この超人社会には速さが足りない! 作:トンボ最強厨
事の発端は中国にて発光する赤ん坊が生まれた所から始まりに、世界各地で様々な特殊能力を保持した人間が増えていった。
増えに増えた異能力者達……今や、世界総人口の約八割が何らかの特異体質を持つ超人社会。当然その異能を犯罪に使用する者もいる……ヴィランだ。
しかし、そのヴィランと相反してその力を正義のため、悩める人々のために使おうとした人々がいた。
それが、ヒーロー……多くの人が焦がれ、脚光を浴びる職業である。
そんなヒーローを本気で目指す者たちが集まり、しのぎを削り合う場があるのだが………………そこでは今、ちょっとした騒ぎが起こっていた。
「ヴィランだ!」
初めに叫んだのは誰だったのか……それは定かではないが、それが誰を指していたのかは火を見るよりも明らかだった。
場所は、日本きってのヒーロー養成学校、雄英高校のとあるグラウンド……グラウンドと言っても、その様はまるで市街地をそのまま学校の中に移したような見た目だった。
――そこで行われていたのは、雄英高校ヒーロー科の入試試験だった。ポイントのついた仮想ヴィランを撃破し、制限時間内で只管ポイントを稼ぐための試験……だった。
ある瞬間からそれは一変した……巨大な、お邪魔虫と評されていた、ビルが足をつけたような巨大な仮想ヴィランが現れたのだ……その時点ですでに試験会場は混乱の極みだった。
多くの人が逃げ惑い、その足蹴にされ怪我するを者も居た。
こう言う時に落ち着いて行動してこそのヒーローなのだが、まだ中学生の少年少女にそれを求めすぎるのは酷なのかも知れない。
皆が慌てふためく中……ソレは突然に現れた。
ビルの隙間から大きく飛翔したかと思えば、先程まで受験者が怯えていたおじゃま虫の巨大仮想ヴィランを文字通り足蹴にして……地面へと降り立った。
そこだけ聞けば、受験者にとってはまさに戦場に降り立ったヒーローにも見えたことだろう。しかし、現実は違う……受験者は、その姿を見てヴィランだと勘違いして恐れおののく始末だ。
その姿……全体的な色合いはブラック。差し色にイエローとグリーンが混じっている。頭部は、下顎が丸々まるで虫の顎の様になっており、カチカチと時折音を鳴らしていた。
側頭部には緑色のクリアな、レンズ上の物体がヘッドフォンの様に装着されていた。
臀部からは細長く黒い下地に黄のストライプ模様の尻尾の様な物体が地面すれすれまでに伸びていた。
背に生えるのは四枚の透明色の羽だ。それは鳥のように羽毛に包まれたものではなく、むしろ薄い膜の様にも見える……虫の羽そのものだ。
足は逆関節、手は姿形こそ普通であるがこれまたトンボの意匠を残すように黒いトゲトゲが節々に付けられていた。終いには、腹部にも同じ様に腹を押さえるような腕が付けられていた。体の節々はブヨブヨの肉塊のようなものでつながれている。
総じて表すなら……それはトンボの化け物の様な見た目だ。寧ろクリーチャーと言っても差し支えないかも知れない。中途半端に、フォルムや下顎から上には人間の意匠を残していたり、服を着たりしている性で余計に忌避感が受験者の中で唸る。
……受験者達がヴィランがでたと騒ぎ散らす中、そのトンボの怪物は静かに、舌打ちする様に言葉を漏らした。
「クソッ!駄目だ遅すぎる……!」
その異常が見た目から放たれる第一声に、受験者達は大きく困惑した。そして、そのトンボの怪物は構わずに言葉を続ける。
「先程は最高時速90kmも出ていなかった!これではギンヤンマの最高時速100kmには遠く及ばない、いやそれを超える気概でいるのだから時速120m……いや、150kmは出せなければ意味がない!この世の理は即ち速さ――――こんなにスローでは俺は世界においていかれてしまう!ソレじゃあ駄目だ!俺が世界を追い抜かなくては!!」
受験者達は、その異常で気持ちの悪い見た目から繰り出される早口の訳のわからない言動に、余計に頭を回りて悩ませられる。
すると、そのトンボの怪物は羽を高速で羽ばたかせるとその場で浮き上がりホバリングする。
「もっとだ!もっと速くならなくは!!」
もはや一人だけしている種目が違うが、そんな事は一切気にせずに、そのトンボの怪物は高速で、目にも止まらない速さで会場を駆け巡る……ヴィランと忌避し、誰かが攻撃しても届かない……あるいは攻撃する前に飛び去ってしまう。
そのヴィラン――いや、ヒーロー志望の学生は、過去類を見ない最高速度で合格ラインまで仮想ヴィランを倒し、お邪魔虫の巨大仮想ヴィランも倒し、只管にその広い試験会場を飛び回りながら仮想ヴィランを倒し続けたと言う。
少年の名は『
異形故にヴィランと罵られても、己と速さを追求する心優しきヒーロー……になる予定の男である。