時系列は表題にある通り、幼少期のアクアが刺されて病院に運ばれたあとのことになっています。
これは、私の犯した罪の話。
一度は救いたいと思った「彼」を、それ故に傷つけてしまった愚かな私が、その代償を払うことになった話。
「君」と「君」の未来を選ぶために、「彼」の犯した過ちをきちんと「終わらせてあげる」ために、私が決めた、償いの話。
B小町のドームライブから、一週間が経った。
あの日の朝、アイを狙って振るわれた凶刃を庇うような形でその身にナイフを受けたアクアは、未だ病院のベッドの上で眠り続けている。
一度は昏睡に陥り、目覚めない可能性さえ僅かとは言えども指摘された彼は、しかし懸命の治療に加えて運の良さもあったのか、今は危険域とも言える意識レベルからは脱している。
ただそれでも、時たま昏迷状態にまで意識が浮上してくることはあれ、基本的には半昏睡の状態で安静を維持されている。そう、医者が言っていた。
それほどに彼の負ったダメージは大きく、あの時に失われた血の量は深刻なものがあったということなのだろう。
アイは、ずっと悔やんでいた。あの日に起きたことの全ては、自分の思慮の浅さが招いたものであることを理解していた。
当日の玄関扉のことも、そしてそれ以前に、何の考えもなく「彼」に自分たちの家の住所を告げたことも。
それをアイが認識したのは、ドームライブから三日が経ち、アイを襲った、そしてアクアを刺した暴漢の正体が、ニュースとして出回った日のことだった。
曰く、彼の名は「菅野良介」。アイの推測の通り、彼はアイが「リョースケ君」と呼んでいた、B小町の熱狂的なファンだった。
そのことが明らかになるや、佐藤――斉藤社長はすぐに動いた。B小町のメンバーの一人を、強引に事務所に呼び出したのだ。自ら彼女の居所に乗り込むようにして。
アイも呼び出されていた事務所の中、ミヤコすらも人払いされ、斉藤社長と自分とその「彼女」以外には誰もいない応接ブースで、社長は机に手をつく。
乱暴なほどではなく、しかし確かにその掌が机の天板を叩く音が、部屋に響いた。
その音に、アイの対面に座っているその彼女が、肩を震わせる。
チャーミングな丸顔と、いつもファンに向かって浮かべている笑顔が眩しい、アイが加わる前の少しの期間、このグループのセンター役を務めていた女の子。
栗色の髪とエメラルドの瞳のその子に、社長は詰め寄った。
「話してもらうぞ、
「ニノ」と呼ばれたその彼女は、「新野冬子」は、社長の剣幕に肩を竦めるようにしながら、その顔を俯けた。
「社長、どういうこと? いきなりニノのこと呼び出して、私全然わかんないんだけど」
言葉の通り、アイはこの日斉藤社長から、「事務所に顔を出すように」としか言われていなかった。そこに誰を連れてくるのか、いやそもそも誰かを連れてくることさえも、まったく予想していなかった。
アクアの、そしてルビーのこれからのことを話すために、自分と社長以外の誰かをこの場に招くなど有り得ないと思っていたからだ。
そもそも、昏睡状態は脱したとはいえ、我が子たるアクアは未だに病院で目覚めずにいる。
意識不明なのだ。そんな彼のことを思うと、アイは未だに自分の立つ地面が崩れていくような錯覚さえ抱く。
彼のことを差し置いて、どうして社長はこの場のことを優先するのだ。そう、苛立つ気持ちを、アイは止められない。
しかし、当の社長はアイのその問いに、険しい声で答えた。アイに目を向けず、ニノの方を睨んだままで。
「『重要参考人』だからに決まってんだろ。こいつはな――」
――リョースケの野郎と『繋がって』たんだよ。
その言葉に、思わずアイは茫然と目を見開いていた。
アイドルの――とりわけ地下アイドルの世界において、「繋がり」というのはその言葉以上の意味を持つ。
それは、所謂隠語なのだ。「ファンとの交際関係」、もっと正確に言えば「『肉体関係を伴った』交際関係」の、である。
アイは、全く理解できなかった。
アイドルでありながら男がいるという点に関しては、アイとて人のことは何も言えない身分だったわけだし、それを責めるつもりはない。
しかし、「ニノのカレシをやっているB小町のファン」たるリョースケが、「アイの熱狂的ファン」としてアイのことを殺しにやってきたことが、あまりにも意味が分からない。
あの時彼が言い放った言葉が。「裏切者」という言葉が、余計に。
――自分だってニノと付き合ってたんじゃん。だったらあれは何だったの?
――じゃあなんで、アクアは刺されなくちゃいけなかったの?
途端に、アイの思考が赤く染まった。
「……どういうこと。ねえニノ、答えてよ。どういうことなの」
頭の中を支配する激情が、声を震わせる。
本当にニノが、彼女がアクアを刺したあの男と何か「共謀」のようなことまでしていたのかなんて、考える余裕さえなかった。
そんなことを考えるよりも先に、アイの身体は動いていた。蹴飛ばすように椅子から立ち上がり、身を乗り出して、ニノのことを睨みつけていた。
これほどの感情が自分の中から出てきたことなど、今まで一度もなかった。生まれたときからでさえ。それが悲しみでも、怒りであっても。
ならばこれもまた、ある意味ではアイの追い求めていた「普通の人間らしい感情」、であるのだろうか。
ただなんであれ、今のアイにはそんな自分のことを客観視するような心の余裕など、どこにもありはしなかった。
そしてニノは、アイと壱護の問いに答える。
彼女とリョースケの間にあった会話を、彼がアイの居所を知った理由を。自分は既に、アイに子供が、しかも双子がいることを知っているという事実も。
そんなアイにまつわる情報を、誰を経由して彼女は、あるいはリョースケは知り得たのかという、その真相も。
そしてきっと、それこそがアイの罪だった。「愛している」とやっと思えた我が子の未来に暗い影さえ落とす、星野アイという人間の、消すことのできない咎であった。
そのことを、思い知らされた。
ひとまずその日、その場にいたニノのことは帰らせることになった。ただ、彼女は当面の間事務所のスタッフの監督の下に置かれることになる。
表向きの理由は、親しいファンであった菅野良介がアイを襲撃し、その末に自殺したというショッキングなニュースを知ったことに対するメンタルケアのためだ。しかし当然、そんなことは建前でしかない。
言うまでもなく、それは監視のために他ならない。最低でも、斉藤社長はニノに対して一人で自由に外出できるような時間を与えるつもりはなかった。短くとも向こう一年は。
そして、その全ての手配を済ませた斉藤社長と、アイは今二人で向かい合っている。
それこそがまさしくこの日、あの事件から一週間後の今日のことだった。
「アイ。嘘つくことは許さねぇぞ。お前、俺が『やるな』っつったこと、やったよな? アイツらの父親に、教えただろ、
誤魔化しは許さない。そんな、強い意思が籠った声で、そして視線だった。それを向けられて、アイは目を瞑る。
いつもなら、頭に手でも置いて舌を出しながら、悪戯な笑みを浮かべて煙に巻いていたかもしれない問いだった。
しかし、今はダメだ。今だけは、それは許されない。アイ自身、そんなことをするつもりなどありはしなかった。
言葉にすることなく、こくりと頷いた。そして、答える。
「……ごめん。私何も考えてなかった」
今更に過ぎる後悔を、アイは心に抱えていた。
きっかけは、本当に些細なことだった。我が二人の子供たちの間で交わされていた「自分たちの父親について」のやり取りを聞いて、ならば会わせてあげた方がいいのかもしれないと、そんなことを勝手に考えたが故の、特に計画性のない思い付きだった。
ちょっとでも過去を顧みる頭があれば、かつて「彼」に自分が何を言ったのかを真剣に考え直していれば、絶対に言わなかったはずのことを、自分は電話口で「彼」に向けて言葉にしていた。
そしてそのことを、アイは斉藤社長に黙っていた。言う義理もなければ必要もないと、そんな大したことではないのだからと、勝手に考えていた。
つまりアイは、きっと驕っていたのだろう。そんなつもりはなかったけれども、今の自分なら何もかもがうまくいくのだと根拠のない思い込みをしていたのは、確かだった。
アクアとルビーのためにも、二人の父親と引き合わせてあげた方がいいだろうと、そして一方の「彼」だってもう立ち直っているに違いないと、それはそんな独り善がりでしかなかったのだ。
それが一体何を生むのか、アイには一つとして分かっていなかったのだ。
「ごめん。ごめんね、アクア。ごめんね」
言葉が、止まらない。もはやそれは、社長に対してのものではない。
アクアは、今も病院で臥せっている。意識が戻っていない。
次第に確実に快方には向かっていると医師は言うが、それでもこのまま意識が戻らず、一生ベッドの上で眠ったままになる可能性も、まだ全然ゼロではない。
助からないかもしれない。それを思うだけで、手も足も冷たくなる。目の前まで暗くなるようだった。身体を満たす不安をどこかに逃がしたくて、忘れたくて、暴れてしまいそうになった。
しかし、自分にそんな資格などあるのか。彼がそうなるに至った原因は、自分にこそあるのに。
気づけば、アイは両手で自らの顔を覆っていた。
「……まあ、いい。俺も、お前のことを責める資格はねぇんだよ」
そのアイの姿に何を思ったか、社長から言葉がやってくる。
資格がない、とはどういうことか。気になって、思わず顔を上げる。
そこで、気がついた。今アイが見ている彼は、アイと全く同じように、表情に深い後悔を貼り付けていた。
「俺にだって、原因はあった。リョースケとニノのこと、知ってたんだよ俺は。……ほっとくべきじゃなかった」
口にする彼の、テーブルの上に載せられた両の手は、真っ白になるほどにきつく握りしめられていた。
彼は言う。
「中学生のモデル上がり集めて作ったアイドルだ、どうせそういうのは止められねぇし、地下アイドルのファンなんだから多少は割り切ってるだろって、見て見ぬふりしてたんだよ、俺は」
目を伏せ、握りしめていた手を額に当てる。声に混ざる苛立ちは、自分に向けたものだろうか。
「アイ、お前さえ『キレイ』でありゃB小町は成り立つし、デカくなる。デカくできる。そういう判断だった。まあ、お前もガキこさえてんのに見抜けなかったんだから、とんだ節穴だったけどな」
続いたセリフはアイにも刺さる。
ただ、アイは自らが子供を産んだことそれ自体を後悔する気は、さらさらなかった。
そこに至る「経緯」はきっと正しいものではなくて、それが今アクアの身に災いとして降りかかっているとしても、自分の行いが社長に対する不義理だということは分かっていても、アクアとルビーの存在を否定するような言葉を、絶対に吐きたくはなかった。
そしてそうなのであれば、アイはそれに値するだけの責任を取らなければならないと、心に決めた。
「けど、そういう話はもう、遅ぇんだよ」
言いながら、社長が顔を上げる。それに合わせて、アイは口を開いた。
「言わなくちゃだよね、これ。警察に。ニノの話と、あと
いつも自分が発しているそれとは似ても似つかぬほどに静かで、そして低く硬い声が出る。
それが、アイとしての責任の一つだと考えていた。結果としてB小町が、そしてアイがどのような目で見られようとも、自分が生み出してしまったことの後始末は、そうやってつけることしかできないと思った。
しかし、社長はそれに首を振る。
「ダメだ」
短い、きっぱりとした拒絶の言葉だった。
理解ができない。アイは身を乗り出していた。
「なんで? 義務でしょ、これは」
言いながら、怒りさえも心を支配する。アクアの命が危うくなったのに、ルビーにあんな思いをさせているのに、自分も社長も、そんな「責任逃れ」なんて考えていいはずがないと。
そんなことをしたら、自分はもう二度と、愛しているなどと二人に向かって言えなくなってしまうと。
「社長も稼ぎ頭がなくなるのは困るかもしれないけど、でもそんなの――」
「てめぇが楽になりたいからって、お前はアイツらの未来まで潰す気か」
しかしそこに被せられた社長の言葉に、アイの頭は真っ白になった。
社長の表情を見る。彼は、何かを必死に堪えるような表情をしていた。
「俺だってなぁ、分かってんだよ。こんなん早いとこ警察に持ち込んだ方が正しいってのは。俺たちがやろうとしてんのが汚ねぇことだってのも」
押し殺したような声が、そこから続く。
「けどお前、その『ヒカル』とかいうアイツらの父親が『リョースケの野郎にお前の住んでるところ教えた』って話だけで、警察がソイツを引っ張ってくれると思ってんのか?」
その社長の言い分に、アイは反駁する言葉を持たない。それができるほど、アイは世間をよく知っていなかった。
思わず、俯いていた。
「まあそりゃ聞き込みぐらいはするかもしれねぇけどよ、それで何も見つからなけりゃ、警察だってなんも出来ねぇだろうが」
「それは……そうかもしれないけど、でも」
「でもじゃねぇ。もっと言やぁ、もし百万歩譲って警察が『ヒカル』とやらの捜査を始めたとしてだ、そしたらどうなるか分かるよな?」
一度言葉を切って、社長がサングラスの向こうからアイのことを睨みつける。
そして、断言した。
――世間様にお前がガキこさえたことがバレんだよ。お前に男がいたことも。
それは今のアイにとって、まさしく最大の『弱点』であった。
「分かってるよ、そんなことッ!」
「じゃあなんで分からねぇんだ! B小町はパア、お前は一生後ろ指で、俺は苺プロごと地獄行き! 俺とお前だけならいいが、お前にはアイツらがいるだろ! 俺にだってな、ミヤコがいんだよ!」
思わず激発してしまった感情をそのままに、気づけば叫ぶようにアイは言い返していた。
しかしそれに対してもまるで怯むことなく、寧ろ対抗するかのように立ち上がって、社長が机を一つ叩く。その鈍い音が、部屋の中に響いた。
「アイツら養ってかなきゃいけねぇんだぞ、俺もお前も。それだけじゃねぇ。アクアもルビーも、お前のことで一生言われるかもしれねぇんだ。本当に、分かってんのか」
追い打ちのように放たれたそれに、アイは俯いていた。
――自分のしたことは、その不始末は、どうあっても我が子に、アクアやルビーに祟るのか。あの子たちを、私は幸せにはさせられないのか。私のせいで、あの子たちは。
そんな後悔が、今更ながらにアイの胸を衝く。
しかし、それでも、アイは諦められなかった。今の自分が何もせず、アクアやルビーに愛を語れる気などしなかったから。
「けど、だったら何もしないって? 有り得ないでしょ。そうやって隠して、忘れて、何でもないふりしろって? アクアに? ルビーに?」
自分でもわかるほどに眦を吊り上げて食って掛かったアイを見て、社長はしかし首を振った。
「そうは言ってねぇ。……今日話そうとしてたのは、それだ」
そして彼は、アイと彼自身の間で以降共有されることとなる「計画」を、説き始めた。
斯くしてその日、アイと斉藤社長との間に、一つの「密約」が結ばれた。
まず社長の仕事として、B小町のメンバーであるニノ――新野冬子は、アリバイのために一年ほどB小町として活動させた後に卒業させ、以降は斉藤社長が用意した住居で暮らしてもらう。
書類の上ではスタッフ扱いにして、生活費は事務所として工面する。生活には不自由させない。しかし実際にスタッフとして働かせるわけではなく、その実は彼女のことを徹底した監視下に置こうとしていた。
最低でも、彼女を輝とは接触させない。そのことは何に代えても死守すると、彼は言った。
そして、その輝について。
アイと斉藤社長は、アクアとルビーが成長するまでの間を使って、彼がリョースケにアイたちの住所を教えたことが「一定の害意によるもの」であるかを突き止めることを決めた。
そのために、社長はニノに対する尋問をするつもりでもいる。場合によっては彼女に「取引」を仕掛けることも厭わないと、そう彼は言ってのけた。
「アクアとルビーが成長するまで」というのは、実質的には「二人が芸能界で一定の名を揚げるまで」のことを意味するだろう。最低でも、ルビーに関してはそうだ。
彼女がアイの「B小町のセンター」としての姿に夢を見ていることを、アイは知っている。「ママと同じになりたい」と、「アイドルになりたい」と、そんな夢を持っていることを。
その夢は、何に代えても叶えられるべきものだ。だからこそ、その未来に影を落とすであろう何もかもは、アイが、そして社長が、責任を持って引き受けなければならない。
アイと輝のことを公表することで、未来において芸能界の只中に立っているであろうルビーの輝きを汚してしまう何かがあるのなら、全部まとめて持って行こう。
そのことについては、社長も同意するところだった。だから、二人でルビーの夢を後押しすることは決定事項となった。
そしてきっと、それはアクアに対しても同じ事になるだろうと、アイは考えていた。
……いや、そうではない。それよりもまずアイは、今もまだ病院にいるアクアが生きて目を覚ますことばかりを、何より祈っていた。
それより優先するものなど、絶対にありはしなかった。
アイは、考える。
もし、本当に彼が、輝が、あのドームの朝にリョースケを、害意によって差し向けてきたのだとしたら。
それは、きっと自分の罪なのだろう。
あの時、彼に対して投げかけた言葉は、別れの台詞は。
――私は、君を愛せない。
愛せなかったのは彼だけではなかった。「愛する」などという言葉をいくら口にしても、自分には実感がなくて、それが何なのか分からなくて、嘘でしかないと思っていた。
B小町として活動を始めてすぐ、飛び入りの自分があっという間にセンターとして幅を利かせ始めたことが気に食わない他のメンバーに嫌がらせをされたときだって、それに対して持っていた嫌な気持ちも苛立ちも、それが本当に「普通の人間」としての感情なのかさえ、アイには分からなかった。
それでも、アイはあの時出会った「彼」を、輝を、どうにかしてあげたかった。それだけは嘘じゃなくて、だからこそあの時の「彼」にはアイのもとから自立する必要があって、だからアイは、「彼」に嫌われたかった。愛想を尽かされたかった。
そうすることで、「彼」はアイを忘れられると思ったから。アイから『抜け出せる』から。そうすることが、そのために嘘を吐くことが、「嘘こそ愛」だとあの日心に決めていたアイの、精一杯の「彼」への手向けだと思ったから。
だから自分は、嘘を吐いた。自分のことしか考えていない、頭の軽い愚かな女を演じた。そのつもりだった。
そのつもりで、アイは「彼」の――輝の気にしているはずの「あの出来事のこと」さえも、口走ってしまった。
彼の心の一番弱いところを、遠慮も容赦もなく抉ってしまった。
愚かな女を演じたつもりで、しかし自分はあの瞬間に、本当の愚かな女に成り下がっていたのだ。今更、本当に今更、アイはそれに気がついた。
だから、これはアイの罪なのだ。それ故に輝が、こうなってしまったというのならば。
その因果が、今ここに巡ってきているのならば。それが今、アクアに降りかかってしまったのならば。
ならばその責任は、自分が取らなければならない。
アクアとルビーの未来に影を落とす輝のことを、そのままにはしておけない。彼の凶行の責任は、彼自身に必ず取らせなければならない。
しかし同時に、彼だけにその責任を押し付けるわけにもいかない。輝がそうなってしまった原因は、自分にあるのだから。彼のことを救うつもりで、しかし独善によって癒えない傷を刻んでしまった、自分に。
ならばアイもまた、その代償を支払わなければならない。逃げることなど、許されはしない。
だから、アイは報いを必ず受けるつもりでいた。アクアとルビーが、アイの庇の下にいなくても大丈夫になったら、全てを白日の下に晒すつもりでいた。
それによって、たとえアイの居場所が芸能界になくなろうとも、それこそがアイ自身の受けるべき罰であると、そう考えていた。
アイは、決意する。
――「
――そして「
その日、アイはそんな二つの誓いを心に刻んだ。
アイにとって、そして斉藤社長にとっての、「第一の罪」が生まれた日のことだった。
「あの事件」が起きた後のアイの心境と、実際にアイがどういう暗躍を今までしていたかの一部開示でした。
アイ視点と言うのは正直非常に難しいところではあるのですが、一番星のスピカの一章は視点がアイなので、まあああいう感じでいいのかなと思った次第です。
当然ですが、アイのこの辺りについての内心の開示は原作においてはなかったので、実際にアイが何を考えていたかについては独自補完となっています。