貴族の息子は紳士でなくてはいけないらしいけど日々が辛い   作:鉄の掟

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辛いんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、隠れる様に屋敷へと戻った俺だが、当然の様にサウザンドに見つかり、それはもう拷問の様な説教を受けた。

 

 真夜中という事もあり、サウザンドも寝ていたのか、いつもの説教をする時の鋭い目付きではなく、その目付きはジト目に近い物になっていた。

 

 それにサウザンドは説教をする際、俺より頭が低いのが気に入らないのか、少し高めの椅子に足を組んで座る癖がある。

 いつものメイド服ならそれでも問題ないのだが、今のサウザンドは男が湧き立つ様な格好の寝巻きで、しかもサウザンドは気付いていないのかも知れないが、足を組むと自然に下着がチラチラと見えてしまっている。

 

 俺的には非常に拙い、マジで目に毒だ。

 しかしこんな状況で「パンツ見えてるよ?」なんて言った日には、マジで殺されても文句言えない。

 毎日人の布団で寝ようとして来る癖に、セクハラの様な事は嫌いなのが、目の前に居るサウザンドメイド長なのだ。 理不尽過ぎて辛い。

 

「アワーズ様? 私の話は返事を返すのも面倒な程つまらなかったですか?」

 

「あ、いや……すまない」

 

 サウザンドは、やや強めな口調でそう言った。

 そんな事言われても、集中出来ない原因を生み出してるのはサウザンド自身なんだが……。

 

 俺の心情を知る由もないサウザンドは、短い溜息を吐くと、座っていた椅子から徐に立ち上がり、俺が座っている長椅子に近付き、俺の隣へと腰掛けた。

 座る瞬間、揺れるサウザンドの髪から少しだけ土の匂いがしたのは、俺の気のせいか? 

 

「……アワーズ様、貴方はミニッツメン家の次期当主。 私には知り得ない様々な困難があるかと思います。 私も少し夜にはしゃいで大声を出した事を、心から叱りたい訳ではありません、しかし分かっていて頂きたいのです……貴方には何時如何なる時も大衆の目が向いている事を」

 

 そう言いながら、サウザンドは俺の手を握る。

 その手は俺が先程感じた土の匂いが更に強く残っていて、察しの悪い俺でも流石に気付く。

 

 サウザンドは居なくなった俺を探しに、なりふり構わず屋敷を出たのだと。

 

 完璧なサウザンドが俺に気付かれる程に証拠を残しているのは、それだけ急いで俺を探してくれていたという事だろう。

 流石の俺もサウザンドが俺の為にそこまでしてくれたとなれば、サウザンドの胸元から開かれたパジャマから覗く、大きな谷の間に目線が吸い寄せられるのをグッと堪え、サウザンドの目をしっかりと真正面から見つめ返した。

 

 ……いや見てないから本当に。 本当だし。

 

「迷惑をかけたな、すまない」チラッ

 

「いいえ、分かって頂けたのなら私はいいのです」

 

 サウザンドはギュッと俺の両手を握り締め、柔らかい笑顔で俺に微笑み掛ける。

 俺もサウザンドに笑顔で笑いかけ、握手をする様にサウザンドの細く綺麗な手を両手で握った。

 

 凄く眼福でした、ありがとうございます。

 

「では、アワーズ様。 ごゆっくりとお休みくださいませ」

 

 サウザンドは暫くの間、俺の手を握っていたが、真夜中の1時を示す時計の音が部屋に響いたのに気付くと、名残惜しそうに俺の手を離し、最後に綺麗なお辞儀をして部屋から静かに出て行った。

 

 俺は柔らかいクッションが入った長椅子に横たわると、おでこに右手を乗せて目を閉じ、サウザンドの素晴らしき景色を忘れることがない様、深く深く脳裏に焼き付けた。

 

 ……この世から性欲という物が無くなれば、俺は幸せになれるのに。

 

 貴族の息子として見れば非常に情けない話だが、女に手を出せないとは言え、健康な18歳の男子として、あれを忘れてしまうのは些か勿体なさ過ぎる。

 それに女に手を出すのは駄目でも、自分でする分には何の問題も無いのだ、要するに暫くはオカズには困らないという事だ。 やったぜ。

 

 今この瞬間、新鮮な内にとも思ったが、流石に今からしていたら明日に響く。

 今日は大人しく寝て、明日の夜にでもじっくりと楽しむ事にしよう。

 

「ふわぁあ……もうここで良いか」

 

 貴族の椅子というのは何故こうも柔らかいんだ……いや、タイムの方が数倍柔らかかったし気持ちよかったな……。

 俺はそんな事を考えながら、ゆっくりと意識は微睡んでいき、数分もしない内に俺の意識は完全に夢の中へと旅立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アワーズ様アワーズ様アワーズ様!! 起きて起きて起きてー!!!」

 

「どぅわああ!! うるっせぇえええ!!」

 

 数時間の間、旅立った俺の意識を呼び戻したのは、甲高く響く女の大声だった。

 

「朝朝朝だよアワーズ様!! 起きて起きて起きて!!!」

 

「もう起きてるって見れば分かるだろぉ!? あと何回普通に起こしてくれって言ったら分かるんだ! クロック!」

 

 長椅子に寝そべる俺を、上から覗き込む様な体勢で、元気という言葉が腹立つほど似合う笑顔を浮かべながら見つめる、肩まで伸びた金色の髪のメイド。

 

 毎朝毎朝俺を叩き起こすこいつの名前は【クロック】

 褐色の肌がメイド服の隙間から覗き、低い身長に見合わない二つの巨峰は、俺の頭の上で右に左にと、それはもう揺れている。

 

 真面目な話、俺は大きい方が好きだ。

 だからこそ毎朝、クロックのぶっ飛ばしたくなる様な起こし方も何だかんだ許す事が出来ている。

 もし仮にこいつが高速道路くらい平坦だったら、俺はこいつが起こしに来た初日に、それはもう烈火の如く怒り、何なら欲望をこいつで発散していたかも知れない。

 

 奇跡的に噛み合ったバランスの上に俺とクロックは立っている……ただまぁこいつはそんな事、夢にも思ってないんだろうけど。

 本当何処までも明るい奴だし、こいつがサウザンドみたいに静かだったら、それはそれで何か違うしな。

 

「えぇー? 私は普通に起こしてますよ!!! アワーズ様!!」

 

「だったら少しはビックリマーク減らせよ! 読み辛くて読みに来なくなっちゃったらどうするんだよ!」

 

「んえ? 何の話ですか?」

 

「あ、いや何でも無い」

 

 変なアワーズ様、とクロックはそう言うと、その次の瞬間には興味を失ったかの様に、俺が脱ぎ散らかした洋服や、くしゃくしゃになったベッドシーツを集め始めた。

 

 その手際は丁寧だが無駄が無く、俺が別次元の事を考えてる間に、クロックは散らかっていた俺の部屋を元の綺麗な状態に戻してしまった。

 

 くそっ……こいつ何時の間に。

 こいつのタチの悪い所は、こんな風に仕事は完璧にこなす所にある。

 つまりいくら俺が不満を言ったとしても「でも仕事はちゃんとやってますよ?」の一言で、俺の発言権は綺麗さっぱり失われてしまうのだ。

 

 それにあまり文句を言うと「紳士は女性を大事に扱いなさい」と、サウザンドから忠告が入る為、強気に出る訳にも行かない。

 因みにサウザンドの忠告は3回までで、3回を過ぎたら俺は強制的に自由な時間を奪われ、女性との正しい接し方を学ぶ為、メイド達が住む屋敷の一角へと、強制的に一日監禁される事になる。

 

 羨ましいって? ははっ! 経験してみたら分かるさ……あそこはこの世の地獄だよ……いや天国でもあるんだけどさ。

 

 四六時中、美少女が付きっきりなのに何もしちゃいけないんだぜ? うっかりメイドの着替えを覗いてしまったり、深夜に目を覚ましたらメイド全員が俺を囲む様に無防備な格好で寝ていても、何もしちゃいけないんだぜ? 地獄だわ。

 

「アワーズ様!! 朝のお食事の時間ですよ!! 早く着替えて行きましょー!!!」

 

「だから着替えるのはお前が出て行ってからって毎回言ってるだろ!」

 

「私の事はお気になさらず!! 何も見ません!!」

 

「俺が気にするんだよ! 早よ出てけ!」

 

「あぁ!! アワーズ様酷い!!!」

 

 煩く叫ぶ様に喋るクロックの腕を掴んで、無理矢理部屋から追い出した。

 扉の向こうからでもはっきりと聞こえるクロックの声を無視して、俺はいそいそと寝巻きから紳士服へと着替える。

 

 最初は着るのに手こずった堅苦しい服装も、今は逆にこれを着ないと、俺の欲望が隠し切れずに飛び出して来てしまう為、俺は最後にピッタリと前側のボタンを止めた後、クロックが手持ち無沙汰で鼻歌を歌っているのが聞こえる扉の向こうへと、扉を捻り歩き出した。

 

「遅い遅い遅ーい!!! 折角愛情込めてミリオンとビリオンが作ってくれた料理が冷めちゃいますよー!!」

 

「はいはい、だったら頬を膨らませてないで早く行くぞ」

 

 子供が怒った時の様に頬に空気を溜めていたクロックを横目に、俺は食事をする部屋へと歩き出す。

 後ろで何かまだ喋っていたクロックも俺が歩き出すと、文句を垂れながらも俺の後ろを歩き出した。

 

 因みにクロックの言った【ミリオン】と【ビリオン】というのは双子のメイドで、この屋敷の料理長でもある。

 メイドの中では比較的に体型も性格もマトモな方で、彼女達の作る料理は普通に美味いので、俺もミリオンとビリオンに関しては、そこまでいやらしい事を考えた事はない。

 やっぱり普通が一番だよな、うん。

 

 まぁそもそも、二人は調理場に殆ど居るから、余り顔を合わせる機会が無いというのが原因なのだが。

 後、クロックにもそういう劣情を抱いた事はない。

 俺はどれだけ胸が大きくて柔らかくても、静かな女が好きなのだ。 

 会話の殆どにビックリマークを付ける女なんて、とてもじゃないが耐えられない。

 

 まぁ世の中にはギャップ萌えという言葉があるし、万が一クロックが物静かに迫って来たら、俺も考えを改めざるを得ない。

 所詮、男ってのはそんなもんだ。

 

「アワーズ様……何かありましたか?」

 

「? いや特には無いが」

 

 俺が、男とは哀しい生き物だと安っぽい哲学者の様な事を考えていると、ふとクロックが俺の顔を横から覗き込んでいる事に気づいた。

 その顔は何処と無く心配をしている様な雰囲気で、普段は落ちる事のないクロックの目線が、この時は少し悲しそうに感じた。

 

 ……ぶっちゃけこいつの顔は好みなんだよなぁ。

 クロックの覗き込む顔をじっと見つめながら、そう思った。

 幼さが残る顔立ちだが逆にそれが、既に大人の女性に成長している体とのギャップを感じる。

 もしや、これがギャップ萌えなのか……? 

 

「そうですか! 良かったです!!」

 

「? 何の話だ?」

 

 さっき感じた哀愁の表情の様なものはさっぱりと消え、クロックは何時もの様に明るく笑う。

 

「だってアワーズ様、昨日の夜中に屋敷から一人で出掛けたって聞いたので!! 何かお悩み事でもあるのかと寝ずに心配していましたが!! そうじゃなかったみたいなので!! だから……良かったです!!!」

 

 満面の笑みでそんな事を言ったクロック。

 その目の下には、意識して見れば薄く隈の様な物が見て取れる。

 化粧で大分誤魔化せてはいるが、サウザンドとは違いクロックはそういう事には不慣れだった筈。

 だとすれば……クロックは慣れない事をして、眠いのも我慢してまで、俺の心配を……? 

 

 俺は鳩が豆鉄砲を食らった様な顔で固まりクロックを見つめてしまう。

 

 ……何だよそれ、似合わない事しやがって。

 くそっ……あぁ畜生!!! 

 

「クロック……ちょっとこっち来い」

 

「ふぇ? どうしましたかアワーズさ」

 

 俺は少し離れていたクロックの手を取り、そのまま自分の体の方へと引き寄せ抱き締める。

 突然の事にクロックは暫くの間、「ア、アワーズ様!!??」とか「は、離して下さい!! 私にこんな事をしてはダメです!!」などと耳元で大声を出していたが、構わずより力を込めて、小さなクロックの体を抱き締めると、徐々にクロックの口数は減り、大人しくなった。

 

「心配を掛けたようで悪かった」

 

「い、いえそんな事は……」

 

 クロックは気恥ずかしそうに俺の胸をじっと見つめるだけで、俺と目を合わそうとはしない。

 

「お前には感謝を伝える機会がどうも少なくなってしまう、だから今言うよ……いつもありがとう、ご苦労さんクロック」

 

「……勿体無いお言葉です」

 

 クロックは消え入りそうな声で返事をすると、控えめだが確実に、俺の背中に腕を回し抱き締め返して来た。

 そんなクロックを見ていて、俺はまた頭に衝撃が走る様な感覚を覚えた。

 

 あれ? こいつこんなに可愛かったっけ? 

 ま、不味い……日頃伝えられない労いの気持ちを込めて、感謝を伝えようとしただけなのに、ついこいつが笑顔で辛いのを誤魔化している様に見えたのが我慢出来ずに抱き締めてしまった……。

 

 っていうか、何で俺はそもそもクロックを抱き締めるという発想になったんだ? まさかとは思うが……俺は自覚が無いだけで、鶏の3倍は喧しいクロックに対して、ちょっと良いな、とでも思っていたのか!? 

 

 馬鹿な! あり得ない! 

 俺はお淑やかな大和撫子な女性が好きなんだ! 

 こんな性格が太陽みたいな女は好みじゃ無いんだ! 

 嘘だ嘘だ嘘だ!! 俺は絶対に認めないぞ!!! 

 

「……? アワーズ様?」

 

「俺は……俺は絶対に認めないからな!!」

 

「きゃっ! ア、アワーズ様ー!!!」

 

 俺はクロックの俺を呼ぶ声を無視して、昨日の夜の様に屋敷の中を叫びながら走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お静かに」

 

「はい、すみません」

 

 偶然にも、俺は食事をする部屋の方へ走っていたらしく、待っていたサウザンドに有無を言わさぬ口調で黙らされた。

 

 呆れた様に溜息を吐いたサウザンドは、部屋の扉を開けて、俺に部屋の中へと入る様に促す。

 ここで抵抗する意思など微塵も無い俺は潔く、頭を下げるサウザンドの目の前を通り、部屋の中へと入っていく。

 

「……二回目の忠告です」

 

 ……サウザンドが通り過ぎ様にそんな事を言っていた様な気がするが、俺は断じて聞いてない。

 聞いてないったら聞いてない。

 やべぇ。

 

 

 




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