貴族の息子は紳士でなくてはいけないらしいけど日々が辛い   作:鉄の掟

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プロローグ
辛い。


 

 

 

 

 

 辛い、辛すぎる。

 

 大人5人が大の字で寝ても、まだ余裕がありそうな豪華絢爛なベッドの上で、俺はただ、天井に取り付けられた大きなシャンデリアを見つめながら、いつもの様に不平不満を垂らしていた。

 

 ん? 何がそんなに辛いのか? 

 ふっ……聞きたいか、俺の血の滲む様な辛い過去を。

 よし、じゃあまずは俺が死んでこの世界に生まれ落ちた時に……

 

「アワーズ様、就寝の時間にございます」

 

 俺は仰向けの姿勢から起き上がり、声のした方向に顔を向ける。

 

 何だよ……今折角導入の部分をやってたのに。

 

 溜息を吐く俺の目の前に高級そうな木材で出来た扉を開けて、一人の女が部屋の中に入って来る。

 そこにはいつものメイド姿では無く、薄い布一枚から大きな胸と尻が浮き出る豊満な体を隠した、我が家のメイド長【サウザンド】が立っていた。

 

「あぁ、もうそんな時間か。すまない、少し考え事に耽ってしまっていた」

 

「滅相も御座いません、アワーズ様」

 

 そう言いながら、サウザンドは金の意匠が施された扉から、俺のベッドの方へと歩き出す。

 その度にサウザンドのムチムチとした太ももや柔らかそうな二の腕が、布の隙間からはみ出てしまい、俺は血の涙を垂らす思いでサウザンドの体から目を逸らす。

 

「今日もその……一緒に寝るのか?」

 

「勿論で御座います、アワーズ様はミニッツマン様の御子息様。

 いついかなる時でも私達メイドがお守りしなければいけないのです」

 

 そう言いながら、サウザンドは俺のベッドに膝を乗せて、布の間から開かれた大きな胸を見せつける様な体勢で近づいて来る。

 対して俺はサウザンドの吸い寄せられる様な美しい体に、目を奪われまいと必死だ。

 

「それではアワーズ様……失礼致します」

 

「いや、やっぱりちょっとま」

 

 俺がそう言い切るよりも早く、サウザンドは俺の胸に両手を置き、そのまま体の重心を預け、俺のベッドに倒れさせた。

 

「アワーズ様、心臓の鼓動が早く御座います」

 

 全てが柔らかいサウザンドの身体と最高級の羽毛布団に挟まれて、その上耳元からは、人を300人くらい殺してそうな普段のサウザンドの声からは想像もできない程の甘えた声。

 こんな状況で落ち着ける訳がないのだが、サウザンドはそんな事知るはずもなく、俺の胸に片耳を当て心臓の鼓動を直に聞いて、俺が落ち着いてるか確かめてくる。

 

「アワーズ様、何か私に至らない点があったのでしょうか?」

 

 やめて、そんな潤んだ目で俺を見ないで。

 そんな事されると余計に変な妄想が膨らんで、眠れないでしょうが! 

 

「いいや、サウザンドは関係ないよ。

 でも少し今夜は暑いからね、出来れば1人で眠りたいかな」

 

 よし、完璧だ俺、鼻が高い。

 いつもと変わらない寝るには最適な室温だとか、寧ろサウザンドの少し冷たい体温が良い感じで気持ち良いとか。

 そんな事は今は後の後回しだ。

 

 兎に角、サウザンドが俺の胸の上から退いてくれる事を今は優先しないと、いつ俺のエクスカリバーが鞘から抜かれてもおかしくない。

 というか既に先っちょは抜けかけてるし、まじやばい。

 

「左様で……御座いますか」

 

 いつもは俺がさっきの様な事を幾ら言っても、あらゆる手を尽くして俺のベッドから離れず、俺が寝るまで側に居たサウザンド。

 だがしかし、何故か今夜は人の身長よりも高い窓から入る月明かりに照らされた悲しげな表情のまま、サウザンドは一言だけ言い残し、俺のベッドから離れ、部屋から出て行ってしまった。

 

「……何か罪悪感が凄いんだけど」

 

 俺は1人ベッドに大の字になりながら呟いた。

 確かにサウザンドが最近毎日寝る時に抱き付いてくるのは正直辞めて欲しかったし、それを直接では無いが間接的にサウザンドに言ったことも過去に何度もある。

 

 しかし、本当に出て行くなんて事は今の今まで一度も無かったように思う。

 俺がどんな状態でも、サウザンドは俺が寝る時側に居たし、その都度俺があの手この手で、サウザンドを部屋から出させようとして来た。

 

 俺は何故サウザンドが聞き分け良く出て行ったのか、暫しの間考え込んでいたが、時計の針が丁度0時になったタイミングである結論を出した。

 

「……生理か」

 

「アワーズ兄様……起きてる?」

 

 幼く控えめな女の子の声と共に、サウザンドが出て行った扉からノックの音が鳴った。

 俺は再び訪れた来客が誰だか分かっていた為、これでもかと眉間に皺を寄せた。

 しかし扉の向こうにいる相手は、俺がこの部屋の中に居る事は分かっているとでも言うように、俺が返事をする前に扉を開けて、中に入って来た。

 

「……こんな真夜中に何か用事か? タイム」

 

【タイム・ミニッツメン】。

 如何にも高級そうなシルクのパジャマを少しはだけさせ、眠たげな目で俺を見つめる美少女。

 肩まで伸びた白い絹の様な髪は、普段はサイドテールに結ばれているが、どうやら寝る時は下ろしているらしい。

 まだまだサウザンドの様な大人の身体ではないが、控えめながらも存在を主張する、いずれもマッターホルン級の一つの丘。

 そして健康的な太ももとすらりとした綺麗な足は、シャンデリアの光に照らされて艶かしく光っている。

 

 花も恥じらう様な美少女である、我が妹を前に、俺は一寸の狂いもなく、タイムの弱々しくこちらを見つめる目を見つめ返す。

 決して無防備にはだけた胸元や、シミ一つない白くて綺麗な生足を見てはいけない。

 例えそれがどんなに魅力的な物だったとしても、だ。

 

「サウザンドが兄様の部屋から出て行くのが見えたから……今日は兄様と一緒に寝れるかと思って……」

 

 あぁ、成る程。

 確かにタイムの部屋は俺の隣だし、偶然サウザンドが部屋を出たのを目撃したとしても不思議では無い。

 しかし……妹よ、それが一回り上の兄の部屋を訪ねる格好なのか。

 

 そもそもタイムと俺の血は繋がっていない。

 衝撃の事実な様に感じるかも知れないが、昔俺が生まれて間も無い頃、俺の親父でこの家の当主である【グリニッジ・ミニッツメン】が、「息子一人では寂しいだろうし、妹でもやるか」、と腹立つ程気軽に言った一言によって出来た、血の繋がりが無い妹である。

 

 まぁうちがそこら辺の貴族とは比べ物にならない程金持ちなのは、暮らしていれば嫌でも理解出来るし、親父の言葉一つ、ペン一本で大体の事は解決出来るらしいが……それにしたって何の罪も無い少女を強引に家の子にするのはどうなのか。

 と、俺は初めて出来た妹が、不慣れを隠さずに、俺に貴族の挨拶をしているのを見て思った。

 

 しかし後からタイムから聞いた話では、どうやら相手の貴族からすればミニッツメンの家系に自分の子供が加われるのは大変喜ばしい事らしい。

 そして親父からの「お前の娘くれ」という悪の独裁者みたいな提案にも、タイムの両親や兄弟は何の反対もせず、まだ一人で風呂にも入れないタイムを誰一人知り合いが居ない場所へと送り出した。

 

 あの頃は静かで言葉数が少なく、意思疎通を取るのも随分苦労した。

 それに親父は「お前の妹なんだから面倒を見なさい」って言って、勉強や稽古だけならまだしも、寝る時や風呂にまで一緒に居ろって何処の世界にそんな四六時中一緒に居る兄妹が居るんだよ、ここに居たわ。

 

 まぁそんな訳で、何かと小さなタイムの面倒を見てきた俺だが……そんな過去の俺のせいで、現在の俺は大変過酷な日々を過ごす事になった。

 

「……タイム、お前はもう一人で寝ろって前に言っただろ? いつまでも俺の手を煩わせるな」

 

「でも兄様……タイム、兄様と一緒に寝たい……」

 

「駄目だ、早く自分の部屋に戻れ」

 

「兄様……」

 

 タイムは今にも泣きそうな目で俺を見つめる。

 や、やめてくれ……そんな目で俺を見たって一緒に寝たりなんかしないぞ。

 この前、どうしてもって言うタイムに負けて一緒に寝た時なんか、背中に当たる柔らかい感触のせいで、一睡も出来なかったんだからな! 

 次の日は寝不足で隈が出来たのがサウザンドに見つかって、強引に仮眠室に連れてかれて膝枕されて、余計眠れなくなったんだからな! 

 全部お前のせいだぞ! タイム! お兄ちゃん怒ってんだからな! 

 

「あ、こら! 戻れって言っただろ!」

 

 タイムは暫く顔を俯かせていたが、いきなりベッドに座る俺の元まで歩いて来た。

 突然の事で俺は何とか静止の言葉をタイムに聞こえる様に大声で喋るが、タイムはお構い無しに俺のすぐ目の前まで近付くと、そのまま歩いて来た勢いを俺の体にぶつける事で止まった。

 

 タイムの顔が俺の肩に密着し、俺の身体の前側は隙間が無いほどにタイムの身体が密着している。

 そして俺が咄嗟にタイムを退かそうと、腕をタイムの肩に伸ばすが、その動きをタイムは読んでいたかの様に、俺の両腕を自分の両手で掴むと、そのまま自分の腰の下に……って!? ちょちょちょ! 

 

「タイム!? な、何をしてらっしゃりやがるんですか!?」

 

 手の平から伝わるこの世の物とは思えない柔らかい感触に、俺は酷く動揺しながらも、タイムに質問をした。

 その間もタイムは俺の手を自分の大事な部分に押し当て続ける。

 

「……兄様、抱いて?」

 

 タイムは俺の耳元で甘く囁く様にそう言った。

 それはどんな男でも思わず襲ってしまいそうに成る程に魅惑的で、俺は頭の中がまるでタイムに溶かされたのかと錯覚する。

 

「良いんだよ? 兄様……我慢しないで?……絶対に誰にも言わないから」

 

 タイムは少しずつ俺の手を下にずらす。

 そこには普通のパジャマには無い【穴】があり、そこに俺の指が触れると、タイムはもどかしそうに吐息を漏らした。

 

 すべすべした人肌の感触が俺の指の先端に広がる。

 そして俺の指には何かヌルヌルとした液体が纏わり付き、タイムは更に俺の手を奥は奥へと動かし続ける。

 

「兄様、私を……タイムを抱いて?」

 

 タイムがそう言うのが先か、後か。

 

 

 俺は……俺の指は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉわあああああああ!!!」

 

 力任せにタイムの両手を腕から引き剥がし、そのままの勢いで、俺の上にのしかかるタイムをベッドの上に転がす。

 

「きゃっ! に、兄様……?」

 

「うぉわあああああああ!!!」

 

 俺は今が真夜中の0時だとか、こんな大声を出したら明日絶対に血の気の引くようなお叱りを受けるとか、そんな事は考えずに、ただ今この瞬間の言い表せない感情を吐き出すかの様に、喉の底から大声で叫び続ける。

 

 そしてポカーンとした顔で俺を見つめるタイムを無視して、俺は叫び続けながら部屋を飛び出し、馬車が通れるほど広い廊下をただ真っ直ぐ走って行く。

 

 そして屋敷の階段を素早く駆け下り、巨人用かと思うほど巨大な玄関の扉を首から下げたネックレスに付いた鍵で開け、そのまま屋敷の外の庭園へと飛び出した。

 

 完璧な手入れが行き届いた庭園も無視して、俺はただ遠くに走っていく。

 やがて屋敷からかなり離れた森の中で、俺は立ち止まり大きく息を吸っては吐いてを繰り返す。

 

 やがて荒い呼吸が元に戻り、俺は生まれてからずっと溜めていた感情を爆発させる様に、人の居ない森の中で叫んだ。

 

「どうしてだ……本当にどうしてなんだ……!」

 

 あそこまで息を呑むほどの美少女に迫られて、何故俺はこうしなければいけないんだ……! 

 さっきの事だけじゃない! 今までも名高き大貴族のミニッツメンの次期当主である俺に、色仕掛けを仕掛けて来る女は沢山居た! 

 前世のアイドルや女優なんかとは比べ物にならない女の子が、好きにしてくれと、純白の肌を何度も俺に晒して来た! 

 なのに……なのに何で! 何でなんだよ! 

 

 俺は自分の溶岩の様に煮えたぎる思いを吐き出す為、最後に目一杯息を吸い込む。

 

 おっと! そういえばこの世界の導入がまだだったなぁ! 紳士淑女の諸君! 

 丁度良いからここで俺の思いと共に教えてやろう……この世界は……この世界の貴族はなぁ! 

 

 

 

 

「どんな理由があろうとも、貴族の息子は女に手を出しちゃいけないんだよぉぉぉ!!! あああああぁ!! くそがぁああああああ!!!」

 

 

 

 

 そう……この世界の貴族は家の当主になるまでは、決して女に手を出してはいけないのだ。

 どれだけ誘惑されても、特別な理由があっても、当主になる前に女に手を出した瞬間、そいつは恐ろしい拷問を受けた後、醜い姿で晒し首となる。

 

 それが貴族の常識であり、女と関わりを持たないのは気品溢れる上品な紳士として育つ為の、貴族の息子の仕事でもある。

 

 つまりあれだ。 俺が今18歳という事は、少なくとも当主を引き継ぐ事が許される30歳までは、童貞のままという事だ。

 

 

 

 

「そんなの魔法使いになっちゃううううううう!!!!!」

 

 

 

 俺は叫んだ。

 何の意味もない事かも知れないが、今の今までこうして思いを大声で叫ぶのを我慢したのは、我ながら偉かったと思う。

 

 そうして俺はひとしきり叫んだ後、がらがらする喉を抑えながら、森から屋敷へとトボトボと歩いて行った。

 

 ……このまま家出したいけど、帰らないと叱られるんすよ、割とガチ目に。

 

 

 

 

 

 

 




Q, こんな異世界転生したくない、どんなの?

A, 美少女が据え膳してるのに、無視して走って森の中で叫ばないといけない異世界転生
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