勇者属性を持つ新人のパーティーに入ったら国家の危機が目白押し。パーティーが活躍している裏で動かなきゃ国が詰む 作:マツバキクノスケ
やけに衛兵の巡回が多いな。
昇級試験から熱が入って訓練を厳しめにしたせいでジェナ達はダウンしてしまったので冒険者活動は出来ない。そうそう俺が対応する案件があったら国の一大事な訳だし。
そんな訳で、今日は馴染の鍛冶屋にメンテナンスの為に預けていた盾を回収するついでに街中を散策する。
何時もなら一直線に向かうんだが、最近になってそれだけじゃ心寂しいと感じるようになったという心境の変化があるのだが……心が折れそうです。
俺の通る道を邪魔しないように最大限に開ける通行人、恐怖でギャン泣きする子供を必死であやす母親とそれを守ろうとさり気なく前に立つ父親。俺を見て即座に逃げ出した野良猫。ここ最近人と話す様になったので忘れかけていたが俺、外歩く時大体こんなんだっけ……。
もう一度言おう、心が折れそうです。あっ、そこの人お願いだから衛兵に通報しようとしないで、別に職務質問受けても良いけど手間がかかるし精神的にクるものがあるから。お願いします。
こんなことなら寄り道せずに一直線に向かうべきだったかな……
悲しい気持ちをさっき買ったばかりのサンドイッチ(屋台の人からは盛大に命乞いされた。勿論凹んだ)を食べながら道の隅っこを歩く。俺が中央通ると道が狭くなるからな……最大限の配慮と言うものだ。
「あっ……」
あっ………
前方不注意の子供にぶつかられた。手に持っていたであろうお菓子は地面に転がり、一部は俺の脛当てに付いた。
お菓子を落としたショック、ぶつかって尻もちをついた痛み、俺のツラの怖さ。そして相手は未だ十にも満たない子供。ゆっくりと世界が動いたような錯覚。何となく俺はこの後の結末を予想できた。
俺の耳を子供特有の甲高い泣き声が貫き、後から追いついたであろう母親は必死の形相で地面に付く勢いで頭を下げる。
泣きてぇのはこっちだよ……そんな愚痴を心に仕舞い込み、俺は母親に屋台で買うには十分であろう金額の銅貨を渡して立ち去った。何もしないで通り過ぎるにはちょっと後味も悪いし。
これ以上寄り道しようものならまたトラブルを引き起こしかねないな……さっさと鍛冶屋に行くか。
せっかくの休養日だというのに、俺の心は休まるどころか更に傷ついた。そんな苦い昼下がりだった。
半ば逃げる様に目的地に着いた俺は鍛冶屋の中に入る…が、親方さんの姿はカウンターにはない。
備え付けてあるベルを鳴らすと奥の工房から目的の人物は現れた。
「やあやあ、ジョー君かい? すまないね、急な仕事が入ったものだから」
人の好さそうな笑みを浮かべながらカウンターまで来る。
眼鏡を掛け、細身で高身長な姿は町中でベンチとかに座っている姿が似合いそうな気がするが、そこそこの重量がある筈の盾を軽々と持ち上げながらやってくるのを見ると本当に鉄火場の漢なんだなぁと感心する。
「これを受け取りに来たんだろう? ほら」
渡された盾を見れば姿が映りそうな程に磨かれ、傷一つない。相変わらずの完璧な腕前だ。
「元々頑丈さが確かなアダマンチウムを多めに混ぜ込んだ
君のその大剣と比べればね。と軽いジョークを交えて話す親父さん。この盾よりも少し重いものの、刃こぼれも無いこいつのメンテナンスなんて簡単だろうに。あまりこの手の冗談を言うのは苦手なのも相変わらずだ。
「…いつもお世話になって、います」
代金をカウンターに置くも親父さんは目を見開いて反応が無い。そういえばあんまり利用することも無いし、利用したとしても会釈か頷きでコミュニケーションしてたから話すのは初めてだっけ。
「君話せたのかい? てっきりその傷のせいでしゃべることができないのかと思ったよ」
ああ、この傷ですか。別に大したことはありませんよ。なに、クソトカゲの置き土産の一つでございます。別段普段悪さをすることはありませんよ。嫌なことが起きる前に大体突っ張るぐらいです。はは。最近は突っ張った状態が続きますがね。ははは。
というジョークをかます度胸もなしに、会釈をして今度こそ店を出る。まっすぐギルドに行くとしよう。本当はまたぶらぶらしながら帰る予定だったんだ。
此処に来るまでの騒動を考えると、な……うん。辛いな。
中央区に居を構える鍛冶屋、『大地の槌』の店主は、先程会釈をしてのそりと店の出入り口を潜った珍客を見送り、彼との出会いを思い起こした。
切っ掛けは自身が庇護下に入っているカーランド公爵からの紹介文を持参してやってきたときだった。
この都市でも高身長の自身が見上げるほどの巨躯に、今はもう少数民族と化した巨人族かと見間違えた。ただの人族と知った日は自身の常識に疑いを持った。
そして彼の持つその大剣を見て二度、自身の常識を疑った。
公爵家の庇護下に入る以上、彼の持つ腕前は確かなものだ。そも、あらゆる魔法に対し抵抗を持ち、且つどの鉱石よりも圧倒的な衝撃に対する抵抗性と剛柔性を持つアダマンチウムを混ぜ込み超合金として武器に出来るのは鉱石の扱いに置いて右に出るものはいないとされるドワーフ族の、その中でも才児として教育を受けた自身を置いて他にいない。
しかし、彼の持つ大剣はどうだ。手に持った瞬間、力なら他の種族よりも長けているドワーフの彼でさえ、両手で持ち上げるのに精一杯。それを研磨機で研ぐなぞ、他の依頼を差し置いてでも一日かけてやらなければならない大仕事と化したのだ。
それほどの重量を持つ大剣、職人として気にならない訳が無い。
一度、彼に断りを入れて隅から隅まで、僅かな見逃しも無いよう調べ上げた。
調べ上げた結果出た結論は『何もわからない』である。
唯一判っていることは、この今にも崩れ落ちそうな程に罅の奔った刀身に分厚い刃の大剣はその殆どは、既知の素材でできている。
アダマンチウム、アオイロカネ、ミスリルを特別に加工したイシルディンと隕鉄。柄は魔力を通し易いエルダートレントの樹木。この5つである。隕鉄を除きどれも特別な存在である事を除けば用意できる。金に糸目を付けずに探せばと言う条件はあるが。
先ず、魔法への抵抗力が高いアダマンチウムと、特別加工されたミスリルが同時に存在している時点で意味が分からないのだ。
そもそもそんなことをすれば両方の長所を打ち消し合い、残るのは『頑丈で重いだけ』の合金しかできない。
仮にこれが、魔力を通せば周囲を凍てつかせるアオイロカネと元々魔力の伝導率の高いミスリルを更に効能を高めるための儀式を施されたイシルディンを合わせた超合金なら理解はできる。
しかし、それらを台無しにしかねないアダマンチウムを全ての素材の合金を損なうことなく超合金として混ぜ込む。これだけで訳が分からなくなる。隕鉄に至ってはその絶対数の少なさからどのような効果があり、それをどのように加工するのかすらわかっていないのだ。何の目的があって混ぜるのかなど当然推測することもできない。
加えて何度でも説明するが、アダマンチウムは密度が濃く、それゆえ重量は全鉱石の中でも圧倒的に重く、かつ魔力の阻害に長けている。硬いという事は即ち加工に莫大なエネルギーを使うという事で、それらの問題を乗り越えて尚且つ、使用された全ての素材の特性を損なうことなく完璧に調和された状態で超合金として加工する。
そんな神の御業としか言いようのない作品が今まで誰の目にも触れる事無く存在し、それを自身の目の前で提示されたのだ。常識を疑わない訳が無い。こんな技術を持っていた名も無き鍛冶師の正体を持ちうる人脈を使って調べようとしても見つからず、一族の文献を洗っても見つからない。
辛うじて神話の中に答えの一端を見出したものの、それ以降は道が途絶えた。此処からは長命種族たる長耳亜人…エルフの文献にあるかどうかといった所か。それ以外の種族の文献も漁らなければならない。道は長いだろう。
誰が、何時、何故、これだけのものを造ったのか。造る必要があったのか。これだけの謎を多く抱えている大剣を前にして一職人としてのロマンを感じずにはいられない。
「師匠、焼き入れの準備が完了いたしました」
気が付けば随分と考えに耽ってしまっていたようだ。自身が行う段階まで作業は進んでいたらしい。
彼の持つ剣に対して思うところはあれども、だからとて仕事を放棄する愚は犯さない。公爵家の庇護に入る者として相応しい仕事をするべく、工房へと再び歩みを進めるのだった。
色々解説
・オリハルコン……様々な鉱石を混ぜた合金の中でも特別な効果を持つ鉱石(ファンタジー鉱石)を合わせた物をオリハルコン(超合金)と呼称され、それらを用いて作られた装備は通常の物よりも高価に取引されている。
・アダマンチウム…剛柔性に富み、衝撃に強く、魔法に対してめっぽう強い鉱石。それ故加工の難易度は高く、他の鉱石と混ぜても物によってはその効果を阻害する羽目になる為、通常の工房では持て余す鉱石。
・イシルディン……特別な月光の元でミスリルを聖別し、その月光で儀式を行うことで生成される鉱石。月光の力により元のミスリルよりも魔力伝導率、魔力増幅率は高いが、その生成プロセスの難しさからか数は少ない。
・アオイロカネ……ヒヒイロカネと対を成し、魔力を通すと霊気を纏い周囲に霜を発生させる鉱石。そのため、加工の難易度は高い。
・ヒヒイロカネ……アオイロカネと対を成し、魔力通すと熱気を纏い通された力の量に比例して温度を高める。そのため加工の難易度は高い。アオイロカネ同様、極東(ナッパロー王国から見て)の小さな内乱中の島国にしかなく、入手難易度も高い。
・隕鉄………すべてが謎。世界中に点在する遥か古代の遺跡内部から発見されるごく一部の武器防具や神具、及び長命種族の秘宝などでしか見られない。その効能は謎に包まれており、一説には隕鉄ごとに効能が異なるとも言われている。
オリハルコンとミスリルとアダマンチウムをどう差別化する悩みながら調べたらWikipediaの合金を示す意味合いが多い的な記述を見て脳死で『これでいいや』となりました。
コレだから後々困ることになるんだよなぁ……