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試験会場に先生を送るということは決まったがそれ以上の具体的なことはまだ何も決まっていない。
会場までのルートや移動手段、風紀委員会達、問題は山積みだ。
どうするのだろうかとハルナさんを見ると、
彼女は給食部の車を見ていた。私たちはいま10人いる。この車では全員乗れない。
「この人数だと車で移動はできませんね」
「10人で乗る車ではないですから。そうですね…車をもう一台お借りしましょうか」
そう言うと、ハルナさんは道路の脇に停まっていた温泉開発部の車の窓を銃で叩き割った。
彼女の突然の行動に動けないでいる私をよそにハルナさんはドアを開けてハンドルの下の配線を繋ぎ、エンジンを付けてしまった。
まさかこんなことまでできるとは思わなかった。ハルナさんと一緒にいると彼女の博識さには驚かされてばかりだ。
「そんな技術どこで学んだのですか?」
「以前、同じ部屋になった方から教わったのですわ」
「同じ部屋?ルームシェアとかしていたのですか?」
「風紀委員会の地下牢のルームメイトですよ★」
以前から不思議に思っていたが、アカリさんやハルナさんがそういった方面の知識に詳しいのはそういうことなのだろうか。
それだけ修羅場をくぐり、次の機会に活かしている。流石だ…
「私たちが先導しますから、先生たちはこの車でついてきてください」
先生たちに温泉開発部の車を運転してもらい私たちは改めて出発した。全員が車に乗れるようになり、スムーズに目的地へ向かうことができている。
もう夜も更けているということもあり、車の数も少なく、スピードも出せている。この調子なら問題なく時間内につけるだろう。
道中、温泉開発部や風紀委員会を見つけたら遠回りして進みながら目的地へと進んでいく。
幹線道路をしばらく進んでから峠道へと入っていった。
「ハルナ、どうして高速道路を走らないの?」
「高速道路を使うとどうしても繁華街の近くを走ることになります。今のゲヘナは厳戒態勢でふから風紀委員会に発見されるリスクは少ないに越したことはないですわ」
繁華街は目的地との中心に位置しており、馬鹿正直に進めばどこかで風紀委員会と鉢合わせすることは避けられないだろう。
風紀委員会に見つかれば当然、到着は遅れる。だからこそハルナさんは多少の時間ロスをしてでも回り道をすることを選んだのだ。
しかし、10分の安全を取るために20分以上時間を使ってしまった。同じ手段はそう何度も取れるものではないだろう。
ハルナさんにとっても苦肉の策だったようでいつもの余裕のある笑みは浮かべていない。
「次の街に入ったらガソリンを補充しないといけませんね」
「地図も欲しいです。あの辺りの詳しい道がわかれば近道が見つかるかもしれませんし」
「あと食べ物も!」
「イズミはさっきいっぱい食べてたじゃない…」
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
<ガソリンスタンド>
「これから先は休憩もできないことが予想されますのでトイレや買い物はここで済ませておくようにお願いいたします」
私もハルナさんの言葉に従いトイレを済ませて車に戻ると窓の外から先生が俯いて地面に座っているのが見えた。
顔色が悪いように見えるが気分が優れないのだろうか?少し心配になり、俯いている先生に話しかけながらペットボトルの水を渡す。
「先生、顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」
「"う、うん…ちょっと車酔いしたみたい…"」
どうやら先生は車酔いしてしまったらしい。確かにさっきまでの道は慣れてないと辛いだろう。
「カーブが多い上に荒れた道でしたから無理もないですよ。私、酔い止めを持ってますからぜひ飲んでください」
バックに常備している酔い止めを先生に渡す。
「"ありがとう"」
「お気になさらず。私もよく車酔いしますから常備してるんです」
「"そうなの?"」
「はい、美食はゲヘナの外にもたくさんありますから車で他の自治区に行ったりするんですが…それこそトリニティやレッドウィンターに行く時は追いかけられることも多くて、その時は私もよく車酔いしてしまいますね」
「"そうなんだ…大変だね"」
「大変と言えば大変ですけど、その分美味しい料理を食べれた時は嬉しいですから悪いことばかりではないですよ。もちろん限度はありますが」
ジャングルの中にあると言われている幻の木の実を探すため荒れた山道の中を10時間以上走った時は一生分吐いた。
その時の記憶を思い出して顔を顰めていると先生が急に吹き出した。
「"シオリは前向きだね"」
「そうですか?まあ、そうですね…いろいろありまして私もこれからは前向きに生きようって決めたんです」
「"すごく良いと思う!"」
まだ出発まで時間があったので、先生といろんな自治区の美味しいお店について話していると前から2人の生徒が近づいてきた。
「なんで温泉開発部の車がここにあるんだ?」
「おい、このナンバーさっき盗まれたった報告が来てた車じゃないか?」
まさか温泉開発部がここにいるとは思わなかった。面倒ごとは避けたい。笑顔を浮かべ温泉開発部の生徒に話しかける。
「どうされました?」
「おい!どうしてお前たちがこの車に乗ってるんだ?」
「ええと、それは…」
話し合いはできそうにない。戦闘は避けられなさそうだ。バレないようにホルスターの銃に手をかけ、その時を待っていると
バン!バン!
「ハルナさん!?」
「"ハルナ!?"」
「こうした方が早いですわ。他の仲間が報告している可能性がありますし、どちらにしてもここは早めに立ち去った方が良いですわね」
説得は難しかっただろうけど、それにしたって背後からいきなり奇襲は相手が気の毒なような…いや、やりすぎって思うほど用心した方が良いだろう。
私も少し浮かれていたのかもしれない。これからの道では戦闘は避けられない。私も気を引き締める必要があるだろう。
「彼女たちはどうしますか?」
「すぐに目覚めはしないと思いますが追ってきたら面倒ですわね」
「それなら彼女たちを縛って、乗ってきたバイクを奪っておくべきだ」
話を聞いていたアズサさんが提案してきた。彼女たちのバイクを奪えば彼女たちが追ってくることはなくなるだろう。合理的な判断だ。
「それは良い案ですわね…問題は誰がバイクを運転するかですね。私はバイクの運転はしたことがありませんし、アカリさんは車の運転がありますから…」
「私もない〜」
「私もないわよ」
「私もちょっと…」
私たちは運転できないのでこのバイクはトリニティの方々に任せるしかなさそうだ。まあ、トリニティの方たちも経験は少なそうだが。
ハルナさんは悩むそぶりを見せ、ヒフミさんの方を見てバイクの鍵を渡した。
「では、ヒフミさん。バイクの運転をお願いですか?」
「え!?私ですか?私も経験ないですよ!?」
「ヒフミなら問題ないだろう。任せたぞ」
「私たちのリーダーですからね、バイクの運転ぐらい朝飯前ですよ」
「えぇ〜!!」
結局、運転はヒフミさん、その後ろにコハルさんが乗ることになった。何かあったら私たちもすぐに助けることになっているので、問題はないだろう。
「現在時刻を考えると高速道路で目的地までの時間を稼ぐ必要がありますわ。なるべく風紀委員会に見つからないように移動しますけど、何が起こるかわかりませんから先生たちも私たちの後ろを離れないでくださいね」
「"わかった!案内お願いね"」
「では、出発しま〜す★」
「あれ?アクセルは…って待ってください!」
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「ん…頭が痛い…」
「あ、フウカさん気が付きましたか?」
「シオリ?ここは?」
「あ!起き上がらない方が良いですよ」
「そんなに心配しなくても別にもう大丈夫よ、それで今はどんな状況なの?」
「いや、そうじゃな─」
ドカアアアアアァァン!!
「風紀委員会に追われている最中なので頭を出すと危ないですよ」
「本当になんなのこの状況!?」
出発した後、温泉開発部の車を盗んだのがバレて追いかけられていたり、待ち伏せていた風紀委員会と戦わざるを得なくなったりといろいろあったのだ。
「あらフウカさん、おはようございます」
「ちょっとハルナ!というか、ここどこ!?それに先生たちは?」
「ここは高速道路ですわ。先生たちとは温泉開発部と風紀委員会に追われる途中で運悪く逸れてしまいましたの」
「先生たちは迷うんじゃないのそれ…」
「目的地への地図は渡してありますし、連絡手段もありますから大丈夫ですわ」
「ハルナ、次の出口が500m先らしいけどどうしますか?」
「そのまま進んでください、ここで降りると先生たちと合流できなくなりますわ。予定していた出口で降りましょう」
その後、銃撃や砲撃をアカリさんのドライビングテクニックでどうにか避けながら進んでいくとようやく目的地の出口の看板が見えてきた。
「アカリさん、出口ですよ!」
「ええ、見えています。皆さん捕まっていてくださいね★」
「うわ!」
「ちょっと〜」
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
高速を降りて先生たちと合流して目的地を目指していたがまた風紀委員会に見つかってしまった。
「あっ、また風紀委員会がいます」
「え〜、また〜?」
目的地まではもう10分もかからない位置にいる。この風紀委員会たちを凌げば今回の旅は終わるはずだ。
ハルナさんは連絡用のトランシーバーでヒフミさんに連絡を入れた。
『ヒフミさん、聞こえますか?』
「はい!どうしましたか?」
『この状況だと私たちが最後まで案内するのは難しそうですわ。ここは私たちで陽動役を引き受けますから目的地に向かってください』
「えぇ!?」
『目的地はこの先の橋の前の信号を左折した先にありますわ。ではご武運を!』
「あ、あの…皆さん、本当にありがとうございました!」
「お気になさらず。これは先日のお礼ですから」
ハルナさんは連絡を終えると再び前を向いた。車を進めること3分程度ようやく橋が見えてきた。
橋を渡って逃げるのかと思っていたが、橋は工事中のようだった。通行止めの看板が立てられていて、何より橋の真ん中が繋がっていなかった。
ということはヒフミさんたちとは反対方向に逃げるのだろうか?
「風紀委員会はまだ追ってきていますね」
「アカリ!前方の橋、工事中!私たちも曲がって!」
「いえ、アカリさんこのまま真っ直ぐ進んでください」
「はあ!本気!?このままだと落ちちゃうわよ!?」
「よく見てくださいジュンコさん、むしろこの場合はスピードを上げて反対側まで飛んでしまった方が逃げ切れる確率は上がりますわ」
橋は工事中で反対側に繋がっていない。ハルナさんの言った通りに反対側に行くことができればもう風紀委員会は追って来られないだろう。
私は覚悟を決めて車の手すりをしっかりと握り衝撃に備える。荒唐無稽な話に思えるが彼女たちなら必ず成功するという予感があった。
「ゲームじゃないんだから無理にきまってるでしょ!?もういいから私だけでも降ろして〜!」
「フウカさんも応援してくださっていますから、私たちも覚悟を決めないといけませんね」
「皆さん行きますよ★」
「待ってええええ!」
上がっていくスピードと景色の移り変わる早さに恐怖を感じて目を閉じた。その数秒後、何かに乗り上げたような衝撃とそして浮遊感。
その日、私たちは宙を飛んだ。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
<ゲヘナ総合病院 >
テレビに映るエデン条約の顛末。私たちはそのニュースを病院のベットの上で見守っていた。
結局、車は川に突っ込んで沈み、川に放り出された私たちは川底の石に体を削られ、気がついた時には病院のベットにいた。
「これにて一件落着ですわね」
「どこが!?車はしっかり弁償してもらうんだからね」
「もちろん、利息をつけてお返しいたしますわ。出世払いで」
給食部の車は川の藻屑となってしまったらしい。フウカさんに聞いたら、あの車は新車だったらしい。あまりにも可哀想なのでお金が入ったら私も多少はお金を出そう思う。
ただ、私たちの奮闘の甲斐もあり、先生たちは時間内に試験場所に辿り着いたということを後から聞いた。
トリニティとエデン条約のいざこざもテレビを見る限り終わったようだ。一件落着と言っていいだろう。
そんなことを考えながら私は病院食らしく味の薄いスープを啜った。
「病院食なのはわかってますけど流石に味が薄いですよね…」
「ここの病院食あんまり美味しくない〜!早く退院したい〜」
「ハルナ、そういえば万魔殿の方々もここに入院されているらしいですよ★」
「あら、それは良い機会ですわ。ここの病院食の問題点を3つほど見つけましたので万魔殿の方々に直接訴えに行くとしましょうか」
「あんたたち元気ね…」
エデン条約編がやっと終わりました…先生を登場させるためだけに書いたのに思ったより時間がかかりました。お付き合いいただきありがとうございました!
今後は3日に一話ぐらいのペースで投稿していきたいと思っておりますのでよろしくお願いします!