The Beginning of the Fighters   作:黒冠

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11.戦士寄れば文殊の知恵

 

★マリオ&ルイージ&サムス★

 

 サムスと合流し、互いの話を多少交えた後、三人は裂け目周辺を探索していた。

 現状、先に進めない為、何か見落としている要素があるのではないかという結論に至ったからだ。木影に、造形物の背面、足元に広がる地表。あらゆる死角に目を凝らし、変化を汲み取ればすぐに報告する。情報と思考の摩擦を少しでも軽減し、団結力を高めておけば、この後仲間が増えても混乱を招く懸念は遠ざけることが出来るだろう。

 マリオとサムスが造形物の周辺をくまなく観察している間に、ルイージは地面に片頬を密着させ屈み込む体勢で注視を継続していた。…ふと、視線の先に、青く光る球体が留まる。見失う前にと、早々に身体を起こし、駆け寄って掌に手繰り寄せる。その形状も、大きさも、マリオの手にある赤いガラス玉に酷似している。落下地点は、先程二つのホログラムを討ち取った辺りと一致している。推測するに、これを落としたのはあのホログラムだろう。思い返せば、赤いガラス玉を発見した時と条件さえも酷似している。

 もったいぶる理由は無い。ルイージは二人に呼び掛け、拾った青いガラス玉を提示してみせた。

 

「さっきホログラムを討伐した辺りに落ちているのを見つけた。これ、兄さんが持っている物とよく似ていると思わないか?」

 

 比較の意図を即座に悟ったマリオは、散策の為、一旦ポケットへ戻したガラス玉を再度掌に取り出した。二つのガラス玉は日の光を反射しキラキラと輝いているが、その輝く姿もまた、酷似している。相違点を挙げるとすれば、青いガラス玉の方は、自ら発光していないこと程度だ。マリオは首を傾げている。

 

 

「…兄さん?」

「いや、二人も見て分かるように、青い方は何も指し示して無いだろ?このガラス玉が外れなのか、それとも何か他に条件が必要なのか。…う~~む。分からんねえ。サムスとルイージはどう思う?」

 

 余り多く言葉を発さない様子のサムスが気掛かりで、ルイージは先に考えを窺うべく視線をサムスへと流してみる。するとサムスは、握り締めたままの掌を開き、兄弟によく見えるよう示した。

 間違いない。サムスの掌にも、ガラス玉が収まっている。他二つと同じ形状、大きさのそれは、ルイージと似た緑色に光り輝いていた。つまり、これでガラス玉が三つ集まったことになる。

 

「…実は、この世界に潜入して間もない頃、このガラス玉を発掘したんだ。閉ざされた不可視なゲートがあったのだが、石板にこのガラス玉を嵌めたら問題なく通過することが出来た。」

「…ゲートを、通過。………!それだ、サムス!デカした!!」

 

 サムスの何気ない発言に対し、真っ先に目を輝かせたのはマリオである。彼は二人に向かって大きく両腕を広げ動かしながら自分の中の憶測を披露する。

 

「行き先を示す赤いガラス玉に、ゲートを解放する緑のガラス玉。こいつら、もしかしたら道に関係する力が宿っているんじゃないか?それで、力を発揮したものだけが自分で光を放っている。つまり、まだ光を放っていない青いガラス玉を使えば、裂け目を突破して先に進めるんじゃないか!?」

 

 彼の主張は、可能性論とは言えそこそこ筋が通っている。ルイージもサムスも、抱いた感想は全く同じだ。

 ただし、使い道が発覚したと仮定しても、根本的な問題は未解決だ。

 赤いガラス玉は、偶然発光してくれたことで、道筋を示す役割を持っていると判明した。

 緑のガラス玉は、石板というヒントにサムスが気付いたことで、連鎖的に役割を見い出した。

 しかし、残った青いガラス玉に関しては、もはや一切ヒントが与えられていない。そもそも、此方から働きかけられる選択肢として、何があるのだろう?自由な発想に任せて、と言っても、候補さえ思い当たらない───。

 真剣に考えるルイージとサムスをよそに、目の前に立って熱弁していたマリオがルイージ側へと歩み寄る。かと思えば、その手のガラス玉をひょいと摘まみ上げ、握り直したかと思えば、腕を大きく振りかぶり───。

 

「マリオ!?何をして…!!」

 

 サムスの制止及ばず、青いガラス玉が勢いよく裂け目へと飛び込んで行く。黒い絵の具で塗り潰したかのような奈落に、風を切る頼りない音を連れて沈んで行く。二人は反射的に身を乗り出し手を伸ばすも、もう遅い。ガラス玉を投げ飛ばしたとうの本人は、両腕を腰に当てて、満足げに仁王立ちしているではないか。

 

「おい、兄さん!何してくれてるんだよ!?道を切り拓く方法をこれから考えようって時に…!!」

 

 能天気な兄の両肩を鷲掴みにし、首ごと捥げるぐらいの勢いで揺さぶるも、本人はヘラヘラと笑うばかりだ。話にならない。肺の奥底からやっとの思いで溜息を吐き出す程に落胆したが、直後見舞われた地鳴りに、思考を丸ごと持って行かれる。発信源は裂け目の方だ。勢いよく振り返る。

 

「嗚呼、もう!!今度は何だ!?」

「ルイージ、、見てみろ。…これは、マリオがデカしたかもしれないぞ…!」

「デカしたって、何が───!」

 

 ───地鳴りと共に、淡く眩しい光一閃が、黒塗りの奈落から湧き上がる。野太く、上方へ向けて真っ直ぐに伸びるその光は、地鳴りと呼応するように激しく波打つが、決して絶える様子を見せず、益々勢いを増して行く。肌に直接焼き付くような光の強さにも関わらず、瞼を閉じるには惜しい光の様に三人は自然と釘付けになる。何が起こっているのか分からずに、ただ呆けている三人を置き去りに、やがて光は天へとその身を撃ち放ち、楕円状に広がって、空洞の地面に覆いかぶさるような形で帰属する。青き光の楕円はみるみるうちに裂けた地面へと溶け込み、新たな地盤を代替した。

 感嘆のあまり、纏まった言葉が見つからない。淡白な言葉と、感心由来の溜息ばかりが零れ落ちて行く。

 

「す、すげぇ……。一体、何がどうなって……。」

「本当に、道が開けてしまったな…。まるで、魔法でも見ている気分だ…。俄かに、信じられない…。」

「まさか、兄さんが適当にくだした判断が、こんな荘厳な仕掛けを呼び覚ますだなんて…。俺も、信じられない…。」

 

 新たに形成された地盤は、残光を纏い、整然と其処にある。何となく、先を急げと呼び掛けているような気すらして来るものである。

 マリオが、赤いガラス玉を片手に、真っ先に駆け出した。一筋の光は、彼を媒体としてサムスとルイージにも道のりを示し続けてくれている。屈折を知らぬその光は、新たな出会いと試練の予感に共鳴しているのだ。

 元の世界に留まっていたら、きっとこんなにも神秘的な体験は出来なかった。未知の仲間と出会い、ワクワクする冒険に繰り出すことなんて、もっと無かった。

 この世界に来たばかりの時、抱いていた後悔と不安は、もうルイージの中に残存していない。寧ろ、絶えず好奇心が湧き上がって仕方ないのだ。兄の背を追い、新しい仲間の背を追い、未知を目指してひたすら走ることが、今はこんなに…心地良い。

 気恥ずかしくて言えたものではないが、この想いをまだ見ぬ誰かにも共有したい。

 

 今のルイージにとって一番の願いは、仲間のお陰で其処にある。

 

─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ───

 

★ドンキーコング&ヨッシー&カービィ&ピカチュウ★

 

「どりゃああああああああああああああ!!ジャイアントパァァァァァァァァァンチ!!」

「くらえぇぇぇぇぇぇ!!ハンマーーーーーーーーーー!!!!!!」

 

 経過時間、約40分。

 二匹はまるで競い合うかのように、不可視相手の猛攻を続けている。無論、不可視の壁には傷一見られないが、両者共に自身のパワー不足と考えているのか、全く攻撃の手を緩めない。真正面からタックルして見たり、斜め方向から遠心力を活かして殴りかかってみたりと、方法は単純ながらも多彩だ。

 ヨッシーとピカチュウも途中までは参加していたが、二匹の熱量に振り落とされ、10分程であえなく白旗を揚げた。よく疲れないものだと、一周回って感心する。

 

「…あれ、絶対体力の無駄遣いですよねえ。」

「あはは…。良いんじゃなかな。楽しそうだし。僕たちは僕たちで、作戦を考えよう、ヨッシー。」

 

 現在、四人組は強行突破班と謎解き班に分担している状況だ。否、実際に役割を振り分けた経緯は無いのだが、継続している行動内容で大方区分が分かれるのは自然的な決定だ。寧ろ、無駄な話し合いで下手に決裂するよりずっと良い。ピカチュウの柔軟な許容精神に、ヨッシーは純粋な尊敬を抱いた。

 壁に向かい立ち向かう音をBGMに、二匹は収集したアイテムを地面に並べながら作戦会議を始めた。

 

「僕はこの鉄の鍵を。そして、ピカチュウさんは四枚の石板を。ホログラムを倒した際に拾ったみたいですね。ううん、何処からどう見ても、謎解きをしてくださいと言われている気しかしないですよ。」

「ヨッシー、張り切ってるね。でも僕も同感だよ。…この石板と鍵が無関係とは何となく思えないんだよね。」

 

 ピカチュウの指摘は最もだ。鍵も、四枚の石板も使い道は不明である。しかし、明確な根拠が無くとも、両者が無関係とは言えない気がしている。ヨッシーは今初めて視認した石板を一枚一枚手に取り、その側面を中心に観察してみることにした。指で触るとザラついていて、でこぼこしている。見るからに生身の石材を削って成形されたもので、綺麗な加工は施されていない。

 

「……あれ?ピカチュウ、この石板って、一か所で同時に落ちたものですか?」

「…うん、そうだよ。一か所で、バラバラに。全部拾い集めて持って来たんだ。それがどうかした?」

 

 気になる点を確かめるべく、質問したのは大正解であった。ヨッシーは四つん這いになりつつ、地面に石板を整列させる。続けて、一枚一枚を今一度よく観察し、今度は窓ガラスのような四角形にへと並び変えて行く。ピカチュウは一連の動作を、隣に並び黙って不思議そうに見守っていたが、徐々にヨッシーの思考が腑に落ちたのだろう。石板を指差しながら、目を見開く。

 

「もしかして…!この石板、一枚ずつ使うんじゃなくて…全部を組み合わせて使うってこと?石板は元々、一枚だった…?」

 

 ピカチュウの声に、ヨッシーは静かに頷きつつ、最後の仕上げに取り掛かる。四枚並んだ石板を、今度は隙間を埋め合わせるように接触させていく。左上の石板と右上の石板を接触させると、石板が重い摩擦音を響かせながら一つの長方形に繋がる。二枚に分かれていたのが嘘であったかのように、境目を失い、一枚の板を成す。まるでパズルのような光景に、二人は目を見合わせ感動の声を口々にあげた。

 

「すごい…!こんなに綺麗に、一枚になっちゃうなんて…!」

「さっきまで確かに二枚あったのに、上から塗装したみたいに断面が見えなくなりましたね…。一体、どんな仕組みなんでしょう?」

「ねえ、ヨッシー!他の二枚も試してみようよ!僕、完成が待ちきれないや!」

 

 残りの石板を各々が手に取り、側面の様態をじっくり観察する。何処も手触り自体は大差無いが、その凹凸には僅かな差異があり、同一の面は存在しない。パズル理論が正当であると言うのなら、接合面も二つと在って良いはずがないのだから、妥当な性質である。各面同士を擦り寄せ合い、合致しなければ回転を繰り替えること二度。

 ピースとピースがぴったり嵌る、クリアな音が響く。重く歩むその音の心地良さですぐに判別がつくものだ。

 ヨッシーはピカチュウに完成品を預け、先程の二面分のピースを手に取って、ピカチュウの持つそれと組み合わせて行く。残りのピース同士が隙間なく接合された先に現れたのは、元の姿を取り戻した一枚の石板だ。しかし不思議なもので、小さな石板四枚分の重さを持つはずの石板が、ヨッシーには微塵も負担に感じられない。合わさった石板と原料の重さは比例しないのだろうか?否、些細な疑問など現状不要である。完成品をピカチュウと共に凝視し、他の変調を見い出す方が余程、有意義だ。

 

「ヨッシー!!ピカチュウ!!ちょっとこっちに来て~~~!!」

 

 予期せぬタイミングでカービィの声が混ざったことで、二匹は石板に預けっぱなしの視線を後方へ向けるに至った。カービィは何時の間にかハンマーを地面に投げ出し、小さな両手を懸命に振って二匹を呼んでいる。声と身振り手振りに呼び寄せられるまま石板と共に駆け寄ると、カービィの片手は不可視の壁が聳え立つ方向を一直線に指差した。

 

「あのね、あのね!さっき一瞬、変な四角いくぼみが見えたんだよ。叩き続けてたからなのかな。…よく分かんないんだけどね、今もう一回見せるからね!」

 

 意気揚々と、地面に寝そべるハンマーを握り直し、盛大に振りかぶって、壁にめり込むような勢いで叩き付ける。不可視の壁が可視化され、再び一同の前へと姿を現す───。

 ヨッシーとピカチュウは、息を飲み、目を見開いた。その一瞬の中で、確かに起こっていた変調を見逃さずに捉えた。

 壁の真ん中に衝撃を乗せて奔る波紋。波紋の中に、正方形のくぼみがハッキリと浮上する。

 ───正方形。

 数分前、完成させた「パズル」に酷似していると、判断するのに大した時間は必要ない。ヨッシーは完成した石板を片手に、カービィへ再実行の要請を言い渡す。

 

「カービィ!もう一度!今と同じように壁を叩いてください!!」

「え?もう一回?壁、壊せないと思うけど…良いの?」

「構いません!さあ、もう一度!!」

 

 訳が分からず、困惑気味に見つめていたカービィだが、やがて気を取り直し、ハンマーを強く握り直す。半歩程右足を引いて、振りかぶる体勢を取ったと思えば、次の瞬間不可視の壁に衝撃が迸って行く。

 ───この瞬間を、逃すな!

 ヨッシーはピカチュウと頷き合い、再び全貌を露わにした窪みへ完成した「パズル」を嵌め込んだ。力強く、もう抜け落ちてしまうことのないように、二匹掛かりで、全力で押し込む。その様子を眺めていたドンキーコングも、何かを悟ったのだろう。手持無沙汰の拳にありったけの力を込め、石板のど真ん中へと叩き込む。

 石板が、ゴゴゴゴ…と重く荒々しい音を立て、壁の奥深くへとめり込んで行くのが目視出来たものの、不可視の壁も黙って順調な事の流れを見ていてはくれなかった。…可視化状態の効能が切れ始めている。ヨッシーはカービィに向けてもう一度頼みを飛ばそうと試みたが、その必要は無かった。言わずとも、カービィは壁とハンマーの接触を解き、素早く体勢を整えてかべを殴りつける。何度も何度も、衝撃の波紋を絶やさぬように、と。

 嗚呼、気持ちが繋がり合っている。言葉がなくとも、ひとつの目的に向けて、皆の気持ちが集まっている。

 

「───このまま押し切りますよ!皆さん!!」

 

 意識せずとも、勇ましく活気に満ちた声が声帯を渡って飛び出した。傍に立つ仲間たちは、ヨッシーの掛け声を笑顔で受け取り、更に士気を上げ、全身全霊で力をぶつけ続ける。最高の瞬間だ。

 

 ───石板が、大きく奥方へと動く。

 不可視の壁が、その無敵性を脱ぎ去って行く。石板と同じ、重みをもった実態が四匹の前に、その存在を示す。一際強い旋風が巻き起こり、四名は程無くして空気の濁流に突き飛ばされた。

 ドンキーコングが咄嗟に受け身を取り、体勢を整え、身体の軽い三名を受け止めた。体躯の安定性を取り戻せば、忽ち一同の視線は吹き飛ぶ以前の座標へと吸い寄せられるように戻って行く。

 

「お、おい……。あれ、見ろよ……。」

 

 驚愕の余り、掠れた声でつぶやくドンキーコングに、皆次々と頷く。

 

「うん、凄い……。おっきい……。」

「扉……。てっきり、ただの障壁だとばかり思っていたのに……。」

「僕たち、凄いことをやってのけたんじゃ……。」

 

 口々に漏れる台詞は、とても用意されたものとは思えない程に単純なものだが、圧倒的な迫力を誇る石の扉を前にすれば至極当然だ。四匹の視線は扉に釘付けとなる。

 言うまでもなく、四匹全員が、暫くその場で扉を見つめ続けていた。

 

─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ───

 

★プリン&ファルコン★

 

 閃光が立ち上る。岩が擦れ合うような、重低音が響き渡る。…確実に、現在地周辺で何かが起こっている。

 戦闘経験の極めて少ないプリンでも、状況把握出来る程、激しい音律が空間を満たしている。

 まるで不時着したあの瞬間の、胸を突くような冷たい静寂が嘘であったかのように、大地が息をしている。地脈が蠢いている。変調を察知したのは、ファルコンも同様である。

 

「…プリン君。聞こえるね、周辺の激しい物音が。」

「はい、聞こえます。ファルコンさんが言っていた、『他の皆さん』が懸命に頑張っている音、なんでしょう。」

 

 きっと、あの音の中にピカチュウも居る。

 彼のことだ、とっくに新しい仲間を見つけて、友達になって、その空気に馴染んで伸び伸びと冒険を謳歌している。早く、私も同じ土俵に立ちたい。今の私は、漸くスタートラインに立てた程度の未熟者だから。

 

「…フッ。随分意気込んでいるね、プリン君。」

「は、わ……!?ばばば、バレてますか…!?」

「当然だ。座り込んで泣いていた時とは目の色が全然違うからな!」

 

 ファルコンに指摘され、自分の浮かれようが恥ずかしく思えたものの、決して嫌な気は湧き上がらない。寧ろ、背中を押して貰えることがこんなにも心強いのだと、実感が明確化するばかりだ。嗚呼、本当に。私は素敵な人たちに恵まれている。応えたい。応えたい。何度でも、応えられる「私」になりたい。

 大地を踏み締める足に、血潮を巡る思いに、熱が籠る。…伝えたい、この温かさを、もっとたくさんも未知の仲間たちに。恐怖を期待が塗り替えて、向かう先を明るく照らしてくれるような感覚に、胸が躍る。

 

 ファルコンにも、彼女の想いはとうに伝染していた。

 

─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ───

 

 ・・・───数日前。

 

「…そうか。その『手紙』には、危険因子内在の可能性が十分にあると。」

 

 疑念と遠巻きの不安を持ち込み、自分を尋ねて来た同職者───サムスの話は俄かに信じ難いものであったが、彼女の口調や表情が、嘘で塗装し尽くした造形物には思えず、結果的に潜入への同行を承諾した。

 大物気取りのくせして、世界中を駆け回るファルコンにもサムスにも知られていない、マスターハンドという名の人物。指名式の招待状。着飾ったような文面。

 全てが胡散臭い『手紙』を見過ごすことは、己の正義が許さなかった。何より、普段は見せない不安の色を全面的に示すサムスが心配で、黙認することが出来なかった。

 

 ファルコンが依頼を引き受けると答えた際、サムスは素っ気ない謝意を示した限りであったが、心なしか濃度の高い不安の色が薄れたように映った。気の所為だと振り払われてしまえばそれまでのことだが、口数の少ない彼女の些細な変化を見落とす程、勿体ない生き方をしているとは思わない。彼女の心に影を落とす要素が多少なりとも減るのであれば、遠ざかるのであれば何だってしたい。───大切な仲間だから。

 こんなことを生真面目に語るのは柄じゃないし、そもそも、冗談は止せとサムスも笑うだろう。言えない。言わない。自己満足で始まった接点に募る思いは、口にしない方が上手く行く場合が案外多いのだから。

 仲間の背中から目を逸らさず、その姿が揺らいだ時に手を差し伸べること。

 「今の自分に出来ること」。分かっていることを、確証を得られることを、取り零したいとは誰もが思わないはずだ。どうせなら、執着するぐらいが丁度良い。

 

「なあ、サムス。」

「…何だ?」

 

 隣を余計な言葉ひとつ零さず歩む彼女の足を止めたい。そんな、漠然とした思いで、彼女の名を呼んだ。

 サムスは名を呼ばれると、純粋な疑問だけを胸に足を止める。

 本当に、思いつきだ。誰かの期待にそぐうような問答を描くわけでもあるまい。足を止めてくれた優しい仲間の為、ファルコンはその場限りの問答を絞り出した。

 

「もし、マスターハンドの件が終わったら───お前はどうしたい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…どうしたいも、こうしたいも無い。私は私、お前はお前。我々は、我々個人の営みに戻る。…そうだろう?」

 

 彼女にとって、「賞金稼ぎ」にとって当然の答えは、彼女に躊躇いの枷を与えるに至らないものだと、この瞬間手に取るように分かった。そうだ、彼女は自分の世界を、営みを守るため。純粋な正義で責任を果たそうと心に決めた。その決意の裏側に、不安の色を隠そうとしていた。彼女の覚悟は、とうに決まっている。後先を考える方が余程蛇足で、考えたところで自分にとって無意味であることを、彼女は誰よりも理解し、受容している。この合理に、間違いはない。…無いはずだ。そうだろう?

 誰に尋ねたのだろう?分からない。分かるよりも先に、仲間の足音が遠ざかる。彼女が見据える目的地は、自分と同じであるはずがない。

 

 上手な嘘で「誰か」を納得させようとしていたのは、───本当は「誰」であったのだろう?

 

─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ───

 

 目に見えない疑問を問題と呼び、目に見えない未来を希望と呼ぶのなら。

 

「プリン君。目に見えない感情を、君ならなんと呼ぶだろう?」

 

 彼女の全貌を知るには、出会ってから経過した時間が浅過ぎる。それでも、今の活路を見いだした彼女なら、覆い隠した自分の感情に、何か答えを提示してくれる気がしてしまった。甘えと分かっていながらも、ファルコンはそれを聞きたいと強く願ってしまった。

 

「私なら、目に見えない感情は───『自分』と、呼びます。」

 

 プリンの返答は、やけに鮮明に、綺麗に鼓膜を撫で、胸の内に浸透する。理解に及ぶ。

 不思議と、予想通りの答えであった。知らず知らずの内に抱いた淡い期待の回答を、彼女は迷うことなく伝えてくれた。

 

「…ははは。君、何故そんなことを唐突に尋ねるのかと、私を問い質さなくて良かったのかね?」

 

 煮え切らない心情を悟られぬよう、平常の笑みを装いながら質問ばかりを塗り重ねても、彼女の答えが歩む道筋はブレることを受け付けない。

 

「そんなこと、しませんよ。だって、ファルコンさんは私が泣いていた時、黙って寄り添ってくれたでしょう?同じことです。私も、応えたいから。」

 

 目の前で微笑む彼女には、‶友達〟にまだ伝えられていない「気持ち」がある。

 無意識に自己投影を行い、挙句勝手に描いた正義の果ての理想であっても、プリンは救われたと語ってくれる。正義に応えたいと、訴えかけて来る。薄っぺらい視線や歓声とは全く異なる、優しい共感。

 自分だって、同じなのだ。同じ作戦を決行し、成功を約束し合った彼女に、胸の内を何も明かしていない。自分自身に怯え、何かが遠ざかって手繰り寄せることさえ許されなくなる顛末が怖いのだ。同じ「気持ち」を抱く仲間だからこそ、見過ごせない。助けたい。応え続けたい。

 

「友の為。仲間の為。我々の気持ちは同じ方向を向いている。…有難う、プリン君。」

 

 何の脈絡のない、纏まりも整合性もはぎ取ったかのような言葉であろうと、彼女は微笑みを浮かべたまま嬉しそうに相槌を打っている。

 

 ───弱る暇は無い。細かいことは、難しいことは、彼女と再会した折に考えよう。

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