目覚めると見慣れぬ天井が視界に入った。
あまりに白くて目が痛くなったので片手で少し隠す。
「お目覚めかい?」
声の聞こえた方へ顔を向けると知らないおっさんの顔があった。
「シルヴィーは?」
「目覚めてすぐに彼女の心配とは」
おっさんは肩をすくめながら笑う。
「彼女じゃない、家族だ」
「これは失礼」
「そんなことよりもシルヴィーは!?」
起き上がろうとするが体がうまく動かない。
「彼女は大丈夫だから、おとなしくしときなさい」
「そうか」
体の力を抜いてベットに背中を預ける。
「それじゃ、これより君が受けたMO手術について簡潔に説明させてもらう」
おっさんの手には複数枚の書類をクリップで止められたものが握られていた。
「たしか火星で活動するための手術でしたよね」
「あぁ、そうだがもう一つ目的がある」
「もう一つ?」
「そうだ。火星にいるある生物を制圧するための手術だ」
「ある生物って?」
「ゴキブリだ」
「はっ?」
何今ゴキブリって言ったのかこのおっさん?
あれだろGとか略称で呼ばれてるあれだろ。
「『そんなものを制圧するために手術するのか』ってような顔だな」
「なぜまたゴキブリなんか」
「これを見れば火星のゴキブリがいかなものかが分かる」
わたされた書類を見るとそこには自分の知るゴキブリとはかけ離れた生命体の写真が写っていた。
「こいつを制圧するためにツノゼミを下地に地上の生物をベースにして人体改造を行う」
「ベースになる生物は選べたりするんですか?」
「まぁ、人によってはいくつか候補があったりするが」
「なら甲虫関係で」
「まぁ、一応頼んどいてみるよ」
「そういえば、今の俺の体はどういう状態なんですか?」
「ツノゼミの下地はすでに施してある状態だよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「どうせすぐに手術が始まると思うからゆっくり休んでおくといいよ」
そういっておっさんは部屋を出ていった。
「そういや、名前聞くの忘れてた」
まぁ、いいか。
次の手術が終わってからでも遅くはないだろう。
そう思い再び目を閉じ、意識を手放した。
次に意識を取り戻したのは5時間後だった。
覚醒までにかかった時間が結構早かったらしく担当医に驚かれた。
そしてすぐにジョーさんが見舞いに来てくれた。
「手術成功おめでとう」
「ありがとうございます」
「それにしても普通は丸1日ぐらい寝ていてもおかしくないのにな」
「それだけ馴染むのに時間がかからなかったていうことじゃないんですか?」
「そうだといいんですが」
「そういえば自分のベースはもう知ってるかい?」
「いえ」
「なら僕から伝えておこう、君のベースはコーカサスオオカブトだよ」
「そういえば、シルヴィーは?」
「すでに目覚めて体を動かしていたよ」
「そうですか、なら」
腕に刺さった点滴を俺はゆっくりと抜いた。
「君たちいくらなんでも元気良すぎない?」
「そうですか?」
「普通は点滴を自分で抜いたりしないよ」
「こんなことで寝てるやつはひ弱なだけですよ」
点滴を抜き終わると次は自分の性器に刺さっている管に手をかけた。
傷つけないようにゆっくりと抜いていく。
「彼女といい、君といい僕は何だい置物か何かかい?」
「羞恥如き出てを止めていたら人なんて救えないですよ」
自身の性器から管を抜き取り粗雑に投げ捨てる。
「俺の荷物ってどこにありますか?」
「君はどこに行くつもりだい?」
「ただのトレーニングですよ」
質問に回答しながら体を動かし脳を完全に覚ます。
「もし教えてくれなければ俺はこのまま病院の周りをダッシュすることになりますよ」
「笑えない冗談だね」
「ジョークじゃありませんよ。本気です」
「ベットの下にあるよ」
「ありがとうございます」
すぐにベットの下に右足を突っ込み持ち手に引っ掛けると足を引いた。
するとキャリーバックがこちらへとむかってくる。
それを足を使って鍵を開けふたを開ける。
そしてそこから服を拾い上げ動きやすいジャージに着替える。
「それでは走りに行ってきます」
病室にジョーを残して彼はかけていってしまった。
それとすれ違うような形で扉が開いた。
「いくらなんでも元気よすぎだよ」
彼は苦笑いを浮かべ扉を開けたものへと話しかける。
「そうだな、あいつの反射神経おかしすぎだよ」
扉に先にいたのは小町小吉だった。
「ちょっと安静にさせようと掴もうとしたけどまるで雲掴むような感じがしたよ」
「雲かい?」
「あぁ、僕の手をするりと避けていったよ」
そう、まさに雲のようであった。
誰の障害となることなく踊るように彼は職員たちを避けて進んでいった。
窓の外から職員がシオンとシルヴィーを必死に追いかけている姿が見える。
だが二人ともまるで職員をもてあそぶかのように紙一重で避けている。
「まったくいい人材がくわったよ。いろんな意味で」
ジョーはそういって苦笑いを浮かべながら病室を出ていった。