勇者属性を持つ新人のパーティーに入ったら国家の危機が目白押し。パーティーが活躍している裏で動かなきゃ国が詰む 作:マツバキクノスケ
前回の試験から2週間が経過した今日。俺達はヨルアクの門に居た。
時刻は朝の5時。まだ日の光が薄らと見える程度の時間だ。
最初の頃はおいおい、時計なんてあるのかよとも思ったが、よくよく考えれば街中はそんなに臭いわけではないし、何よりも道端に…が投げ捨てられているなんてことも無い。ある程度
時計の話は置いておくとして、今は他でもないジェナ達の昇級試験の為にここにいる。
合流した時は寝ぼけ眼を擦っていたルーメンも完全に目を覚まし、ジェナ達と最後の装備と作戦の確認をしていた。俺は口を挟まない。いくら試験外とは言え今日は後方腕組み面として護衛以外の一切を行わないと決めているのだ。
「皆さん、既にお揃いのようで」
そうこうしているうちにギルドから職員が2人やってきた。遅れて他のパーティーも。
「では、これより銅級冒険者昇級試験を行います」
俺達は、事前に用意された馬車に乗り、目的地へ向かった。
おい、そこ。俺を見てヒソヒソ喋るんじゃない。こう見えて心は繊細なんだ。
太陽が昇り、頭上に差し掛かった頃に馬車はついた。
場所は冬の時期に探索を行た農村近くの森だ。去年まで試験会場になっていた森は未だ封鎖されている。調査中らしいものの、それ以降の情報は欠片も聞こえない。
「では、改めて昇級試験の説明を行います」
・試験官二名が各パーティーについて探索・狩猟の様子、その後の処理等を審査する。
・制限時間は魔道具によって知らせる。その前に試験を終了したい場合は職員に伝える事。
・安全対策の為に、互いに危険が迫ったら直ぐに対応できる距離に言える事。
まあ、最後以外はいつもの奴だな。俺の時と変わってない。
なお、こんなに大勢で入って問題ないのかと思うかもしれないが、この世界の生き物は基本好戦的だ。そこらの兎でさえタックルで攻撃してくるし、そんな森でバカ騒ぎしようものなら向こうから襲いにかかる。
だから余程運が無い限り狩猟対象が来ないことは無い。
俺達はお互いの姿が見える程度に二手に分かれて森に入った。
結果だけ言えば特に問題も無く、どちらのパーティーも合格判定を貰えた。
……こうも何もなく終わるとそれはそれで不安だな。いや良い事なんだけど。
「無事に上がれましたね!」
「蓋を開けてみれば普段の狩猟と変わりなかったね」
「ジェナさん、あくまでもわたくし達は銅級に上がっただけ。云わばここからが冒険者の始まりなのです。銀、いえ金に上がって初めて喜ぶことができますのよ?」
ルーメン、顔がにやけているのにそう言っても説得力が無いぞ。せめてもうちょっと表情を隠すんだな。
じゃ、仕方ないから代わりに俺が引き締めてやるよ。
「そうだ。ここからが、冒険者として見られるラインだ。危険な依頼も増えていく。鍛錬も厳しくする」
俺の言葉にニコニコしていたジェナ、冷静に見えて安心していたルーメンとクリスの顔が青ざめた。
例え女であろうと冒険者である以上、力を付けなきゃいけないし、俺と並んで戦えるようになるためだからね。仕方ないね。
「成程ね……転移の魔法陣か」
首都ルクレベ、その中央区の更に王城に近い区域。私ことカーランド公爵の邸宅。
自分の執務室で、調査隊が入手した情報を精査していた。
正直、この報告書を受け取るまで、あまり関心を抱いていなかった。
このゴブリンの発生が自然な物ならギルドに伝達したあとは放置していた。下手に干渉せずに専門機関に回した方が余計な労力も省ける。
しかし…これが人為的である可能性が在るならば、話は変わる。それは王のいる首都を害する意思が存在し、それは即ち国家転覆を企む某が存在していることになる。
まあ推測の域を超えないが……嘗てこの街に蔓延っていた組織、その残党に援助をしている連中だろう。
父が当主の座にいた頃、その組織は根を張り始めた。
影響力を拡大させるため様々な業界に手を伸ばし、さらなるコネクションを作るための足掛かりとして始めたビジネス――娼館経営で、彼等は知られてはいけない存在に知られてしまった。
父ではない。奴はそもそも連中に手を貸していた。後から聞いた話だと、どうやら玉座を手に入れるために協力関係を持ちかけていたみたいだ。自分の能力を図ることも出来なかった男が自分の父かと呆れたものだ。
沈黙の巨人。それが彼らが衰退する原因となった。
違法娼館から逃げた娼夫を保護した彼に対し、それを取り返すべく様々な脅しを仕掛け、時には懐柔しようともした。
だがそれはどれも意味を成さず、暴かれた娼館の惨状を見た彼は怒り狂い、力の限りに組織を壊滅し続けた。
当時の私は父の取引の証拠を集め、法的に引きずり落とす計画を立てていた。そんなときに暴れてくれたものだから計画が役に立たなくなり、結果混乱の残る状態のまま父を引きずり落とすことになってしまった。コレばかりは今でも恨んでいる。
おかげで未だに残党が残り、先日捕まえた者はギルドに入り込み、しかも銀級まで食い込んでいた始末。ギルドには要注意リストの冒険者の身辺を徹底調査する様に要請した。とはいえ、ギルドの審査を厳しくすることは難しい。締め付けを厳しくすれば犯罪者が増えるだろうし、何より流動する人材の動向を把握することは難しい。無論ギルド、冒険者そのものを廃止なぞしようものなら軍に負担がかかる。維持費も無限ではないのだ。
組織を摘発し父を絞首台に送った後、沈黙の巨人と面会する機会があった。この街を管理する者として、感謝の意を示す必要があったからだ。あとは噂の人物に有ってみたいという個人的な興味本位もあったか。
最初見た時はこれにヒトの血が流れているのかと、人体の神秘と言うものに関心した。次に話をしていくうちに、彼のその体躯に見合わない臆病さを見抜いた。貴族として人の本性を覗くことは朝飯前だ。特に彼は分かりやすい。殆ど外見で恐れられ、忌避されているだけで交流を持てば見抜ける者は多い筈だ。
そこから彼に興味を持ち、時たま話すようになったのだがそれは今は置いておこう。とにかく、壊滅した組織が関わっている可能性が出て来た。
今は魔法陣を監視する様に伝達してはいるが、恐らく陽動。この街を攻撃するならば外ではなく内側にも仕掛ける筈だ。
しかし、今まで捕らえて来た残党はおろか、過去に捕らえた幹部級でさえ情報を殆ど知らない始末。
既に魔術研究所に情報を渡し、衛兵に見回りの強化を行わせている。場合によってはギルドにも協力を要請し、バーアライド卿にも依頼を出す必要がある。王宮にも伝えたが、不確定な情報故に向こうも対応は消極的だろう。
情報の少ない現状、打てる手はこれぐらいか。本格的な対策は情報が揃ってからになる。それまで時間が許してくれればいいが。
……このストレスはバーアライド卿と話すことで発散するか。全部解決した後で。
私はそう心に誓い、再び執務に取り掛かった。
色々解説
・冒険者ギルド
ナッパロー王国で治安対策兼戦力の足しとして設置された。他の国でも似たような組織はある。基本的に根無し草一歩手前の連中が多いので戸籍に登録されていることは殆どない。そもそも戸籍を持つには定住する必要があるが、信用も金も無い、命の危険が多い彼等には難しい話である。主人公ことジョーも当然戸籍は無く、爵位を賜ったが所詮は名誉爵位の為与えられた。しかし、プライド(だけ)が高い貴族はよく思っておらず、それをカーランドは色々と陰でガードしてお気に入りを保護している。
あれ? カーランド卿メインヒロインか?