原神詳しいわけじゃない上に神の目も無いけどそれでも可愛い女の子を守りたい 作:あんに
騒がしかったヒルチャール達が一斉に鳴りを潜める。
や、やった?
辺りを静寂が支配する。木が揺れて木の葉が擦れ合い、カサカサと音を立てる。
グルンッ
突如その巨体の上半身が振り向き、二対の角のある奇妙な仮面と目があった。
エミ「ひっ!」
その巨体は立ち上がり自身に見合う程大きな斧を持った。仮面に出来た影が嘲笑っているように見える。
「kucha ika yaya」「kucha nini」
ヒルチャール達も再び活気を取り戻し待ち切れないとばかりに踊り出した。
暴徒が斧を振り上げる。
私……なんにも出来なかった……本にもないような薄っぺらい人生……
『あの……エミちゃんってめっちゃ可愛いね!』
『エミちゃん行こ』『エミ』『………エミちゃん?』
『エミちゃん!』
……セイ……ごめんなさい。
私という物語を諦めて目を閉じた。
…背中を押された。弾みで転ぶ。
勢いよく目の前を何かが通り抜けた。
溢れる音がする。転んで付いた手に温かい何かが付着した。
……何が……………ッ!!
目を開けると地面の草花が真っ赤に濡れていた。
血……
不思議とどこも痛くない……なんで
手を横にずらすとナニカに触れた。そこには腕があった。
腕?でも私のは2つとも……この腕……
その泣き別れた腕には見覚えがあった。
……優しくてかっこいい手
悪寒が走る。まさか……いや、やめて……やめてよ……
顔を上げる。そこには……片腕を失ったセイが居た。
エミ「……あぁ」
あの時私を押してセイは助けたのだろう。その代償に片腕を切り落とされてしまった。
私は、何も出来ない愚か者どころか仲間を殺す畜生に成り下がるのか、ホントに救えない……もう……死にたい……
エミ「セイ…逃げて……すぐに治療すればきっと治るから……」
それなのに……セイはまた……私の前に立った。
セイ「うわ、グッロ……こんなにもスッパリいけるもんかね」
服の裾を破って歯を使い、キツく切断面を縛る。
セイの服を引っ張って訴える。
エミ「逃げて!!私が時間稼ぐから!!」
セイ「ん、いやだね」
キッパリとそう答えた、まるで当然かのように
エミ「お願い……私を……これ以上惨めにしないで……せめてセイを守って……少し勇気のあった村人として……死にたい」
セイ「ちっちっちっ、エミちゃんその必要は無いぜ。何故なら……ここでコイツは俺に倒されてしまうからだー!!!!」
姿勢を低くして疾走する。暴徒の横薙ぎの一閃を同じく横に転がる事で回避した。頭のすぐ上を斧が通り過ぎ髪の毛が切れる。
ここで決める。暴徒はその巨大な斧を振るうための隙も相応に大きい。
護身用に持ってきた片手剣を逆手に持つ。
ヒルチャールの高台の支柱へ向かって跳躍し、それを蹴ることでより高く跳ぶ。
セイ「おぉっ!!!」
落下しながら暴徒の頭へ片手剣をぶっ刺した。
深い、80cm程あった剣の30cmが頭に潜り込んでいる。ヒルチャールだからか出血はない。
………やったか?
「ye dada」
下から低いくぐもった音が聞こえた。
スパッと残っていた剣を握る左腕も切り落とされた。
あぁ
俺
死ぬかもな
その時ようやく自身の死を悟った。
エミ「ッ!ーーーー!」
エミちゃんが声にならない悲鳴をあげている。
腕を切り落とされ、支えを失ったことで地面に落ちる。
背中から落ちて肺の空気が押し出された。
血が足りない。寒い……寒い…な。
暖かい。抱き上げられている。
エミ「一人にはしないから……一緒に……セイ、大好き………」
良い匂いだな……なんだっけ………家の近くにも生えていた………そう、スイートピーだ……あれに似ている。
エミ「ごめん……ね」
エミちゃんの涙が俺の頬に溢れる。
何に対して謝っているのだろう………分からない。
……あぁそうか、俺がエミちゃんを守ったんだった。
なら、いいよな
セイ「エミ……ちゃん」
エミ「っ……なぁに?」
優しい声色で返事をしてくれた。ほんと可愛いなぁ
セイ「お礼にエッチなこと……してほしいなぁ」
エミちゃんは頬を染めた後、はにかみながら笑った。
エミ「……うん」
彼女は唇を合わせた。柔らかくて暖かい。
というかエッチなことで最初にチュウが出てくるって……ブフッ
さぁ……魔法はかけてもらった……
行くか
エミ「ど、何処に行くの!?」
何処って……姫様を攫おうとするボスキャラのとこ?
エミ「もういい……もういいの……休んで」
そうだ、助けを呼んで来てよ。それまでコイツと闘ってるからさ、そうだ、そうしよう。
エミ「無理……もう歩くのもフラフラなくせに」
セイ「無理な……もんかッ……後ろに可愛いお姫様居るってのに、諦めて死ねるような………人間じゃねぇんだよ!!」
エミ「………!!」
セイ「行けッ!俺を、信じろ!!俺は絶対に…………負けない」
またセイが私の前へ立つ。
どうして………どうしてそんなに強くあれるの……両腕を切り落とされて……血をこんなに出して……
それなのに……どうしようもないくらいに力強い背中が目の前にある。
セイ「行けッ!俺を、信じろ!!俺は絶対に…………負けない」
もはやその負けないという言葉は確信だった。
弾かれたように走る、セイの言葉を守るために。
お願い………どうか風神様……セイを守って……お願い…
意識の繋がりが薄い……今にも倒れてしまいそうだ。
身体の寒さは、さっきの感触が温めてくれる。
大きな動きは出来そうに無い。最適最小最低限の動きでの回避が求められる………楽勝だな。
ヒルチャール暴徒が終わったかと言わんばかりに腰を上げた。誇り高い精神を持っているのだろう。死ぬならこういう奴に殺されたい……まぁ今回は死なんがな
近くに燭台がある……一石二鳥だ。
燭台の火で切断されたばかりの左腕の面を焼く
セイ「ぐぅぅぅ…!!ふぅ……ふぅ…」
生肉を焼いた香ばしい香りがする。食いしばった口の端から唾液が溢れる。
よし……目が覚めた。
もう少し踊ろうか
エミ「はやく!!」
一人の女の子に叫ばれた、ヒルチャール暴徒に襲われている友達がいると。
近くにいた騎士団員を集め、すぐにモンド城を出発した。
生存率は……女の子には申し訳ないが限りなく低いだろう。
ヒルチャール暴徒は神の目の無い騎士団員が3人がかりでようやく対等に渡り合えるレベルだ。それをただの神の目も無い子供が持ちこたえられるわけがない。
しかし、この女の子の絶対に死なせないという鬼気迫る覚悟に僕達も飲み込まれ、突き動かされていた。
「ーーーーーッ!!!!!」
獣の雄叫び……かと思った。
これは……何かの演劇だろうか……
目の前で両腕を失った少年が暴徒の斧を歯で受け止めている。
その満身創痍であるはずなのに滝が岩を打ち付けるような猛々しさに……幼い頃、絵本で見た勇者が目の前に現れてしまったような神々しさに…目を奪われた。
「なんて……」
誰かが言葉を漏らした。
セイ「ッぐ……あぁ!!」
少年が押し負けて吹っ飛ばされた。
されどその瞳には一つの業火が燃えている。
「行くぞ」「「「はッ!!」」」
エミ「セイッ!!」
エミちゃんが抱きついてくる。終わったのか
意識したとたん身体の力が抜けてきた。
無理もない、失血多量の中、身体を酷使したんだ。
よくここまでもってくれた。
あぁ…眠たい……今寝たら凄く快眠が出来そうだ。
セイ「ねむい……な」
エミ「寝ちゃ…ダメぇ!!」
セイ「わかった寝ない」
エミちゃんがそういうのなら我慢しよう。前で西風騎士団員と、暴徒とヒルチャールが戦っている。
コートを着た紅蓮の長髪の男が暴徒の前に立つ。
……ていうかアレ、ディルックじゃない!!??まじか!!かっけぇ!!そういえば一時期ディルックって西風騎士団に居たんだっけか
ディルック「お前たちはヒルチャールを、僕はこのデカブツを相手する」
「「「はッ!」」」
ディルックが暴徒に対し大剣を構える。
「………」
奴は新たな敵に様子を見ているようだ。
……ディルックが先に動いた。その重厚な両手剣を物ともせず俊敏な動きで斜めに斬り上げる。
斧の柄の部分で受け止められる。しかし、大剣に炎が纏わりつき柄を溶かしながら断ち切った。神の目を使ったようだ。
暴徒は己の得物がお釈迦になったのを確認すると投げ捨て突進をする構えを取った。
ディルック「……来い」
巨体が迫りくる。衝突するはずだったそれはディルックが蜃気楼のように歪み位置がズレたことによって回避された。
直立不動になった暴徒はやがて悟ったように呟く。
「ye……dada」
サラッ
灰になり全身が風に拐われた。俺が刺した剣がカランと音を立てて落ちた。
ヒルチャールの方も片付いたようだ。
ディルックが近づいてくる。ムカつくぐらいイケメソだな
ディルック「傷を見せろ」
両腕の断面をディルックに向ける。
ディルック「……片方は焼いて、片方は縛ったのか………なら下手にイジらない方が良いか」
ディルックが背中を向けてしゃがんだ。……乗れってことだよな。
背中に身体を押し付ける。脚を持って抱えてくれた。
ディルック「総員、帰り道も警戒を怠るな」
「「「はッ」」」
ディルックを中心に回りを騎士団員が固め、静かに歩みを進める。
ブドウと柑橘系が混ざったような心地良い香りが鼻腔をくすぐる。
畜生…イケメソな上に良い匂いもしやがるのか、しかも強いし、もうなんでも有りだな。
ディルック「君の名は?」
君の名は?前前前世からボクは君を探し始めたよ〜って違うよな、普通に答えよ
セイ「セイヘンです」
ディルック「セイヘン……君は…強いんだね」
セイ「強くなんて無いです。ディ………貴方の方がずっと強いじゃないですか」
ディルック「そういう強さを言ってるんじゃない、僕の強さは鍛えれば君もすぐに身に付くだろう。僕が言いたいのは精神的な意味だ」
セイ「強い……ですかね?」
ディルック「自覚が無いのか……得てして強者は弱者を知らず…か」
歩みを進める。モンド城が見えてきた。
セイ「まぁ、ただ」
ディルック「?」
セイ「女の子が後ろにいて負ける男なんて、居ないと思いますよ」
ディルックが一瞬立ち止まったが、すぐに動き出した。
ディルック「それを言える時点で君は強い」
セイ「……」
セイ「眠いですね」
ディルック「寝るなよ」
「緊急!!男の子、両腕切断、胴体、下半身に複数箇所骨折、裂傷です!!」
教会内がどよめいた。慌ただしく人々が動く。2人のシスターが担架を持ってきてくれた。
ディルック「僕はここまでだ。お大事に」
ディルックが担架に俺を乗せてくれた。
セイ「ありがとうございました」
良い匂いで快適な旅でした。
彼は後ろ姿で軽く手を振って去っていた。
エミ「あ、あの、あの!これ!!」
エミちゃんが何やら白い布で包まれた何かをシスターへ渡している。所々赤く汚れている。
……あぁ、俺の腕か。エミちゃんが持ってくれてたんだ……嫌な思いさせちゃったな。
モンドの医療機関は西風教会が担っているようでみな修道服を纏った人が対応している。
エミ「こ、これ、くっつきますか?」
「それは……診てみないとわかりません」
エミ「は、早く診てください!!」
エミちゃんが今にも泣きそうな顔でシスターに懇願している。
見てられないな。
セイ「エミちゃん」
エミ「ッセイ!!」
エミちゃんが駆け寄ってきた。
エミ「ごめんね、セイ……絶対治るから、だから、」
セイ「エミちゃん」
エミちゃんが押し黙った。
セイ「俺はね、別に腕が治らなくても良いと思ってる」
エミ「っ!な、なんで?」
セイ「エミちゃんのヒモになれるから」
エミ「紐?」
セイ「エミちゃんにずっと尽くしてもらって生きるから腕も別に要らないかなぁって」
エミ「尽くす……尽くすけど……セイの腕は戻って欲しい……」
セイ「そうだね」
準備が出来たようだ、運ばれる。
エミ「………」
セイ「あぁッ!!!!痛い痛い痛いッッ!!!!!」
「両腕切断されてたんだからこれぐらい大丈夫でしょ」
セイ「あれは魔法が掛かってたからぁ!!!」
「はい、チャッチャとやっちゃいましょう」
グチョ
セイ「うわぁぁぁッッッ!!!!!」
エミ「セイ……大丈夫かな」
輸血パックを腕に繋がれている。あぁ~生き返るわァ………あんまわかんないけど
腕は担当のシスターさんが今まで見たことないくらい綺麗な断面をしていたため綺麗にくっついたそうだ。
よほど強者だったんだな……アイツ
それより聞いてくれよ!!バーバラちゃんと会えたんだぜ!!彼女がやってきた時『おぉー!?バーバラたそ!!??』って思ったけど彼女の顔が真剣だったから黙ってた。神の目を使って何かをしてくれていたっぽい。結局話せなかった。
なにはともあれ一件落着……腕も戻ったしオールグリーン。
エミ「セイ……」
エミちゃんが歩いてきた。
エミ「治ったんだね……良かった……本当に」
セイ「元通り!!まだ動かせないけど……指だけならほら」
右手の指をパタパタと動かしてみせる。
エミ「良かった……っぐす……うぇぇん…」
また泣かせてしまった……今日何度目だ
エミ「守ってくれたのに酷いこと、言ってっ……ごめんっあさいッ……」
セイ「………」
エミ「私、強くなりたくて……いつもセイに助けられてばかりだから……あの本の、フィッシュルのようになれたらなってッ……」
セイ「それでタイツになったんだね…………………ん????」
フィッシュル…………フィッシュル…………あれ?
エミちゃんの顔を凝視する。スカートの付いた紫のレースレオタードにベストマッチした金色の髪、エメラルドグリーンな瞳、ハーフツインテ、眼帯………
セイ「もしかして……エミちゃんって………フィッシュルなの?」
エミ(フィッシュル)「……?」
いや……間違いない……原神のフィッシュルだ。今までエミちゃんフィルターがかかってて気付かなかった。
どうりで美人なわけだ。
セイ「なるほど、そうだったのか……ぶっふふ」
エミ「どうしたの?」
セイ「っいやごめんね、何でもないんだ」
思わぬ神の采配に笑ってしまった。ならば簡単だ。
セイ「大丈夫、エミちゃんはフィッシュルになれるよ」
エミ「無理だよ……私はセイや、フィッシュルみたいに強くなれない……」
セイ「いいやなれるさ……俺には……エミちゃんが……フィッシュルが必要だから」
エミ「っ!!」
セイ「出来るとか出来ないとか関係ない。絶対強くなって俺に付いてきてもらう」
エミ「……はいぃ♡」
フィッシュルって雷付与しやすくて好きなんだぁ〜
絶対旅についてきてもらお〜
セイ「大丈夫、エミちゃんはフィッシュルになれるよ」
なんで……何を根拠に言ってるの………
エミ「無理だよ……私はセイや、フィッシュルみたいに強くなれない……」
今日のを見て分かった。私は本の主人公のような勇気も無く力もない。そんなしょうもない人間。
セイ「いいやなれるさ……俺には……エミちゃんが……フィッシュルが必要だから」
エミ「っ!!」
目を見てはっきりと言われた。
セイ「出来るとか出来ないとか関係ない。絶対強くなって俺に付いてきてもらう……覚悟しとけ」
普段の優しいセイと違って乱暴な口調で求められる。
そんな……そんな……魔王がお姫様を攫う時に吐くようなセリフで責められたら……私…、私………
エミ「……はいぃ♡」
……好きが溢れちゃうよぉ