貴族の息子は紳士でなくてはいけないらしいけど日々が辛い   作:鉄の掟

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食事中でも辛い。

 

 

 

 

 

 

 部屋の中に入った俺を出迎えたのは、部屋の端に立つメイド達。

 そして無駄に長いテーブルの真ん中に座る、両親と妹のタイムだった。

 

「何をしていたアワーズ、その歳で時間も管理出来ないのか」

 

 俺の親父、グリニッジ・ミニッツメン。

 その顔付きや佇まい、そして雰囲気までもが、如何にも貴族といった感じの男だ。

 

 ……正直言って今世の親父は最悪と言っても言いぐらい俺と相性が悪い。

 そもそもあんたが居なければ、俺は欲望の限りやりたい放題出来ていたのでは? と考えたことも少ないんだぞ親父。

 そこんところしっかりと分かっていて欲しい。 口が裂けても言えないけどな、だって言ったら裂かれるの俺だし。 クソが。

 

「申し訳ありません、お父様。 少し朝の身支度が長引きまして」

 

「……まぁ構わん、早く座れ」

 

 構わねぇなら最初から聞くんじゃあねぇ! と心の中で叫びながら、俺は決められた自分の席へと座る。

 席の座る位置は俺の目の前に親父、その隣にお袋、そして俺の隣にはタイムが座る。

 

 俺はさっきからひしひしと感じる視線に耐え切れず、ゆっくりと右隣に座るタイムへと目を向ける。

 

「おはようございます、兄様」

 

「……おはようタイム」

 

 軽く微笑みながら挨拶を交わす俺達を、お袋は微笑ましそうに見つめているのが視界の端に映る。

 しかし、しかしだ。 目の前で視線を交わす俺には分かる。

 タイムの目の奥は1ミリたりとも笑っておらず、微笑ましいどころか修羅場となってもおかしく無い目付きだった。

 

 俺は直ぐにタイムから目を離した。

 だって怖いもん、目に光が無いんだもん。

 よく前世の漫画とか小説で目に光が無いという表現は使われていたけど、実際はこんな感じなのか。 ちびりそう。

 

「では食事を始めよう」

 

 親父がそう言った後、親父の少し後ろに立っていたサウザンドが親父、お袋、俺、タイムの順で飲み物を注いでいく。

 

「ありがとう、サウザンド」

 

「滅相も無く」

 

 俺のグラスに水を注ぐサウザンドは、目を伏せてそう言った。

 横で揺れる大きな二つの桃をガン見したいが、流石に親父の前でそんな事をすればどうなるか分からないので、俺はぐっと我慢して正面を見続ける。

 何故かは分からないが、サウザンドが俺にだけ聞こえる小ささで溜息を吐いた様に聞こえた。

 

 そうしてタイムの分を注いだ後にサウザンドは、よく高級なレストランで見る台車の様な物から、テーブルへと次々に料理を並べていく。

 

 肉や魚、野菜がバランス良く使われた食事は、見ているだけで涎が出そうな程だ。

 こんな料理が何もせずとも食えるんだから、貴族ってのは良いもんだと思う。

 俺も一応貴族だけど。

 

「本日の朝食は以上になります」

 

 綺麗に並べられた料理を前に、サウザンドは一言そう言うと、メイド達が並んでいる壁の方へと歩いて行った。

 

 どうやらこの世界では貴族の一族は、家族だけで食事を取るらしく、それ以外は例えどんな身分であっても、一緒に食事を取る事はないらしい。

 つまり貴族と言えばの豪華な食事会や、酒池肉林の狂乱パーティーもこの世界には存在しないと言う事だ。

 

 いや、何でやねん。 

 貴族なら貴族らしく乱行パーティーとかやろうよ。

 何で金も権力もある人間がやりたい事を我慢しないといけないんだよ。 その胸は飾りなんか。

 乳揉ませろや、おい。

 

「ご苦労、では頂くとしよう」

 

 親父がそう言ったのが合図かの様に、お袋とタイムは目の前のテーブルに置かれたナイフとフォークを持ち、静かに食事を始める。

 

 俺も湧き上がる憎悪の感情を一時的に抑えて、同じ様にナイフとフォークとスプーンを使い分けて、スープやサラダ、ソーセージ等をちまちま食べていく。

 ……本当はこんな煩わしい物使わずに男らしく齧り付きたいんだが、それをすると今日一日折檻確定なので、大人しくマナー通りに食べ進める。

 

 朝食という、1日の食事でいえばかなり気を使わない方の飯といえど、やっぱり貴族の厨房で作られている事もあって、俺の音痴舌に感じるのは毎日食べていても飽きない美味さのオンパレード。

 流石は料理に関しては一流のミリオンとビリオンの双子メイドだ、完璧な味付けと言っても文句無い。

 あの二人ならもし俺の世界に生まれ変わっても、三つ星シェフとして何の問題もなくやれるだろう。

 

 まぁ……あの二人の場合は本当に料理にしか興味がないのか、普段の服の着替えさえも自分一人では出来ないという、料理以外は最低のダメ人間という所が、良くも悪くもサウザンドの頭を悩ませてるみたいだが。

 

「美味しいですね、兄様」

 

 俺が黙々と減った腹に飯を詰め込んでいると、隣からタイムがそんな風に話しかけて来た。

 ……いやいつもはそんな事言わないじゃん。

 これは返事したら面倒臭い事になるぞ、と分かっていても厳しい親父の前で無視をする訳にも行かず、俺はタイムの方に顔だけを向け、言葉を返す。

 

「そうだな」

 

 分かるだろう、妹よ。

 お兄ちゃん今ちょっと忙しいんだ、話なら後でしてくれないか。

 

「ところで兄様、話は変わるのですが」

 

 いや、まだ何の話もしてないでしょうが! 

 タイムの中では一言二言言葉を交わしただけで話になるというのか、はたまたただきっかけ作りに都合の良い料理の味の話をしただけなのか。

 ……絶対後者じゃん。 

 

「先程メイドの一人から聞いたのですが、何やらクロックと深く抱き締め合ったとか」

 

 ガチャンっ!! 

 

 おっと俺とした事が! 妹の鬼畜すぎる話に思わず手に持ってたナイフを床に落としちまったぜ! 

 すかさずサウザンドが俺の目の前に新しいナイフを置くが、俺はお礼の一言も言わずに、底知れぬ闇が広がるタイムの目を凝視する。

 

「な、何を言ってるんだか、冗談は止めろ」

 

「冗談? 私はこんなつまらない冗談は嫌いです」

 

「あぁータイム、兄さん少しトイレに」

 

 俺は自分の席を立ち上がる。

 ふっ……どうした俺の両足。 そんな子鹿みたいに震えてみっともないんじゃないか? 

 

「アワーズ、座れ」

 

 親父の有無を言わせぬ口調で発せられた一言に、俺は直ぐに座り直す。

 ビクビクと震える俺を見るタイムの目は、何故か楽しそうで、俺は初めてタイムに対して得体の知れない恐怖を感じた。

 

「タイム、続けなさい」

 

 続けないで下さい、と心の中で叫ぶ俺を無視して、タイムはその小さな口を動かした。

 

「はいお父様、どうやら兄様は禁じられている女性との深い交流をなさったそうなのです」

 

 ちょっ!? 待って!? 

 タイム! タイム! タイムだけにタイム! 

 お前どの口がそんな事言ってるんだよ! お前は昨日俺を襲おうとしたじゃねぇか! 

 お前がその気なら、俺だって昨日の夜の一部始終を親父にチクってやってもいいんだぞ! 

 ……あ、いやこの状況でそんな事言っても、責められるのは俺だわ。 クソかよ。

 

「その相手は?」

 

「メイドのクロックと私は聞きました」

 

 幸いにもクロックはこの部屋には居ない。

 もしもクロックがこの部屋に居れば、慌てふためいて余計な事を口から垂れ流していた事だろう。

 急死に一生とはこういう事を言うのかも知れない。 いや違うか。

 

「ふむ……アワーズ、何故そのような事をした。 理由を言ってみなさい」

 

 ダラダラと冷や汗を垂らす俺を、親父やタイム、その後ろからは壁の方に立つメイド達までもが、俺に鋭い視線を送り続ける。

 いや、親父やタイムまではまだしも、何で君達からそんな視線を送られなきゃいけないんだよ。

 

 マジでお前ら覚えとけよ。

 俺が当主になった時には、とても口には出さない様な事を朝から晩までしまくってやるからな。

 もし今俺を庇っておけば、神に誓ってそんな酷い事はしないと心に誓うぞ、だからお願いします……助けて下さい。

 

 俺がそんな風に現実逃避をしている間も、どんどん部屋の中の空気は重くなっていき、俺は何でもいいから何か言わなきゃいけないと思い、今この場で思いついた適当な理由を、親父の目を真っ直ぐ捉えながら話し始めた。

 

「……クロックの背中に虫が止まっており、虫を追い払う為に意図せずそうなってしまっただけなのです」

 

 ……自分で言っといて何だか、流石に厳しくね? 

 前世の親父とお袋、親不孝者の息子だったけど、割とすぐに天国に行けそうだよ。

 もしそっちで会ったら、俺を慰めてね。

 

「そうか……」

 

 判決を待つ犯罪者ってこんな気持ちなんだな。

 俺はもう何もかも諦めて呑気にそんな事を考えていた。

 だってもうどうする事も出来ないし、でも罰を受けるのはせめて俺だけにして欲しい。

 クロックは何も悪くないし、いやあんなエロい体をしてるのは罪だけど。

 

「そうだな……そこにやましい感情は無かったのだな?」

 

「勿論です」

 

「それなら紳士として正しい行動だ、これからもその気持ちを忘れるな」

 

「はい、分かりました」

 

 およ? 何か丸く収まったぞ? 

 親父は何事もなかったかの様に食事を再開してるし、お袋もキツい表情から柔らかい表情に変わってる。

 後ろのメイド達はまだ納得してない様な雰囲気だけど、親父の言う事にあいつらは逆らえないし、これはひょっとして……俺の完全勝利なのでは? 

 

 キタコレェ……一時はどうなるかと思ったが、俺が思うより俺の口は上手いのかも知れない。

 ありがとう俺の口、30歳になったら思う存分吸わしてやるからな、何とは言わんが。

 

「え……お、お父様! そ、れで……宜しいのですか?」

 

「どういう意味だタイム」

 

 俺の隣でタイムは親父に向かって、そんな事を言う。

 その表情は様々な感情が混ざり合っている様に取り止めがなく、落ち着きがないと言う事も出来る。

 

 タイムはテーブルを両手で勢い良く叩き、親父が居るテーブルの向こう側に体を乗り出す様に立ち上がる。

 部屋中に響く食器の激しい音に、俺は思わず体を震わせる。

 

「お兄様は肌がピッタリと密着する様な体勢で抱き締めたのですよ!? それを今の様な聞き苦しい言い訳で許すのですか!?」

 

 タイム、お前は俺をどうしたいんだ……。

 仮にも俺はお前の兄ちゃんだぞ、それに聞き苦しいってなんだ聞き苦しいって。

 それって貴方の感想ですよね? 何かそういうデータでもあるんすか。

 

 終わった話を蒸し返したタイムに、親父は厳しい視線を向けて言葉を返す。

 

「……タイム、自分の兄に対してその様な事を言うとは……お前はまだ淑女として振る舞いが分かっていない様だ。 今日は淑女とは何たるかを学びなさい」

 

「そ、そんな……」

 

 はっはっは! 流石は俺の親父! 

 どうだタイム! お前の様なちんちくりんが俺を貶めれるとでも思ったか! はーはっはっはっは!! 

 

 俺は思わず笑い出してしまいそうな口元を必死に押さえ、反対にタイムはみるみる顔が青く染まっていっていた。

 タイムは俺の方を見ると明らかに目を細めて睨んでいたが、俺は涼しげな顔でワインの様に水の入ったグラスを回す。

 ふっ……妹よ まだまだお前じゃ俺を超えられんよ。

 

「タイム様、こちらへ」

 

 親父がそう言うとサウザンドは放心状態のタイムを立ち上がらせ、そのまま部屋の扉からタイムと一緒に、何処かへと歩き去って行った。

 ……一時はどうなるかと思ったが、何とか首の皮一枚繋がって良かった。

 というかあいつ……明らかに俺を悪者にして親父から罰を与えさせようとしてたな。

 昔は可愛かったのに……今じゃ兄貴を陥れようとする悪女になっちゃって、お兄ちゃん悲しい。

 

「ふぅ……今日は騒がしい朝だった」

 

 親父が肩を落としながらそう呟く。

 共感しかない俺は、親父と同じ様にがっくりと肩を落としながら、最後のスープを飲み干した。

 

「さて……ロック、今日の息子の稽古は何だ」

 

 親父がそう呼ぶと、壁の方から身長の高い一人の女が親父の側へと近寄った。

 その女の頭には普通の人間には無い【二つの猫の様な耳】が付いていて、その女が喋る度に、女の頭の耳はピクピクと忙しなく動いている

 

「弓のお稽古に御座います」

 

「そうか、アワーズ」

 

 親父がロックから俺の方に向き直り、言葉を発する。

 

「私の息子として、真摯に励む様に」

 

「はい、勿論です」

 

 はぁ……何が悲しくて弓の稽古なんてせにゃならんのか……。

 

 俺のそんな思いを無視して、ロックと呼ばれた女は親父の側を離れ、俺の隣へと歩いて近づく。

 

「ではアワーズ様、参りましょう」

 

「あぁ、よろしく頼む」

 

 俺こいつ苦手なんだよなぁ……。

 と、そんな事を考えながら俺は席を立ち、親父とお袋に扉の付近で一回お辞儀をすると、俺を待つロックの方へと歩き出した。

 

 




辛いなぁ。
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