勇者属性を持つ新人のパーティーに入ったら国家の危機が目白押し。パーティーが活躍している裏で動かなきゃ国が詰む 作:マツバキクノスケ
あと滅茶苦茶誤字報告をしてくれた方が居たんですよ。とてもありがたい限りです。
王立魔術研究所次席研究員マルドア・ミルザレム・アトワーヌは、本日幾度目かわからない溜息を吐いた。
カーランド卿から調査の報告書を受け取ったのが昼過ぎ。そこから月が王城の上を通過するまで会議が続き、現在は報告書に記載されていた魔法陣を発見するための魔法式の組み立てを行っている最中なのだ。
眠気覚ましと気力回復の妙薬は既に5本消費した。主席研究員のお世話は他の者に引き継いでいるから問題ないと思うが、この妙薬の効果が切れた瞬間の事を思うと溜息の一つも出よう。
魔法陣の検知だけを目的とするならば探知の魔法陣を広範囲に広げれば良い。が、この都市には様々な目的で使用されている物が多数存在している。それらを検知しないように式を組み立てねばならない。しかしそれも別段難しい話ではない。問題の魔法陣の魔力反応が解析できればそれのみを検知できるようにすればいいだけの話だ。
だが、かの森林区域であったとされている魔法陣は巧妙に隠されているのか、未だ発見に至っていない。故に現状最短で探知するためには、都市に存在している
構築の補助を申し出てくれた研究員たちには交代で補助を行うように言いつけ、先ほど交代で入れ替わったばかりだ。彼等はアトワーヌにも休むように進言したが、いつ発生するかわからない事件を事前に防がなければならない以上、正確且つ迅速に魔法陣を刻む必要がある。この魔術研究所内でそれを行えるのは主席研究員と彼なのだが、主席研究員は基本的に自室と化した研究室から出てこない為、負担はアトワーヌが背負うことになってしまうのだ。
「……っ」
視界が一瞬歪み、身体のコントロールが失われる。魔力欠乏と妙薬の効果が切れた際の症状が一気に押し寄せたのだ。
「アトワーヌ様!」
補助に入っていた研究員が作業を中断して体を支える。力も入らない為より重いであろう身体を支え、彼を近くの椅子まで誘導する。
「ありがとうございます。少し休憩を頂いたら、また作業を再開いたしますのでそれまで貴方も休憩を…」
「アトワーヌ様、恐れながら申し上げます。あの妙薬は、摂取すればするほど効果は薄れ、反動は大きくなるばかり。それを5本も使ったのです。此処は一度しっかりと休憩を取られた方が良いかと」
「貴方の抱いている懸念は私も理解しています。しかし、一刻も早く式を完成させなければ、この都市の住人の安全が脅かされるのです。現状、それができるのは私を除いて他にいません」
研究員の言葉は最もだ。自身がまだ彼等と同じように無茶ができる年齢ではないことも、妙薬の過剰摂取の反動の事もよく理解している。
しかし、魔術研究学に身を置いた時から、国家の為に尽くす覚悟は決まっていたのだ。緊急事態になりかねない現在、自身の身を労わるという選択肢は無い。
「キアレス主席研究員がいるではないですか! 国家の一大事と言うなら、彼にも」
「今こうして貴方と議論している間も、彼は魔法の研究を行っています。その多くはこの国の発展に寄与しています。その対価として失われたものは余りにも大きい。そんな方にさらなる負担を強いることは、私には出来ないのです」
彼の言ったことは正しい。しかし、アトワーヌは未だ研究室から出てこない彼の事を思うとその選択肢に躊躇する。そこには今まで異性と交流が無く、家庭を持たぬ自身が彼を孫の様に思っている事から来る甘さも含まれているのだろう。
「さて、休憩を取ったことで大分調子も良くなりました。作業を再開いたしましょうか」
これ以上の討論で時間を使う訳にもいかない。そう考えたアトワーヌはあまりにも短すぎる休憩を終え、席を立とうとする――が、やはり疲労の蓄積した身体は僅かに浮かすだけの力しか出力できず、またもや椅子に身体を預けてしまう。
「……判りました。それならば、仮眠中の研究員を全員叩き起こして作業に当たります。その間、アトワーヌ様は休憩して下さい。未熟な腕ではありますが、全員で行えば貴方程ではありませんが、より早い時間で式を完成させることができる筈です。組み終わった式を貴方に確認して頂ければ負担は少なくなります」
「しかし…それでは貴方達の負担は多くなる。それでは申し訳がありません」
「アトワーヌ次席研究員。私達よりも負担の多いお体で、私達より多くの負担を請け負っている。それを間近で見る私達も同じ気持ちを抱いているのです。お願いです、どうかご自愛ください」
言葉を終えると同時に、深く下げられた頭を前にアトワーヌは押し黙った。やはり彼等に負担を背負わせるのは忍びないが、心身共に疲労しきっていることも事実。そのギャップをどう解消するか思考を巡らせた。
「じぃじ、ここにいたの?」
沈黙する室内に突如入り込んできた幼い声。その声に聞き覚えのあるアトワーヌは思わず声の方向に視線を向けた。
部屋の入口、そこに今他の者に世話を頼んでいた筈の主席研究員の姿がそこにあったのだ。
「キアレス…どうして此処に」
「じぃじこないからきちゃった」
そう言って入室した彼の眼は布に覆われ、視界を遮られている。いや、
それだけではない。その年齢に見合わない幼い体躯の下半身、膝から下も失われている。その身体を動かしているのは自身が生み出した魔法によるものだ。
生まれつき魔法を手足の様に操ってきた彼はその才能を買われ、15歳と言う最年少でアトワーヌの後に主席研究員の座に付き、国家に貢献し続けて来た。
しかし、その対価は多大な物であった。
彼の家系が代々犯してきた過ち―――数代にわたり濃縮された血統。
生を受けた瞬間から足は失われ、視界は閉ざされ、その肉体は脆弱になり、一分野に特化したその頭脳は精神の成長を著しく阻害されてしまった。
宙に浮いた状態でアトワーヌに近づいた彼は掌で頻りに顔を触る。心配する時によく行う仕草だ。
「なにかこまりごと?」
「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だ。もう少ししたら終わるからな。だからお部屋に戻っておくれ」
「うそ。じぃじうそついてる。すごくつかれてる」
目が見えない故の特有の勘か、或いは魔力検知の応用か。宥める為の言葉は意味を成さず一瞬で見抜かれ、アトワーヌは言葉に詰まった。
「じぃじ、つかれるのいや。こまりごと、てつだう」
そのまま研究員の元まで浮遊するキアレスに彼は事情を説明する。
一通り事情を把握した彼は、魔法陣まで向かうと式の構成に取り掛かる。
補助も無い状態にも拘らずアトワーヌよりも圧倒的な速さで術式の構築を行い、除外するべき術式は見る見るうちに数を減らした。
予想していた時間よりも早い、朝日が昇る前に作業は終わった。
「じゃあおへやにもどるからね。じぃじも、よふかししちゃだめだよ」
そう言い残し、彼は研究室に戻る。後に残った二人は念のために確認作業に入るが、あれだけの速度で術式を書き込んでいたのにもかかわらず、一切の間違えは無い。
「凄い……」
研究員は彼の技術の高さに感嘆するも、アトワーヌは危機感を覚える。
このまま現状を維持し続ければ次も彼に負担を強いることになってしまう。在籍する研究員の魔法の腕の水準は高い。研究において知識と技術が無ければ成り立たない分野だからだ。
しかし、現状の様に抜きん出ている者はいない。また同じような状況に陥れば再び彼はまたあの研究室から出てくるだろう。現在も後進の育成は続いてはいるものの、研究会によっては派閥が異なる者同士でそりが合わないこともあり、思い通りにならないのが実情だ。
どうにかしてこの状況を解決できる策は無いか。
アトワーヌは結論の出せない問題を抱えながら、魔法陣の完成の報告までの時間で休養を取るのだった。
色々解説
・魔法陣……呪文なしで刻まれた魔法を使える。少しでもミスると発動しないか、或いは事故が起きる。イメージはパソコンのプログラミング。
・魔法使いの家系、或いは研究会……開発した魔法を一族に伝えていくその性質上、秘密結社の様な側面を持つこともあり、派閥もある以上険悪な所もある。また、魔法を外に漏らさないよう、そしてより強い素質を持った子供を『作る』為に近親で行為を行うことがある。現在では法律により禁止されているが、キアレスの家系は法を破り決行した。
某、裏切りそうな腹黒そうな見た目の老爺が忠臣で孫バカになるのが好き侍にて、同好の士を募る。