美食研究会の仮入部員は激辛好き   作:バランスストーン

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エデン条約4

 

 

〈ゲヘナ中心街にある駅〉

 

 

 この駅はいくつもの路線が交錯するターミナル駅のはずだが不思議と駅員は見当たらない。

 

 

「駅まで来たのはいいけど行き先は?」

 

「風紀委員会の数も多いでしょうし、市街地方面ではない方が良いと思います。トリニティ方面に向かいましょうか」 

 

「え〜、またトリニティ〜?」

 

「トリニティ自治区に入るわけではありませんから大丈夫ですよ、イズミさん」

 

 トリニティでの経験がトラウマになってる彼女の頭を慰める様に優しく撫でる。

 

 

「ハイランダーの奴らに気付かれる前に早く行くわよ」

 

「そうですね」

 

 改札を飛び越え、ホームから線路に降り、そのままレールの上を歩いていく。

 

 レールの上はとても歩きづらい。私たちの普段の歩くスピードの半分くらいしかないだろう。隣の駅までそこまで遠いわけではないがこのペースだと30分はかかるかもしれない。

 

 時間がかかればかかるほど風紀委員会やハイランダー鉄道学園に見つかる可能性も高い。それに隣の駅まで何事もなく着いたとしても問題は他にもある。

 

 駅に着いたらハルナさん達と合流できそうな場所に向かうという話になっているが、彼女たちと未だに連絡が取れていないのだ。合流するも何も相手がいなければ合流できない。

 

 地下牢で別れてから既に短くない時間が経っているのにも関わらず連絡がないということは、彼女たちはおそらく風紀委員会に捕まったか、今も逃げている最中なのだろう。

 

 今もジュンコさんがハルナさんに電話をかけているがこの様子だと結果は芳しくなさそうだ。

 

「ジュンコさんどうですか?」

 

「ダメ、ハルナもアカリも繋がらない」

 

「困りましたね。私たちが風紀委員会の包囲網を抜けても肝心のハルナさん達がいなくては意味がないのに…」 

 

「もう置いてって逃げようよ〜」

 

「このまま連絡がつかなければその方が良いかもしれませんね」

 

 

 もし、このまま彼女達と連絡がつかなければ私たちがどうするかも考えなければいけない。この場で思いつく方法は3つ。

 

 1つ目は始発の電車を待って、学区外まで逃げる。2つ目は私たちだけで車を奪い、学区外に逃げる。3つ目はほとぼりが冷めるまで学区内で身を潜めてやり過ごす。

 

 しかし、どの方法もリスクが伴っている。

 

 1つ目の方法に関しては、風紀委員会からハイランダー鉄道学園に情報が伝えられて電車の中で捕まる可能性があること。

 

 2つ目の方法に関しては、私たちは運転が上手いわけではないので、もし一度でも風紀委員会に見つかったら逃げ切れはしないだろう。

 

 3つ目の方法に関しては、この厳戒態勢はエデン条約が結ばれるまでは続きそうなので私たちはそれまで何日も身を潜め続けなければならない。

 

 正直、どの方法を選んでもうまく行きそうな感じがしないのでできるならハルナさん達と合流したい。

 

 

「痛っ!」

 

「大丈夫ですか?ジュンコさん」

 

 目の前で盛大に転んだジュンコさん。スマホや銃も飛んでいき、割と悲惨なことになってる。涙目の彼女に手を差し出して立たせる。

 

「転んだだけよ、大丈夫。ん?」

 

「どうされました?」

 

「なんかレールが震えてるような…」

 

 そう言われてレールを触ってみると確かに振動を感じる。地震だろうか…

 

「あ、後ろから電車来てる」

 

「え!?2人とも線路の端に避けてください!」

 

 

 線路の端でうつ伏せになって電車を待っていると電車は減速せずにそのまま私たちの横を通過して行った。

 

「行ったみたいね」

 

「驚きました。終電が終わった後も電車は走るんですね…駅までもう少しですから急ぎましょう」

 

 そうしてスピードを上げて歩くこと5分程、ようやく駅が見えてきた。ホームから中を覗いてみる。しかし、この駅も駅員がいないようだった。

 

「さっきの駅もそうでしたけど駅員が全然いませんね」

   

「いいじゃん、好都合じゃない」

 

「それはそうですけど…もしかしたらハイランダーでも何か起こってるのかもしれませんね」

 

 

 そんな話をしながら改札を飛び越えて駅の外に出る。

 

 街と街のちょうど中間に位置にある駅なので寂れてもいないが、栄えているわけではない。この時間ということもあるだろうが駅の外にも人影はない。

 

 合流しやすい場所を見つけるため、駅から少し歩いていると公園が見えた。ジュンコさんが公園を指差し、疲れを感じる声で言った。

 

「たくさん歩いて疲れたし、少し休まない?」

 

「賛成〜」

 

「確かに今日はずっと動いているような気がしますね」

 

 公園のベンチに並んで腰をかけて一息つく。2人とも疲労困憊といった様子でベンチに座っている。

 

「まさかゴールドマグロからこんな大事になるとは思いませんでした」

 

「マグロは食べられないし、いろんな人に追いかけられるしでもうヘトヘトだよ〜」

 

 2人とも限界の様子なので銃弾などを補充した際に何かあった時のためにとバックに入れておいたおにぎりやパンを2人に渡す。

 

「実はさっきのコンビニでいくつか食料を持ってきてたんです。食べますか?」

 

「「食べる!!」」

 

「急いでいて味は確認してないので変な味に当たっても我慢してくださいね」

 

 

 2人に渡した後、袋の中から自分の分のおにぎりも取り出す。

 

 

「納豆バナナおにぎり?それに海鮮パン?」

 

「スルメ味だ!?やった当たりだね!」

 

「キウイ味?なぜこんな攻めた味のおにぎりを…?」

 

 

 バッグにある他のおにぎりやパンも見てみたが悪ふざけで作ったとしか思えないものしかなかった。

 

 とはいえ私もそれなりにお腹が空いているので意を決してキウイ味のおにぎりを口に入れる。

 

 

「あれ?」

 

 

 ご飯の甘さとキウイの酸っぱさが絶妙にマッチしていて思ったより不味くない、と言うより普通に美味しかった。2人のも一口もらったがどちらも美味しかった。

 

 悪ふざけで作られた商品だと思ったがこの商品達は製作者が試行錯誤の末に完成した商品なのかもしれない。見た目だけで判断した私が愚かだったのだろう。

 

「飽くなき美食への探究心をこんな場所で感じられるとは思いませんでした」

 

「そうね、まさか納豆バナナおにぎりが美味しいとは思わなかったわ」

 

 美食との出会いは場所を選ばないと言うが逃げている最中に出会えると想像もしていなかった。

 

 この経験もしっかりと記録に残しておくべきだろう。バッグから手帳を取り出して書き始める。

 

 

「シオリ、何書いてるの?」

 

「日記ですよ、美味しいものを食べた時とかに書くようにしてるんです」

 

「へぇ〜ちょっと見せてよ」

 

「いいですよ、少し待ってくださいね」

 

 

 これまでの経緯とおにぎりやパンの見た目や味の情報を書き終わったら2人に手帳を渡す。

 

 

「あ、懐かしい!お店は遠かったけど、あのイカ墨うどん美味しかったよね!」

 

「この麻婆豆腐、辛すぎてアカリとシオリしか食べられなかった料理じゃん」

 

「あの舌が痺れる辛さはなかなかお目にかかれませんからね。また行きたいです」

 

「私たちは行けないからアカリと2人で行きなさいよ」 

 

「そんな、冷たいですよジュンコさん。また一緒に行きましょうよ」

 

「やだ」

 

「シオリ、またこの店行こうよ!『虫と爬虫類の夜会』ここの料理すっごい美味しかったなぁ〜」

 

「そうですね…また機会がありましたら…」

 

「あはは、そんな顔しないで行ってあげたらいいじゃない」

 

 

 深夜にも関わらずお腹を満たして元気を取り戻した私たちは今まで食べた料理について花を咲かせたのだった。

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

「そう言えばこの前、家でラーメンを作ろうと思ってたんですけど、納得できるスープがなかなか作れなくて結局諦めたんです」

 

「ラーメンのスープって作るのに8時間ぐらいかかるんでしょ?やっぱり家だと難しいんじゃない?」

 

「時間も手間もかかりますからね。そう考えるとあの値段でラーメンを食べられるのはすごいお得なのかもしれませんね」

 

 

ドカアアアアアァァン

 

 

 公園からそう離れてない場所で大規模な爆発が起きた。風紀委員会がこの規模の爆発を意図的に起こしたとは考えづらいのでおそらく他の勢力だろうか?

 

「もう今度はなに!?」

 

「あちらで爆発があったみたいですね。爆発の規模的に風紀委員会ではなさそうですけど」

 

「そう…なら大丈夫ね。もう少し休んでいくわよ」

 

「ただこの爆発を受けて風紀委員会がここに来るということは否定できませんが…」

 

「何のんびりしてるの!?さっさと逃げるわよ!」

 

 

 爆発の反対方向へ一目散に走る。大規模な爆発はあの後も何度か起こっており、風紀委員会が来るのも時間の問題だろう。

 

 脇目も振らず逃げていると目の前の開けた場所に温泉開発部の生徒が見えた。

 

 

「なんでここに美食研究会の奴らが!?」

 

「開発を邪魔させるな!」

 

 

 数人の温泉開発部は私たちを見つけると仲間を呼び、撃ってきた。一本道なので射線を切ることもできず、仕方がないので電柱やガードレールに身を隠す。

 

 

「あいつら撃ってきたわよ!」

 

「先ほどの爆発は温泉開発部でしたか…確かに風紀委員会の地下牢から皆さんこちらの方向へ逃げてましたね。もしかしたら、ここは温泉開発部の本部に近いのかもしれません」

 

 

プルルルルル

 

 

「こんな時にハルナから電話!?」

 

「私たちで応戦しますから出てください!」

 

 

「ハルナ、アカリ!今どこ!?こっちも包囲網破ったけど、合流できそう!?」

 

「ぎゃーーーっ!風紀委員会が追いかけてきてる!!」

 

「温泉開発部も増援が来てます!」

 

 

『ジュンコさん、脱出作戦は取り消しです』

 

「えっ、何で!?」

 

『事情は後で説明します、ひとまず合流しましょう』

 

 

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

 

 その後、私たちは温泉開発部と風紀委員会をどうにか振り切ってハルナさん達と合流することができた。

 

 しかし、そこにはなぜか先生とトリニティの生徒達の姿もあった。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「皆さんご無事なようで何よりですわ」

 

「あの…それでどうしてトリニティの方と先生が?」

 

「ええ、今から説明致しますわ」

 

 

 

 掻い摘んで話すとトリニティの彼女達はトリニティのいろんな陰謀に巻き込まれた末にゲヘナで試験を受けることになり、その話をたまたま再会したハルナさんが聞いて、先生達を助けることを決めたらしい。

 

 

「試験会場は第15エリア77番街、廃墟の一階?随分と辺鄙な場所でやるんですね。しかも、開始時間が深夜3時ですか。流石にこれは…」

 

 

 第15エリアと言えば駅や繁華街からも離れた場所にあり、アクセスも悪いためゲヘナ生徒ですらほとんど行くことがない地域だ。

 

 現在の時刻は日付を超えたあたりなので急がないと午前3時には間に合わないだろう。

 

 

「土地勘がないと時間内に辿り着くのは難しいでしょうね。先生には風紀委員会への引き渡しの際にお世話になりましたし、私たちが責任を持って案内して差し上げますわ」

 

「"ありがとう!"」

 

「では行きましょうか★」

 

 





【木春シオリの日記】から抜粋

⚪︎月×日
イズミさんとゲテモノ料理店『虫と爬虫類の夜会』に行く。「蛇スープと蜂の子のソテー」を注文。ゲテモノ料理にそこまでの抵抗はなかったはずだったけど蜂の子の見た目が受け入れられず気絶してしまった。私の料理はイズミさんが代わりに食べてくれたらしい。蛇スープはとても美味しかった。

*食材の調達や見た目の問題から再現料理は作らない予定

───

おそらくエデン条約の話は次で終わりです。

今後はご飯食べに行く話が続いて、途中で何話かイベストの話がある感じになると思います。

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