栗原ネネを始めとしたキャリー・ベースの搭乗員に連れられた高槻やよいは、ブリッジでクルーやパイロット達と自己紹介を交わす。
様々な世界線から集っている女性達の集まりの部隊であったが、やよいはアプロディアから、バルバトスというシステムに付いて聞く事になる。
艦長である高垣楓達が追い求めている敵であり、この次元圧縮を起こしている元凶。
そんな説明を聞いてもやよいは訳が分からなかったが、アプロディアは1つとんでもない真実を告げる。
バルバトスはハルシュタイン閣下………天海春香をはじめ、765プロの仲間達を洗脳しているのだと。
やよいのいたコロニー「765」の実情とは一体………?
「私は………765プロのアイドルとして活動していたんです。本当に、「アイドル」として活動していたのですが………。」
アプロディアに促され、やよいは説明を始める。
彼女は元々、島村卯月や本田未央と同じく、コロニー「765」で活動をしていたアイドルであった。
所属する765プロは正直、売上とか利益とかは無縁ではあったが、皆が仲良く暮らしていて、ファンの人達に笑顔を与えられる事務所であったのだ。
やよいはそんな明るい雰囲気の事務所が大好きで、気に入っていたのだが………。
「ある日………、誰よりもファンの笑顔を大切にする春香さんが、豹変してしまったんです………。急にこの宇宙を支配するって言い出して………。」
「ハルシュタイン閣下の宇宙統合宣言ですね。有名アイドルだった天海春香が、突如、閣下として全世界の支配を決断した。そのカリスマ性を活かし、現政権などに不満を持つ愚民兵を集い、ハルシュタイン軍を組織したと聞きます。」
楓の言葉に、やよいは力なく頷く。
普通に考えれば常軌を逸脱した行動だし、賛同者なんて得られない滅茶苦茶な行動。
しかし、何故か765プロは全面的に支援をし始めたのだ。
「………あの時から、みんなおかしくなりました。春香さんの冗談のような計画に反対するどころか、嬉々として賛同し始めて………。あ!?洗脳って………!?」
1つの結論に辿り着いたやよいは、目を見開き見上げる。
少し前にその指摘をしたアプロディアは、頷くと冷静に告げた。
「やはり………これはバルバトスの仕業ですね。彼は自分の手で、人類すべてを支配する事を望んでいます。その切っ掛けとして、自分の器として適性の高かった天海春香に乗り移り、彼女と親しい者を次々と洗脳していったのでしょうね。そして、恐らく愚民兵というのも、元々は春香のカリスマに惹かれたファン一同。彼等も洗脳されていったのだと思います。」
「そんな!?ど、どうして………!?」
思わず泣きそうになって、アプロディアに問いかけようとするやよい。
いつの間にか後ろに回っていたネネが、やよいをそっと抱きしめて落ち着かせようとしていた。
そんなやよいに対し、高森藍子が疑問を述べる。
「ねえ、やよいちゃん。疑問に思ったんだけれど、どうして貴女は無事だったの?そして「サイド7」に来たのは………。」
「実は………私、逃げて来て………。」
やよいは、自分がここまで来る事になった流れを語り出す。
まず、次々と皆がおかしくなる事態を前に、特に親しい水瀬伊織に、このコロニーに居たら不味いと忠告をされて共に逃げようとした。
しかし、パイロットスーツに着替えて宇宙港へと来たところで、武装した追手に捕まりそうになったのだ。
伊織は足の速いGディフェンサーを見つけると、自分は細工をして追手をやり過ごしてから逃げると言って、やよいをモビルアーマーに乗せて先に逃がす事になる。
だが………。
「伊織ちゃんは………いつまで経っても、通信が繋がりませんでした。引き返そうと思ったら、あの追手が追いかけて来て………。」
俯き恐怖に震えるやよいに対し、ネネが自分の体温を感じさせようと強く抱きしめる。
試作2号機から逃げられたのは、Gディフェンサーの足の速さとやよい自身の強運があったからと言えた。
「成程………貴女は、友達のお陰でここまで逃げてこられたのですね。バルバトスと戦う私達と出会えた事は、奇跡としか言いようがありません。」
もしかしたら、その子が祈りって通じたのかもしれない………と楓は静かに告げながら、やよいの頭を優しく撫でる。
彼女は俯きながらも、辛そうな顔で聞いてしまう。
何故、バルバトスはこんな事をするのか?
何故、皆を洗脳して操ってしまうのか?
何故、全宇宙を支配しようと考えるのか?
その結果、自分の居たコロニー「765」が滅茶苦茶にされたのだ。
春香を始めとした仲間達は洗脳され、伊織の行方も分からない。
あまりにも理不尽であった。
「そうですね………。それにはまず、私とバルバトスが生み出された経緯について、説明しなければなりません。」
「生み出された………?そういえば、システムって言っていましたよね。2人は一体………?」
「………ある世界軸での話です。」
アプロディアがこれまで以上に丁寧に説明を始める。
とある世界には、文明が発達して高度な機械技術によって、人々の生活が支えられているところがあった。
しかし、その糧になっていたのは、幾多もの人々による争いの歴史であり、何度も世界は滅びの危機を迎えていたのだ。
この現実から人による統制で人という種を管理しきれないと悟った人々は、その支配権を絶対的な第三者に譲る事にする。
それが「ジェネレーション・システム」と呼ばれるものであり、「機械」による世界の管理であった。
「機械による管理………ですか?」
「そうです。」
何処か驚きを隠せないようで………しかし、同時に何処かその制度に不安を抱くやよい。
アプロディアは、やよいの目線の高さで浮遊しながら、言葉を続けていく。
機械というのは、情に流される事が無い。
欲に目がくらむ事も無い。
そして、誰かの肩を持つことも無い。
裁きは絶対なる法によって行われ、全てに白黒を付けてくれる存在。
それが、生み出された「アプロディア」と「バルバトス」に与えられた役目であったのだ。
ここで、やよいは胸に秘めた不安を、思わず口に出す。
「何………でしょうか。何というか………それでいいのでしょうか?」
「この結論に、異論はあるとは思います。ですが、その世界の人々は疲れていたのです。度重なる現実を、己の目で見極める事を。」
人が統治をしていては、どうしても苦しまなければならない。
荒れ狂う世論の波を、受け続ける事を。
過去から続く怨嗟に、振り回される続ける事を。
真実も分からない中で、答えを出す事を。
「………逃れたかったのかもしれませんね。先祖や国家の重ねて来た罪と罰から。責任を機械に押し付ける事でしか、人々には本当の意味での安息は得られないと、考えた故の結果なのかもしれません。」
アプロディアは、システムらしくなく溜息を付き、明後日の方向をしばし見る。
そして、若干間を置いたうえで、再びやよいを見据え語る。
「しかし………その人々の思考そのものを、バルバトスは………「罪」と決めました。」
「罪って………何が、起こったんですか?」
「………消したんダヨ、人を。世界ごと。」
場の空気が凍り付いた。
一瞬、誰が呟いたのか、やよいには分からなかった。
声のした方を思わず振り向くと、そこにいたのは喜多見柚。
彼女は冷酷な目をして、低い声で呟いていたのだ。
もしもやよいに余裕があれば、気付いただろう。
工藤忍と綾瀬穂乃香と桃井あずきもまた、苦虫を潰したような顔をしていたことに。
「文字通り消えた。地球が1つ丸ごとね。………偶然アプロディアにアクセスしていたアタシ達以外、全部。」
柚の淡々とした言葉に、やよいは恐怖を覚えた。
本当にそんな事が有り得るのか?………と一瞬疑ってしまったが、彼女の憎悪を秘めた声音がそれを証明していた。
彼女達の居た世界は、本当に消えてしまったのだ。
バルバトスによって………。
「………ジェネレーション・システムは、その世界全てを包括し、データ化して管理していました。彼はそのデータを、全部消し去ったのです。」
追い打ちと言わんばかりに、アプロディアが柚の言葉を補足する。
物理的な存在を全てデータ化するなんて、やよいには考えられなかったが、逆に言えばそれ程の事が可能なオーバーテクノロジーが、その世界にはあったと言えた。
無論、その具体的な中身までは、彼女がどんなに考えても理解できるはずも無かったが………。
「そして、バルバトスは旅立ちました。人の治める世界その物を罪だと認識して。」
「そ、それが………何で、春香さんに………。」
震え声で呟くやよいは、ネネに抱きしめられた状態で無ければふらついて倒れていたかもしれない。
アプロディアは俯きがちになりながらも、分かりやすく噛み砕いて順序良く説明していく。
「先程も言いましたが、彼は自分が世界を統治しようと目論んでいます。それは、人の統治が罪だと認識しているため。そして、その認識は、全ての次元・空間・時間軸に及んでいます。彼の最終的な目的は、全次元の管理者となり、人々を自分の支配下に置く事なのです。」
授業で習った、「傲慢」という言葉がやよいの頭に浮かんだ。
バルバトスは、自分が全世界の王であるとでも思っているのだろうか?
アプロディアの説明は続く。
「しかし、全次元の統治というのは、それこそ宇宙の星々全てをその手中にかき集めるような物。幾ら世界を統治できるシステムであるバルバトスとはいえ、そんな事はまず不可能です。そこで彼が考えたのが、天海春香を中心とした次元圧縮プログラムなのです。」
アプロディアが手を上げるとやよいの前にモニターが映し出され、宇宙に広がる星々が浮かぶ。
その中心にマントを引っさげ、ハルシュタイン閣下となった天海春香が配置される。
彼女が手を上げた瞬間、星々の宇宙が圧縮されて彼女の手の中に球体として収まった。
「このように、彼は全ての次元・空間・時間を圧縮し、1つに纏め上げてしまう事で、支配を可能にする事を閃いたのです。」
手の中に収まった星々の宇宙を、にんまりと見つめる天海春香の姿が消えた事で、やよいは自分の頭の中で何とかアプロディアの説明を噛み砕こうとする。
彼女はなるべく分かりやすく説明してくれたが、それでもやよいにとっては難解なものであった。
「え、えっと………よく分からないけれど、それって明日も昨日も今日も、全部一緒になるって事ですよね?それって何だか訳の分からない事になりませんか………?」
頭がパンクしそうになったが、自分の大切な仲間達の事である故に、思考放棄するわけにはいかない。
必死に考え続けるやよいに対しアプロディアは、今度はモニターに、サイド7での戦闘を映し出す。
そこには、エゥーゴやティターンズがコロニーから飛び出す姿があった。
「その「訳の分からない事」の一端が、この先程の戦闘で起こった「ジェネレーション・ブレイク」なのです。今、世界中のあちこちで、このような次元の歪みが起こっています。そして、その力は日に日に増しているのです。」
「ほ、本当なのですか………!?」
知恵熱で頭から煙を吹きそうになるやよいに、今度はアプロディアがその戦闘の映像を早送りで再生していく。
すると、やよいが気絶した後に、母艦を伴った厳つい機体が、ホワイトベースの前に複数出現していた。
「これが証拠になります。貴女が気絶した後に、ティエレンという機体を駆った部隊と戦いました。私達は、あのような部隊とは今まで遭遇した事がありませんでした。」
それまで知っている世界線の機体であるのならば、アプロディアの力を借りた綾瀬穂乃香が詳細を特定する事が出来る。
しかし、新たなる世界線からの介入者であった故に、「UNKNOWN」となって分からなかったのだ。
「彼らは、バルバトスの次元圧縮により、新たに巻き込まれ始めた世界軸の人々なのでしょう。しかも、彼等の方は曖昧とはいえ、こちらの知識を持っているようでした。」
「……………。」
「これは、すでに彼らの世界軸が次元圧縮により、複数回、別の時間軸と接触をしている可能性が高いと言えます。つまり、こうしている間にも、どんどん様々な時間が入り混じり、時間の概念が無くなっているのです。バルバトスはこうした世界でハルシュタイン閣下として力を付け、支配を目論んでいるのですよ。」
モニターを仕舞ったアプロディアが、大きく溜息を吐くのが分かった。
頭を抱えていたやよいは、説明が一区切りした事で、しばらく考えてしまう。
自分が飛び出したコロニーの外は、自分のコロニーの中での変貌と同等かそれ以上に恐ろしい事になっていた。
そもそも世界を支配するような凶悪なシステムが、春香や765プロの仲間達を利用しているのだ。
対処方法が分からない。
「……………どう………すれば。」
ようやく口に出来た疑問を、彼女は苦しそうに吐き出した。
「どうすればいいのですか………?春香さん達を元に戻すには!?世界が無茶苦茶になるのを防ぐには!?」
少なくともやよいには、解決策が思いつかない。
しかし、アプロディアは静かに浮かび上がると、更にモニターを表示し、今度は集まっている一同に見えるように、画面を映し出した。
「方法ならあります。ハルファスガンダムを、倒すのです。」
「ハルファス………ガンダム?」
ガンダムという名前を聞いた事で、やよいはモニターを見上げる。
そこには、青黒い不死鳥を模したモビルスーツが映し出されていた。
アプロディアの口から語られたハルファスガンダムという名の存在。
この旅路の最終目的となるその機体は、何処か神々しさと禍々しさを併せ持っていた。
ここで、ようやく第1話冒頭の展開に話が繋がりました。
勿論、ここの展開は私のオリジナルであり、gジェネワールドとは一切関係ありません。
続編のgジェネオーバーワールドが発売される前に考案したものであるので、そちらとも関連性はありませんね。
基本は、これらの作品での設定から切り離して考えて貰えると有り難いです。
只、予告として言わせて貰うと、折角の小説ですからgジェネオーバーワールドやジェネシス、クロスレイズに登場した機体。
更には、まだgジェネに参戦していない機体も参戦させようとは思っています。
実際、ホワイト・ディンゴ隊仕様のジム・スナイパーⅡや、パワード・ジムがいますからね。
この先もユニークな機体の登場を、期待して貰えると嬉しいです。