美食研究会の仮入部員は激辛好き   作:バランスストーン

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絆ストーリー1 激辛好きの求道者

 

 

「先生、おはようございます。急に呼び出してしまってごめんなさい」

「"おはようシオリ。気にしなくて大丈夫だよ"」

「ありがとうございます」

 

 私たちはD.U.から近すぎず遠すぎない駅に来ている。

 

 買い物に便利なショッピングモールがあるとか有名な観光スポットがあるわけでもないこの駅が集合場所になった理由は私の目的にある。

 

「"それで私に頼みたいことって?"」

「何から話せばいいか…まずはこの写真を見てほしいんですけど先生はこの店に見覚えありませんか?」 

 

 スマホの写真フォルダを開いて、あるスクリーンショットを先生に見せる。

 

「"なんとなく見たことがあるような…"」

「本当ですか!?実はこのお店ブラックマーケットにあるらしいんです」 

「"ブラックマーケットに?"」

 

 そう。今日、私たちはブラックマーケットの近くに来ている。

 

 『ブラックマーケット』、連邦生徒会が管理を諦めた地区。何らかの理由で学校を離れた生徒たちの溜まり場、治安も悪く様々な犯罪の温床となっている場所。

 

 ただ、それと同時に治安維持組織の監視を逃れたこの場所でしか手に入らない物も多い。

 

 私がここに来た理由もそうだ。ここで売っていると言われている()()()が欲しくて、ブラックマーケットのことも知っていると聞いた先生に案内を頼んだのだ。

 

 しかし、このお店は噂だとブラックマーケットの中心部にあり、相当危険な場所らしい。恩人である先生をこんな場所まで連れて行くわけにはいかない。

 

「私、ブラックマーケットには行ったことがなくて全く地理がわからないんです。先生には比較的安全な場所まで案内していただければと思いまして…あっ、もちろんお礼はしますので!私の用事が終わったら安全な場所の美味しいお店をご馳走しますから」

 

 

「"もちろん案内するよ。その代わりに私も最後まで着いていくね"」

 

「最後までですか?いえ、私のわがままで先生を危険に晒すわけにはいきませんし、途中までで大丈夫ですよ」

「"ううん、自分の身は自分で守るから気にしないで"」

 

「いえ、そういうわけにはいかないですよ!私じゃ先生を守り切れるかわかりませんし、先生はもっと自分のことを大事にしてください」

「"じゃあお店の案内はできないかな"」

「そんな!ずるいですよ先生!」

 

 それから15分ほど経ち、納得してくれない先生の説得を諦めた私は歩きながら今回の旅の目的を話し始めた。

 

 

「……先生はペッパーXという唐辛子を知っていますか?」

「"ペッパーX?聞いた事ないかも"」

 

「そうですね…簡単に言うと世界で一番辛い唐辛子でしょうか?キヴォトス中の激辛好きが一度は食べることを夢見る唐辛子です」

「"それは…辛そうだね。それがブラックマーケットに売っているってこと?"」

 

「はい、これが先生をお呼びした理由でもあります。この唐辛子はあまりに辛すぎて滅多に市場に流れてこないのですが、密かにここで売られていると情報を入手しました。私も激辛好きの端くれ。この機会を逃すわけにはいきません」

「"そういうことなら喜んで協力するよ!"」

 

 この情報の凄さを先生に伝えると、先生は笑ってというかニヤニヤしながら協力を申し出てくれた。

 

「本当ですか?ありがとうございます。ところで、あの、どうしてそんなに笑っているんですか?」

「"シオリが楽しそうだったから?"」

 

「楽しみなのは間違いないですけど、なんだか恥ずかしいですね…」

 

 

⭐︎ ⭐︎

 

「ちょっと待て!」

 

 その後も先生と雑談をしながら道を歩いていると2人組のスケバン風の生徒が私たちを引き止めた。

 

 

「悪いがここから先を通るには通行料が必要なんだ」

「おいおい、なんでこんなとこに先生がいるんだ?」

 

 言ってる側から変な人たちに絡まれてしまった。わかってはいたが、実際に絡まれるとすごく面倒くさい。

 

「おい!なんとか言ったらどうなんだ?」

「びびって声も出せない─うわっ!」

 

 近づいてきたスケバンたちにとっておきの唐辛子スプレーを吹きかける。使用回数も少ないので無駄遣いしたくなかったが仕方がない。

 

「痛ぇ!」

「なんだこれ!?」

 

 スプレーは彼女たちにしっかりと当たったようでこちらを追いかける元気は無さそうだ。

 

「先生逃げますよ」

 

 先生の手を掴んでそのままその場を走り去る。

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 その後もなぜか唐突に始まる戦闘や抗争からなんとか逃げながらようやく目的地に着いた。そこにあったのは風情を感じさせる中華料理店だった。

 

 どこからどう見ても普通の町中華だ。とてもじゃないが食材を販売するような雰囲気ではない。

 

「"このお店だよね?普通の中華料理屋に見えるけど…"」

「はい、情報の通りならこのお店のはずです。何があるかわかりませんから先生は私の側から離れないでくださいね」

「"うん…"」

 

 意を決して中華料理店の中に入る。中も変わった感じはなく、お客も普通に中華料理を食べている。

 

 

「いらっしゃいませ」

「こんにちは。テイクアウトで、餃子セットをお願いします。チャーハンの種類は海鮮チャーハンで」

「…っ!かしこまりました、こちらへどうぞ」

 

 そう言うと店員はカウンターの奥の部屋に私たちを通した。

 

「"さっきのは暗号?"」 

「はい、この合言葉で唐辛子を買うことができるとの情報でしたが、店員さんの反応を見るにガセ情報ではなかったようですね」

 

 そして数分後、店員さんが小さな木箱を持って部屋に入ってきた。

 

 

「お待たせしました」

 

 店員は木箱を机に出して中身を私たちに見せた。中には黄色と緑色をした小さな唐辛子が入っている。間違いないペッパーXだ。

 

「こちらがご注文の品になります」

「これが…ありがとうございます。」

「お間違えないですか?」

「はい、間違いないです。ありがとうございます」

 

 お代を渡して、唐辛子を受け取る。これが人生で一度は食べてみたいと思っていたペッパーX。確かにその色や形は禍々しさすら感じる。

 

「"嬉しそうだね"」

「はい!夢にまで見た食材ですので!」

 

 さて、どうやって食べようか。炒めてそのまま食べるか何かの料理に入れて味わうか…何にせよとりあえず調理できる場所に行きたい。

 

 

「そうだ先生、この後シャーレの調理室お借りしてよろしいですか?」

「"シャーレの調理室を? いいけど、どうして?"」

「せっかくですし、これを一緒に食べませんか?今日のお礼も兼ねて振る舞いますよ」

「"あ、ありがとう"」

 

 帰りは特に何もなく無事にシャーレまで帰ってこれた。唐辛子も無事だ。荷物だけ置いて、先生に調理室に案内してもらった。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

〈シャーレ調理室〉

 

「はい先生、ゴーグルと手袋です」

「"どうしてゴーグルと手袋?"」

「汁が目などに入ると大変なことになりますから念の為に。調理は私が行いますので先生は座ってお待ちください」

 

 先生にもゴーグルと手袋を渡したし、部屋はしっかりと換気して、他の生徒も入れないように頼んだ。これで調理に集中できる。

 

 木箱の中の唐辛子を眺める。5個入っているので大抵の料理に使えそうだ。さて、どうやってこの唐辛子を食べようか。

 

 刻んでペペロンチーノにでも使う?具材として使うならこれも良いけど…ここはシンプルに油で炒めて食べよう。どうせ食べるならシンプルにこの唐辛子の味を堪能してみたい。

 

 フライパンに油をひき、唐辛子を入れて炒める。焦げないように注意しじっくりと唐辛子を加熱する。

 

 唐辛子の刺激的な香りが調理室の中に充満し始めた。十分な色合いになったので火を止め、皿に移す。

 

 

「先生、お待たせしました」

「"美味しそうだね"」

「はい!あ、それと先生のために牛乳とチーズにレモンを持ってきましたよ」

 

「"乳製品とレモン?"」

 

「ええ、乳製品に入っているカゼインとレモンに入っているクエン酸が辛味の原因であるカプサイシンと結びつくので辛いものを食べる前に食べておくと辛さが軽減されますよ」

「"そうなんだ!シオリの分はいいの?"」

 

「ふふっ、日頃から十分に訓練された私には必要ないですよ。それじゃあ私から先に頂きますね」

 

 箸で唐辛子を一つ摘んでじっと観察してみる。色合いがとても美しい…これが世界で一番辛い唐辛子、神々しさすら感じる。

 

 次に顔に近づけ匂いを嗅ぐ。少し嗅いだだけで想像を絶する辛さなのがわかる刺激的な香り。

 

 視覚と嗅覚が既に危険信号を発している。この感じ…激辛料理を食べる時の醍醐味だ。覚悟を決めて、いざ!

 

「スコヴィル値1000万級の激辛、頂きます!」  

 

 

 味の感想は…普通の唐辛子と変わらない。うーん、あれ?思ってたよりそこまで…辛くはないかも。

 

 あ!後から辛さがやってきた。舌がじんわりと熱くなって…というか痛い?いや、痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 

 唇と舌が針で刺されてるようだ。世界一辛い唐辛子を舐めていた。辛いのが好きとか関係ない。普通に死んじゃう!

 

「せ、先生!牛乳!レモンを!」

「"ちょ、ちょっと待って!"」

 

先生が大慌てで牛乳をコップに注いでいるのが見える…これはダメなやつだ…視界が霞んで…意識が…

 

「うっ!」

 

 

「"シオリ!?"」

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

〈ゲヘナ学園〉

 

「おはよー」

「おはようございます、ジュンコさん」

「おはよ〜」

「おはようございます」

 

「みんな早いわね、あれ、シオリは?」

 

「先ほど先生からシオリさんは世界一辛い唐辛子を食べて入院したと連絡がありましたわ」

「何やってんのよ…また懲りずにアホなことやってるわね」

「せっかくですし、とびきり甘いお菓子でも差し入れしに行きましょうか★」

 

 





【後日談】

〈ゲヘナ総合病院〉

「シオリさんに差し入れの甘いお菓子です。辛いものばっかり食べちゃだめですよ★」

「わざわざありがとうございます。早速頂いてもいいですか?ちょうど甘いものが食べたくて…」

「もちろんです。どうぞ食べてください」

「あっ…甘くて美味しい。疲れた時は甘いも…いや甘すぎます!!なんですかこれ!?」

「世界一甘いお菓子『グラブジャムン』ですよ。喜んでもらって良かったです★」

「もう辛いのも甘いのもこりごりです…」
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