The Beginning of the Fighters 作:黒冠
★???★
謎の球形生命体二体に追跡されて、一体どれぐらいの時間が経過したのだろう?ギザギザの特徴的な尻尾を持つ黄鼠には逐一カウントしている程の猶予が無い。立て続けに放たれる猛攻を回避することが今出来る精いっぱいであった。球形生命体は、自分の身の丈より一回り大きな剣を振るって衝撃波を放ったり、ハンマーを振り回して突撃して来たり。多種多様な技を行使出来るのを良いことにやりたい放題だ。黄鼠は、攻撃発生の予備動作を見切り、左右へ転がり器用に交わし続けていたが、途中でキリが無いことに気付き、逃亡作戦に移行したところである。しかし、中々足の速い球形たちは、猛攻の手を緩めることなく黄鼠のすぐ後ろを陣取った。これでは、体力を削られるばかりだ。
「(…まさか、マスターハンドとかいう奴は、僕をおびき出して、疲労させた果てに捕獲するつもりなんじゃ!?)」
嫌な憶測が脳裏をよぎれば、生存本能が喚き出す。とにかく、夢中で。捕まりたくない一心で。黄鼠は手足を稼働し続ける。
・・・───約30分前。
数多いライバルが集うスタジアムにて。黄鼠は珍しく、観客席に座っていた。対戦中のライバルの姿を眺め、攻防が飛び交う中、周囲の観客と一緒に歓声を上げる。
「がんばれ!負けるな~~~!!『プリン』~~!!」
黄鼠が主に声援を送っているのは、彼から向かって右に立つ、薄桃色の風船のような球形生命体である。実は彼と球体の彼女はスタジアム入場後、偶然同じ控え室で遭遇した「顔見知り程度」の関係である。とは言え、控え室で会話を重ねる内に意気投合し、気の合う友人にまで関係を進展させた。そんな経緯があった。それにより、黄鼠はこの予選リーグ中、プリンのことを全力で応援すると心に決めている。選手側ではなく観客側としてスタジアムに立っているのは、何だか新鮮な気持ちだ。熱気も、歓喜の声も、全てが心地良く感じる。…そう言えば、彼女もよくこの辺りに座って試合観戦をしたものだと語っていたような。きっと、今の自分と似た感情を抱いていたのだろう。リアルに想像出来てしまえば、思わず笑みが零れる。
想像を巡らせている内に、歓声が一際大きくなった。スタンディングオベーションが巻き起こる、前兆。黄鼠も皆の気迫に釣られて立ち上がった。波打つ客の壁に阻まれ、視界が少々遮られるも、どちらが勝者でどちらが敗者か。見分けることは可能であった。
勝者は───、プリンの対戦相手である選手。しかし、両者共に晴れやかな笑みを浮かべ、手を取り合い、客席に向かって手を振っていた。
最大限の拍手で称える者に、手を振り返す者。黄鼠は後者に続き、二人がステージを去る瞬間まで、その小さな手をぶんぶん横に振り続けた。
「お疲れ様!!すっごく良い試合だったよ!!」
控え室へ彼女を迎えに行って早々に飛び出した言葉は、かなり安直なもの。黄鼠自身その自覚があり、口走った直後、無事羞恥心にやられた。しかし、プリンは大きなビリジアンの双眸を宝石のように輝かせながら黄鼠に駆け寄り、両手を取り、朗らかな笑顔で応える。
「ありがとう、『ピカチュウ』…!あなたにそう思って貰える試合で本当に、良かった…。」
まさか、こんな何の捻りも無い言葉で喜んでくれるとは思わず、黄鼠ピカチュウは照れ笑いと共に言葉にならない言葉で返す。試合結果を受けて、プリンが落ち込んでいるのではないかと心配で堪らなかったが、彼女は返って次の試合に向けて闘志を燃やしているように見受けられる。
「今回は惜しくも負けてしまったけれど、次はもっと頑張ります!ピカチュウみたいに、決勝まで勝ち上がって、優勝して…。いつか絶対、同じ舞台に立ちたいです。その為には、帰ったらたくさん特訓して。いえ、その前にこの後の試合もしっかり観戦していかないと、ですね!ピカチュウ、今日は一日付き合ってもらいますから、そのつもりでお願いします!」
「もちろんだよ、プリン!僕も決勝でプリンと戦いたいし、その時は絶対負けないんだから!試合観戦も練習も、いくらだって付き合うよ~!だって僕たち、もう友達じゃん!」
二人は握っていた手を一度放し、軽やかなハイタッチを交わしては、また笑い合う。
今日初めて出会い、今日初めて話し、今日初めて時間を共有した───、それでも、二人はもう「友達」。素敵な出会いを齎してくれた今日にも、自分と友達になってくれた彼女にも。心の中で、ピカチュウは多大な感謝の念を抱いていた。この温かな気持ちが、もっとたくさんの人に届いたら。世界はきっと平和になって、皆が争う理由も悲しいものでは無くなって。小さな日常のかけらの中で、そんな夢を、つい抱いてしまう。
「もう少し休んだら、客席の方へ戻りましょうか。ピカチュウ。」
プリンの一声で、はっと我に返る。勿論、間を置くことなく即決で頷き返した。
──────・・・。
「あ、れ……?」
二人が客席へ戻ると、先程の喧騒がまるで嘘であったかのように、空間は静まり返っていた。誰も居ない、閉場中のスタジアムと同様の光景。…おかしい、試合時間はまだ続いていたはずだ。控え室に貼ってあったタイムテーブルが、嘘なはずがない。それは、隣に立っているプリンも既知の事実である。彼女に視線を向けると、小さく相槌を打っている。そう、彼女にもこの異変が見えている。
「…何かが、変みたい。急に誰も居なくなっちゃって、…でも、僕とプリンだけは此処に、居る。」
「……おかしい、ですよね。これは、皆が消えてしまったのでしょうか。それとも、私たちが別の空間に飛ばされた…?」
「そんな、まさか!もしそうだとして、誰がそんなこと───。」
ピカチュウの疑問を遮るように、突如、ステージ中心部に光り輝く何かが姿を現した。うねり、円を描くように巡り、絶えず輝く───「光渦」。
目を疑った。あんなものがスタジアムの仕掛けとして設けられているなんて話は聞いたことが無い。今回の主催者がファイナルステージに向けて仕込んでおいたサプライズが、誤作動している…?それにしては、捻りが無さ過ぎる気がする。万一の危険を考慮し、ピカチュウはプリンをこの場に留め自分が調べに行こうと考えていた。しかし、プリンはピカチュウの思考を先読みするかのように、スタジアムの会談を下り始めてしまっていた。慌てて後を追いかける。
「ちょ、ちょっとプリン!?危ないよ、此処は僕が調べるからプリンは下がっていて!!」
「私に何かあっても、ピカチュウなら直ぐに助けを呼びに行けるでしょう…?だから、ピカチュウこそ下がっていてくださいな!」
「いやいや、そんなこと出来ないよ!…せ、せめて一緒に確認しに行こう!ね…?」
急く彼女を何とか呼び止め、説得し、二匹係りの調査へと持ち込めたのは、我ながら上出来であると言える。周囲の変化や「光渦」の挙動を注視しながら、二匹は一歩、また一歩と前進していく。一度階段を降り始めてしまえば、目的地へ到達するのはあっという間であった。気付けば「光渦」を目前とした位置に立っており、「光渦」が放つ何とも形容し難い音が耳に届く。しかし、「光渦」が二匹の姿を認めても、現場に変化は生じなかった。無限にも思える静寂は、変わらず二匹を囲んでいる。
気味悪さに抗うように二匹は身を寄せ、一先ず「光渦」を観察し始めた。時間が経てば、何かしらの変化が生じるかもしれない。
「…何も、起こらないね。」
「ううん、おかしいですね。この光と、今の状況は無関係なのでしょうか?でも、さっきバトルしていた時にはこんなもの、無かったですよ…。私もこれが原因を作っているとばかり。」
「にらめっこしていても、仕方ないか~…。取り敢えず、手でも突っ込んで」
「ピカチュウ!?そんなことしたら危ないですよ…!!」
今度はプリンの制止をピカチュウが余裕で追い越した。何の気配も感じられない「光渦」の中へと伸ばしてみる。空洞で、何も掴めない。冷たいような、温かいような、不思議な感触。それに、中から何か音が聞こえるような…?
考えている内に、何かが掌に触れる感覚を覚え、小さく悲鳴を上げた。唐突な出来事に思考が追いつかず、咄嗟に伸ばしていた手を引っ込め、三歩ほど後退る。何も無いと思っていた空間から、何かが飛び出して来た…?プリンに声を掛けられたところで、やっと思考が巡り始める。
「ピカチュウ!大丈夫ですか!?やっぱり何か異変が…!?…えっと、その手に握っている封筒は一体?」
「だ、大丈夫…!ちょっとびっくりしただけで…。…手に握っている、封筒?プリン、一体何の話を…、…って、えぇぇぇ!?」
またしても、悲鳴。素っ頓狂な声が出た。プリンがくすくす笑っている声が無ければ、あまりの間抜けさにその場でへたり込んでいたかもしれない。彼女の指摘を素早く解釈して返答出来たのは、ある種の本能だろう。今自分が何を返したのかさえ、頭に残っていない気がする。一先ず、動転した気を落ち着かせるように、視線を手元へ移した。何時の間にか、自分の手は見覚えの全く無い封筒を握りしめている。ワインレッドのシーリングスタンプで封のされたそれは、どう考えても自分に近しい者が用意したとは思えない。ピカチュウもプリンも、相談するまでもなくその事実を察知する。
「…もしかしたら、危険物かもしれない、けど。これを開けたら、この光の説明が書いてあるかもしれない。開けて、みよっか。」
「そう、ですね。何かあったら二人で何とか対処しましょう。私たちなら、きっと大丈夫ですから。」
封に指を掛けた時。ピカチュウは封筒の裏に小さな文字が印字されていることに気付いた。特に意識することなく、刻まれた文字を読み進め、音に変えていく。
「マスターハン、ド…?」
「…ひゃあ!?」
直後、プリンの悲鳴が聞こえた事には全てが遅かった。封を切るより早く、明らかな異変が生じる。「手紙」を中心に膨大なエネルギーの風が巻き起こり、たちまち二人の身体を宙へ舞い上がらせる。ピカチュウは咄嗟に近くの座席の脚を掴み、何とか持ち堪えるも、隣に立っていたプリンは間に合わない。そうでなくとも身体の軽い彼女は、ピカチュウが気付く頃にはすっかり身体の自由を失い、「手紙」の方へと吸い寄せられていた。…呆然としている場合では無い。ピカチュウは彼女の名前を叫びながら、気流に乗り、風の発生個所への先回りを試みる。されるがままの彼女へ、懸命に手を伸ばす。
「プリン!プリン!!今助けるから!!手を伸ばして!!」
もはや叫び返す余力も失った彼女は、ぱくぱくと口を動かしながら手を伸ばし返すも、二匹の距離は離れて行くばかりだ。でも、諦められない。友達を、諦めるわけには…!
その一心で手を伸ばし続けるも甲斐無く、プリンは「手紙」の中へと吸い込まれて行ってしまった。しかし、ピカチュウの中にはもはや未知への恐怖など存在していない。ただ、目の前の友達を助ける為に。
消えた彼女を追い掛け、ピカチュウもまた、「手紙」の中へと飛び込んだ。
やがて「手紙」は暴風を巻き上げながら封を閉じ、静寂の中にその身を落とした。
・・・───現在。
風を切る音だけを立て、勢いよく振り下ろされるハンマーを交わそうと身を捩るも間に合わない。即座に体勢を変え、自慢の尻尾で弾き返す。…もう一方から追撃が迫って来るのは、空気の流れの微妙な変化で気付いた。尻尾を振った勢いのまま上空へ身体を逃がし、微量ながらも溜め込んだ電撃を対象へと投げつける。球形生命体のうち一体が怯んだ。…今ならやれる!ピカチュウは地面に着地するなりエネルギーを溜め直し、先程より大きな雷を───。
脇腹に強い衝撃が迸り、気付けば地面に叩きつけられていた。地面上を数回転し、勢いを失った身体は力なく横たわった。激しく咳き込むも、衝撃の余波で全身が痛む。…何が起きた?分からない。分析している場合では無い。次の攻撃が、来る!地面を叩き、立ち上がって今度は足技で衝撃派三連続を掻き消す。鈍い痛みはあれど、この程度ならこれまでのバトルと大差無い。
はぐれた「友達」とよく似た形状の球形生命体たちは、当然ピカチュウの心情を考慮することなく、またしても武器を振り上げ襲い掛かって来た。
「ほんとに、キリが無いよ…!!」
叫びも虚しく、追撃を何とか飛び回って交わす。先のダメージが、重い。全身が限界を訴え始めている。足がふらついた、これでは次の攻撃を耐え忍べない。諦念が頭をよぎったその時───。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
幼くも勇ましい声が上空から降り注ぎ、小さな流星の一尾がピカチュウの視界へ飛び込んだ。流星の一尾はそのまま敵陣へ迷うことなく直進し、搭乗していた何かが、敵陣の二匹をハンマーで纏めて吹き飛ばす。一瞬の出来事に処理が追いつかないピカチュウを他所に、流星の一尾とその搭乗者は、ピカチュウの前へと着陸した。星が消滅し、其処には───先程まで自分を追い回していた者たちそっくりな、ピンクの球形生命体が佇んでいる。一気に思考が冴え渡った。戦闘態勢を取り戻し、ピンクの球形に向き直る。
「もしや君も、マスターハンドとやらの差し金!?」
「えぇ!?ちょ、ちょっと待って!?僕はそんなのじゃないよ~~!!」
何時でも放電可能な状態でピンクの球体を睨んでいたが、余りに腑抜けた声で必死に身振り手振りで弁明を試みている様子を目にしたら、ピカチュウまで全身の力が抜けてしまった。疲労か、緊張からの解放か。わけも分からず腰を抜かし、座り込む。ピンクの球体はあわあわと声に出しながらも、ピカチュウに駆け寄って来た。どうするべきか分からずに、取り敢えず手を差し伸べている。そんな状況だ。
「だ、大丈夫!?僕がびっくりさせちゃったのかな。あ、あの、その…!僕は、君の敵とかじゃなくて。マスターハンドってひとも知らないし、…あ!実は僕も迷子なんだ~~~!えっへへ、君と同じとか、言ってみようかな…。」
たどたどしい話しぶりと、先程の勇敢な姿がやけに噛み合わなくて、ピカチュウは我慢出来ず笑ってしまった。声を立て、盛大に。その様子を見ていたピンクの球体も、初めは戸惑いつつ、一緒に笑い出す。数十秒間、和やかな雰囲気が齎された。なるほど、緊張の糸が何の前触れもなく解けると、こんな風になってしまうものなんだ。さっきまで張り詰めていたことが途端に馬鹿らしくなり、笑いながらピンクの彼の言葉に応答した。
「あはは、さっきの勇敢な姿と、何もプランの無い弁明を見たら誰だって君が敵じゃないことぐらい分かるよ。」
「ほ、ほんと!?良かったぁ…!!これでも疑われたら、僕どうしようって不安になっちゃって。えへへ。」
へにゃりと無邪気に笑う彼が何だか眩しく見えて、ピカチュウは目を細めながら彼の言葉に耳を傾けていた。…そう言えば、と思い出し、差し出してくれていた掌を握り返す。自力で立ち上がるつもりが、彼は苦言ひとつ零さず、自分を引っ張り上げてくれる。なんて心強い仲間なのだろう。最初に浮かんだ感想は、その一言に尽きる。
「…そう言えば!!自己紹介がまだだったね!!僕は『カービィ』!星のカービィ!!マスターハンドってひとからの手紙を開けたら、この世界に迷い込んじゃったみたいで。これからどうしようって悩んでるところに君のピンチが見えたから、こうして来ちゃった。…良かったら、君の話も聴かせてくれない?」
ピンクの彼、カービィに話を振られ、今自分が置かれている状況を思い起こす。
確か自分も、彼と同じだ。マスターハンドと綴られた手紙の中身を確認しようとしたら、凄まじい勢いの風に「友達」と一緒に呑み込まれて、それで。改めて状況整理をしている内に気付いた。彼女。「友達」の、彼女。彼女を追い掛けて此処に来たはずなのに、肝心の彼女が何処にも居ないではないか。先程までのピンチとは違う焦燥感に駆られ、自己紹介が心なしか早口になる。
「僕はピカチュウ。多分僕も同じ状況で此処に迷い込んで。でも、僕ひとりじゃなくて、友達が一緒だったはずで。でも、でも…!その友達が、何処にもいなくて。僕、僕、どうしたら…。」
「ピカチュウ、大丈夫だよ。落ち着いて。」
掌を包む温もりにハッとして顔を上げると、カービィがピカチュウの両手を優しく握っていた。もう立ち上がっているのだから、握っておく必要は無いと言うのに、両手をただ握り、真っ直ぐ此方を見ている。何故だろう、彼の想像からも不安の色を感じるのに。こうしていると、安心する自分が確かに居るのだ。「何故?」と問うより早く、カービィが言葉の続きを連ねる。
「友達に何かあったら。そう考えたら、怖くなるよね。僕もきっとそうだよ。メタナイトやデデデに何かあったら、…そう考えたら居てもたっても居られなくなって、パニックになっちゃうかも。でも、きっと二人なら大丈夫。そんな気がするんだ。傍に居なくても、…二人ならピンチを何とかして、再会の方法を探してくれる。そんな気がして。だから僕も、頑張ろうって思えるんだ。怖いけど、友達が頑張っているなら…ってね。」
「…その、メタナイトさんとデデデさんって、カービィの‶友達〟?」
「───うん。そうだよ。僕の大事な、大事な。‶友達〟。」
真剣な表情で、静かに。目の前のお星さまはピカチュウの言葉を肯定した。
…怖いのは、僕だけじゃない。この子も本当は怖くて、ひとりが不安で、この世界から早く抜け出したいってきっと思っている。焦りにずっと影を踏まれていて、足を取られそうになって。それでも、頑張っている。それから、‶友達〟を彼は心から信じているんだ。言葉の節々から伝わる彼の想いは、何故だか自分の中の凝り固まった焦燥感を絆して行く。そんな気がした。先程より落ち着いた呼吸と共に、言葉を吐き出す。
「…そう、だよね。大事な、‶友達〟。僕は彼女と出会って間もなくて、彼女のことたくさん知ってるわけでは無いけど。でも、お互いのことを‶友達〟って認め合って、この先あんなことをしたいなんて夢を思い描いて。あの時間を、こんなところで嘘にはしたくない…かな。」
「ピカチュウにとっても、その子は大事な‶友達〟…なんだね。」
「うん、うん。あの子は、僕の‶友達〟。」
噛み締めるように、何度も何度も頷く。些細な接点から生まれた友情は、絶対に瞞かしなんかじゃない。あの子とも、こんな風に手を取り合って、同じ時間を共有した。…失いたくない。壊されたくない。守りたい。───信じたい。あの子も何処かで、懸命に頑張っていて、自分を探してくれているって信じたい。
「なら、きっと大丈夫だよ。すぐに会える。」
カービィの言葉にも、幾度となく深く頷いた。その言葉を実現したい一心で、何度も。何度も。
「もう、平気?」
「うん、平気。」
「じゃあ、此処からは一緒に行こうよ。‶友達〟の僕と君、二人で。」
「…僕とカービィは、もう‶友達〟?」
「うん、僕にとってピカチュウも‶友達〟。」
短くて、すぐに蒸発してしまいそうな言葉を編み合わせているはずが、温かくて、心地良い。純粋無垢なお星さまに、相当助けられてしまった。しかしピカチュウの中では目的も、今すべきことも、何もかもが鮮明になった実感が浮かび上がっていた。
目の前の小さなヒーローで、これから僕の‶友達〟で居てくれる君。君と一緒に、同じ世界の迷子の‶友達〟を助けに行く。
「無事で居て。信じてるよ、───プリン。」
─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ───
★???★
「…ふぅ。ちょっと数が多かったけど、何とかなったかな。」
岩で造形された神殿の地下にて。赤い帽子と縞模様のシャツを纏った少年は、額に滲む汗を拭いながら呟いた。少年の背後で、ただのホログラムと化した何かが消滅していく。少年は振り返ることなく神殿奥深くへ進みながら、脳波が掴み取った声に応答した。
「どうだね、少年。其方の様子は?」
「特に変わりないですよ、ファルコンさん。さっきファルコンさんにそっくりなホログラムに遭遇したので、始末しておきました。僕たちの行動に支障を来してからでは遅いですから。」
「ふむ、君は本当に抜かりないね。そして、容赦も無い。…俺そっくりの造形物はどうだった?イケメンだったか?」
「取り逃がして、他の皆さんに迷惑を掛けてはどうしようも無いですし、此処で容赦は致し兼ねます。ええっと、それより、これはレギュレーション違反にならないんですか?サムスさんはまだしも、僕とファルコンさんはマスターハンドさんにとって想定外なんでしょう?」
「嗚呼、サムス君の情報によればな。我々はマスターハンドとやらに‶まだ〟呼ばれていないはずだ。そう、‶まだ〟。」
「……結構、根に持ってますよね。ファルコンさん。実はマスターハンドさんに会いたい理由って、直接クレームを突き付けて‶招待状〟を捥ぎ取るためなんじゃ…。」
「『ネス』少年。それ以上はお口チャックだ!サムス君に聞かれたら、後でとんでもないことに」
「…はあ、聞こえているぞ。キャプテン・ファルコン。」
もう一人の協力者の声が加わったところで、少年ネスは足を止めた。絶えず発動している能力‶テレパシー〟の安定性を図る目的である。ファルコンとの茶番が長引きそうなところでサムスが割り込んでくれたのは、ナイス判断と言ったところであろう。ネスはそれぞれが得た情報を今一度照合すべく、話題を上手く転換する。
「サムスさんも突っ込みたい部分は山ほどあるんでしょうけど…、時間も無い事ですし、マスターハンドさんに勘付かれる前に、途中報告を済ませてしまいましょうか。」
ネスの振りに、サムスが声で頷いている。それまで若干ふざけた話をしていたファルコンも、どうやら真剣モードに切り替わった様子だ。テレパシー越しに、心情の変化が伝導して来る。
「私は今、例の兄弟を追っている。落下速度が想定以上に早かったものの、捕捉は出来た。…‶終点〟へ辿り着くための鍵は彼らと共に捜索する心算だが、敵の接近も同様に確認されている以上殲滅を優先するのが妥当であると考えている。…ファルコン、其方は?」
ネス一人が進行せずとも、サムスが上手い具合に話の流れを作ってくれた。少し、肩の力を抜いて話せそうだ。本当に、彼女は頼りになる先輩である。話を振られたファルコンの方は、恐らく所要時間を気にしているのだろう。少々言葉の間を詰めながらテキパキと要所を語る。
「俺は今、第一合流ポイントに動物コンビと子ども二人が接近していることを突き止めたのだが、何やら救援を必要としている‶イレギュラー〟が居るようなのでな。急遽其方へ向かおうと考えていたところだ。合流ポイントを隔てる障壁は既に除去してある。敵襲に見舞われても、4人…?4匹?係りなら乗り切ってくれることだろう!なんせ、彼らはマスターハンドとやらが認めた英雄だからな。」
「…ファルコンさんって、ユニークなジョークばかり並べている割に、行動が本当に早いね!?まさか合流ポイントをひとつ制圧しているとは思わなくてビックリした。僕も、遅れを取る訳には行かない。‶彼ら〟を追跡しないと…。」
「…勇者と、遊撃手だな?」
「そう。多分、今この上の層で激闘中だと思うから…。接触自体は、そう難しくないはず。」
「実に巧妙だな、ネス少年。」
「褒めたところで、ファルコンさんみたいなジョークは言えないですよ。」
二人の行動方針が既に纏まっていたお陰で、軽口を叩き合うぐらいの時間的猶予が許された。とは言え、じきにテレパシーの持続時間が切れることだろう。二人が特に言葉を発する気配が無いと分かれば、ネスは伝えたいこと全部を残り時間に詰め込むことに決めた。
「まず、お二人とも絶対に無理はしないでください。‶イレギュラー〟な僕らの行動可能範囲は限られていますから、少しでも不味いと感じたら‶レギュラー〟に任せて退避を。…次の通信は恐らく一時間後になると思いますが、どうか、ご無事で。必ず最終合流地点で会いましょう。」
ピピ…。ピピピ…。
テレパシーが、弱まる。近くに居るように思えた二人が遠ざかって行くような感覚は、何度経験してももの寂しい。そんなネスの心情を察したのか否か、二人からノイズ混じりながらも返答があった。感覚を研ぎ澄まし、取り零すまいと受け止める。
「君もだぞ、ネス君。俺たちはチームだからな。絶対に全員無事に戻ろう。」
「ネス。お前のお陰で我々は円滑な作戦行動及び統率を取れている。頼りにしているが、一人で無茶はするな。私も必ず、生きてお前たちと合流する。約束だ。」
返答の返答は叶わず、遂にテレパシーが途切れる。同時に、上層の奥からくぐもった衝撃音が聞こえるだけの現実へ、一気に引き戻される。ネスは気を引き締め直す代わりに、ひとつ深呼吸を挟んだ。…大丈夫、僕なら大丈夫。何度も言い聞かせる中で、チームメンバーの温かいエールを想起する。此処でも良い仲間に恵まれたものだ。
彼らには、あとで直接抱えきれない程の感謝を伝えよう。
遠いながらも、確かな目標を胸の片隅に取り置き、ネスは再び駆け出した。
今回も読了頂き、有難う御座います。黒冠です。
早くも第4話に到達し、登場戦士も続々増えて参りましたね。基本的な行動形態は同郷ペアとなっておりますが、別郷同士の絡みや協力関係も頭角を現しつつあります。
このまま進めば、あっという間にマスターハンドの元へ辿り着けそうな雰囲気ですが…、果たしてどうなるでしょう?私もワクワクしながら執筆に取り組んでおります。
今回は特に捕捉事項がある訳では無いのですが、かなりの文字数になっておりますので、その勢いで綴った後書きと思って頂ければ無問題です。恐らく通読が大変な方もいらっしゃったことでしょう。本当に本当に、有難うございます。是非、何周でも覗きに来てください。皆様をお待ちしております。
それでは、また次話で。
有難うございました。