貴族の息子は紳士でなくてはいけないらしいけど日々が辛い   作:鉄の掟

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一日過ぎればまた辛い。

 

 

 

 

 

 だらだらと嫌な汗が全身から吹き出し、さっきまでのほっこりとした雰囲気は、悲しい程に俺から消えて無くなって行く。

 

「そのテーブルの上の本は何でしょうか?」

 

 オーケー、大丈夫だ。

 取り敢えず落ち着いて考えよう。

 本の事を俺に聞いたという事は、少なくともタイムはまだあの本が何の本なのかは気付いていない筈。

 ならまだチャンスはある、というかあってくれなきゃ困る。

 

「少し見せて頂いてもいいですか? 何だか私の大切な本と似ているのですが」

 

「気のせいじゃないか? それよりもタイム、本当に夜も遅いから今日はもう自分の部屋に戻りなさい」

 

「……」

 

 ジトっとしたタイムの目が怖くて堪らない。

 しかしここで逃げては男が廃る、ここは断固たる意志でタイムの疑心感を受け止めなければならないのだ。

 

 逸らしたくなるのをグッと我慢して、俺はタイムの目を見つめ返す。

 あ、やばいライオンが! ライオンが俺を睨んでる! 

 誰かぁ! 誰か助けてぇ! 

 

「あ、兄様! あそこ!」

 

 タイムはわざとらしく部屋の窓の方を指差した。

 我が妹よ、そんな子供騙しの手にこの俺が引っかかる訳が……。

 

「凄くあの……セクシーなお姉さんが!」

 

「え!? どこどこどこどこ!?」

 

「隙ありですっ! えいっ!」

 

「あぁ!? ちょ!? 本当に駄目なんだって!!」

 

 俺が視線を元に戻した時には、既にタイムはテーブルの上に置かれた本に手を伸ばしていた。

 普通に考えれば俺よりも先にタイムは本を取り、そのまま直ぐに中身を確認するだろう、そうすれば勿論俺はゲームオーバーでジ・エンドだ。

 

 しかし……思春期の男なら誰しもが経験した事があると思うが、男の子というものは時に凄まじいパワーやスピードを手にする事がある。

 それは往々にして自らの意思では無く、突発的な事象によって引き起こされる言わば偶然の様な物であるが、この時俺はその偶然を手にした。

 

 そう……今この時俺は光の速度で動いたのだ。

 親がノックも無しに部屋の扉を開けて、全ての時が止まったあの時の雪辱を晴らすが如く。

 

「な!? 一体どうやって!?」

 

 目を大きく開き驚いた表情で固まるタイムを前に、俺は勝ち誇った表情で本を天井に掲げた。

 

「はぁはぁ……俺は勝った、勝ったぞぉ!」

 

「何を言ってるのですか兄様!?」

 

 視界の下半分に映るタイムの顔は、驚いた表情から何か変な人を見る目に変わっている気がするが今の俺には関係ない。

 俺は勝ったんだ……あの時のリベンジを果たせたんだ、もうこれで飯を食う時気まずい雰囲気にならずに済む……! 

 

 感動の余韻に浸る俺をタイムは無視して、俺に抱きつく様な姿勢で腕を伸ばし、俺の頭上にある本を奪い取ろうとする

 

「いいから見せて下さい! 兄様!」

 

「あー! 困ります! 困りますよタイムおい!」

 

「あーもう! 観念して下さい兄様!」

 

「ちょ!? 何処触ってんだ! お前淑女の勉強してんだろ! 淑女なら淑女らしく乱暴な真似は辞めなさい!」

 

 こいつ……本に夢中過ぎるのか色々当たってる事に気付いてない、しかもそれどころか何をとは言わないが更に押し付ける様な形で迫って来る。

 

 そして俺はと言うと俺の体をよじ登らんばかりに迫るタイムから本を守る事に必死で、片手を空ける余裕すら無い。

 っていうかこいつ本当に淑女の勉強したのかよ、俺の肩を両手で押してジャンプする度に揺れまくってるぞ、おい。

 

「あ! お母様! タイム、お母様が見てるぞ! 早く謝れ!」

 

 諦める様子の無いタイムに俺は奥の手を出し、部屋の扉の方に顔を向けながらそう言った。

 するとタイムは一瞬で血の気が引いた様に顔色を青ざめ、直ぐに俺から離れると扉の方に体を向け勢い良く頭を下げた。

 

「! も、申し訳ございません! お母様! これは違うのです、私は決して淑女としての気品を忘れた訳ではありません! ですのでどうか今日の様な躾は……? お母様?」

 

 タイムはそう言いながら、下げていた頭を上げ正面を見る。

 そこには当然誰も居らず、タイムは数秒の間凍った様に動く事をせず、その間に俺はそそくさと部屋の隅に置いた二つのボストンバッグの様な鞄に本を入れた。

 

「……お兄様?」

 

 おっと、そんな低い声を出したら折角の可愛らしい声が台無しだぞタイム。

 

 背後に迫る鬼の様な雰囲気のタイムを他所に、俺はバッグを背中で隠してタイムと真正面から向き合う。

 うわぁ、凄い怒ってますって感じの顔。

 しかしタイムさんや、お前は一つ大きなミスを犯しているぞ。

 

 俺とタイムが今いる部屋はこの屋敷の2階の角に位置してる、そして俺達がいる部屋の周りには当然他の部屋もあり、それは一つがタイムの部屋……そしてもう一つは……

 

「……今はご就寝のお時間ですよ、アワーズ様。タイム様」

 

 我が屋敷のメイド長、サウザンドの部屋なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではアワーズ様、お休みなさいませ」

 

「う、うん……お休み」

 

 サウザンドはそう言うとすっかり下を向いて口を閉じたタイムの手を引いて、部屋の扉の奥に消えた。

 

 いやぁ、流石はサウザンド。

 あれだけ暴れていたタイムすら直ぐに言う事を聞きましたよ、えぇ。

 まぁあんなに身の危険を感じさせる笑顔で見つめられたら、そりゃあ言う事聞くしか無いよね、うん。

 

 え? 俺? いやいや俺はもう全然平気ですよ。

 平気なのには違いないけどあれだな、今日は何だか冷えるからベッドの毛布はいつもより多めに被って寝よう。

 さっきから寒くて体の震えも止まらないしな、ははっウケる。

 

「はぁ……寝るか」

 

 人間どれだけ飯が食えない状況でも腹が減る様に、ベッドに横になり毛布を頭まで被った俺は心地良い感触と温度に、段々と眠気が襲って来るのを感じていた。

 

 明日からは決闘の為の稽古か……何をするかは分からないが態々他の屋敷に行ってする稽古だ、まず間違い無く今までよりキツい稽古にはなると思う。

今からでも抜け出す計画を立てれば決闘の日までには間に合うか? 

 

 そうして気付けば俺は心の中に溜まる一抹の不安と、【発案俺! クソッタレな紳士生活とはオサラバ計画!】を頭の中で考えながら、深い谷に落ちていく様に眠りについていたのだった。

 

 




久しぶりに書いたので短いです。
あと一応趣味で書いているので、気に入らない点があればそっとブラウザバックして頂けるとお互いの為になるかと思います。

そしてこんな駄文に付き合って下さる方は次の更新を気長に待て! 以上! 解散!
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