叢雲劾がシンデレラガールズに同行する事になったのは、ストライカー・カスタムの運送料金を、かなりの過払い金で支払われたからだった。
傭兵としての信用、劾自身のプライド、そして藤原肇達への興味から、彼はオーバーしている分だけ、シンデレラガールズで働くと決めたのだ。
鹵獲したモビルスーツは、ほとんどを「ノックス」復興の為にグエン・サード・ラインフォードに渡したが、彼は3機シンデレラガールズに譲ってくれた。
それが、ザクタンクとヒルドルブ、そして謎の「ガンダム」。
謎のガンダムは、「マウンテンサイクル」から発掘された機体で、索敵と機動力を重視したル・シーニュと呼ばれる機体であった。
ヒルドルブを桃井あずきが練習し、ル・シーニュを綾瀬穂乃香が操ろうとする事で、シンデレラガールズは新たな戦力を活かそうとする。
一方、渓谷でストライカー・カスタムに備えられた妖刀システムの試運転を行った藤原肇は、ロラン・セアック達が見つめる前で、アルマジロを1機、抜き身で砂塵に変えてしまう。
危険なシステム故に、気軽には使用できないと感じた彼女の前に、所属不明のデナン・ゾンが降りたつ。
小日向美穂を探していると言って来た女性パイロットの声を聞き、笑顔になる本人。
どうやら、知人であるみたいだが………?
高垣楓と千川ちひろの居るブリッジには、黒川千秋と工藤忍に連れられ、十時愛梨が足を運んでいた。
彼女は真剣な面持ちで楓に向き直ると、開口一番こう告げたのだ。
「私を………シンデレラガールズの仲間に入れて下さい!」
無論、シンデレラガールズの立場で考えれば、志願兵が増えるのは有り難い事だ。
だが、状況が状況であるたけに、本来飛行機乗りである愛梨の志願理由は気になってしまう。
「正直………私達の部隊は、かなり特殊な事情を抱えていますし、好んで入りたがるには相当な事情が無いと、納得が出来ないのですが………。」
困惑するちひろ。
しかし、最初の出会いの時に直接話をし、前の戦闘でのロランとの会話を聞いていた楓は、1つだけ思い当たる事があった。
「それは………貴女がムーンレィスである事と、関係しているのですか?」
「やっぱり、楓さん………いえ、艦長は気付かれていたのですね。」
「私の前でだけとはいえ、アレだけ分かりやすい証拠を見せれば察する事が出来ますよ。」
思わず溜息を付いてしまう楓。
只、ちひろは目をパチクリとさせており、千秋と忍は顔を見合わせていたので、愛梨は改めて自分の胸に手を当てて話し始める。
「仰る通り、私はムーンレィスなんです。………と言っても、「ノックス」で襲って来たディアナ・カウンターの部隊の人達とは、出身は同じでも、違う立場………のはずです。」
「同郷でも、複数の立場の人達がいるって事?」
「むしろ、派閥のような物があるのかしら?」
忍と千秋が、愛梨の言葉から考えを纏めようとしたので、愛梨は彼女達の方に向き直り、何とか説明………というか、本人は必死に説得しようとする。
それだけ、ポゥ・エイジのやらかしが酷いと感じているのだろう。
かなり沈痛な面持ちで言葉を紡いでいった。
「私の目的は、地球侵攻では無く、ある現象の調査なんです。」
「ある現象って、まさか………ジェネレーション・ブレイク!?」
忍の推理に、首を縦に振る愛梨。
彼女曰く「月の都」の女王、ディアナ・ソレルの命で、次元の歪みの調査を行っているらしい。
「今、「月の都」は大混乱を迎えています。次元の歪みによって、「新連邦軍」や「ロゴス」など、様々な勢力が押し寄せてきていて、緊張状態が続いているんです。」
ジェネレーション・ブレイクの影響で、様々な組織の月の拠点が近くに連なる形になった為、かなり厄介な事態に陥っているというのが、愛梨の見解だ。
この事態に頭を悩ませたディアナは、彼女に密命を下したのだ。
『地球に降り立ち、月の同胞の手を借りながら次元の歪みの謎を調査し、可能ならば解決に導くべし』
その密命を受けた愛梨は、「ノックス」で飛行機乗りとして過ごしながら、密かに調査を行っていた。
しかし………そこで、あのポゥのような強硬派による介入である。
「忍さんや千秋さんの言う通り、月の勢力も一枚岩では無く、様々な勢力がいるんです。」
どちらかと言えば穏健派である愛梨………それに、恐らくロランも、こうなってしまっては、中々己の使命を貫く事は難しいだろう。
しかし、そこで目に付いたのが、シンデレラガールズの存在である。
「先程の戦闘を見て気付きました。皆さんは、私よりも遥かに、次元の歪みに付いて詳しいですよね?」
ロランとソシエ・ハイムが口論を行っている際に、ディアナ・カウンターでは無く、別の勢力………ネオ・ジオンの介入で在ると、シンデレラガールズは、いち早く見抜いた。
それは以前の戦闘の経験に基づく部分も大きいが、動じていない所も合わせて、ジェネレーション・ブレイク等に慣れてしまった部分も大きい。
だからこそ、愛梨は楓達に同行すれば、次元の歪みの解決に繋がると考えたのだ。
「………確かに、私達は次元の歪みに詳しく、その解決の為に動いている部隊です。」
「だったら、私もその部隊に加えさせて下さい!これでも機械人形………モビルスーツの操縦は出来ますし、他にも色々と働きます!」
愛梨の強い口調に、楓は考え込んでしまう。
戦力の増強は願ってもいない為、彼女のような存在は有り難い。
只………何か、安易に首を縦に振ってはいけない気もしたのだ。
「楓さん、どうしますか?私は、反対する理由も無いと思いますが。」
しかし、あくまで根拠の無い直感でしかない為、本気で仲間になりたいと願う愛梨に対して、非常に失礼であった。
故に楓は、ちひろの言葉に微笑を浮かべて頷く。
「劾さんもですが、パイロットはどれだけ居ても困らないですからね………。歓迎しますよ、愛梨。辛い旅路になると思いますが、こちらこそ宜しくお願いします。」
楓は右手を差し出す。
利き手は左であったが、握手を求める時は右が基本だ。
差し出された手を、愛梨は大きく頷き右手で握った。
「ありがとうございます!こちらこそ、宜しくお願いしますね!………それで、これからどこへ向かうのですか?」
「私達の最終目的地はハルファスガンダムのいるポイント・ゼロですので、その場所の入り口である、「東南アジアの密林地帯」へと進路を取ります。」
言葉と共に愛梨の横に現れたのは、あの変哲な顔のアプロディア。
流石にその姿には、愛梨もびっくりして飛びのくが、本人は気にした様子では無い。
淡々と彼女は、今いる面々に対し、説明を行っていく。
「結構遠い場所ですので、次元圧縮で生じているワームホールを使い、近道を行うのが妥当でしょう。無論、他の次元圧縮に巻き込まれるリスクは抱えますけれどね。」
危険と隣り合わせのルートではあるが、敵との遭遇率を鑑みれば、普通に遠回りをしても大して変わらない。
その為、楓やちひろも近道に賛成し、姫川友紀や小日向美穂が戻り次第、離陸を行おうとする。
しかし………。
「すみまさん、艦長!それなんですけれど、地上の「ネオ・イタリア」にある「コロシアム」を経由するルートはありませんか!?」
突如ブリッジの扉が開かれ、その美穂が走り込んでくる。
肇のストライカー・カスタムの試験を行っていた彼女が、焦って戻って来た事に、楓達は驚くが、アプロディアは平然とルート検索を行う。
「最短では無いですが、ありますね。しかし、そこに何があるのですか?」
「本当にごめんなさい。実はそこに、はぐれていたバルチャー時代の仲間がいて………。」
「バルチャー時代の仲間?」
「お!アンタが美穂を預かってくれてた艦長さんか!」
楓が思わず首を傾げる中、新たにブリッジの扉が開き、姫川友紀に連れられて新たな人物が入って来る。
真っ先に目に付いたのは、金髪に近いリーゼントヘアであった。
更に男勝りのサバサバした物言いが特徴で、如何にも快活な雰囲気がある。
彼女は楓の前まで歩くと、ニコリと微笑み頭を下げる。
「初めまして、艦長さん。アタシは木村夏樹(きむらなつき)。バルチャー「ロック・ダ・リーナ」のリーダーさ!」
デナン・ゾンで美穂を探していたパイロット………ロック・ダ・リーナの頭である木村夏樹が、握手を求めた。
――――――――――――――――――――
美穂が仲間達に元気な姿を見せたいと頼んだ事もあり、シンデレラガールズの次の行き先が、「ネオ・イタリア」の「コロシアム」に決まる。
離陸準備が整っていたのもあり、夜が完全に更けた頃に、キャリー・ベースはロラン達に見送られながら「アラマハン山脈」から発進していった。
今回の戦いは厳しい物であったが、愛梨が仲間になったうえに、一時的ではあるが、劾と夏樹も同行してくれる。
頼もしい戦力がいてくれると、本当に心強いと思えた。
「次は………どんな出会いが待っているんでしょうね?」
自室に戻った高槻やよいは、緒方智絵里に甘える事が出来た為、多少は気分がスッキリとしていた。
しかし、次の出会いの中に、洗脳された765プロの仲間が含まれている可能性を考えてしまっているのか、半分は楽しみであるものの、半分は怖い想いがある。
それは、簡単に見抜かれているのだろう。
同部屋の栗原ネネが、就寝の準備をしながらも、やよいに問う。
「戦いたくないって思ったら、迷わず下がってくださいね。やよいちゃんは、私達の大切な仲間でもあるんですから。」
「……………ネネさんは、765プロの仲間達が出たら、どうします?」
いつの間にか俯いていたやよいは、聞いてはいけないと思いながらも、ネネに尋ねてしまう。
それに対して彼女は、ハッキリ言わないといけないと感じた為、正直に告げた。
「やっぱり………加減出来る程の実力は無いですからね。最悪の場合は、やよいちゃんに恨まれる真似をします。」
「そうですか………ゴメンなさい、変な事言って。」
覚悟の上だ。
しかし、それでも例えば、ネネが水瀬伊織を討つ事があったら、辛いとやよいは感じてしまう。
いや………ネネの性格だと、言葉ではこう言っていても、むしろ自分が討たれる可能性もあるかもしれない。
どちらにしろ、やよいにとっては嫌な現実でしかなかった。
だから、もう一歩踏み込んで聞いてしまう。
「ネネさんは………例えば、伊織ちゃんが私を討とうとしたら………。」
「迷わず彼女を討ちます。」
意外にも、質問には即答であった。
これにはやよいは思わず驚き顔を上げるが、真剣な顔をしているネネを見て、「ノックス」での戦闘を思い出す。
あの時ネネは、やよいを脅したマシュマー・セロのガルスJに対し、明らかな怒りと殺意を向けた。
最終的に、日下部若葉が介入しなければ、機体から脱出したマシュマーを殺していただろう。
「ネネさんにも………人を殺そうとする側面があるんですね。」
「そうですね………私にも許せない事はありますし、生きたい理由はありますから。」
ネネの生きる理由は、故郷で待っている妹の為だろう。
妹がいるからネネは死ねないと感じている。
また、やよいが妹のような存在であるからこそ、彼女を苦しめたマシュマー達に殺意を持った。
普段のネネしか見ていない者には信じられないかもしれないが、そんな黒い感情を持ち合わせているのが、人間と言う生き物なのかもしれない。
「改めて聞きますが………敵に殺意を持つ私に、幻滅しましたか?」
「……………いいえ。私の為に怒ってくれて、ありがとうございます。本当に………。」
やよいはそう言うと、ネネに抱き着いた。
ネネの方は、妹をなだめるようにやよいの頭を撫でると、黙って布団を自分のベッドとやよいのベッドの間に敷く。
今は、やよいを1人で眠らせない方がいいだろう。
繰り返すが、ネネは伊織の代わりでしかない。
だが、それでも良かった。
やよいが、少しでも救われるのならば………。
――――――――――――――――――――
「……………。」
離陸して一通り目的地へと進路を取った後、楓は高森藍子と共に独房へと向かった。
その内の1つ………地球に降下する前に捕虜にした、柳瀬美由紀の体が横たえられている牢の前に、膝を抱えて座っている影がある。
本田未央であった。
彼女もやよいと同じく、「ノックス」で別の美由紀の体を殺してしまった後、ずっと眠れないでいた。
今は栄養食であるゼリーを口に含みながら、生気の無い目で、眠っている24歳の美由紀の体を見つめている。
「………貴女が見つめていても、彼女は起きませんよ?」
勿論、睡眠を取るようには促している。
しかし、状況が状況であったとはいえ、友人だと思っていた少女を1度殺してしまったのは、未央には耐えがたい物であったのだ。
だから、ここから動く事が出来ないでいた。
「……………みゆみゆは、恨んでいるよね。」
「厳しい物言いですが、彼女は自身が恨まれて当然の事をしているのです。それを止めてあげた貴女が、それを気にしたら………。」
「そうそう、未央ちゃんはもっと太陽のように明るく無いとね~。」
『!?』
近づいていた楓は思わず距離を取り、藍子は反射的に拳銃を取り出し身構えてしまう。
何故ならば、いきなり牢で眠っていた美由紀が起きて、あろうことか未央に笑顔を向けて来たからだ。
思わぬタイミングで、未央の前に再臨した柳瀬美由紀。
彼女が、わざわざこの体で目を覚ました理由とは………?
予想できた方も多いと思いますが、十時愛梨さんの正体はムーンレィスでした。
しかも、ディアナ様からの勅命を受けたパイロットであり…。
ここで、小日向美穂さんのバルチャー仲間である木村夏樹さんが登場!
動画版でも活躍していたアイドルなので、思い入れが深い方もいるでしょう。
これからの話をお待ち下さいね。
大切な人を守る為に、その人の大切な人を撃つ。
実際、そんな辛い展開になったら、本当に判断を出来るのか?
栗原ネネさんの言葉は、重い物があります。
さて………次回がPHASE7最終話になります。
まだまだ盛り沢山なので、楽しみにして下さいね!