勇者属性を持つ新人のパーティーに入ったら国家の危機が目白押し。パーティーが活躍している裏で動かなきゃ国が詰む   作:マツバキクノスケ

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 本編をどうかこうか悩んでいる間に現実逃避で書いたものになります。
 あと旧王都ではなく旧都と変更しました。規模を考えれば王国っていうよりも首都の方が現実みがあるなぁ…と思いましたので。
 色々行き当たりばったりで申し訳ありませんが今後とも宜しくお願い致します。

*丁度良い機会なのでこちらを一章の最後に移動させました。混乱せてしまい大変申し訳ありません。


外伝
外伝:首都ルクレベ陥落の日


夜天を埋め尽くさんほどの星が瞬く、幻想的な光景が空に広がる。 

 

「こんな所に居たのか」

 

 背後から聞こえる声に振り返れば、そこには城壁の警備を担当していた筈の男がいた。 

 

「隊長にバレたら小言どころじゃないよ」

 

「その隊長から許可貰ってきてるんでね」

 

 ホレ、と男は片手に持っていた何かを軽く振る。月の明かりに照らされた琥珀色の液体が瓶の中で揺れるたびに軽い水音を立てる。ソレは隊長が常々自慢していた上等な酒だと男は見抜いた。

 

「何でそんなものを」 

 

「お前の着任祝いだとよ。なんせ俺達平民出身で固められた正規軍から初の重盾騎士団員が出たんだ。良かったなぁ」

 

 カラカラと笑いながらやってきた男―――兄が隣に座る。

 

「どんな気分だ?」 

 

「…正直、まだ実感が湧かない。なあ、兄さん。俺、本当に重盾騎士になれた、んだよね」

 

 遠くに見える王城を眺めながら呟いた。

 

 尊き血を守るに値する知識と礼節を持ち、如何なる脅威を前にしても恐れずに立ち向かう。騎士団の中でも体格、能力、人格に優れた者から抜擢され、厳しい試験と過酷な鍛錬を乗り越えた者だけに許された憧れ。 

 

「夢の中だってんなら、一発入れてみるか?」

 

 少し凄むように拳を握る兄に、苦笑しながら断る。

 

「いや、良いよ。少なくとも、昨日までの地獄の様な扱きを夢にはしたくない」

 

 そうかと言い、兄は持参してきた2つの小さなカップに酒を注いだ。

 

「ほら、隊長からのありがたい祝い酒だ。受け取りな」

 

「ああ、ありがとう」

 

「そりゃ隊長に言うべきだぜ」

 

  普段のエールよりも遥かに少ない量であることを不思議に思いつつ、カップを受け取って互いに乾杯して酒を飲む。瞬間喉を焼けるような感覚が走り、後に残る濃厚な風味。次に胃の中から脳へ渡る痺れに思わず体を倒した。

 成程、これはエールと同じ量を飲んだら気絶するだろうな。

 痺れるような感覚が脳に上がるのを感じながらぼんやりとそんなことを思う。

 

「ははは。確かに強烈だが倒れるほどかぁ?」

 

「兄さん、これって」 

 

「最近になって漸く街の商店に卸されてきたんだ。名前は確か……えぇと…あ、そうそう、ほら、ウィスケィだか何だかさ。何年か前に風変わりな男がいたろ? あいつが作ったもんらしいんだ」

 

 風変わりな男。その人物に一瞬誰か思考して思い出した。

 

「ああ、黒髪の」

 

「そうそう、なぁ~んも言葉が通じねぇ、ヒョロッヒョロの奴さ」

 

 突然大通りのど真ん中に現れて、混乱した様子で衛兵に捕らえられ、公爵家の何れかに保護された異郷の男。

 彼の発明した産物に目を向け、思わず称賛の言葉が口を突く。

 

「すごいな」

 

「だな。噂じゃ弓矢とかクロスボウも敵わねぇモン作ってるみてぇだけどな。何でも派手な音が鳴ってるのを聞いたこともあるって話だ」

 

「いつか僕たち騎士もその新しい武器にとってかわられるのかな」

 

「まさか。騎士は何時の時代も最強だろ」 

 

 他愛ない話をしながら空を見上げる。今にも落ちてきそうな夜空に星々が鏤められていて、宝石箱の様に綺麗だ。

 

「ねぇ兄さん」

 

 んあ? と隣で晩酌をしていた兄が反応した。

 

「兄さんは奥さんとか持つ予定ないの?」

 

 一瞬沈黙して、ぷ、と噴笑した兄は少し寂しそうに返した。

 

「こんなチャラポランの、酒浸りで碌でも無い男を捕まえようって女はいないと思うがねぇ。俺が女でもこんな男、騎士団にいようが貴族だろうがお断りだね」

 

 お前こそどうなんだよ。

 静かな口調で返されたその言葉に問いかけた方は少し返答に時間を掛けた。

 

 困ったな。正直、僕は兄さん程世渡り上手じゃないし、気の利いたこともできない。真面目なだけが取り柄のつまらない男だよ。

 

 そう返された兄は暫らく口を閉ざした。

 寝転がったままの姿勢で表情は知れないが、多分碌でも無いことを考えているんだろう。今までの付き合いから推測していた男の耳に、『よし!』と膝を景気よく叩く音が聞こえる。

 

「じゃあ、女心が解るように色街へ行くか!」

 

「なんでそうなるのさ!?」

 

 思わず体を起こす男。

 下世話な話ながらも、厭らしさの無い少年の様な笑顔で兄は続ける。

 

「一度女ってやつを知れば少しは男として成長するかも知れねぇだろ?」

 

「暴論じゃないかな」

 

 いーや、正論だね! と兄は立ち上がって寝転がっている男に手を差し出した。

 

「じゃ、早速行くぞ! もたもたするな! 兵は拙速を何とかっていうだろ?」

 

「拙速を尊ぶね。こんなところで兵法書の名言を使わないでよ」

 

 強引に手を引っ張る兄を説得してどうにか元の場所に戻した。

 全く…と言いながらもカップにウィスケィを注いでクイッと煽る兄に倣い、同じように男も2杯目を飲む。さっきとは違って、少しずつ口に含むように飲み、始めとはまた違った味わいを堪能する様に。

 

「コレ、いくらしたんだろうね」

 

「あー? ……隊長が言うに給料の4分の1吹っ飛んだとかなんとかだそうだぜ?」

 

「えぇ!? こんな小さいボトルで!? 大丈夫なの?」

 

「あの人変なところで思い切り良いからなぁ。でもまあ、そのおかげで旨い酒飲めたんだし、今度俺達でなんかお礼しなきゃあな」

 

 そうだね。あの人何が好きだっけ?

 珍しいものなら何でも好きじゃないか? なんか変なものでも送ろうぜ!

 いや、食事に何回か誘うとかにしようよ。

 

 穏やかな時間が過ぎる。こんな時間を過ごすのもあと僅か。

 明後日から本格的な兵舎での生活になって、家族で過ごす時間だって少なくなる。明日は家族全員でゆっくり過ごそうか。

 明日の予定を考えている男の、視界の端でナニカが横切った。

 

―――なんだろう。

 

 相変わらず夜空は星と月の光で明るい。だというのに、何処か感じた違和感。

 よく目を凝らして見ても、何処も変な所は無い。さっきまでの光景が眼前に広がっているだけだ。

 叙任式を前に緊張しているからなのか、強い酒で興奮しているからか。多分両方なのだろう。

 気のせいだと思い、また寝転がろうとして―――眼前の星がまた一瞬消えた。違和感は膨れ上がり無視できないものになった。

 

「兄さん」

 

 緊張した声で兄を呼ぶ。

 尋常じゃない様子に兄も怪訝に思いながら同じ所――夜空のある一定を眺めて、言う前に気付いて怪訝そうな表情をする。

 

「な、んだ?…ありゃあ」

 

 呆然と呟く兄をしり目に、男は目を凝らして夜闇に同化しているその影を見た。

 月の無い星々の明かりだけのその空間を、身体をくねらせ悠々と泳ぐその影。

 蛇のように細長い体躯と、大きな翼。

 

 その姿は、子供の頃に母から寝る前によく読み聞かせて貰った英雄譚に出てくる―――

 

「兄さん!」

 

 男が再び声を掛ける。完全に酔いが覚めた兄は立ち上がっていた。

 

「隊長に報告してくる。お前は兵舎に戻って指示を―――」

 

 

 

――――――ォォォオオオオオオォォォ………

 

 

 

 恐怖の先触れが空から降り注いだ。虚しさすら感じるその咆哮は遥か遠くに見える筈だというのに間近に感じる程の存在感を放っている。

 それは動くことを許されず。立ち向かうことは疎か、逃げる事すらも許されない、神にも等しい圧倒的な上位者。

 

 翼を動かすことなく、身体を起こしたソレが空中の一か所で長い首をもたげ、宙を見上げて留まっている。

 その姿が赫々と光を放っている。夜天に紛れ、見えにくかったその身体が、今度はどんな星よりも酷く不気味に光を放つ。

 

「あぁ、畜生」

 

 見上げていたその頭部が下界を見下ろした。

 顎が開かれ顔を覗かせた太陽が地上へ降ってくる。 

 それは王都の一角を焼き尽くし、悲鳴が響く地獄へ悪神は降り立った。

 

 王都ルクレベ壊滅、及び第52代国王死去まで2時間。

 

 

 

 

 その恐れの余り故

 

 旧都に住まう彼の者の

 

 聞くも苦痛な彼の者の

 

 名を口にする事なかれ

 

 

 その者、夜闇と共に現れん

 

 姿、甚だ巨大也

 

 蛇の如き身体に四肢を持ち、翼の羽搏き民人容易く吹き飛ばす

 

 纏う鱗は全てを拒み、光を飲み込む闇の如し

 

 焔の息吹全てを舐め溶かし、残すは灰と残火のみ

 

 かの瞳に捕らえられしその時は、汝一切諦めよ

 

 意思持つ災禍に術は無し。合切捨て去り諦めよ

 

 

  ―――書籍:『旧都の歴史』冒頭に掲載されたルクレベの哀歌――――

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