西島櫂、大原みちる、水野翠、そして増援の古澤頼子と大槻唯のアメリアス勢力。
彼女達5人は、様々な戦術を使いこなし、日下部若葉&ジュール隊の面々を追い詰めていく。
何とか限りある武装を駆使しながら戦っていく中、イザーク・ジュールが事態を打開する為、唯に挑発を行う。
世界を滅ぼされる時に救って貰った命を、別の世界を滅ぼす為に使っていては、散った者が報われないと。
その言葉は、唯の心の深い部分を抉る結果となり、乗機であるNT試験用ジム・ジャグラーの暴走を引き起こしてしまう。
隙を見計らい撃墜をしようとするイザークだったが、運悪く動きを封じられてしまい、スラッシュザクファントムの脚部を破壊されて、姿勢制御が出来なくなる。
シホ・ハーネンフースや相川千夏が援護を行おうとするが、状況は不利。
しかし、唯はイザーク機を庇う形になった千夏のジンハイマニューバを見て、固まってしまう。
滅んだ世界で唯をアメリアスに保護して貰い、代わりにデリートされた仲の良かった「ちなったん」の正体………。
それは、他ならぬ唯達の世界に生きていた「相川千夏」であったからだ。
「ウソだ………ウソだよね………ちなったんが、ゆいの事を拒絶して………ゆいに武器を向けて………。」
「貴女………さっきから、何を言っているの?」
明らかに唯のジム・ジャグラーは、動揺していた。
狼狽しているとも言ってもいい。
ブルパップ・マシンガンの狙いは定まっておらず、乱射していた60mmバルカン砲も止まっていた。
明らかに、それまでとは様子がおかしい。
「よく分からないけれど………貴女達のバカな思考のお陰で、隊長を殺すのはおかしいんじゃないのかしら?」
「やだ………やだ………。」
「聞いているの?隊長の発言は挑発だけれど、事実よ。貴女は………。」
「ちなったんは!そんな事言わないーーーッ!!」
問い詰めるような千夏の言葉に、唯は耐え切れず、また武装を乱射する。
しかし、正面にいるはずの千夏機と、その後ろで庇っているイザーク機には、何故か当たらない。
錯乱していても、彼ら………いや、正確には千夏に当てようとはしないのだ。
「貴様………まさか………!?」
「殺してやる!!ちなったんを縛る隊長なんかッ!!」
イザークが何かを理解し始めたが、唯はそんな彼をボールのオールレンジ攻撃で死角から攻撃すればいいと気付いてしまった。
故にボールを移出して、狙おうとするが………。
「止めなさい!」
「ッ!?」
咄嗟に千夏が反射的に叱ってしまった為、唯のボールの動きが止まる。
隙だらけであったが、千夏は借り物のビームライフルを撃てなかった。
撃ってはいけないという、直感があったのだ。
しかし………。
「ダメですよ!唯ちゃんを惑わしたら!!」
ここで、僚機のビグロ2機にシホ・ハーネンフースのブレイズザクウォーリアの相手を任せ、みちるのビグロマイヤーがメガ粒子砲を放とうとする。
唯に気をとらわれ過ぎていた千夏は、咄嗟の事で回避が出来ない。
直撃を貰う………と彼女が思った時であった。
「ダメーーーッ!!」
信じられない事が起こった。
唯が叫ぶと共に、ボールがビームライフルを発射。
その狙いは………何とみちるのビグロマイヤーであったのだ。
「アレ………?」
茫然としたみちるは、回避する間もなく撃墜されてしまう。
すると、主を失ったビグロもコントロールを失い、シホに簡単に迎撃された。
「あ……………。」
「貴女、何をやっているの!?仲間を撃つなんて!?」
「ぁ………ああ……………ッ!?」
幾らアメリアス勢力が、母艦にある予備の肉体で蘇生できる技術を持っているからって、自分の味方を殺したのだ。
千夏の怒りは尤もである。
しかし、元々「ジュール隊である千夏」の存在に錯乱していた唯にとっては、余計に追い打ちを掛ける言葉にしかならない。
相川千夏に拒絶された。
大原みちるを撃ってしまった。
更に、相川千夏に侮蔑された。
この負の連鎖が、唯の精神を限界に追い込んでいき、正常な判断を奪ってしまう。
「イザーク………。」
もはや、大粒の涙をコックピットで流していた唯は、どす黒い感情と共に、睨みつけるように千夏を………正確には、千夏の向こうにいるイザーク機に向けた。
「全部!全部!!イザークさえいなければーーーッ!!」
怒りに任せて放たれる、遠隔操作の2機のボール。
シホが迎撃行動に出ようとするが、その射線を遮るように翠の僚機であるヅダが立ちはだかった。
「邪魔はさせません!」
「彼女の蛮行を許すつもりなの!?」
ヅダはシホのビーム突撃銃で爆散するが、放たれた2機のボールはイザーク機を迎撃する為に左右に動く。
「不味いわ!?」
片方は千夏がビームライフルで打ち落とすが、反対側はどうにもならなかった。
イザーク機は動けないので、回避する手段が無い。
このままではあっという間に直撃を貰って爆散するだろう。
「ここまでか………。」
イザークは独り言ちる。
地獄に落ちるのには早いと感じたが、逃れられないのならば仕方ない。
あの幼い少女が知らせを聞き、大声で泣き叫ぶのは嫌だったが、どうしようもなかった。
「すまんな………。」
自分にしか聞こえない声を呟き、静かに目を閉じたイザークであったが………。
「お兄ちゃーーーーーんッ!!」
突如マイクで聞こえて来た甲高い声に、思わず顔をしかめてしまう。
まさかと思い、モニターを見たら、飛来してきたのは緑の太いビーム。
その威力は、イザークを狙ったボールを完全に破壊し、更に唯が従える2機のジム・ガードカスタムのガーディアン・シールドも、爆破してしまう。
「こ、この声は、まさか!?」
「間に合ったあああああああ!!みんな!補給だよーーーッ!!」
武装が裏に仕込まれたザクウォーリアのシールドを、数珠繋ぎに2列並べてやってくるのは、シグーディープアームズ。
マイクで元気に叫ぶ人物のモニターが映り、それを見たイザークは今度こそ仰天しそうになる。
それは、サブシートに乙倉悠貴を乗せた赤城みりあ。
先程、泣き叫ぶと思っていた幼い少女。
「何をしに来たぁッ!大馬鹿者ォッ!!独房にぶち込まれたいのかぁッ!?」
「そんな姿で言っても説得力無いよ!ほら、みんな武器取って行って!!」
片方の数珠繋ぎにされたザクウォーリアの盾を、ディアッカや日下部若葉の方に投げ飛ばすと、もう片方をシホや千夏の方へと投げ飛ばす。
4人は何かを言う前に、素早くシールドの1つを手に取り、不足していた武装を補充していった。
「何なの!?唯達を邪魔するの!?」
「そっちだって、お兄ちゃん達を!許さないんだから!!」
みりあは、ビームを………バックパックの「試製指向性熱エネルギー砲」を撃ちながら、加速して唯のジム・ジャグラーに迫る。
しかし、急にその砲身が溶けだした。
「どうなってるのッ!?」
「あーーッ!?冷却ガスが補充されて無かった!?」
「えーーーッ!?」
「そんなドジ踏んでッ!!」
砲身を冷却するガスが切れていた事で、切り札と言える兵装が使えなくなる。
唯は大楯を失ったジム・ガードカスタムに、「ビーム・スプレーガン」を撃たせながら自身もブルパップ・マシンガンを放っていく。
シホや千夏が加勢しようとしたが、これ以上は唯を狂わせられないと、翠が妨害をして邪魔していた。
「れ、「レーザー重斬刀」で!!………って、また壊れたぁッ!?」
慌てて斬撃武装を取り出すみりあだが、丁度そこにビーム・スプレーガンが炸裂して、武装が爆発。
「76mm重突撃機銃」で撃ち合いに持っていこうとも考えたが、みりあの瞳に浮かんでいる複数の斧………ヒート・ホークが映った。
「アレは………?」
「民間用のヒート・ホークだよッ!」
悠貴がみりあの後ろで叫ぶ。
イザークがコンテナを破壊した際に、進路妨害をして危機的状況を作った元凶だが、そのコンテナは、元々は民間系サプライヤーが輸送用に使っていた物であったのだ。
それ故に、中に入っていたのは、模造品のヒート・ホークであり、どんな機体でも手元のスイッチを入れる事で、赤熱化して使う事が出来た。
「すっごーい!じゃあ、借りちゃおう!!あ、名前は!?」
「え………確か、「トメノスケ・ヒート・ホーク」………。」
「じゃあ、行こう!トメノスケ!!」
みりあは素早く2本の斧をかき集めると、弧を描きながら突撃を行う。
唯の実力ならば、回避行動を取っているとはいえ、素人機であるみりあの機体は楽に撃ち落とせただろう。
だが、冷静さを失っていた為、射撃の腕はガクッと落ちており、捉え切れていなかった。
「あ、当たらな………!?」
「お兄ちゃんを倒そうとする人はぁッ!!」
1機目のジム・ガードカスタムに迫ると、思いっきり力任せに右手のトメノスケ・ヒート・ホークを脳天から叩きつけ破壊する。
「みりあが………やるんだからぁッ!!」
2機目のジム・ガードカスタムには、左手のトメノスケ・ヒート・ホークを投げつけて、頭部を砕いてしまう。
そして、僚機とその爆発を盾にしながら唯機に迫った。
「来ないでよッ!!」
ブルパップ・マシンガンがバックパックの巨大なビーム砲を破壊するが、その爆発が逆に隠れ蓑になった。
急速接近したみりあは、シグーディープアームズのトメノスケ・ヒート・ホークを振り上げる。
「なんで!?なんでぇッ!?」
唯は60mmバルカン砲で最後の抵抗を見せるが、ここで乱射していたツケが周り弾切れ。
色々とみりあの方に運が向いた結果ではあるが、唯は最後の一撃を許してしまう。
「おりゃああああああああッ!!」
気合の声と共に、思いっきりトドメの一撃を頭に叩き込むシグーディープアームズ。
その結果、NT試験用ジム・ジャグラーは動かなくなった。
「ええ!?撤退ッ!?唯ちゃん置いていくの!?」
「彼女には、自分で新しい肉体に戻って来て貰いましょう………。悔しいですが、私達の敗北です………。」
みりあが唯機に打ち勝った時には、彼女の補給の効果もあって、若葉とディアッカも、ある程度優位に立っていた。
櫂のジャムル・フィンはハイ・メガ・キャノンを撃ちまくっていた為、エネルギー残量が少なくなっており、これ以上の戦闘は危険な状態。
一方で、頼子のゲイツアサルトは、僚機のジンアサルトをディアッカの狙撃で撃墜されており、切り札であるダマルの数が大分減っているのもあって、こちらも戦闘継続は黄色信号。
このままボルテールで補給を終えた三船美優達の増援が来たら不利であった為、イザーク機が動けない内に撤退するのが賢い選択だと考えたのだ。
「待てよ!これだけ暴れておいて………!理由も話さず逃げるのかよ!?」
ディアッカがマイクで叫ぶが、頼子のゲイツアサルトが残りのダマルをばら撒き、トリシューラのビームを次々と注いでいく。
放たれた大出力ビームは、見当違いの方向に飛んでいったが、撤退の為の時間稼ぎには十分であった。
櫂のジャムル・フィンに頼子のゲイツアサルトと翠のヅダFが捕まり、戦域を離脱していく。
「終わったのか………?」
「隊長………どうします?」
一応、近くで警戒してくれていたシホは、ブレイズザクウォーリアのマニュピレーターで、残されたNT試験用ジム・ジャグラーを指す。
最終的にみりあ機は頭部を砕いただけだったので、コックピットは無事だ。
何もしていなければ、生きているだろう。
「………一応、ボルテールに連れ帰るか。曳航頼む。」
こうして、イザーク機を千夏が、みりあ機をシホが、そして、唯機をディアッカが連れていく。
戦闘は終了したが………イザーク達の心は清々しい物では無かった。
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無事ボルテールに帰還した一同は、破損した機体を整備班に預ける。
唯はコックピットで丸くなってうずくまっていたが、ディアッカやシホが言葉を掛けると、無言で俯きながら独房へと向かって行った。
ある程度、先に戻っていた美優などに戦況報告を行っていた所で………異変が起こる。
「あ、アレ………?」
モビルスーツを降りたみりあの足が、急に震え出したのだ。
ガクガクとした震えは、全身に伝わり、遂に泣きだしてしまう。
「み、みりあちゃんッ!?」
「なんで………なんで………。」
「素人が戦場に出るからだ。安全な場所に戻って来て、興奮が冷めて急に怖くなったんだろう。」
イザークが突き放すように言う。
その態度に、若葉が思わず文句を言おうとするが、千夏が止める。
「じゃあ、どうするの?命令違反は独房よね?」
「例外は無い。赤城みりあも乙倉悠貴も………俺も独房だ。」
「え………!?」
イザークの言葉に驚く若葉であったが、みりあは無言で彼の胸に泣きついた。
その頭を不器用に撫でながらも、彼は言う。
「部下を2人失ったうえに、整備兵を危険に晒した。頭を冷やす。悠貴も付いて来い。」
独房に3人一緒に入るのもどうかと若葉は思ったが、そんな野暮なツッコミは止めておく。
イザークなりの責任と配慮であるのだし、ここは彼の部隊なのだから受け入れるべきなのだろう。
静かにディアッカ達を追って、独房に向かうイザーク達3人を見送った若葉は、戦場カメラマンの立場故に残っていたミリアリア・ハウを案内しようとしていた、千夏を見る。
「どうします………?」
「そうね………とりあえず、隊長がああなっているし、美優さんも巻き込んで、コーヒータイムでも楽しみましょう。」
「い、いいんですか………?」
楽観的な選択をする千夏に、若葉は怪訝な顔をしてしまうが、彼女は少しだけ困ったような笑みを見せた。
「コーヒーを飲み終える頃には、みんな落ち着いているわ。それから独房に行って、隊長と………あの子に話を聞きましょう。」
千夏にしてみても、やはり気になってはいたのだ。
自身と同じ存在に命を救って貰ったという………あの少女、大槻唯の事が。
タイトルでまさかと思った方もいたかもしれませんが…赤城みりあさんが、遂にトメノスケを振り回す展開になってしまいました。
勿論、これはジークアクスネタなのですが、快活な性格もあって、思ったよりも様になっていますね。
運が色々と味方した形ですが、大槻唯さんを捕虜に出来たのは、良かった点かもしれません。
大原みちるさんの事もあるので、手放しには喜べませんが…。
長かったですが、今回で第99話を迎える事が出来ました。
というわけで、次回は記念すべき第100話!
お楽しみに!