………壊れちゃうよ。」
幸子の言葉が正論であるのならば、卯月の言葉も正論だ。
仮に水瀬伊織を討ってしまったら、やよいは立ち直れない。
しかし、幸子は溜息を付くと冷たい言葉で返す。
「それ以上は責任を持てませんよ。只、ボクは少なくとも、765プロの人達より、やよいさんの方に恩義がありますから。それにボクは「まだ」死ねませんので。嬲り殺されるのは、ゴメンです。」
比較的新参である故に、憎まれ役を担ってくれているのだろう。
敢えて冷めた発言をする幸子の姿に、卯月は勿論、凛も何も言えなくなる。
勿論、倒さずに無力化する方法はある。
ストライカー・カスタムに搭乗している藤原肇に、鹵獲して貰えばよいのだ。
しかし、幸子はそれも考えていたらしく、肇は喜んで請け負ってくれるだろうと付け加えたうえで、こう述べた。
「本気で殺しに掛かる相手に対して、無力化を狙うんです。肇さんに掛かる負担と危険性は、非常に危ういでしょうね。………そんな彼女が仮に死ねば、それこそやよいさんは壊れるんじゃ無いのですか?」
「他の方法は……………。」
「今の時点では無いです。最近入ったボクが言うのも何ですが、力不足なんですよ………全員。」
幸子の言葉に、卯月は目を伏せるしかない。
凛もまた、自身が今の時点では、何も出来ない事を痛感していた。
(ガンダムがあれば、何でもできると、ずっと思っていた。でも、今の私と7号機の力じゃ、女の子1人、笑顔にすることも………。私は………私なんかの力じゃッ!!)
決戦兵器ガンダム。
その概念が、凛の中で、根本から崩れようとしていた。
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キャリー・ベースの格納庫では、吉岡沙紀と成宮由愛、古賀小春の3人が機体の整備をしていた。
そこに、栗原ネネがハロを連れて、温かな食事を持って現れる。
「軽食ですが、夜食を持ってきましたよ。」
「ありがとうっす。丁度小腹が減った所っすよ。」
「美味しいです………。やっぱり………栄養は取らないといけませんよね………。」
「小春もです~。尤も、もうすぐ寝ないといけませんけれど~。」
食べやすいサンドイッチを口に含んでいくのを嬉しそうに見ながらも、ネネは現在修理中の機体に着目する。
それは、他でもない自身の乗機であるジーライン スタンダードアーマー。
マシュマー・セロとのガルスJと戦った際に、バックパックのガトリング・スマッシャーを壊してしまったのだ。
「………直りますか?」
「元々バックパックの装備だから、壊れても補修は利くっす。只………そろそろ機体自体を換装するのも、手かもしれないっすね。」
「換装………?」
沙紀が説明するには、スタンダードアーマーは、装甲に重視を置いた汎用タイプであるらしい。
一方で「ノックス」にいる時、シミュレーターで肇が練習をしてみたライトアーマーは、軽量化をして高機動戦闘に特化させたタイプだ。
「これに加えてジーラインの換装形態には、アサルトアーマー………近接戦闘に特化させたタイプもあるっす。」
「近接戦闘………ですか?」
「最初はネネちゃんがパイロット初心者である事もあって、スタンダードアーマーを選んだけれど、ハロのサポートもある事だし、そろそろアサルトアーマーでもいいかなって思ったんすよ。」
換装形態の1つというだけあって、バックパックや武装は、キャリー・ベースの中にあらかじめ持ち込まれているらしい。
「ジーライン アサルトアーマー」は、近距離で有効な散弾銃である「ショットガン」。
ギャンを思わせる大型の赤熱化させる槍で相手を貫く「ヒート・ランス」。
クロー・アームが付いており、攻防一体の盾となる「アサルト・シールド」。
これに加えて、バックパックには、遠距離戦にも対応する為の「アサルト・キャノン」を基本装備として付ける事になる。
総合的に見れば、攻撃力は高くなる半面、扱いは難しくなるのが、沙紀の見解であった。
「後は………色を塗り替えれば、次の戦闘までには準備出来ます。」
「ネネさん次第ですね~。どちらの機体を使うかです~。」
「……………。」
ネネは考える。
確かに、今の慣れ親しんだスタンダードアーマーの方が、安全性は高いだろう。
だが、僅かとはいえ力を欲するのならば、アサルトアーマーの方がいい。
ならば………。
「アサルトアーマー………。強化する方向で、お願いします!」
スタンダードアーマーから、換装する方針を選んだネネ。
その背景には、やはり少しでも、落ち込んでいるやよいの力になりたいという、強い想いがあった。
沙紀はにこやかに了承すると、早速スパナを取り出す。
「じゃ、決まりっすね!今日はもう遅いから、明日からアタシ達3人で換装作業っすよ!」
新たなる目標を立てて、意気込みを深めた沙紀であったが、ここで少しジト目になる。
実は、もう1人、この輪の中に入っていたのだ。
「………で、失礼ですが………何故、宅配便の方がいるんすか?」
「フシンシャ!フシンシャ!」
「契約の都合だ。後、俺は傭兵が本職だな。」
ハロの身も蓋もない言葉にも動じる事が無く、只、黙ってサンドイッチを頬張っているサングラスの人物………叢雲劾がモビルスーツを見上げながら立っていた。
彼が、キャリー・ベースに同行している理由とは一体………?
高槻やよいさんは、良くも悪くも優しい性格。
だから、己を殺さなければ、仲間とは戦う事が出来ないんですよね。
そういう彼女の側面を短時間で理解したからこそ、輿水幸子さんは憎まれ役を買ってでも、正しいと思う事を言ったのでしょう。
ガンダムがあれば、誰かを救えるわけでは無い。
渋谷凛さんも心中穏やかでは無いでしょうね。
ジーライン アサルトアーマーですが、実はgジェネワールドの時点ではありませんでした。
ですので、こちらの機体も、使ってみたいと感じていたんですよね。