感想、評価、お気に入り登録ありがとうございます!
「ハルナ、例の店の2号店がゲヘナでオープンしたらしいですよ。夕食にいかがですか?」
「では、車があることですしこれから行きましょうか。シオリさんも嫌でなければ一緒にいかがですか?」
「特に予定はないから迷惑でないならぜひ。あの…例の店って?」
「ええ、おいしい和食を出すお店です。本店は百鬼夜行にあるのですが、とても美味しくて私たちもよく行きますわ」
百鬼夜行の和食か…昼食に香辛料たっぷりの料理を食べた後なので素材本来の味を楽しむ和食は今日の夕食にピッタリかも知れない。
「迷惑だなんてとんでもない!ぜひ行きましょう!」
「ここから車で1時間半ぐらいでしょうか。私が運転しますので皆さんはゆっくりされててください★」
「では私はお店に予約の電話しておきますか」
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
〈ゲヘナ中央3番道路〉
車に揺られ30分ほど同じ光景が続き、ウトウトしているとハルナさんが真剣な顔をして話しかけてきた。
「シオリさん、今回のお出かけで美食の真髄を感じることができましたか?」
きっと、ハルナさんは今日、私を連れてきてくれたのは美食についてだけが目的ではなかっただろう。彼女は私が楽しめているのか気にかけてくれていたのだ。
どんな目的で私を連れてきてくれたのかは想像することしかできないけど、彼女が私のことを忘れていなかったことを知れたのが何よりも嬉しかった。
「そうですね…味ももちろん重要ですが、人と食事を楽しむことが一番の美食なのかもしれませんね」
「一人で簡単な料理を作って、手早く食事を済ませるだけの生活を続けてたら一生わからなかったと思います」
「今日は本当にありがとうございました」
彼女の手を取って、感謝の気持ちを伝える。ハルナさんは少し照れたように顔を紅潮させた後、笑顔を見せて私の手を握り返した。
「なるほど…シオリさんは『美食とは何か』という問いにそのような答えを見つけたのですね…」
お互い無言の時間が続き、何だか恥ずかしくなって手を離す。沈黙が耐えられなくなって質問する。
「ハルナさんにとっての美食の真髄って何ですか?」
「それは…まだ研究している最中ですわ」
「えっ!ハルナさんだけずるいですよ!教えてください」
「そうですね、シオリさんがもっと食に興味を持つようになったら教えて差し上げますわ」
なるほど、ハルナさんの美食への考えは今の私では理解できるレベルにないということだろうか。
「それなら…イズミさん!いつも教室で食べていらっしゃる『それ』について教えていただけませんか?ずっと気になっていたんです!」
「ん〜、これ?私のオリジナルハンバーガーだよ?」
「いつも教室でハンバーガーを美味しそうに食べていらっしゃるので興味があったんです。この機会に私にも頂けないでしょうか?」
「もちろん!はい、どうぞ!」
イズミさんは手に持っていたハンバーガーを笑顔で私に手渡してくれた。
朝も昼も授業中もいつもハンバーガーを手にしている彼女。幸せそうな顔をして頬張っているそのハンバーガーの味が気になっていたのだ。
「シオリさん…やめといた方が。いえ!友が未知の食に立ち向かおうとしているのにどうしてそれを止めることができましょうか!何でもありませんわ、ぜひ余すことなく味わってください!」
「 …?ではお言葉に甘えて。いただきます」
まず感じたのは磯の香り。次に舌から牡蠣の味が伝えられ、それに続いて唇にくっつくワカメの感触と少し生臭い香り。
コンセプトはシーフードハンバーガーだろつか?彼女はナマコを学校に持ってきていたぐらいなのでシーフードが好きなのかもしれない。
そして時間を置いてゆっくりと感じられるワサビとチョコミントの風味
なるほど…食本来の味と合成調味料の味が不協和音になるような形で合わさって…なんだか目の前が急に真っ暗に…
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「うぅ、海の幸と…ミントのインファイト…はっ!」
「あら、目が覚めました?」
「私は一体?」
「イズミのゲテモノ料理をたべて気絶してたのよ」
「なるほどこれが脳の処理が追いつかないほどの美味しさということですか」
「美味しかったの?じゃあ、これからはシオリの分まで作ってあげるね!」
「あ、ありがとうございます…」
「皆さん、着きましたよ〜★」
私が気絶している間に着いてしまったらしい。私も見覚えがある場所なので学園からそれほど遠くない場所だと思われる。それにお店も有名店の二号店だけどあって大きい。
「なかなか派手ですね、それにしてもネオンの光の主張も強すぎるような…もう少し落ち着いた雰囲気の料亭をイメージしていましたが本店の方もこのような雰囲気なのですか?」
「いえ、本店は歴史ある由緒正しい料亭ですわ。なるほど…申し訳ありません、車に忘れ物をしたことを思い出しましたので少々お待ちいただけます?」
そう言って彼女は車の荷台から人が一人入りそうなほどの大きなバックを手にして戻ってきた。
「お待たせしました。では行きましょうか」
「すごく大きなバックですね。中には何が入っているんですか?」
「そうですね…一言で言うとお守りですかね、ふふっ」
言葉を濁す彼女にこれ以上の追求はできず、気を取り直して店へ向かう。扉を開けると中には忍者や桜など百鬼夜行をこれでもかとイメージさせる内装で溢れていた。
外装で覚悟していたが、内装もなかなかだ。呆気に取られていると金色の和服を着た店員が案内に来た。
「いらっしゃいませ。ご予約はございますでしょうか?」
「黒舘ハルナの名前で予約してます」
「確認が取れました。ご来店ありがとうございます、荷物はこちらで預からせていただきます。お席までご案内しますね」
予約の有無を聞かれ、店の中に連れて行かれるとそこには派手な装飾を施したテーブルと椅子。このお店は見た目のインパクトで勝負している店なのかと思うほどの派手さをしている。
本店の話を聞いていただけに、落ち着いた雰囲気で食事できると思っていたので少し残念だ。
そして、私たちが着席して5分ぐらいすると和服を着たウエイターが料理を持ってきた。
「先付けのじゃがバターになります」
「じゃがバター!?ここは和食のお店ですよね!?」
「ええ、じゃがバターは百鬼夜行発祥のものであり、和食に該当すると私どもは認識しております」
店員の方はそう説明してくれたが、和食と言われてじゃがバターが出てくるとなんだかモヤっとする。
「………」
「あらあら★」
その後も
「吸い物の豚骨スープになります」
「向付けのカリフォルニアロールになります」
ここまで想像を超えられるとこれが普通なのかもと錯覚しそうになる。もしかしたら百鬼夜行の本店もこのような感じで、それが評判を呼んでいるのかもしれない。
「えぇ…あの、ハルナさん、本店の方もこのようなメニューを出されるのですか?」
「いえ、本店は洗練された和食を出すお店でしたわ。ここまで違うとなると何か深い理由があるのかもしれません。シェフの方に聞いてみましょうか。あの、すみません、シェフの方と少しお話ししたいのですが」
少しして、コックコートを着た男性が私たちの席にやってきた。
「どうされましたか?」
「こちらで出されるメニューが本店のメニューと大分異なっているようなのですが…」
「ああ!二号店ではゲヘナの方々向けにメニューをアレンジしているんですよ。私ども本店の料理は食べましたが、あちらの味付けではどうにも売り上げに不安が残りますからね」
「そうですが、よくわかりました。ありがとうございます」
ハルナさんは笑顔で一言お礼を言って終わりにしてしまった。もっとトラブルになるかと思っていたが噂よりも大人しかったらしい。
そして、私たちはその後も和食という名のB級グルメが出されたのだった。
「お会計ありがとうございました。またのお越しをお待ち申しております」
「ええ、ではご機嫌よう」
ハルナさんの感想が聞きたくなり、私の感想も含めて話しかける。
「ハルナさん、このお店どうしでしたか?美味しかったですけど、洗練された和食が食べられると期待していたので少し残念でした…あれ?先ほどの荷物はどうされたんですか?」
「ええ、あれはもう必要なくなりましたので置いてきました」
「それはどういう…」
ドカアアアアアァァァァン!
「シオリさん、誰も使っていない流し台で水が流れっぱなしなっていたらどう思いますか?」
「え…え?水を止めなきゃと思うんじゃないでしょうか?」
「私たちが行うのはそういうことです」
「???」
「やることはやりましたし、帰りましょうか」
「そうですね」
振り返ると煙を上げ、無惨な姿となった二号店があった。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「う〜ん、そろそろですかね★」
「何が?」
「規則違反者どもそこまでだ!」
「あら、イオリさんお久しぶりですわ。連邦生徒会がトラブル続きで風紀委員会もお忙しいとお聞きしましたが、その様子を見るにそこまでではないようですね」
「忙しくないわけあるか!連邦生徒会長が姿を消したせいであちこちで混乱が起きてるんだ!だからお前たちをすぐ捕まえて次の現場に行かなきゃいけないんだ!」
「なるほど、では暇を持て余してる彼女たちのために少しだけ相手をして差し上げましょう」
「だから暇じゃないって言ってるだろ!あーもう、本当に話が通じないな!」
ツインテールの子が他の風紀委員会の生徒たちに指示を出すと同時に、私たちも車から降りて近くの遮蔽物に身を隠す。
ツインテールの子は特に強いのでハルナさんたちが相手をしている。私はホルスターから愛銃を抜き、彼女たちを狙う風紀委員に向けて発砲している。
私は特段強くもないから一撃で風紀委員たちを倒せない。でも牽制にさえなれば問題ないだろう。
「潮時ですね、シオリさんもいることですし今日はこの辺でお開きとしましょう。アカリさん、車出してもらえますか?」
「はい★」
「あっ!待て!逃げるな!」
戦闘が膠着状態となったのを見計らってアカリさんが車を動かし、風紀委員会の隊列を突破した。
荷台で寄りかかって銃で撃たれた場所をさする。誰も大きな怪我をせずに脱出できたのだ、上出来だろう。
「戦闘するってこんなに大変なんですね」
「ううん、今日はシオリがいてくれたおかげでいつもよりは楽だったよぉ〜」
「イズミさん、ありがとうございます」
「確かに視野が広いというか、全体を見れてたわよね。なかなか戦う才能あるんじゃない?」
「そこまで言っていただけると恥ずかしいです…」
「おや、この先に風紀委員の方が集まっていますね」
この先の大きな十字路に風紀委員の生徒が集まっていた。双眼鏡で覗いてみると、十字路を右に行く道にだけは厳重に守られてるが、前方と左方は頑張れば突破できそうなくらいには隙がある。
あちらも私たちを発見したのか無線でどこかと話している。
「確かあの道は真っ直ぐ行くと学園までの1番の近道で、左に行くと大きな橋がありましたね」
「まっすぐ行くのがいいんじゃない?近道だし、ちょうど風紀委員の数も少ないし」
確かに真っ直ぐ進むのが学園までの最短距離だ。だけど、なぜ風紀委員会は学園から1番遠回りの道に1番多くの人員を配置しているのだろうか?
「いえ、右方向がいいと思います」
「あら?なぜですか?」
「前方と左方向は不自然なほどに人員が少ないのに加えて、右にいる方たちも本気で戦おうとしている感じでもないです。私たちをどちらかに誘導して、そこで改めて戦おうとしているのだと思います」
「シオリさんはこの状況でも落ち着いて周りを見れているのですね。なるほど…では、助言に従って右に行きましょうか!」
「了解です!皆さん、掴まっていてくださいね★」
「うわ!こっち突っ込んできた!逃げろ!!」
アカリさんが急ハンドルを切って右に行くと、まさか来ると思っていなかったのか大勢いた風紀委員も慌てて車を避けて行った。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
side 風紀委員会
「え?美食研究会がこっちにこない?」
「ええ、封鎖していた道を無理やり突破したようです」
「アコちゃん、やっぱり普通に十字路で待ち伏せしといた方が良かったよ」
「なんですか!?私の完璧な計画が間違えだったと言いたいのですか!」
「いや…失敗してるから完璧じゃないじゃん…」
「はあ…今から追ってもどうせ捕まらないし今日は… 「委員長!ゲヘナ西区で温泉開発部が!!」みんな準備して…行くよ」
「なんだかこのところずっと忙しいですね」
連邦生徒会長が表舞台から姿を消して数週間。風紀委員会は悪化する治安とその対応に追われていた。
それこそ風紀委員長のヒナはまともな睡眠を取れないほどに。その場しのぎの解決ではなく、根本的な解決をする必要があると風紀委員長としてヒナは決断した。
「そうね…チナツ、悪いんだけど明日D.U.に行って連邦生徒会、いえ連邦生徒会長に何が起きてるのか聞きに行ってもらえないかしら」
「わかりました。連邦生徒会長には納得できる説明をしてもらいます」
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
〈ゲヘナ学園裏門前〉
「追手は来ていないようですね」
「諦めたのでしょうか?」
「到着〜★」
風紀委員会を振り切り、ようやく辿り着いたゲヘナ学園。午前中までここにいたはずなのにすごく懐かしいような気持ちになる。
給食部の車を駐車場に駐車し、帰る支度をしているとハルナさんが話しかけてきた。
「シオリさん、美食研究会に入りませんか?」
「え?」
「シオリさんに美食の探求するのを手伝っていただけませんか?」
「いえ、ここは本音で話した方が良いですわね。疎遠となってしまった友人ともう一度食事を楽しみたいのです。もう一度、私と友人になってもらえませんか?」
車でドライブして美味しい料理を食べて、戦って逃げて、昨日までの自分なら考えすらできなかっただろう。
だけど、楽しかった。ゲヘナ学園に来てからしてきたことよりもずっと…比べようがないほどに。
食事をみんなで楽しむことを知ってしまった。このまま誘いを断っても、もう元の生活には戻れはしないだろう。たった一回の食事が私を変えてしまったのだ。なら彼女たちにはその責任をとってもらおう。
「皆さん…では今後ももう少しだけご一緒にさせていただいてもよろしいですか?」
「もちろんですわ!」
「同志は増えれば増えるほど良いですからね★」
「うんうん!私もシオリと一緒にご飯食べたい!」
「先輩になるって悪くないわね」
こうして私は美食研究会の一員になった。
時系列としては先生がキヴォトスに来る前日です。今後は先生とも関わらせていけたらと思います。
プロローグで既に仮入部員ではなくなりましたがご容赦ください