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私が美食研究会に入部してから2週間が経った。最近のキヴォトスは先生と呼ばれる大人がやってきたり、矯正局から囚人が逃げ出して暴れていたりと何かと慌ただしいことになっている。
ただ、そんな今のキヴォトスで私は何をしているかと言うと、美食研究会のメンバーと一緒にご飯を食べたり、家で料理の研究したりと至って平和で平凡な日々を過ごしている。
今日はどんな料理を作ろうかなと考えていると、イズミさんが教室に入ってきた。
「シオリ、おっはよぉ〜」
「イズミさん、おはようございます」
「あ!Eat or dieのワッペン可愛いね」
「ふふっ、ありがとうございます」
このワッペンは美食研究会に入部した記念にハルナさんから頂いたものだ。皆から仲間だと認めてくれたみたいで嬉しくて、制服の胸ポケットの位置に縫い付けてある。
「何見てるの?料理のレシピ?」
「これは私の研究成果ですよ。どうです?なかなかの物だと思いませんか?」
私は表紙に実験ノートvol.1と書かれたノートをイズミさんに見せた。この実験ノートは私が日常で食べて美味しかった料理を自分なりに再現してレシピにして残したものだ。
この飽食の時代、自分が美味しいと気に入った料理があったとしてもお店が遠くにあるため行けなかったり、そもそも店が潰れてしまっていたりして次に来た時に味が変わってしまうことは珍しくない。
なので、私が美味しいと感じた料理を自分なりに再現し、レシピとして残すことで何度でも食べることができるようにした。これがこの実験ノートだ。
もちろん完璧に同じものというわけにはいかないが、食べればその料理を思い出せるぐらいのものは作れており、出来栄えには満足している。
「へ〜そうなんだ!これって一昨日食べたスパイスカレー?」
「はい。スパイスの特定が難しくて再現がとても大変でしたが、やっと自分なりに納得のできる完成度にできました。昨日、学校を休んで一日中、試行錯誤していた甲斐がありました!」
一昨日、美食研究会のメンバーでとある自治区まで食べに行ったスパイスカレー。
ゲヘナでも手に入る香辛料をあちこち探し回り、何種類も組み合わせを試し、納得のいく味を見つけた時にはとうに日付を超えていた。
「あのカレー美味しかったよね!また食べたいな〜」
「実は試作したカレーの残りを今日のお昼用に持ってきてるですが食べますか?」
「うん!食べる!今食べたい!」
「今ですか?これから授業ですけど…」
「勉強はいつでもできるけど、食事は一期一会なんだよ?」
「一期一会…確かにそうですね!では、食堂の電子レンジで温めてから食べましょうか」
「うん!行こう!」
自分の興味があることに共に興味を持ってくれる友人を持てるということはなんて幸せなんだろう。
そんなことを考えながら、弁当箱が入った袋を手に取り、食堂に足を向けた。
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第8学生食堂
「いい匂い〜」
弁当箱に入っていたカレーとご飯をお皿に移し、食堂に置いてある業務用な電子レンジで温める。
十分に温まっていることを確認し、食器棚からスプーンを二つ持って席に座る。
見た目と匂いは問題なさそうだが、人様に食べさせる前に毒味としてスプーンでルーとご飯を掬って一口食べる。
味は問題ない。我ながら一昨日食べたスパイスカレーを良く再現している。
「うん、大丈夫そう」
「早く私にも食べさせてぇ〜」
よだれを垂らして私の方に身を乗り出しているイズミさんに向かってカレーが乗ったスプーンを差し出す。
「はい、あ〜ん」
「あ〜〜ん、わぁ!美味しい!」
「本当ですか、ありがとうございます。うふふっ」
「え〜何で笑うの?」
「何でもありませんよ、ふふ」
イズミさんは食事する時にすごく美味しそうに食べるから、作った私も見てて嬉しくなる。
「何してるのよ…あんたたち」
イズミさんと食べさせ合いっこをしていると給食部、部長のフウカさんがやってきた。まだ9時なのにその手には大量の食材を持っている。
「あら、フウカさんも今日は早いのですね。普段はもう少し経ってから昼食の準備をしていらっしゃると記憶していましたが」
「ええ、今日はジュリがお休みだから。いつもより早く来て下ごしらえしとくことにしたの」
「あらら、大変ですね」
給食部はマンモス校であるゲヘナ学園の生徒の食事を作るという無茶をしているのにもかかわらず、ただでさえ少ない部員の一人が減っているとなればそれはもう大変な事態だ。
「大変だと思うなら作るの手伝ってよ…料理できるでしょ?」
「私はゲヘナ生を満足させることができる程の腕前ではないので…」
「私が手伝ってあげようか?」
「遠慮しとくわ」
フウカさんにも一口食べてもらい、レシピのアドバイスをもらったりしていると前の授業の終わりの鐘が鳴り、生徒たちが話す声が聞こえてきた。
1限目からサボっているので次の授業は出たほうがいいだろう。最近は授業に出ないことも増えているので少しでも出席しておいた方が賢明だろう。
「イズミさん、そろそろ戻りましょうか。フウカさんも頑張ってくださいね、何か作ったらまた差し入れに来ますね」
「ありがとう。あなたも美食研究会が嫌になったら給食部に来なさい」
「ありがとうございます」
教室に戻ってきた後はしっかりと授業を受けた。自前のカレーを食べてしまったので、昼食は忙しく料理を作っているフウカさんを横目に給食部の学食を頂いた。
給食部はレベルの高い合格点を越える学食をオールウェイズ出せていることのすごいと思う。
学食はジュリさんがいないこともあり、人数制限がかかったのだが、学食を食べれなかった生徒が暴れ出したりと大変騒がしいことになっていた。
そして、午後の授業が終わってハルナさんから18時に学園の裏門に集合との連絡を貰い、今に至る。
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〈ゲヘナ学園裏門〉
少しずつ空が暗くなっていく中、美食研究会の会員4人が集まっていた。もう1人の会員であるアカリさんは車を取りに行っているとのことらしい。
ハルナさんから今日のことについて何も聞いていないことを思い出し、彼女に問いかけた。
「ハルナさん、今日はどちらに行くのですか?」
「アラバ海岸に行きますわ」
「え〜こんな時期に海いくの〜、まだ2月だよ〜!」
イズミさんが文句を言っているが、たしかに不思議な選択ではある。アラバ海岸、近辺に特に有名店などは無かったと記憶しているが、隠れ家的な名店の噂でも聞いたのだろうか?
「なんか食の祭典でもやってるの?」
「ジュンコさん、それは着いてからのお楽しみですわ」
今日のハルナさんはいつにも増して気合が入っている気がする。行き先すら教えてくれないとは何か理由があるのだろうか。
そんなことを考えているとアカリさんが給食部の車に乗ってやって来た。例によってアカリさんの運転で海岸通りまで向かうらしい。
「では、行きますよ〜」
私たちが乗ったのを確認したアカリさんがアクセルを踏み、学園の外へと出た。
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「アカリさんあそこに車を停めてください。着きましたわ」
「えっと…本当に何をするんですか?」
海に着いたと思ったら、連れてこられたのは防波堤だった。景色を楽しむなら明るいうちがいいし、冬なので海の家などもやっていない。
本当にハルナさんは何をやろうとしているのだろうか?
「今日はここで、皆さんに釣りをしていただきます!」
「釣り?」
正解は釣りだったらしい。正直、釣りはほとんど経験がないので上手くできるとは到底思えない。せめて足だけは引っ張らないように頑張ろう。
そんなことを考えているとハルナさんが説明をし始めた。
「先日、この場所で幻の怪魚と言われている黒漆太刀魚が釣れたそうです。普段は見ることすらできないと言われる魚です。美食研究会として見逃すわけにはいきませんわ!」
以前、本で読んだことがある。
曰く、黒漆太刀魚は太刀魚本来の美しい銀色である表皮が黒漆色になっており、生息域が光の届かない深海にのみで、産卵の時だけ浅い場所にやってくるとか…そのため捕獲がとても難しいらしい。
確かにそんな魚が堤防から釣れるとしたら確かに滅多にないチャンスだろう。私もシーフードは好きなので俄然やる気がでてきた!
「竿と仕掛けは既に用意してあります!さあ、皆さん!の刀狩りを始めましょう!」
「「「「お〜!!」」」」
と意気込んでいたのだが…
「はぁ…」
「釣れませんね〜★」
「やっぱり私釣り向いてないよ、短気だし」
「あらジュンコさん、釣りにおいて短気というのは決して悪いものではないんですよ。早く魚を取りたいからと試行錯誤するので技能が上達するのが気が長い人より早いそうです」
「でも、釣れないしつまんない!」
釣りを始めてから3時間、私たちは太刀魚どころか他の魚すら釣れないという虚しい時間を過ごしていた。
イズミさんやジュンコさんは既に飽きてしまっている様子。まあ、私もずっとウキを見続けるだけだから気持ちはわからなくはない。
「やはり魚もこちらが初心者だと見抜かれているんでしょうか…そろそろ餌を交換…あれ?」
「シオリ、どうしたの?」
「なんだか竿が重たいような…」
餌を交換しようと竿をあげたら何故か竿が何かに引っかかっているような感じがする。根掛かってしまったのだろうか。
「ウキが沈んでますわ!シオリさん、竿を!竿を思いっきり引いてください!」
「ええ!?引く?え、えい!」
手から感じる竿の重さ、これは相当な大物かもしれない。魚は縦横無尽に泳ぎ回り、どうにかして針から逃れようともがいている。気を抜いたら竿ごと持っていかれそうだ。
「あの申し訳ありません、ハルナさん網を用意していただけますか?ちょっと大きい魚みたいで、一人では持ち上げられそうにないので…」
「ええ任せてください!網の準備できております!さあ、引き上げてください!
間違いない。これは黒漆太刀魚だろう。私の感がそう言っている。水面に見える魚影を見て、息を整えて、竿を一気に引き上げる。
「あ、見えてきましたわ!あら?」
「これは…アジですね★」
「ちっちゃくて可愛い〜」
水面に上がって来たのは15cmのアジだった。私はこの魚と死闘を演じていたのか。
「こ、こんなはずでは…」
キメ顔で網を用意してくれて言った手前、恥ずかしくてみんなの顔を見れない。チラッとみんなの方を見るとみんなニコニコして私を見ていた。
「もう、終わりでいいんじゃない?シオリが大物釣り上げたんだし」
「あの、ジュンコさん。顔がニヤけているように見えるのですが?もしかして、私のこと馬鹿にしてますか?」
「気のせい!気のせい!あはは」
「では、帰りましょうか。目当ての太刀魚ほどではありませんが仲間が大物を釣り上げてくれましたので成果としてはもう十分でしょう」
「ハルナさんまで馬鹿にして!」
「ハルナ、良いのですか?」
「自然相手ですからね、またの機会にチャレンジいたしましょう」
皆から揶揄われながら車に向かっていると、ヘルメットを被った女生徒が話をしながら通り過ぎていった。
「今回は儲かったな」
「まさかあの魚があんな値段で売れるとはな、一日中、海にダイナマイトを投げてかいがあったぜ」
「もうほとんど取り尽くしちまったしな。たしか黒漆太刀魚だったか?また数が増えたら捕まえに来ようぜ」
ダイナマイト漁!?魚の生態系に影響を与える最悪な漁の一つと言っても過言ではない漁をして黒漆太刀魚を獲ったのだろうか。貴重な魚を野蛮な方法で獲るなんて…
「許せない…」
「ちょっとシオリ!?」
私は女生徒が話している内容を聞くと同時にホルスターからハンドガンを抜いて彼女たちに発砲した。
「痛え!うわ、何だ!?」
「おい!襲撃だ!」
「では私たちも参るとしましょうか!」
「悪い子たちにはお仕置きしなくちゃですね〜」
「あぁもう、こんなんばっかり!」
「よ〜し、やっちゃうぞ〜」
ハルナさんたちの参戦もあり、戦闘はすぐに終わった。気絶した二人をロープで縛り、背中に「私たちはダイナマイト漁を行い貴重な魚を乱獲しました」と書いた紙を背中に貼っておいた。
「これに懲りたらもうしないことですね」
「さて、やることもやったので学園に戻りましょうか」
「なんだか今日は疲れましたね」
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〈ゲヘナ第一校舎〉
「シオリさん、イズミさん行きますよ!準備してください」
「わざわざ教室まで来てどうされたんですか?それに行くってどこへ?」
「トリニティに希少種のゴールドマグロがいるという情報を入手しました。先日は満足のいく結果ではありませんでしたし、美味しいお刺身のリベンジをしに行きますよ!」
「え?刺身!行く行く!」
今度はトリニティか…大丈夫かなぁ