天には星を、人には愛を   作:厳冬蜜柑

66 / 84
5-13. 拝啓、嘘つきさん

 二月の後半から半年ほど、夏休みが終わるまで引かれている映画「15年の嘘」の撮影スケジュールだが、それは必ずしも余裕を持たせたものというわけではない。

 そのことは、ルビーが一番よく分かっていた。

 

 ルビーたち新生B小町は、いよいよアイドルユニットとしての人気を確固たるものとしつつある。

 新曲の販促ライブにしても、もう小規模のライブハウスで出来るような身分ではない。最低でも五千人クラスのハコ、具体的に言えば幕張や有明にあるような展示場のブース一つを貸切るぐらいのことが求められるほどには、基礎的な動員数を増やしていた。

 

 大手レーベル系のアイドルグループが犇めき合うトップ層に、中堅どころの個人事務所所属のアイドルがただ一つ殴り込みをかけている。それが今の新生B小町を取り巻く構図だ。

 しかしそれは同時に、あの名前を、すなわち「B小町」という名前を背負っているルビーたちにとって、責務のようなものでさえあるのだろう。

 「その先」へと足を踏み出すことを、そんな夢を心の中に抱いているルビーにとっては、猶更に。

 

 約めて言えば、映画「15年の嘘」の主要キャストとして、「先代B小町」のメンバーとしての役を得ているルビーたち新生B小町の面々は、映画に完全に集中することができないぐらいには忙しいということだ。

 そしてその最たるものが、今から十日ほどののちに始まる一大イベントだった。

 

 つまり、「全国ツアー」である。

 

 

 

 「全国ツアー」。その単語は、ルビーにとって、否、天童寺さりなにとって、温かくもほろ苦い記憶を伴ったものだ。

 

 天童寺さりなとしての、十二歳のクリスマスのこと。最後のクリスマスのこと。それが、ルビーの脳裏に蘇る。

 あの時、吾郎(せんせ)がクリスマスプレゼントとして、方々を駆けずり回ってでも手に入れてくれたのが、B小町の全国ツアーの、宮崎公演のチケットだった。

 明けて五月のそのライブを、彼はさりなと一緒に見に行くと、そう約束してくれた。彼が発したその台詞は、嘘でも誤魔化しでもなかった。叶わないと分かっていて尚かけてくるような、空虚な励ましの言葉でもなかった。

 

 だからそんな彼に嘘をついていたのは、自分の方だった。前にもまして動かなくなる身体を、より急速に進む記憶の障害を、さりなは吾郎に隠し続けた。隠し通した。

 吾郎が病室にやってくる前には、前の日にあったことをメモしたノートを必死に読んで、抜け落ちてしまう記憶を補ってすらいた。

 

 彼の前では、弱い自分でいたくなかった。愛される自分でいたかった。そういうこと、なのだろう。

 たとえすぐに、自分が余命幾許もないことを知られたとしても。程なく来るであろう最期の日を、不意打ちのように彼に報せてしまうことになるのだとしても。

 

 

 

 天童寺さりなは、嘘つきだった。そして同時に、世界からも嘘を向けられる人生でもあった。たった十二年のことではあったけれども。

 そういう意味では、それは『彼女』にも通じるところがあるのだろう。

 

 三月の最初の週、来週の半ばに全国ツアーの開始を控えるルビーは、同時に「15年の嘘」の映画の中において、最初の出番を迎えていた。

 クランクインの日に撮影されていたのは、アイがB小町に加入してより二か月程度が経った、つまり結成初期に当たる時期の話だったが、今回は違う。

 

 それはアイが十五歳になるクリスマスの直前、彼女がルビーとアクアを身籠る、その半年ほど前のころのエピソードだった。

 

 ルビーが今回の映画において割り振られている役柄のことは、ルビーもよく知っている。

 「きゅんぱん」という、ある意味地下アイドルらしい、分かりやすい芸名を名乗る彼女は、B小町発足後半年ほどが経った、天童寺さりなが丁度十二歳になったぐらいの頃に、B小町に加入した。追加メンバーとはいえ、B小町のメンバー歴という点から見れば古参に当たるだろう。

 B小町結成初期の四人、すなわちアイ、高峯(たかみー)新野(ニノ)渡辺(めいめい)に加えて、このきゅんぱんと、ありぴゃんというもう一人のメンバーを足した六人は、結局B小町が解散を決める最後の最後まで、グループの一員であり続けた。いや、ニノだけは解散の一年前に『体調不良による休養』に入り、そのままグループ自体が解散する顛末を迎えたのだが、それはまあ瑣末なことだ。

 

 兎も角大事なのは、その中でもきゅんぱんはアイがB小町の中で「最も仲の良いメンバー」として挙げる人物だったということである。いつかどこかのファッション誌の記事に、そんな内容のインタビューが載っていたことを、ルビーは覚えていた。

 

 ルビーは、あるいはさりなも、理解している。

 B小町、否、先代B小町というグループは、表向きは当然に全員の関係性を良好であるように見せてはいたものの、その実はメンバー同士に溝の多いグループであった。

 確かにアイにも原因はあったのかもしれないが、それにもましてきっと、グループの人気を押し上げるためとはいえ、過剰とも言えるほどにアイを中心に押し出した壱護社長のマーケティング戦略が、問題の根本だったのだろう。

 それでも、そんな中においても、アイとの関係に致命的な不全を来さなかったメンバーが、三人ほどいる。その中の一人が、すなわち彼女――きゅんぱんだった。

 

 それを彼女の人間性故のものと考えるか、それとも彼女が初期組からわずかに遅れて、アイの人気が確立されてから入ってきたからというタイミングの問題に帰着させるかは、人次第の部分もあるだろう。どちらでもあるし、またどちらでもないのかもしれない。

 

 ただ、今回の映画の中において、アクアが、あるいは五反田監督がそれをどう解釈したかは、言うまでもなく台本の中に書いてある。

 まさしくこれからルビーが演じようとしている、エピソードとして。

 

 

 

 

 

 そのカットが、つまり今日の撮影が始まる前、現場にやってきたルビーは、すぐに一人の人物と出くわした。

 

「やっほ」

 

 入った楽屋の中に、先客がいる。アイやあかねとは違う、光の当たり具合でほんの少しだけ暗緑色の輝きを写し出す濡羽色の髪を長く伸ばした、怜悧で端整な顔立ちの少女だ。

 その彼女が、しかし見た目から受ける印象よりもはるかに軽い調子で、右手を挙げた。

 よく見れば、その手の中には割り箸が挟まっている。というより、テーブルの上には思いっきりロケ弁が広げられていた。

 

「やほ、フリルちゃん。ごめんね、お昼中に」

「んーん、だいじょぶだいじょぶ」

 

 空いた左手で作ったブイサインをまるで蟹の爪のようにちょきちょきと動かしつつ、しかし表情はまるで動かない。

 声もまたハスキーがかったダウナーなそれで、つまり彼女は全くもって、いつもの調子の不知火フリルだった。

 

 二年前、ルビーが陽東高校の芸能科に入り、JIFでアイドルとしての一歩を踏み出すまで、彼女はまさに雲の上の立場の人、と言ってもよかった。

 十代随一のマルチタレント。美少女の象徴。実質的にアイが全国的な知名度を獲得したのがドームライブ直前の十八か十九の頃のことだったのを考えれば、ティーンエイジャーという枠においては、彼女以上に世に広く名を売ることに成功した存在を、ルビーは知らない。

 

 そんな不知火フリルが、実際に高校の中でクラスメイトとして接してみれば、気さくで話好きで、しかも真顔のままにすっとぼけたことをさらりと言ってのけるような、そんな茶目っ気まで持っていた。

 人は見かけによらない、のではない。彼女もまた、人間だということだ。この芸能界という世界においては、タレントとはすなわち商品で、故にその中にいる人も、画面の向こうからそれを見ている人も、時にその事実を忘れそうになるけれども。

 

 ここに来る前に既にご飯を済ませてきているルビーは、手早く現場入りのための準備を始める。

 とはいっても、ルビー自身がしなければならないことと言えば、備え付けられたワードローブの中に着てきたコートや私物の類を仕舞って、それから多少身なりを整える程度のものに留まる。

 それ以上のことについては、もうあと二十分もすれば楽屋の中に入ってくるであろうメイクアップアーティストや衣装スタッフの人たちに任せるのが、現場の常だ。

 

「ルビー」

 

 しかしその最中、隣から声がかかった。

 振り向いたルビーのことを、翡翠に彩られた双眸が、じっと見ていた。

 

「午後一からだっけ、ウチらのカット」

「そだよ。フリルちゃんはそれ食べ終わったらすぐ?」

「うん。ま、歯ぐらいは磨くけど」

 

 カサカサと、プラスチック容器同士の擦れる音がする。どうやら、フリルも丁度そこでロケ弁を平らげ終えたらしい。元の通りに蓋をした弁ガラを持って、彼女はそれまで座っていたパイプ椅子から、おもむろに立ち上がった。

 

「あれだよね」

 

 同時に、そう言葉をかけてくる。

 フリルの視線は、その間もずっとルビーの上に固定されたままだった。不思議な力さえ感じさせる眼差しをじっと向けながら、彼女は全く変わらない調子のままに、続きを口にした。

 

「そのうち共演することになるだろうねって話、前したような気がするけど」

 

 部屋を横切り、隅にある弁ガラ入れのポリ袋に手に持った空の容器を叩きこんで、彼女は首だけで振り返る。

 

「めっちゃ楽しみにしてるから」

 

 いつもの通りの冷めた表情と澄ました声で、さらりとフリルはルビーに言った。

 気取ったところのない彼女の、飾らないその口ぶりは、確かに不知火フリルの中から出てきた本心を、嘘偽りなくルビーに向けて明かしている。

 

「ま、ホントはみなみともこういうことやりたかったんだけどね」

 

 だからこそ、続いたそれもまた、きっと彼女の本音なのだろう。

 少しの苦笑を浮かべながら、共感を示すように頷いたルビーを見て、フリルもまた自らの分の身支度を進め始めた。

 

 ルビーとフリルとの初めての共演、そしてそのあとに続く、ルビーとあかねの、「きゅんぱん」と「アイ」としての共演の始まる、三十分ほど前のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 今日この日、ルビーが撮影に臨む映画のシーンは、大きく分けて二つある。

 その前半、午後一から始まった一連のカットは、ルビーたちの本当の控室の楽屋ではない、セットとしての楽屋の中から始まった。

 

『もーほんっとムカつく!』

 

 ライブ直前、地下アイドルの主戦場たるライブハウスの狭い楽屋の中、メンバーが順番にメイクをするのを、数人の女の子たち――すなわちB小町のメンバーが待っている。

 メイク机の天板を軽くはたくようにしながら、その中の一人が声を上げた。肩にかかるぐらいの長さの飴色の髪を二つにまとめ、金糸雀色の髪紐でツインテールのように垂れ下げた、どこか幼ささえ感じさせるその彼女は、不貞腐れた態度のままにふんぞり返って、居汚く脚を組む。その全身で、不機嫌を主張していた。

 

『荒れてるねぇ』

 

 その横から、ひょいと顔を出す人影がいた。

 微かに緑色を帯びた艶やかな黒い髪を腰の辺りまで伸ばした、清楚な出で立ちの少女だ。ライブではメンバーの、と言うよりも『センターの子』との差別化のためか、それをシニヨンのような形でまとめていることがほとんどだが、こういった控室の場においてはもっぱらこの出で立ちである。

 名前を、「ありぴゃん」と云う。無論、言うまでもなく芸名だ。それを言ったら、「きゅんぱん」を名乗っている今絶賛愚痴り中の彼女にしても同じことではあるが。

 

『話聞こっか?』

『んじゃ聞いてよ』

 

 水を向けてきたありぴゃんを相手に、きゅんぱんと名乗るその少女は自らの胸の中に溜まりに溜まった愚痴を吐き出し始めた。

 

 

 

 話を一言でまとめれば、「彼氏に振られた」という、ただそれだけの話である。

 その赤裸々な告白をもしファンが聞けば、「裏切られた」だの「意識が低い」だの、下手をすればそれよりもなお醜い、口にするのもはばかられるような蔑視的表現で、彼女のことを口汚く罵るだろう。

 しかし、得てして地下アイドルとはそういうものだ。

 無論、もっと真摯にファンと向き合い続ける真面目なアイドルも多いことは当然だが、売れるかどうかも分からない、明日の食い扶持さえ覚束ないような零細の地下アイドルに対して、大手のそれの水準の職業意識を期待するのは高望みもいいところである。

 そして、この時点――すなわち結成から三年と少し、周年という意味では四年目に入った時点でのB小町というアイドルグループは、そういう「凡百」の域を超える程の存在では、未だなかった。

 

 彼女は言う。

 やれ、「ライブ終わりの横浜中華街でディナーデートなんて、こっちの事情を一つも考えていない」、とか。

 やれ、「こっちがアイドルだっていうステータスにしか興味なかった」、とか。

 やれ、「二カ月しか付き合ってないのに『めんどいって』とか、ちったぁこっちのことも尊重しろ」、とか。

 

 それを、ありぴゃんはただ聞いていた。たまに相槌を打ちながら、「根性ないね」とか、「そりゃひどい」とか、合いの手も入れるように。

 

『まあでも、あれだよね』

 

 一頻り鬱憤を晴らしきって満足した頃を見計らうようにして、黒髪のその少女は大げさに肩を竦めた。

 

『やっぱウチら、「普通の人」とうまくやってくのはキツいんだよ、彼氏的な意味で』

 

 そう言ってのける彼女の、ありぴゃんの顔に浮かんでいる表情の色は、同情のようで、諦観のようで、しかしどこか確かに、「優越感」に近しいものも、混ざっていた。

 ――私たちは、「普通の人」とは違うのだ。

 そういう矜持にも似た何かを、その少女は言の中に滲ませていた。

 

 自分たちはアイドルだ。ルックスを売り、愛嬌を売り、もって夢を売る。「ガチ恋営業」まで行けば、売っているのは虚像ですらあるだろうか。

 きゅんぱんが、僅かに口元を歪めた。それはありぴゃんの物言いに対する共感か、あるいは正反対の何かか。

 ただいずれにせよ、ありぴゃんが懐くその優越感の源泉は、このB小町というグループにあってはたった一人の人間に集約する。

 

 

 

『おっはよっ』

 

 そして――その「彼女」が今、丁度この楽屋の中に姿を見せた。

 

 

 

 浮ついた台詞が、空気の中に星を散らす。底抜けに明るいようで、しかし色を感じないその挨拶の台詞が、楽屋に響く。

 全員の注目が声の主に集まり、ざわついていたこの部屋は、途端に一気に静まり返った。

 

 均整の取れたプロポーション、腰まで届く夜の闇を溶かしたような黒髪、自信に満ち溢れた大きな瞳と、ただ存在するだけで蠱惑的でさえある、顔立ちと。

 現れた彼女は、アイは、それだけで、ただここに姿を見せただけで、この場の全てを支配してみせた。きっと、意識さえすることなく。

 

 そのままアイはどこまでもマイペースに、自分の分の荷物を、手に持ったキャリーケースを無造作に床の上に置いた。自分がやってきた瞬間に雑音の一切が消えた楽屋の中の異様な空気を、彼女は一つとして意に介することもなかった。

 

 きゅんぱんとありぴゃんが、小さく顔を見合わせる。共に小さく頷いて、二人はアイに向かって声をかけようとした。

 しかしそれよりも一瞬だけ早く、アイは楽屋から出て行ってしまった。この部屋の中に、浮世離れした存在感の残滓を、ただ残して。

 

 故にもう一度、二人は黙したままに、互いに視線を合わせた。

 

 

 

 

 

 この一幕について、きゅんぱんという『役』を演じながら、ルビーは内心で一つの解釈を与えていた。

 すなわち彼女は、きゅんぱんという少女は、当初よりアイに対してやはりそこまでの隔意をおそらく感じてはいなかったのではないか、という推測である。

 

 この台本を書き上げた人間――アクアもまた、多分同じ見解だ。それはホンに書かれた指示の中にも表れている。

 

 一連のカットの最後、ありぴゃんと二人顔を見合わせる前後の流れの中で、きゅんぱんはアイに対して声をかけようとする素振りを見せる。もっとも、アイはそれに気づくことなく楽屋を出て行ってしまうわけだが。

 兎も角、これは台本におけるト書きとしての指示だ。アイの存在に、彼女がその場に現れたことに、まるで白けてしまったかのように静まり返る楽屋の中で、それでもきゅんぱんという女の子は、アイからかけられた挨拶に自ら声を返そうとする。

 

 どういう感情を、彼女はアイに対して持っていたのか。

 当然、実在の人物を登場させている劇である以上、その問いには絶対的な答えと言うものが存在する。何せ本人が、かつて「きゅんぱん」の名でB小町というグループの中で活動していた女性が、未だ存命であるのだから。

 

 アクアは今回の映画の台本の制作にあたって、かなり広範囲に情報収集をしていた。これは、その協力者であるところのあかねから聞いたこと故に間違いはない。彼女自身、アクアの手伝いとしてそうした取材の場に付き添ったことは一度や二度のことではなかったと言うし、それ以外にも、彼が作った取材メモの情報を使って、所謂プロファイリングの手法で当時の彼ら彼女らの思考様式やキャラクター像を構築する手伝いをしてもいた、らしい。

 

 その取材対象には、当然にきゅんぱんと呼ばれていたその女性も含まれている。

 彼女はその後、B小町の解散を機にすっぱりと芸能界から身を引いた。そして今はいくつかの職歴を経て、Web系ベンチャー企業の営業担当をしているらしい。そう、アクアが言っていた。

 「もうこっちの世界に戻る気はないから」とのことで、彼女はこの映画のクランクインにおいて挨拶に来ることもなかったが、それでもアクアに対しては、過去のことをそこそこ詳らかに話してくれたのだという。

 

 ならばそれを聞いた己の兄は、どのような答えに辿り着いたのか。

 その直接の部分が、台本の中に書かれることはない。それは何も脚本家たるアクアの意地悪でもなければ、オーディションの時のような「キャストに対する挑戦」ということでもない。

 

 

 

 思考や感情を言語化するということは、同時に解像度を落とすことでもある。これはある意味でルビーにとっての演技の師匠である有馬かなの持論だった。

 

 ――大事なのは、ありのままを感じることよ。言語に一度直してしまうと、言葉にイメージが引っ張られるから。

 

 ありのままの現実をありのままに受け止めて、そこに解釈と言う名の色彩を重ねるのは、故に演者の役目なのだ。

 同時にそれは、権利ですらある。

 

 ならば今の自分は、ルビーは、あるいはさりなは、きゅんぱんという少女の心象風景を、世界にどのように描き出すべきなのだろう。

 それはきっと、このカットに続いて夜に撮影される『二つ目のシーン』の中にこそ、より重きを置かれるべき課題だった。

 

 

 

 ――まあ、それにしても。

 カットの合図がかかり、慌しく動き始めるスタッフの姿と共に、カメラの向こうにあった隔離された現実から解き放たれたこの楽屋のセットの中で、ルビーは一人思いを巡らせていた。

 

 その中身は、率直に一言で言い表すことが出来よう。すなわち、「フリルちゃん、すごかったなぁ」、と。

 

 今回の撮影の中で、不知火フリル扮する「ありぴゃん」とルビーの「きゅんぱん」が会話を交わすのは、このカットが最初で最後だった。と言うより、正確にはフリルに関しては今日の撮影はこれで上がりである。

 カメラのフレームの中に納まっている時間は、おそらく尺換算で二分が精々だろう。当然別日での出番はあるとはいえ、最低でも今日撮影されるカットの中では、彼女の見せ場など無に等しい。

 

 身も蓋もない表現をするならば、エキストラに毛が生えたような、そんな僅かな露出だ。

 だというのに、ルビーは隣にいて、否応なしに理解させられていた。

 

 

 

 そこにいるだけで、目を惹く。そういう圧倒的な存在感を、不知火フリルというタレントは持っている。気をつけていなければ、今日のカットの中で実質的な主役を演じるルビーの存在さえ、食われてしまいかねないような。

 

 一言話すだけで、視線を向けるだけで、人の注意を集めてやまない。近くにいるだけで、彼女の世界に取り込まれてしまいそうになる。

 普段、あくまでクラスメイトとして、あの陽東高校の教室の中で触れ合う「フリルちゃん」とはまるで違う、「芸能人」としての不知火フリルの姿が、そこにはあった。

 

 ――これが、不知火フリル。これが、トップオブトップのマルチタレントの存在感か。

 肌でそれを感じて、ルビーは柄にもなくそういうプレッシャーのようなものを、覚えてさえいた。

 

 

 

 いや、違う。それだけではない。彼女だけではない。

 ルビーはこれから、この場におけるもう一人の女優と、不知火フリルに負けずとも劣らない強烈な存在感を放つ女の子と、一対一で対峙することを求められる。

 星野ルビーの、役者としての初陣であるこの日は、また同時にルビーにとっては、その人――黒川あかねと、否、「十五歳の誕生日を間近に控えた少女」であるところの星野アイと、『本音の対話』をする日でもあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 B小町のライブが終わり、アイドル衣装から私服に着替えたメンバーは、思い思いに帰路につく。

 メンバー同士の仲の良い地下アイドルならば、ライブ終わりに打ち上げの一つでもするのだろう。しかしこのグループに関しては、全くそうではなかった。

 個々人の間で仲良くしているメンバーというのであれば、いるにはいる。しかしグループ全体でどうかと問われれば、残念ながら首を横に振るしかない。

 

 アイが十四歳の冬、この時点のB小町は、メンバー同士の関係性の構築という意味では既に、完全に失敗したグループだった。

 彼女たちの関係が破綻に至る過程は、「15年の嘘」という映画の中で厭というほど語られることになる。その中には、アイとニノの決裂、ルビーがあかねとオーディションで演技を競ったあのくだりも、当然に含まれている。

 

 だからつまり、今きゅんぱん(ルビー)が夜の公園の中でベンチに腰掛け、手持ち無沙汰に天に架かる上弦の月を見上げているこの時点のB小町というのは、そういう終わってしまった、乾ききった関係だけが取り残された、どこか燃えさしのようなグループでさえあったのかもしれない。表に見える「人気急上昇中の『次に来るアイドルグループ』」という美称とは、まるで裏腹に。

 

 

 

 手持ち無沙汰にベンチに座ったきゅんぱんが、まるで手癖のようにコートのポケットから携帯を取り出す。ディスプレイをつけ、ロックを解除しようとして、しかしその寸前に表情が歪んだ。

 彼氏に連絡を取ろうとして、しかしその彼氏にはつい数日前にフラれたことを思い出した。そういうことだろう。軽く舌打ちをしながら再びそれをポケットに突っ込んで、ため息を吐く。俯いて、腕を組んで、それはどこか萎んでしまったような姿にも見えた。

 

 しかし、そこに足音が聞こえる。足取りも軽やかに、誰かが近づく。その人影は、黒い髪を長く伸ばし、風に遊ばせた少女の人影は、蹲ったままのきゅんぱんの真正面に立つや、軽くその右手を上げた。

 

『やっ』

 

 いつもの通りの、浮世離れした、重力を感じさせないような掛け声だった。その音が鼓膜を震わせ、気づいたきゅんぱんが弾かれたように顔を上げる。

 夜の公園の、眩しささえ覚えるライトを背負って、黒い野球帽を被ったその黒髪の少女は、紫紺の瞳から燦然とした光を覗かせていた。

 

『アイ、ちゃん?』

 

 どこか呆然としたきゅんぱんの掠れた声が、二人を除いて誰もいない公園の中に響いて、そして溶けて消えた。

 

 

 

『え、なんで? なんでここにいるの』

『こっちのセリフだよー、それ』

 

 確かに目の前にいるはずの少女(アイ)に、それでもきゅんぱんは、未だ半信半疑の面持ちで語り掛ける。

 当のアイは、そんな彼女の様子に小揺るぎもしない。さらりと、まるでいつもと変わらない声の調子で、鞄の中から何かを取り出し始めた。

 紙袋の音だ。それがやけに、この夜の公園の中で大きく聞こえる。

 

『私は、これ』

 

 そしてアイは、手に持ったその紙袋を誇示するように掲げてみせた。逆光に翳るそれを目を凝らして見てみれば、表面に印刷された文字が、それがどこまでもありふれたファストフード店のものであることを知らせていた。

 

『ばんごはん。そこの駅前で買ってさ。まあ帰ってから食べようと思ってたんだけど、気が変わって』

 

 くるりと、まるで踊るように身体を反転させて、羽毛のような身軽さで、彼女はきゅんぱんと同じベンチ、すぐ隣の場所に腰掛ける。

 

『ほら、こういうのあったかいうちに食べたいじゃん? せっかくだからさ』

 

 言いながら、紙袋の中からハンバーガーの包みを乱雑に取り出す。ファストフード店特有の油の匂いが、きゅんぱんの鼻をくすぐった。

 そのままアイは、その取り出したハンバーガーの包み紙を、あっという間にすべて剥いた。どこか乱暴で急いだ手つきのままに、くしゃくしゃに丸めたそれを紙袋の中に放り込む。待ちきれないとばかりに、両の手でむき出しのハンバーガーを掴んで、一口齧った。

 

 まるで幼子のような振る舞いだった。粗野で、乱雑で、しかし何故か色気さえも感じる。目を奪われるようだった。

 

ふぉうしふぁらさ(そうしたらさ)

『……せめて口の中のものは飲み込んでから喋りなよ』

 

 ただ、流石に口にハンバーガーを詰めた状態のまま話さえも始められると、きゅんぱんとしてもあきれ顔にならざるを得ない。

 思わずといった調子で忠言してみせたきゅんぱんに、アイは俄かに動きを止める。

 そこから数秒、何とか全てを嚥下しきった黒髪のその少女が、気を取り直したようにきゅんぱんのほうに向き直った。

 

『そうしたらさ、なんかいいとこないかなーって探してたら、すっげーくらい顔の子がいるじゃんって。この世の終わりみたいな』

 

 びしっと、指をさしてくる。そのアイの人差し指の先は、ハンバーガーのものと思しきケチャップで赤く染まっていた。

 

『しかもそれ、知ってる顔の子じゃん。そりゃ声もかけるでしょ』

 

 でしょ? とばかりに首を傾げて自らのことを覗きこんでくるアイの姿に、きゅんぱんは思わず目を瞬かせた。

 まるで、「信じられない」とばかりに。

 まるで、「アイが他人に興味を持つことがあるなんて」、とばかりに。

 

『……心配、してくれたってこと?』

 

 故に零れ出たきゅんぱんのセリフに、アイは笑った。薄く、小さく、意図の読めない笑みを浮かべた。

 そしてまた、手の中にあるハンバーガー――チーズバーガーを頬張り始める。

 

 

 

 黒川あかねにとってのアイの、「少女だった時代のアイ」の解釈を、ルビーはかつて間近から見たことがある。言うまでもない、そして忘れられない、あのたった二人のオーディションの場でのことだった。

 

 彼女の演じるアイは、どこまでも嘘つきだ。ならばその嘘は、一体誰に、あるいは何に向けられてのものであるのか。

 

 今あかね(アイ)の浮かべている曖昧な笑顔にしても、その解釈は一見して難しい。まるで本当に、世間が捉えるアイの像の如くに、ただ身の回りの全てに対して愛嬌を振りまいて、同時にそれらすべてをどうでもいいとさえ思っている、乾燥しきった、傲慢でさえあるパーソナリティにも、見えはする。

 

 それでも、彼女の演技を、黒川あかねのアイを今この時まで見てきた観客ならば、その意味を理解することは決して難しくない。

 

 アイは、他人の心の機微に誰よりも敏感だ。そうしなければ、生きてこれなかったから。

 アイは、他人のつく嘘を決して見逃さない。他でもない彼女自身が、同じ武器で、鎧で、自分のことを守っているから。

 

 きゅんぱんのがアイに向けて発した言葉は、「心配してくれていたのか」という台詞は、字面よりも余程にあからさまな含意を、その中に宿している。

 ――アイって、私のこと心配するようなタマした人間だったんだ。

 そんな声なき声が、アイには聞こえていた。

 だからこその笑みだった。そう評価されてしまう自分への諦念を、ともすれば憤りすらも内包し、しかしそんなナイーブさの全てを外界から完全に隠しきるための、嘘の笑みだった。

 

 

 

 芝居とは、すなわち対話だ。目の前でアイを演じるあかねから、ルビーは何よりも雄弁な無言のメッセージを聞く。

 ――きゅんぱん(ルビーちゃん)は、そんなアイ()に、どういう気持ちをぶつけてくるのかな?

 問いかけるような、否、まるで挑みかかるような、そんな無形の意思が、今の「アイ」の中からは放たれていた。

 

『話、聞こっか?』

 

 曖昧な表情を伴ってこぼれ出た、らしくもない台詞と共に。

 

 

 

 台本の指示の通り、アイの方から顔を背け、きゅんぱん(ルビー)は視線を手元に落とす。

 今自分が演じている彼女のことを、ルビーは一体どういう人間として表現すべきなのか。それはルビーにとって、もう一つの問題と鏡映しだ。

 

 ――きゅんぱんにとって、アイという少女は一体どんな存在だったのだ?

 

 ここから始まるルビーの、「きゅんぱん」役としての一人語りの内容を、改めて思い起こす。同時にこの現実の世界の中、今の時間軸において、かつて「きゅんぱん」であった女性が選び取った道のことも。

 

 彼女は結局、芸能界に固執しなかった。「東京ドームライブ」という絶頂を経験し、トップアイドルとしての栄光をも掴み取った彼女は、それでもアイが「B小町」という箍の中にもはや納まらなくなったことでグループの解消に至るや、すっぱりとこの世界から身を引いた。未練を残すようなことすらも、なかったという。

 

 それは、諦めによるものだろうか。ほど近くに「アイ」という絶対的な才能を見たことで、自分の存在に見切りを付けてしまったということなのだろうか。

 一理はあるだろう。一面の真実かもしれない。

 けれどもルビーには、どうしてもそれだけだとは思えなかった。

 

 

 

『面白い話じゃないよ』

 

 目をぼんやりと前に向けて、きゅんぱんは呟くように口にした。アイに向かって言っているのに、彼女に目線を合わせることもなく。

 

『それでもいい? 誰にも言わない?』

『いいよ。大丈夫、私口堅いから』

 

 対照的に、きゅんぱんの方をじっと見ながら、それでもまだ手の中に残っているチーズバーガーをちびちびと齧りつつも先を促したアイを、彼女はちらりと見返す。

 

 冷めた双眸の光が、自らをじっと見据える黒髪の少女の姿を映し出す。いつもの顔といつもの声の、アイの姿だ。

 暫し目を瞑って、きゅんぱんはどこか諦め交じりのような溜息を吐き出した。

 

『彼氏にフラれたって、それだけの話』

 

 そしてそう、彼女は半ば投げ棄てるように答えた。

 

 

 

『それは……なんというか』

 

 一瞬、目をぱちくりとさせたあと、アイは俄かに表現の難しい表情を浮かべた。

 困り眉で、バツの悪そうな笑顔で、両手を合わせて首を傾げてくる。

 おちょくっているのか、本気なのか。本心のどこまでも窺えないその態度は、見る人によっては不愉快でさえあるだろう。

 

 果たして分かりやすくジト目を向けた対面の少女の姿を見て、しかしそこで彼女はふと居住まいを正した。残り僅かになっていたチーズバーガーを一息に口の中に放り込み、それまで小脇に抱えていた紙袋をベンチの横に置く。

 咀嚼して、飲み込んで、身体ごときゅんぱんのほうへと向き直った。

 

 その空気を感じて、きゅんぱんもまたアイの方へと目を合わせる。紫紺と琥珀の双眸が中空にぶつかって、一瞬だけ生まれた奇妙な緊張と空白を、アイの声が貫いた。

 

『好きだったの?』

 

 僅かに身を乗り出すようにして放たれたその言葉は、至極当たり前のことを尋ねているようで、同時にどこか禅問答のような、本質を穿つ問いかけの如き響きさえも持っていた。

 

 

 

『好き……だったのかな』

 

 僅かに目を見開いたきゅんぱんが、そう言ってまた、アイから視線を逸らす。ベンチの背にもたれかかるようにして、天を仰いだ。

 飛び込んだライトの眩さに、反射的に目を細める。口元に、苦笑が浮かんだ。

 

『そうだね。多分、好きだったんだと思う』

『そっか』

 

 全く同じように、アイが正面を向く。天を仰いだ。

 一瞬だけ口の端に見えた笑顔の影が、霧散する。

 

 正面を向き、そのまま俯いて、アイはきゅんぱんの方を見なかった。

 

『苦しい、んだよね、多分。イヤだったんだよね』

 

 そしてそう、まるで何かの確認でもするかのように、アイは言葉を吐き出した。

 

 

 

 ――ここだ。

 「きゅんぱん」としての演技を続けながら、ルビーは心にそれを強く刻む。

 このアイの台詞に対するきゅんぱんの返しこそが、このカット全体におけるきゅんぱんとアイの関係性を決定づける。

 いや、違う。それだけではない。アイという少女の本質を、その定義づけさえも、このカットは方向づけるものだった。

 

 ランスルーの中で行ったルビーの演技は、ここから始まるきゅんぱんの独白を、まるで「壁打ち」であるかのように表現していた。

 その場にあるのが本当に壁であるかのように、アイのことを人間として意識さえしないかのように、自分の中に潜りながら、次第に早口になっていく言葉を矢継ぎ早に放つ。何となく、それがこの台本が想定しているきゅんぱんの振る舞いのように思えたからだった。

 

 ディレクションはなかった。だからその方向はきっと、彼らからすれば間違いではないのだろう。

 しかし、違う。今こうして、まさに「十四歳のアイ」の中に没入して、「十四歳のアイ」として振舞っている黒川あかねを前にして、ルビーの中の感性が、「それは違う」と叫んでいた。

 

 

 

 アイがきゅんぱんに向けた「確認」のようなその問いは、アイが他者の感情を慮る能力に欠けていることの証明なんかではない。

 逆だ。アイは誰よりも他者の感情の動きに敏感なのだ。そうでなければ、彼女は他人の嘘を容易に見抜けるはずもない。

 けれども、アイは自分自身の感情の動きに自信が持てない。自分のことを「マトモな人間だ」と、「普通の女の子だ」と、認められないのだ。

 

 それは確かに歪そのもので、故にアイという少女の不完全性をよく表しているのだろう。

 けれどもそれは同時に、優しさだ。善性なのだ。

 他者に歩み寄り、共感しようとして、理解を試みる。アイのその直向きな在り方を、ルビーは決して否定したくはなかった。

 たとえ、演技の中であっても。

 

 

 

 そこで、やっと気づく。どうしてアクアが、ルビーのことをきゅんぱん役に据えようと思ったのか。

 過去のアイと最も良好な関係を築いたB小町のメンバーだから。それもあるだろう。しかし、それは決して本命の理由などではない。

 

 台本は語っている。このきゅんぱんという少女は、どこまでも普通の人間なのだと。

 

 当たり前に恋愛がしたくて、当たり前に一人じゃ寂しくて、当たり前に日常に不満を抱えていて、当たり前に失敗をする。

 彼女はアイドルという職業でありながら、B小町というグループのメンバーでありながら、本当にどこにでもいる、等身大の感性を持った、ありふれた女の子だった。

 スターダムを登り詰めていく「B小町」というグループの中に、そんな彼女が居場所を持っていた十年間という日々は、遠い日の夢と呼んでしまうには些か長く、それでも彼女にとっては確かな非日常だったのだろう。

 

 だからきゅんぱんという少女にとって、きっとアイは「夢の世界の住人」でさえあった。

 本当は自分のような人間が立ち入ることのできない世界で、自分が仰ぎ見るばかりの場所に立って、もしかしたら実在さえしていないのではないかとすら思ってしまうほどに、アイの存在は彼女の生きている世界から遥か遠い場所に位置していた。

 多分、そう思っていた。

 

 アイという船頭に導かれる夢の船に乗り合わせ、自分一人では到底たどり着けない星の海に導かれて、それに確かに心を躍らせながらも、彼女自身はずっと地面を歩いていた。彼女の現実を、ひたむきに生きていた。

 その断絶の両端に立つきゅんぱんは、つまり視聴者にとっての『代弁者』ですらある。

 

 

 

 「普通」の視点から仰ぎ見るアイの姿を、再定義する。その機会を、その権利を、ルビーは与えられていた。

 そして同時にルビーは今、「きゅんぱん」というフィルターを通してではあれど、確かに隣に座っているのだ。

 

 ルビー(さりな)が決して知り得なかった、十四歳の少女としての、ただの一人の少女としての、アイの隣に。

 かつての自身がどれほど願っても叶うことのなかった空想は、今この場において、まごうことなき現実となっていた。

 そんなルビーの中の静かな興奮が、頭の中に思い描いたきゅんぱんの人格像に、瞬間、確かに重なった。

 

 

 

『そうだよ。苦しい』

 

 だから今、きゅんぱん(ルビー)は声を上げた。

 「彼氏に振られた」。たったそれだけから始まった、自分の中に積もり積もっていた不満や生きづらさの全てを、ぶつけるように。

 

 男が隣にいないと不安になる自分が嫌いで、それなのにアイドルをやっている矛盾が苦しくて、親がウザくて兄がウザくて、実家暮らしが窮屈で、B小町の活動に不満があって、推しの舞台のチケットが当たらなかったのが悔しくて、寝不足でキツくて、スマホの画面が割れたのが憂鬱で、なのに財布が寂しくて――でもその不満を全部吐き出すことができたのは、なんだかちょっとスカッとする。

 

 そこにはともすれば、十二年の生涯のほとんど全てをベッドの上で過ごし、普通の女の子としての生活すらも享受することのできなかった、かつての天童寺さりなの心の中にあった「苦しさ」が、仮託されてさえいたのかもしれなかった。

 あの時のアイに、さりなはそれをぶつけたかったのかもしれなかった。聞いてほしかったのかもしれなかった。

 自らの生きづらさをこの公園の上でアイにぶつけた、きゅんぱんと同じように。

 

 

 

 怒涛の如くに吐き出された愚痴を聞いて、アイ(あかね)が目を白黒させる。そんな彼女の姿を見て、きゅんぱんは笑った。

 まるで親しい友人に向けるような悪戯っぽい笑顔を、彼女は浮かべていた。

 

 天に瞬く星のようなあの子は、無敵にも思えたアイドル様は、ひとたび自分の本音を叩きつけてみれば、こんな可愛げのある反応を示す女の子だったのか。

 そんな新たな発見に意外さと面白さを感じている、あどけない少女の笑顔だった。

 

 

 

『だからさ。こんなもやもや抱えてばっかりでアイドルやってると、なんていうか、削れてくんだよね』

 

 そして、そうやって彼女のことを天の頂から『引きずり下ろして』みせたからこそ、未だ続くきゅんぱんの独白へのアイの言葉に、これから発される台詞に、意味が生まれる。

 

『自分の心の中はこんなにドロドロしてるのに、ライブじゃずっと笑顔で、ファンのみんなに「好き」だの「愛してる」だの言ってさ』

 

 どこか真剣な眼差して、きゅんぱんの弱音に耳を傾けていたアイが、続く彼女の言葉にその動きを止めた。

 

『そうやって嘘ばっかついてるとさ、何が本当で何が嘘かわからなくなるみたいで。自分が誰なのかわからなくなってくみたいで』

 

 きゅんぱんは、アイから視線を外して前を向いたままだ。しかしその彼女の姿を見据えるアイの目が、傍から見ても分かるほどに瞠られていた。

 

 

 

『そっか』

 

 きゅんぱんの言葉に反応するようにしてアイから落ちてきたその言葉は、どこか自分に対して言い聞かせているかのような響きを帯びていた。

 

『でもそれって、正直者だからなんじゃない? いいことだと思うよ』

 

 アイが、微笑む。しかしそこにあるのは、いつもの彼女の無邪気とも言うべき無敵の笑顔からは、ほんの少しだけ離れた何かでもあった。

 

『どういうこと?』

『いや……だってほら、私なんて嘘つきだからさ』

 

 目を合わせに来たきゅんぱんの視線から逃げるように、今度はアイが正面を向く。

 

『分かんないんだよね、私は、もともと。私ってなんなんだろ』

 

 やや伏し目がちに、足をぶらぶらと宙に遊ばせて、アイはそうぽつりと零した。

 

『多分アイドルやってるときの私とは、違うんだろうなって思うけど。でもそれもなんかよくわかんなくて。だったら、最初からそうなっちゃえばいいんじゃないのかなって。みんなから愛される、みんなに愛してもらえる、みんなを愛せるような「アイ」にさ』

 

 顔を上げて、アイの視線がもう一度横を向く。きゅんぱんのそれと、正面から合わさった。

 燦然ともいえる煌めきを宿す双眸を見せて、そして彼女はどこか遠くに思いを馳せるような、そんな笑みを浮かべてみせた。

 

『そしたらさ、それをやり通せたらさ。それがもう、本物の「アイ」になってるんじゃないのかなって』

 

 ――ま、おかげでB小町の皆にはなんか嫌われちゃってるっぽいんだけどね。

 そう言ってバツが悪そうに笑ってみせたアイの姿を正面に捉えて、きゅんぱんは――否、ルビーは、結論を得た。

 

 

 

 アイは、確かに普通の少女ではなかった。普通の少女であることを、きっと世界が許さなかった。

 でも彼女は、歩み寄ろうとしていた。普通を理解しようとしていた。普通を愛そうとしていた。

 普通であることに、憧れてさえいた。

 

 このカットにおいて、アイは直接的に自らの過去のことをきゅんぱんには告げない。「アイドルをやっている時の私と違う私」とは何か、彼女の口からは直接言及されることもない。

 

 けれども、この映画を見る観客は、知っている。アイという少女の過去に、何があったか。

 どうして彼女が、それほどまでに「愛」という言葉を口にしようとするのか。

 

 ――迎えに来なかったんだよね、お母さん。

 ――白いご飯が苦手でさ。何か異物が入ってても、分からないから。

 

 台本の中のアイの台詞が、ルビーの脳裏を駆け巡る。

 

 そうだ。だからこそ彼女は、特別であることに、孤高であることに、理解されないことに、何一つ価値を置かなかった。

 いつも、いつだって、アイの視線は、認識は、外の世界に向けられ続けていたのだ。

 

 彼女の嘘は、そのためのものだった。そのためのものであり続けた。

 嘘をして愛だと謳う彼女の「本当」は、ずっとずっと、そこにあった。

 

 きっと、今もなお。

 

 

 

 ただそれを、ルビーは伝えたかった。

 伝わってくれればいいと、願っていた。

 

 

 

 

 

 その後、この夜の公園で交わした一連の話と、そこに続いた一悶着を経て、アイときゅんぱんの二人は一曲の歌を作った。

 ピアノが弾けるきゅんぱんのことを、「凄い特技を持ってるじゃん」と煽てに煽てて、アイがきゅんぱんに曲を作らせた。

 「普通じゃない感性を持ってるアイちゃんなら、普通じゃない歌詞を書けるよ」と反撃して引きずり込んで、きゅんぱんがアイに詞を書かせた。

 

 「嘘つきの私」。そう銘打たれたその曲は、B小町のとあるシングルのカップリング曲として、ひっそりと収録された。

 

 底抜けに明るく、誰かを励ますために書かれた歌詞は、しかしアイという少女にとっては確かに「嘘」で、だからそんな詞を書く自分は、紛れもなく「嘘つき」だ。

 しかしその「嘘」を本当にすることができるならば、それはきっと夢のように素晴らしいことなのだろう。

 

 そんな、自嘲と自虐、そして確かな祈りの籠められた言葉は、それと同じ明るさの旋律の上に乗って、一つの歌になった。

 斯くして生まれたその歌は、B小町の数多出したヒットナンバーの山の中、誰に歌い継がれることもなくひっそりと埋もれていて――しかし今、この「15年の嘘」の劇伴の一つとして、世に知らしめられることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 未成年者(ルビー)の労働時間の限界である午後九時五十九分ぎりぎりになるまで続けられたこの日の撮影がようやく終わり、ロケバスの中で帰り支度を済ませたあかねは、帰路につく前にスタッフの面々に挨拶を済ませるべく、一度外へと出た。

 

 彼らは未だ、撮影に使われた公園の中で撤収作業を続けている。五反田監督も、助監督としてスタッフへの差配を精力的にこなしているアクアにしても、おそらくはまだそこに残っているはずだ。

 そう判断して、あかねはそちらの方へと足を進めた。

 

 ロケバスから公園までの距離は、二百メートルもない。二分そこそこで差し掛かったその場所には、確かに多くの人影が蠢いていた。未だカメラやレフ板、指向性マイクをはじめとする撮影機材の類も残っていて、どこか数十分前までの「現場」の空気感の残り香が、その情景からは立ち上っているようにも感じる。

 

 

 

 公園の中に、いざ足を踏み入れる。

 しかしそこで、あかねはほど近くの場所に人影を見つけた。

 

 撮影で使われていたものと同じ並びで、しかし少しだけ離れた場所にあるベンチの上に、一人の女の子が座っていた。

 葡萄茶色のダッフルコートを纏って、彼女は所在なげにそこに腰掛けている。さらりと流れる金糸の髪が、公園のライトを受けて艶やかな光を放っていた。

 

 

 

 誰何などするまでもない。故にあかねは、その女の子に声をかけた。

 

「ルビーちゃん」

 

 近づいて見下ろした先、ほんの少しだけ肩を震わせてから、彼女は――ルビーは、あかねの方に振り向く。

 

「あかねちゃん?」

 

 どこか呆然と見開かれた双眸の中、紅玉の輝きが、あかねのことを真っすぐに見据えていた。

 

「うん、お疲れ様。……隣、いい?」

「え? うん、全然いいよ!」

 

 少しだけ身を屈めながら問いかければ、彼女は全身でうなずくようにしながら、自らの隣の場所を空けた。

 軽く礼をしてから、腰掛ける。

 

 ルビーの左側のその位置は、奇しくもついさっきまで「アイ」として「きゅんぱん」に対峙していた、あのカットの中の構図と同じだった。

 

 

 

 腰を落ち着けて、どこかぼんやりと天を仰ぐ。吐き出した息が、湯気となって夜の空に消えてゆく。

 さて、自分は何を話すべきなのだろうか。どう、切り出すべきなのだろうか。

 

 一瞬だけ抱えた悩みは、しかし随分あっさりとした呼びかけとなって、あかねの口から出てきた。

 

「ルビーちゃんさ」

 

 視線を戻し、隣を向く。ルビーもまた、あかねの方を見ていた。

 互いの視線が、そこで合った。

 

「今日の演技のことだけど。……すごくよかったよ」

 

 まず出てきたのは、賞賛の言葉だった。

 嘘ではない。今日のルビーの演技は、あかねをして十二分に評価に値するほどのものだった。

 

「ほんと?」

「うん、ほんと。すっごく気持ちが伝わるお芝居になってたと思う」

 

 正直に、率直にかけた言葉に、ルビーはどこか照れ臭そうに頬を掻く。

 

「よかったー。あかねちゃんにそう言ってもらえると、なんかほっとするね」

 

 裏表のない態度だった。嘘のない答えだった。

 無邪気な喜びが、素直な嬉しさが、その声にも仕草にも、確かに滲んでいた。

 だからそれは、確かにいつものルビーだった。

 

 

 

 「アイ」として臨んだ、さっきまでの撮影を思い出す。その中で見せた、彼女の演技のことも。

 

 人の感情の機微を汲み、心の襞を撫でるようにして、「人間」を表現するのが役者の領分だ。自分に向き合って演技をする「相方」の振る舞いを、あかねが見逃すはずもない。

 

 思い起こすのは、ひたすらに自分の生きづらさを一方的に捲し立て続けた、きゅんぱん(ルビー)の長台詞。あの場面における、彼女の見せ場だ。

 そこには、見る者の心を揺さぶってやまない強烈な感情が、確かに乗っていた。言葉遣いだけではない。振る舞いも、小さな身体の動きも、それが生み出す「空気」の全てで、ルビーはあの時間違いなく、感情を爆発させていた。

 

 でも、だからこそあかねは思ってしまった。

 ――あの時、ルビーちゃんが爆発させていた感情って、()()()()()()()()()()()()

 

 きゅんぱんという役が抱えている、日常への鬱屈した感情も、確かにそこにはあった。ルビーはそれを余すところなく表現できていた。

 けれども、それだけではない。あかねには分かるのだ。

 何故ならそれは、自分にとっても憶えのある演技の組み立てだったから。

 

 「今ガチ」の一幕で学んだ「アイ」のキャラクター性を、あかねはそういう風に活用してきた。

 演じる役と、自分自身と、その二つの間に、「アイ」の存在を挿しこむ。そうすることで、誰もが思わず目を惹かれるような強烈な存在感と説得力を持ったキャラクターを、あかねは演じられるようになった。

 それと同じだ。ルビーはあの時、確かに「ルビー」でも「きゅんぱん」でもない「誰か」を、自らの演技のレイヤーの上に重ねていた。

 

 

 

「でも、ルビーちゃん……」

 

 誤魔化しようのない違和感が、思わず口をついて出てくる。

 

「どしたの?」

 

 しかし、そう訊き返してきたルビーの無邪気とも言える疑問の表情に、あかねは首を振っていた。

 多分、それは問いただすべきものではないのだろう。

 根拠はない。けれども、あかねにとってそれは、確信にも似ていた。

 

「あのさ」

 

 故に、あかねは代わりの話題を提示する。

 

「ツアーの話だけど。B小町の」

 

 急転換を見せた話題に、ルビーがぱちぱちと目を瞬かせて、小首を傾げる。

 きょとんとした表情だ。彼女らしい、愛らしくも嫌味のない仕草だった。

 

「あと十日ぐらいだったっけ?」

「そうだけど……」

 

 未だあかねの意図を量りかねているであろうルビーに向けて、自らの問いを投げかけた。

 

「ごめんね、急に。でも、確か宮崎公演あったでしょ。それで……」

 

 そこまで言えば、彼女の方も察したらしい。どこか納得の笑みを浮かべて、一つ頷いた。

 

「そーゆーことね。うん、そう! 高千穂行くの、お兄ちゃんと二人で、もっかい」

 

 知っている。あかねはそれを、先んじてアクアから聞いていた。

 

 高千穂に、あの神住まう地に、このタイミングでもう一度彼らは足を踏み入れる。

 あの双子が、その生を享けた場所。けれども同時に、彼ら二人はそれ以上の『何か』を、あの地に対して抱えているようにも思える。

 その全てをあかねは理解できているわけではない。けれども、どうしてもその選択に、今あの地を訪れることを決めたアクアの選択に、あかねの胸はざわついて仕方がなかった。

 

 

 

 数日前、アクアと二人であの男――「カミキヒカル」に関する情報の共有の為に姫川大輝の部屋を訪れたときのことを思い出す。

 いや、違う。忘れられないのだ。その時に見せた彼の表情が。

 

 あれは、何か覚悟を決めた、決めてしまった人間の目だった。

 もう、アクアは自分の命を粗末にするようなことはない。そのはずだ。そう信じたい。彼の命は彼だけのものではないのだと、もう分かっているはずだと。

 けれども、あかねはどうしても、そこに危うさを覚えずにはいられなかった。この「15年の嘘」の現場で助監督として熱心に動き回り、良い作品を作り上げようと奮闘している彼の振る舞いにさえ、何か「生き急いでいる」ような錯覚を、抱いてしまうほどに。

 

 

 

「……そっか」

 

 だから、これは無責任な期待なのだろう。

 今日、まさにこの公園で見せた「きゅんぱん」としてのルビーの演技の、その裏に横たわっていた『もう一つ』の激情が、本当に彼女の中から発していたというのならば、もしかしたら彼女は、あかねには決してできないやり方で、アクアの心を動かせるのかもしれない。そう、思ってしまうのは。

 

「ねえ、ルビーちゃん」

「なぁに」

 

 きっと、それは烏滸がましい願いなのだろう。

 「アクアくんの隣は渡したくない」と、そんな勝手なことを思っている自分が、たとえ妹とは言えども、自分ではない誰かに、ルビーに、縋ろうとさえしている。

 

 でも、あかねはこうするよりほかに方法を知らなかった。

 

「アクアくんのこと……お願い」

 

 目の前の金紗の髪の少女の、その紅玉の双眸を真っすぐに見据えて、あかねはただ、一言だけ懇願した。

 それ以上のことを、あかねは何も言えなかった。

 

 

 

 ルビーは、暫く何も言わなかった。時折吹き付ける寒風に流れる金糸をそのままに、表現の難しい曖昧な表情で、あかねのことを見ていた。

 近くを見ているようでもあり、遠くを見ているようでもあり、過去を見ているようでもあり、未来を見ているようでもあった。

 

 五秒が経ち、十秒が経って、そこでふと、彼女は笑う。

 そこにあったのは、いつもの無邪気で明るい笑顔とは違う、穏やかで柔らかい、慈しみさえも内包する笑みだった。

 

「優しいよね、あかねちゃんって」

 

 ルビーの目が、一瞬だけ逸らされる。同時に、小さな呟きをあかねは聞いた。

 何か答えようと口を開いて、しかしそれよりほんのわずかに先んじて、ルビーがあかねの方に目を向け直す。

 

「大丈夫だよ」

 

 発されたのは、たった一言だった。それでもその一言だけで、あかねは悟った。

 ――やっぱりだ。やっぱりルビーちゃんは、いつも私が見ているルビーちゃんとは違う視座を、心の中に抱えている。

 

「お兄ちゃんのことは、私もちゃんと見てるから。あかねちゃんとの約束、忘れてないから」

 

 そして彼女はその視座によって、アクアの中にあるあかねからは見えない何かを、きっと見ている。

 そういう「何か」で、あの二人は繋がっている――ような。

 

 

 

 結局その後、いくらか遅れてアクアがこの場に姿を見せるまで、ルビーとあかねとの間に会話が交わされることはなかった。

 夜も十時半を過ぎたあたりでようやく現れた彼に、ずいぶん待たされた格好になったルビーがぶつくさと文句を言い、当のアクアはそれを柳に風と受け流す。

 そのまま三人で現場にまだ残るスタッフの面々に挨拶をして、この場を後にする。

 

 その間の全てを通して、ルビーはずっと、いつものルビーだった。

 底抜けに明るく、無邪気で無垢な、見慣れた彼女だった。

 まるでそれまで交わしていたやり取りは、幻の類であったかのように。

 

 

 

 人知れず小さく首を振って、あかねはルビーの隣を歩く。

 春は未だ遠く、澄み渡る夜の空の西の果てに、沈みゆく上弦の月が煌々とした光を放っていた。




本話の内容は基本的には「視点B」から取っていますが、いくらかの描写を変えていたり、オミットしたりしています。
視点Bで登場した「カナン」の出番がまるっと「ありぴゃん」に置き換えられているのもその一つです。
メタ的な話をすると、アニメにおけるドーム直前時点でのB小町のメンバーは「アイ」「ニノ」「たかみー」「めいめい」「きゅんぱん」「ありぴゃん」+謎のツインテドリル少女なのですが、このうち名前の出ている六人は恐らく解散まで脱退しておらず、また「視点B」の時点でのB小町はメンバー構成が六人であるとの文中の描写から、それと極力矛盾を来さないように整合性を取ろうとした結果だったりします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。