勇者属性を持つ新人のパーティーに入ったら国家の危機が目白押し。パーティーが活躍している裏で動かなきゃ国が詰む 作:マツバキクノスケ
ドウシテコンナニノビルンデスカ?
むっちゃ疲れた………
エルフォンス公爵との会話は滅茶苦茶精神的に疲れる。こちとら半年前まではろくに話もしなかった人間だ。最近になってマシになったとはいえ、あの精力溢れる貴婦人を相手にすると一緒にいるだけでも精神力を消費するのだ。結果、体力は有り余っているのにどっと疲れるという現象が発生する。
悪い人ではない。何だかんだ気に掛けてはくれるし、俺の大剣のメンテナンスを引き受けてくれる鍛冶屋を斡旋してくれたし、何ならその鍛冶屋この間の盾も作ってくれたからな。
でも頻繁に会いたいかと聞かれるといやーきついっス。ってなる。いるよな? そういう人。
で、だ。
取り敢えずジェナ達の試験を腕組みしながら師匠面…もとい応援するためにギルドに着いたんだが……何この状況?
残念なことに俺は普段から冒険者達から一歩引かれている。非常に残念なことに。だが、ギルドにいても態々俺の事を見るような事にはならない。普段からギルドに居た人間だからな。ギルドに出勤したらいつもの席で飯食ったりモンスターの資料集を見て暇を潰していた。俺が積極的に依頼を受ける訳にもいかないからなぁ…。
でも今日はギルドに足を踏み入れた瞬間に『ザワッ…!』と俺を見て黙るのは何でだ? 言いたくも無いが俺何かやった?
心に大分ヒビが入りつつ、職員に試験の見学を申し出る。既に口頭によるテストは終了していて、今は訓練場での実技試験を行っているみたいだ。
訓練場に向かうと、武器がかち合う音が聞こえてくる。
『此処まで!! 被害皆無、連携良し、合格!! 以上を以て実技試験を終了する! 実地試験は明日依頼板で知らせる。各自確認し、決められた日時、決められた場所に来るように!!』
タイミングの悪いことに、もう既に今日の試験は終わってしまったみたいだった。
試験官のその言葉で、緊張から解放されたのか思い思いに反応する受験者達。それらを横目にジェナ達の元に向かった。
「すまない。君達の雄姿を見るには遅すぎたよ…うだ……」
アレ? ジェナさん? 機嫌が悪そうじゃないですか? ルーメンとクリスも若干機嫌悪いようだが、何があった?
「あっ! ジョーさん!!」
俺の姿を見たジェナの顔がぱっと笑顔に変わって俺に走り寄る。
あまりにも早い変わり身。俺でも見逃しそうになるが、遅れて来たルーメン達が未だ不機嫌さを残しているので見逃すことは無かった。
「……何があった?」
「ジョーさん、申し訳ありませんがここで話すと少々問題になりそうなので後程宿でお話いたします。その…あまり聞いても気持ちの良い話ではありませんが」
…普段明るいジェナが不機嫌になる辺り相当な事なんだろうなぁ。面倒事じゃなきゃいいが。
「…という事です。えっと、その、気を悪くされたら申し訳ないのですが……」
「………大丈夫だ。怒っている訳ではない」
そっかぁ~…銀級冒険者の誰だっけぇ? メンディス君ねぇ……なるほどなるほどぉ……
と、怒りを抱いているように見えるかもしれないが、実際の所どうしようか悩んでいるだけである。
勿論怒りはある。別に俺を馬鹿にしたことは良い…訳じゃない。これでも冒険者だ、面子の重要さについては知っている。冒険者は舐められたらおしまいだ。優しさだけが取り柄な奴はすぐに命を落とす。今まで聞いた冒険者の末路でもそうだ。その辺りは随分前に捨てた……つもりではある。まだ甘い所はあるかも知らんが。
加えて連中はジェナ達の事さえ侮辱した。此処までされて『何もしない』と言う選択肢は無い。勿論暴力的な手段はしない。出来得る限りは。
「判った。取り敢えず、君たちは、試験に集中するんだ。明日の張り出しを見て、それまでしっかりと英気を養ってくれ」
俺はそれだけ言って、ジェナ達の部屋を出た。向かう先は俺の宿―――ではなく、普段は寄り付かない歓楽通り。
聞いた限りだと普段から素行不良として目を付けられているみたいだが、それで除籍されるほど冒険者と言う職業はお堅い仕事じゃない。ギルドの監視もそこまで優秀な訳じゃないし、この都市の憲兵も全てを見ている訳じゃない。
だからそういう連中がやるなら軽犯罪に触れるような所までしかやらないか、《人目に付かない所》でやっている…筈だ。
ぶっちゃけ行き当たりばったり感でやっている自覚はある。ただ今の怒りを抑えるにはとにかく動いて、連中を見かけたら嫌がらせに威圧感たっぷり目に身体をぶつけるぐらいだ。それでビビればよし、ビビらずに喧嘩吹っ掛けられたら……まあ、《正当防衛》も仕方がないだろうな。
しっかしまぁ……なんというか、こう刺激が凄く凄い。
昼間なら営業している所も少ないし、精々店先を掃除している比較的入りたての嬢が居る程度だが、今は夕暮れだ。人並みも凄いしキャッチも多い。ショーウィンドウで客を取っている嬢の格好も…見ないでおこう。この世界の人間は基本顔がいいからな。それで食っている嬢のレベルも当然それ以上だ。前世含め50年近く熟成してきた童貞持ちの前にそれは色々と持たない。
まあ、人通りもキャッチも嬢も俺を見ると道を開けるし素通りするし目を逸らすんだけどな! HAHAHA!!
と、虚しささえ感じる気持ちよさを目の前で空いた道で感じながらぶらついていると路地裏の辺りで足が止まった。
別段その路地裏に何か特別なものは無い。ゴミが少しあるだけのどこにある路地裏だ。昔はここに《怪しいお兄様方》が居たがそれもエルフォンス公爵が行ったキャンペーンで一掃されたし、その元締めも壊滅させたからな。この歓楽街も健全になったという訳だ。
だからそう、本来なら何もない筈だが俺の勘が此処に何かあると言っている。俺はそれに従って、一歩大通りから細いそこへ足を踏み入れた。
勘かよと思うかもしれないが、これが案外馬鹿にならない。科学的じゃない、論理的じゃないが今までの冒険で培った経験が勘と言う形でチャンスやら危機やらを事前に察知するのだ。
通りの光が差していたのも最初だけ、一歩一歩進むたびに光は遠くなり遂には月の明かりだけが薄ぼんやりと路地裏を照らしている。
何もないまま奥まで着く。特段変わったことは無かった。
……ウン、まあ勘も万能ではないし科学的でも論理的なものでもないからね………
「…やめっ…!」
前言撤回、何かあったわ。
暗いからよく見えなかったが横道があったみたいだ。声が聞こえなかったらわからなかった。
その横道を覗き込むと―――見知った顔がそこにいた。
「やめて下さい、関係ないと言ったはずです! こんなところまで攫って、脅したところでわたしは屈しません!」
ミドルティーンくらいの背、金色の髪に小麦色の肌。整った顔立ちはこの歓楽街の嬢の中でも上位に入る方だろう。
――だが男だ。そう、歓楽街を利用するのは男だけじゃないし、男が男を求めることもある。知りたくなかったが。
昔違法で営業していた娼館を潰す切っ掛けになった娼夫。確か別の大陸から攫われてきたんだっけか。結局助けた後も歓楽街で働くって言ってその後はあんまり会話することも無かったが…こんなところで何してる? いや、聞こえた通りか。ソレに――
「カンケーネーわけネーだろうが! 俺達は壊滅した訳じゃねぇ。規模を縮小しただけだ」
「わかるか? つまりオメェはまだ『俺達の所有物』なんだよ!」
「ギルドも間抜けだよなぁ! 俺らを冒険者として通すなんてなぁ!」
「ま、末端も末端の連中なんぞ把握できるわけもねぇ。今は出来ねぇが、あのクソ公爵にもいつかお礼参りしねぇとな」
お誂え向きにベラベラ全部喋ってくれた馬鹿どものお蔭で全部把握できた。まあ、初見じゃあわからないような場所だから油断しているのかもしれないが。相手は4人、プレートには銀色のプレート。…昼間ジェナに絡んだ連中だという確証は無い。落ち着け、落ち着け。
「ま、昼間にも丁度よさそうな女共がいたし、そいつらを早いとこ攫って『商売用』に調教しなきゃならねぇ。いいか? テメェに掛ける時間もねぇんだよ」
「判ったらさっさと俺達について来い。じゃなけりゃその顔に傷がつくぜ?」
ナァるほど、なるほど、成程。なんてお誂え向きで、なんて好都合なこと。
「クズ共が」
一歩。それだけで連中の近くまで詰める。
音に反応する前に二人を拳で叩く。嫌な音がしたがアバラが数本折れるぐらいだ。生命力あふれるこの世界じゃ軽傷だ。
ようやく反応した残り二人、うち一人の鳩尾に蹴りを入れる。咄嗟にガードしたようだが、この感触じゃ腕ごとイったな。
残り一人の首を引っ掴んでゲームセット。
「て、てめぇ…沈黙のっ」
「…昼間は、世話を掛けたな」
是非お話ししようじゃないか。もっとも場所は酒場じゃなく憲兵の詰め所だが。
色々解説
・冒険者昇級試験の合格
昇格ラインのスコアを超えれば合格。基準から高いスコアを取る程クランが新人に行っている教育の水準の高さや、クラン自体の宣伝にも繋がり、新規の冒険者を獲得することができる。また、人材の優秀さを見せることでそのクランに優先的に依頼が回されるようにもなる。
また、クランに所属していないパーティーはクランからのスカウトが来たりするので、よりよい点数を取るために真剣になる。