勇者属性を持つ新人のパーティーに入ったら国家の危機が目白押し。パーティーが活躍している裏で動かなきゃ国が詰む   作:マツバキクノスケ

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あともう一話ぐらいでこの章の終わりにしようかと思います。


出張帰りの一幕

「一体何が起きたというのだ…?」

 

 目の前の惨状を見て公爵家から命を受けてやってきた部隊の指揮官は絶句した。

 道中の要塞が伽藍洞で人も物資もない状況から尋常ならざる事態が起きている事は予想できていた。

 しかし、そうだとしてもこの光景は一体何だというのだ。

 

 家々は悉くが破壊しつくされ、辛うじて状態が良くとも内部は荒らされ無事なものは一つもない。

 整備されていた石畳の街道は何かが激突したクレーターと、衝撃でめくれ上がったレンガが散乱し見る影もない。

 そしてそれを彩るようにまき散らされている死骸はどれも人間の物ではなく、ヨルアクを襲っていたゴブリンのもの。

 

 この襲撃はアムーレリア側の作戦では無かったというのか?

 今まで入手してきた情報からアムーレリアの侵攻作戦は理解していたのだが、この惨状を見るとどうにも胸騒ぎがする。

 アムーレリアだけの作戦ではない、もっと別の――

 

 その時、風切り音が男の耳に入った。

 それは公爵家の抱えている諜報員が放つ合図。

 本来ならば、専用の魔道具によって行われる通信が不可能になった際の緊急用の手段の物だ。

 それに気が付くとすぐさま兵を呼び魔道具を起動した。この作戦の目標の一つでもあったからだ。

 

 それは魔道具で信号を発信し味方との通信を可能にする物であり、未だに潜んでいるであろう諜報員を回収することを目的に持ち出されているのである。

 

 反応は直ぐだった。

 風切り音が複数回鳴り、それに応えるように再度魔道具を起動する。

 暫くして、人影が複数現れた。

 使用人の姿もあれば、普通の町人と変わらない地味な格好の者まで姿は様々。

 身分を表す紋章を提示されなければそれと気づけなかっただろう。

 

「生きているとは思わなかったぞ」

 

「……そうだな。我々も死を覚悟した」

 

 諜報員はその隠密性を保持する為、拷問されても口を割らない精神性を持っている。

 だが、そんな鉄人であっても今回の事は身に応えたらしい。その口ぶりは重々しい物だった。

 

「状況は?」

 

「酷いものだ。脱出する暇も無く街は混沌に陥った。『彼』が来なければ我々の内の誰かが犠牲になっていた」

 

「彼?」

 

「バーアライド卿だ」

 

「バーアライド卿が? 一体何故」

 

「どうやら罠で此処に転移されたらしい」

 

「それでこの惨状と言う訳か」

 

「いや、この惨状は別の冒険者によるものだが、それに劣らない戦いぶりだった。あんな、切り札を――」

 

 何を思い出したのか、目の前の諜報員は顔を青褪めさせて口を閉ざす。

 不審に思った指揮官の男が尋ねるも、口を開く様子が無い。

 その周囲に居る他の諜報員も同じ様子だった。皆一様に口を閉ざし、中には身体の震えを抑えるために自らの身体を抱きしめるものまでいた。

 

「一体何が起きたというのだ……」

 

 思わずもう一度呟く指揮官の声が虚しく街中に響いた。

 

 

 

 

 出張後の報告程気疲れするものってないよね。

 結局、エリーに魔術でヨルアクまで送られて、街に入ったと思ったら衛兵に止められたと思ったら公爵の家に直行。そのまま報告をして解放されたのが夕方――即ち今という訳だ。

 おっかしいなぁ…着いた時は昼間だったのになぁ。

 おかげで腹もすいているが取り敢えずジェナ達の宿に行こう。様子も見ておきたい。

 

 ギルドを通って酒場の通りを行くとまだ修繕中だというのに商魂逞しく営業している酒場が見える。ま、冒険者の喧嘩でちょくちょく修繕の看板が立つことあるから今更だな。

 それらも通り過ぎると徐々に喧騒が遠のき、斜陽と魔光灯の明かりが静かに照らす宿場街に着く。

 そのうちの一つのドアを潜り抜ける。

 何度か顔を合わせた女将さんに会釈をして、ジェナ達の部屋に向かう。

 ドアの前でノックをしようとした時、ふと気が付いた。

 

――あれ? 俺、すっごい失礼なことしようとしている?

 

 いや、パーティーメンバーだし大丈夫なんじゃ……

 いやいや、親しき中にもなんとやら。流石にうら若き乙女の部屋にアポなし訪問、しかも見た目はゴリマッチョの強面。

 第三者から見ても『もしもし衛兵?』案件ですありがとうございました。

 

 よし、今日は帰るか。明日でも問題ないだろう。帰って寝るか。

 ノックしかけた拳を下ろして背中を向けようとしたその時だった。

 

『どなたかいらっしゃいますの?』

 

 ルーメンの声がドア越しに聞こえた。

 何で気配が分かるんですかね? おじさんビックリだよ。

 

「……ジョーだ。夕暮れ時に失礼する」

 

 暫くしてドアが少し開き、そこから彼女の眼が覗いた。

 

「ジョー様? どうして此方へ?」

 

「……所用から戻ったので、様子を見に来た……騒動の後で怪我がないか心配だった」

 

 ドアが開いてルーメンの姿が見えた。通気性の良い白い寝間着姿で、寝る前だったみたいだ。

 

「……すまない。後日改めて来る」

 

「いいえ、大丈夫ですわ。外に出る予定が無かったので寛いでいた所でしたので」

 

 そう言って部屋に招き入れる。

 リラックスタイムを邪魔したことにちょっと申し訳ない気持ちになりながらも部屋に入る。

 

「あっ、ジョー!」

 

「おかえりなさい」

 

 ジェナとクリスがベッドに座っている。その前には広げられたカード。俺が来るまで遊んでいたのか。

 

「ああ。その……居てやれなくて済まなかった」

 

「大丈夫です! あの時の様に足手纏いにならずにゴブリンを倒せるようになったんです!!」

 

「…怪我は?」

 

「ご覧のとーり。ピンピンだよ」

 

 クリスが腕をプラプラと動かす。日焼けしたその腕に大きな傷は見られない。ジェナとルーメンも同じ様子だ。

 ……凄いな。公爵から聞いた話とあの規模そこそこ被害出たって聞いたが、それを無事に切り抜けたのか。

 

「……そうか」

 

 これ以上、お邪魔するわけにはいかない。今日はこれで失礼しよう。

 

「明日、ギルドでまた今後について話し合おう」

 

「はい! また明日!!」

 

 

 

 

 

 宿を出て酒場の通りに戻る。まだ騒がしい店々からは香ばしい匂いがする。

 そういや飯食ってなかったな。

 胃袋の主張を聞き入れたいところだが、酒場に入るには漂うパリピ感が俺を遠ざける。気分は聖水に阻まれるアンデッド。

 ちょっと遠いがギルドに行くか。

 未だにデモを起こす胃袋を宥めながら歩みを進める。

 しかし、二日も空っぽだった胃袋は『そんなことどうでもいい、さっさと食わせろ』と言わんばかりに料理の匂いを嗅ぐたびに暴走を続ける。

 

「……仕方がないか」

 

 ストライキに屈した俺は比較的静かで、落ち着いた雰囲気の酒場に入る。

 

「いらっしゃい! ま―……せー……」

 

 勢いよく出迎えた店員が俺を見るなり途中から勢いをなくした。

 身内で話をしていた他の連中も俺を視界に入れると相方を突いて黙らせる。

 

「え、えーっと何名様、でしょうか?」

 

 帰りたい。そんな気持ちを空腹を理由に黙らせて店員に返す。

 

「……1人」

 

「で、ではこちらへどうぞぉ……」

 

 カウンター席へ案内されるが、どう見ても席が小さい。

 彼女はそれに気付くと今度は窓際の長テーブルの席に案内する。

 途中腹の音が鳴ってしまいちょっと恥ずかしかった。

 

「ご、ご注文が決まりましたらお申しつけ下さい……」

 

 そう言って伝票を抱えて待機する店員。

 あまり待たせるのも申し訳ないし、さっさと決めるか。

 どうしようかな……じゃあ、このステーキとパンのセットを貰おうか。

 

「か、かしこまりました~」

 

 待つこと数分。提供された料理を見て俺は絶望した。

 

――――量が、少ない。

 

 数秒と持たずに皿の上から消える料理。当然腹が膨れる訳も無く、寧ろ燃料をぶち込まれたことで騒ぐエネルギーを得ただけだ。

 俺は店員が通りがかったタイミングを見て手を上げる。

 

「はい! 注文はお決まりでしょうか!!」

 

 ス、とメニュー表の見開き一番上から一番下までをなぞる。

 

「えっと?」

 

「ここから――」

 

 もう一度俺はメニュー表の一番上に指を置き

 

「ここまで。全て。順番に」

 

 一番下まで持っていく。

 手持ちは大量にあるんだ。胃袋の赴くままに存分に食べようじゃないか。

 

 

 

 

 この日、ある酒場で伝説が誕生した。

 何の前触れも無く来店した沈黙の巨人。

 店の看板娘は道中聞こえてくる腹の音に怖気付きながらもに案内し、巨人に料理を振舞った。

 

 特段問題が起きる事なく料理を運び、一息ついたのもつかの間店内を1往復する間に巨人は再び彼女を呼びよせる。

 皿を見ると既に料理は消え、巨人の手にはメニュー表。

 

 更なる売り上げを期待し恐怖を抑えながら注文を聞いた彼女はその内容を聞いて呆気にとられた。

 見開き一覧の上から下まで。全ての料理。

 戸惑いながらも彼女は厨房に伝えると、そこは瞬く間に戦場と化した。

 

 文字通り命がけで料理を作り、店員が2人がかりで巨人の元に運ばれる。

 巨人は運ばれた料理を丁寧に、あっという間に平らげ次の料理を待つ。

 それを繰り返すこと何回だろうか。全てのメニューが彼の胃袋に収まった。

 

 満足しただろう巨人に、店員が計算を苦心しながら勘定を伝えると巨人はそれ以上の硬貨を渡し引き留める間もなく店を立ち去った。

 当然、その日の売り上げはその月の売り上げ予算を大幅に超える要因となり、従業員には臨時の手当てが支払われた。

 その一件以来、巨人は時折店に来るようになり売り上げに大きく貢献することになるが、それはまだ先の話である。




 引き続き宜しくお願い致します。
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