The Beginning of the Fighters   作:黒冠

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第1幕『全ての始まり』
0.「Prologue」


 

★???★

 

「…創世、完了。」

 

 無数のホログラム電子板と、それらが放つ青白い淡光に満たされた謎の空間にて。白いフードを目深に被った男は呟いた。恐らく長時間ブルーライトを全身に浴びていた影響だろう、彼の声からは疲労が滲み出ている。男は一番大きな中央モニターに映し出されたロゴを見つめ、満足げに頷く。何の飾り気もない球体に、やや左寄せの十字が刻まれたそれは、到底洒落たデザインとは言い難い。しかし男は、一人満悦に浸っている。

 

「漸く此処まで漕ぎ着けた。…いやあ、実に長い時間を要したものだね。まさかこの私が此処まで手こずるとは。しかし、いざ完成したものを目の前にすると感慨深いやら何やら。」

 

 男の、自己賛美は止まることを知らない。現在、この空間には彼一人。誰が聞くでも答えるでもないこの状況下であろうと男は全く気にする気配無く、自分の働きを自分で称賛しているのだ。傍から見れば完全に頭の螺子が外れているが、達成感に飽和された彼には実に小さなこと。遂に鼻歌までもが飛び出した。

 

「実に良い気分だよ。一仕事終えた後の、このまったり流れ行く時間は何時になっても好ましいね。」

 

 見るからに上機嫌な男は、暫しの愉悦を堪能した後、改めて無数のモニターと向き合うようにして白い回転式椅子へと腰を下した。丁度椅子との接触部に挟まってしまった衣服の裾を右手で払い、しっかり座り直した上で背凭れに身体を預ける。そのまま宙へ右手を翳せば、今度は中央モニターに隣接する8つのモニターが眩い光を放ち始めた。若干のノイズを挟みつつ、モニターは徐々に映像情報の読み込みを開始する。

 

「…さてさて、システムモジュールは正確に作動してくれるかな?」

 

 男の声音は、更に楽し気に弾む。まるで新しい玩具を手にした子どものように。期待を双眸に泳がせながら、彼は映像投影に差し掛かったモニターを眺めていた。…ものの30秒程だろうか。情報取得は完了したようで、気付いた頃にはモニター各位に男が収集した「情報」が鮮明に映し出されていた。8枚のモニターに映し出されているのは、別々の世界で活躍する、かなり有名な面々。時に、ヒーロー。時に、ヒーローと共に歩む者。男の口角は自ずと上向きを保っていた。

 

「どうやら、位置情報感知の方も精度は問題なさそうだねえ。これなら、私の認めた『コレ』も、確実に彼らの元へ届くことだろう。」

 

 男は再度右手を宙へ翳す。すると今度は卓上に8枚の書類が現れた。男はモニターに目を向け、暫く見詰めたと思えば書類へ目を落とし、まるで何かを確かめるかのように何度もその動作を繰り返していく。一人ひとり、丁寧に。

 

「一人目の戦士候補は、───赤き闘志のヒーロー。誰もが知るであろう、人気者。君は数多の世界を駆け巡り、多くの人を助けた英雄。」

 

 

 男は、対象の映し出されたモニターへ手を伸ばし、さながら糸を繋いだ人形を操るかのようにその者の動作を掌でなぞる。右へ、左へ。上へ、下へ。滑らかに動く男の手の中、赤き英雄は踊る。駆ける。跳ねる。男は目を細め、対象の動向を長らく観察する。しかし、何か追加の言葉を発することなく、次のモニターを手元へスライドさせた。

 

「二人目の戦士候補は、───勇ましき鼓動のヒーロー。故郷の英雄。憧憬の的。君の力強い声を追い求める者は、後を絶たないことだろうねえ。」

 

 男は対象の映し出されたモニターを食い入るように見つめたかと思えば、人差し指と親指でモニターも一部分を挟み込むような形でその雄姿を拡大する。ヒーローの鼓動が、映像越しに伝わって来るこの感覚に、興奮を覚えない者が果たして居るだろうか?無意識の内に男は、ヒーローの咆哮に同調するが如く拳を天井へ向けて突き上げていた。

 

「三人目の戦士候補は、───心優しき剣士のヒーロー。良いねえ、字面だけでカッコイイじゃないか。ふはは、私の秀逸さには及ばないかもしれないがね。おっと、オーディエンスに知れたらブーイングを喰らいそうだ。」

 

 おどけた言葉をツマミに、彼は次のモニターへと視線を移す。空を切る斬撃に、悪しきを討ち払う矢の一撃。多彩なヒーローの姿は自分自身と重なる部分が多く、親近感を湧かせる。満足に、満足が上乗せされて行けば更に上機嫌になるもので、男の動作は徐々に大袈裟さを増して行く。今度はヒーローのこめかみ辺りを狙い撃つように、銃形を模倣した右手を向ければ、唇から「BAN!」と発砲音を放った。モニターが、切り替わる。

 

「四人目の戦士候補は、───孤高で気高きヒーロー。片腕にレーザーショットガンだなんて、それだけでイカしてるよねえ。嗚呼、最高だよ。オマケにかなりの実力者だなんて、惚れない理由が無いじゃないか。」

 

 男は構えた右手を引き下ろし、十分に視界を確保した状態で相貌の照準をモニターへ合わせ直す。モニターから流れ出る淡光とよく似た色の光線が次々障害をなぎ倒して行く様を見ているのは実に気分爽快だ。気付けば先程までの疲労感は吹き飛んで、男はすっかりモニターに見入っていた。

 

「五人目の戦士候補は、───奉仕精神溢れる緑のヒーロー。ふむ、赤きヒーローのお仲間だったかな。成程ねえ、ヒーローの周囲には自ずと似た素質を持った者が集まると。面白い習性って言うのは、長らく生きていても特定し切れないから興味深いんだ。そう思うだろう?」

 

 男以外誰も存在しない空間にも関わらず、陽気な声で自身の思想への共感を求める。実に奇怪な現場にも関わらず、男は絶えず笑っているのだ。最高の瞬間のカウントダウンは、良好に刻まれている。高鳴る心のままに、男は次のモニターを手元へ引き寄せる。

 

「六人目の戦士候補は、───空前絶後の星のヒーロー。君、巷じゃ悪魔だ何だと散々な言われようじゃないか?実に愉快なヒーローも居たものだねえ。」

 

 何時の間にやら球体に組み上げた光源を指先で弄んだ後、絶えず映像を投影するモニターヘ向けて飛ばしてみる。球体エネルギーは見事モニターをすり抜け、強固な壁に追突して消滅した。追突に伴い、花火が上がった時のように一時的な光の散開が発生し、男の周辺は僅かに明るさを宿したが、それも長くは続かない。瞬きの間に空間は薄暗さに染まり切って、結局元通り。男が薄らため息を零し終える頃には、別のモニターが男の前に存在を示していた。

 

「七人目の戦士候補は、───宇宙を駆ける俊足のヒーロー。彼は、実に冴えているねえ。瞬時の状況把握能力に優れた観察眼。こういった存在はかなり貴重なんだ。私の手中に収めない理由が無いじゃないか!」

 

 モニターを駆けるヒーローの姿が視界を埋めてしまえば、先の不満など遥か遠くへ霞んでしまうもの。男の単純な思考はすぐさまヒーローの元へと回帰し、彼の心はまたしても満足感によって塗り潰されて行く。隙間なく、埋め尽くされて行く。

 

「さてさて、ラストは君だ。長らく待たせたねえ、八人目の戦士候補───、雷電纏う閃光のヒーロー。その小さな体で見聞きした全てを私に示してみると良いさ。嗚呼、期待で胸が張り裂けてしまいそうだ!」

 

 男はガタンと大きな音を立て、興奮のまま、椅子から立ち上がった。勢いあまって手元の書類が足元に散らばるも、さほど気に留めない。改めて中央モニターを取り巻く8のモニターへ目をやり、そして不敵に笑った。彼が指をひとつ鳴らせば、散らばってしまった書類たちは忽ち彼の手中へと収まってしまう。男は此処でようやく、大きく深呼吸を挟んだ。流石に気に任せ息巻いて語り込んだのだから、肺に酸素が不足していたようだ。男は幾度か深呼吸を繰り返し、右手に収束されるエネルギー流動を落ち着かせた。そして、先程の子供のように輝いていたものとは全く異なる鋭い眼光を中央モニターへと向けた。

 

 

───「さて。長らくお待たせ致しました、観客の諸君!そろそろ始めようか、私の計画を、ね。」

 

 

 男の手上で踊っていた書類は忽ち封筒入りの「手紙」へと姿を変え、それぞれ8のモニターへと吸い込まれて行った。男は右手をひらりと振り、見送るような仕草を披露した後に、全てのモニターを消去する。

 薄暗い空間からは完全に光が遮断され、静寂だけが残された。

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