The Beginning of the Fighters   作:黒冠

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7.遺跡に潜む刺客

 

★カービィ&ピカチュウ★

 

 カービィに酷似したホログラム二体を突破して以降、二人は愚直に前進し続けていた。まだ幼い二匹は身軽さが幸いして、長距離の徒歩移動を物ともしていない。否、互いに励まし合い、助け合って道中を楽しもうと努めていたことが最大要因なのかもしれない。小難しい事情等気にも留めない二匹は、楽し気な話し声を交わし続けている。

 

「───それでね、それでね!デデデ大王ってば、こ~~んなに大きなカレーライスを全部平らげちゃったんだよ!?新しいお店の、凄く美味しいカレーだって聞いて楽しみにしてたのに、デデデ大王のせいでその日の内に完売しちゃってさ。」

「あはは、デデデ大王ってひとは大食いなんだね。それに、凄く愉快な人柄みたい!でも、そんなことしてメタナイトさんは怒らなかったの?」

「う~~ん…、メタナイトより先に、メタナイトの家来のソードとブレイドが怒ってたかも。メタナイトはあんまり興味が無いのか、諦めてるのか、何もコメントしなかったんだっけ。もしかして、メタナイトはカレーにすら興味ないのかな!?あんなに美味しそうだったのに!?有り得ないよ!もし本当に興味ないなら、お腹空いて倒れちゃうよ!?」

「多分、カレー食べなかったぐらいじゃ倒れないから大丈夫だと思うけどなあ。…カービィも、デデデ大王に負けないぐらいの腹ぺこ星人なんじゃ?」

「うん!ボク、食べるのだいすきだもん!大食いならデデデ大王にだってぜったい負けないよ!カレー屋さんの準備が整ったら、今度はデデデ大王より早く行ってボクの方がたくさん食べてやるぞ~~!」

「そ、それはカレー屋さんが大変だと思うよ!?だ、大丈夫だと良いけどなあ…。」

 

 カービィの愉快な友人たちや、故郷の話を聞いていると自ずと心が和む。ピカチュウの中に渦巻いていた不安はもうすっかり晴れ渡っていて、今この瞬間の冒険を‶友達〟の彼と存分に楽しみたいという思考にシフトされていた。

周囲の景色にも時折目を向け、何か変化が見られれば直ぐに相談しようとしていた矢先、あることに気付く。

 数十分前までは、二匹を取り巻く景色は草木だらけで変わり映えの無い退屈なものであった。しかし、徐々に鬱蒼とした草木の群れがはけ始め、何やら岩作りの造形物が点々と見られるのである。この変化が気になったピカチュウは、申し訳なさを多少含みつつも、カービィの話に返す形で話題を変えることにした。

 

「唐突でごめんね、カービィ…!ちょっと僕、気になることがあるんだ。」

「気になること?うん、良いよ!気にしないで、教えて!!」

 

 案の定、カービィは快諾してくれた。お陰で杞憂を抱えることなく言葉を続けられそうだ。流石、僕の友達である。誇らしさの混じった嬉しさを胸に、主旨をざっくりと説明することにした。

 

「さっきから結構歩き続けてるわけだけど、ちょっとだけ景色が変わって来ている気がするんだよね。ほら、例えばそこにある岩の彫刻。…少なくとも、僕が不時着した地点付近には無かった気がするんだ。カービィは、どう思う?」

「岩の、ちょうこく…?あ、ほんとだ!あそこにも、あそこにもあるよ!ぼくもこんなの、初めて見た!もしかして、新しいエリアが近いのかな?」

 

 カービィは目に着く造形物を指差しては、ぴょんぴょん飛び跳ね喜んでいる。

 ───新エリア。そうか、そういうパターンも考えられるのか。もしかしたら、マスターハンドに連れ込まれたこの世界は、ピカチュウたちが想像しているよりも遥かに広大で、未知に溢れるものなのかもしれない。胸の奥の期待が膨らんでいるのは、ピカチュウだけでは無かった。カービィの方を振り返れば、彼も満面の笑みで頷いている。

 

「他にもエリアがあるってことは、きっと…!」

「うん、うん!ボクたち以外にもこの世界に迷い込んだ仲間が居るんだよ!ねえ、ピカチュウ!」

 

 カービィが無邪気に差し出して来た手を、何の躊躇いもなく握った。駆け出し、彼の歩幅に同調する足取りは、先程よりももっと軽くなっている気がする。伴って鈍足の景色は、その色と形を次々に変えていく。石造の建造物も、その個体数を増加させている。───次のエリアは、すぐ其処だ。

 二人一緒に走る中で、ピカチュウはふと浮かんだ希望をカービィへと投げ掛けてみた。彼が今度はどんな答えをくれるのか、楽しみで仕方無かったからだ。

 

「ねえ、カービィ。僕、…他の仲間とも、‶友達〟になりたいな。」

 

「…!えへへ、偶然って凄いなあ。実はね、ピカチュウ。ボクも全く同じこと、考えてたんだ~!!」

 

 嗚呼、流石は‶友達〟だ。

 淡い待望が確信に変わった瞬間、ピカチュウは大歓喜のあまり足を止め、カービィに思い切り抱き着いた。唐突な出来事に今度はカービィの方が驚いて、しかしながらハッとしてピカチュウを全身で受け止める姿勢に切り替わる。二人は目を合わせ、またしても笑い合った。

 

「全然お互いを知らないボクたちは、もう以心伝心の‶友達〟なんだ。きっと、他の仲間とも仲良くなれる。…ボク、そんな気がしているよ。」

「僕には今、カービィが居てくれるし、見知らぬ誰かに出会っても何も怖くない。それに、助け合えば絶対にマスターハンドのところに辿り着ける。…行こう、早く、次のエリアに!」

 

 ───二人より遥かに巨大な石造の門が姿を現すのは、ひたすら駆けること約5分後の出来事である。

 

─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ───

 

★リンク&フォックス/???★

 

 何の予兆も無くフォックスが足を止めた。自ずとリンクも足を止め、何時でも応戦出来るよう、剣の柄に手を添える。隣で狙撃準備に移行した彼へアイコンタクトを送りつつ、リンクは声を潜めた。万一敵襲に盗聴されていた場合、自分たちが不利な立場に置かれる可能性があるからだ。

 

「……フォックス、何か気配を感じたのか?」

「嗚呼。さっき、俺たち以外の話し声が、この遺跡の外から聞こえた気がしたんだ。…恐らく、子どもの声が二つ。刺客かもしれないし、第三の勢力かもしれない。」

 

 彼は今、「第三の」と明言していた。リンクはその一言を聞き逃さない。剣の柄を握る力を強め、周囲への警戒を強める。当然、フォックスの方も双眸に籠る眼力が強まっている。いつ何時何が起ころうと、損害を最小限に抑えるだけの体勢は互いに整った状態だ。

 

 ──────。

 

 風の流れが一瞬にして変わったことを察知した瞬間、リンクは迷いなく剣を抜いた。既に眼前に迫る電撃属性のエネルギー弾を間一髪のところで切り裂き、一歩退いて剣を構え直す。追撃の方はフォックスがリフレクターで弾き返したことで何とか凌ぎ切った。間違い無い。前方に、誰かが居る。すぐさま突撃して相手の所在を破ろうと試みるが、フォックスに制止される。彼はと言えば、ブラスターを敵が居るであろう方向へ構えたまま微動だにせず、呼吸のみを続けている。

 

「……攻めないのか?」

 

 リンクの小さな問い掛けに、フォックスは静かに首を横振することで応じただけだ。その反応ひとつで、リンクは彼に何か考えがあると察した。静かに剣を降ろし、前方及び相方の挙動を注視する。

 ───今度は空気が一気に乾き、熱を帯びる。次の攻撃が、来る…!

 リンクが動き出すより先に、今度はフォックスが前へと躍り出る。次の瞬間差し迫った火炎をクロスさせた腕で受け止めようとしている…?否、流石に無茶だ。これでは大火傷を負ってしまう!彼は、一体何を考えているんだ!?一気に込み上げた焦りをその形のまま声として表出しつつ、リンクは彼を越えて敵が居るであろう座標へ弓矢の一撃を放った。

 

「フォックス!!君、一体何をしているんだ!!こんなところで自殺特攻だなんて聞いてない!!焼け死んでしまうぞ!!早く其処を離れるんだ!!時間は俺が稼ぐ!!」

 

「「その心配は無いよ。」」

 

 弓矢が何かに吸い寄せられ、消滅する不気味な音。相方と重なる、耳に覚えのないの声。

 次の瞬間、松明の火力不足により出来た暗闇の死角から、赤い帽子を被り右手に木製のバットを握った少年が姿を現した。何者か判別の付かない状態の挙句、攻撃して来たであろう人物を前にしては、武器を降ろしている場合では無い。剣を構え直そうとして、其処で気付く。

 

「……ッ、フォックス!」

 

 振り返った先は、先程まで彼が立っていた場所である。リンクを火炎から守ろうと、何の防御手段も無くして無謀に飛び出して行ったその地点には、ただ静かに煙幕が立ち込めているだけだ。彼の姿は、何処にも見えない。途端に、頭に血が上っていくのを感じたが、リンクにはそれを抑える理由が無かった。冷ややかな表情で木製バットを此方へ向ける少年に、憤怒の限りを込め、叫び、剣を向ける。言葉が終わるよりも先に、地面を強く蹴り、剣を振り上げていた。

 

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「───リンク!避けろ!!」

 

 今度は、聞き覚えのある声だ。剣を振り下ろし着地しようとしていた矢先とは言え、咄嗟の指示を信じ、全身の力を抜きながら脇へと転がる。直後、少年が立っていた付近が盛大な音を立てて爆発した。何が起こったか判断しようとするより先に、今度はリンクに向かって瓦礫の残骸が勢いよく飛んで来る。すると脇腹付近に身体を持って行かれるような感覚が迸り、気付けば爆発地点から離れた後方へと運び出されていた。リンクを抱き上げていたのは、勿論───。

 

「……フォックス!?」

「リンク、心配掛けたな。怪我は無いか?」

「お、俺は全く…。それより、君の方こそ!!あんな火の中に突っ込んで行って、火傷しているんじゃ!?直ぐに応急処置を…!!」

 

「……なんだ、キツネのお兄さん。君はもう、この世界のカラクリに気付き始めていたんだね。」

 

 二人の会話に、もう一つの声が混じる。爆発地点の向こう側には、先程の青年が変わらぬ様相で佇み、リンクたちを見つめているではないか。即座に剣を向けようとしたリンクを、フォックスはもう一度制し、少年の方を向き直った。

 

「嗚呼、何となくな。一先ず、君の仕掛けたトラップは全て見切った。もう奇襲の手立ては尽きたはずだ。武器を降ろしてくれ。」

「…残念ながら、僕の負けみたいだね。こればかりは。仕方ない。戦いは止めて、少し話をしよう。───フォックスさんに、リンクさん。」

 

 想定外なことに、少年は聞き分けが良い。フォックスの要求に異論を唱えることなくあっさりと作戦の破綻を認め、構えていた木製バットを降ろした。同時並行でフォックスも構えていたブラスターをしまった為、リンクも剥き出しの敵意を抑え、剣を鞘へと納めた。しかし、武装を解除したところで数々の疑問が募っている。リンクは第一に浮かんだ疑問を少年へ、ストレートにぶつけた。

 

「……君、一体何者だ?どうして俺たちのことを知っている?」

 

 少年は余り多くを語らぬその口を、開こうとはしなかった。対話を承諾したものの、ずっとリンク達を警戒しているように見受けられる。しかし、このまま停滞していたところで双方ともに利益が生じないことに気付いたのか、漸く自らの意思で言葉を紡ぎ始めた。

 

「……詳細までは、今は明かせません。ただ、僕に貴方たちの情報を提供して来た人物が居るのは確かです。僕一人で貴方たちのことや、‶招待状〟のこと、そして、この世界のことを嗅ぎ付けることは…きっと、不可能でしたから。」

「マスターハンド───この世界と‶招待状〟を生み出した人物についても、もう知っていたんだな。これは驚いた。まあ、知らない世界の英雄と出会った時点で、俺たち以外にも誰かが迷い込んでいるという状況は何ら可笑しくないと考えていたけどな。」

 

 フォックスは少年の言葉に耳を傾ける最中、ポケットにしまい込んでいた‶招待状〟を少年に向けて示す。少年は‶招待状〟に目を向けるも、好意的には感じていない様子で溜息を吐くばかりである。実際、リンクもフォックスも、これが純正の接待だとは感じていない。感じていないからこそ、真相を本人に会って確かめる為、この世界へと踏み込んだのだ。

 もしかしたら、この少年も自分たちと類似した目的で行動しているのかもしれない。

 リンクとフォックスの推論が一致するのは、実に早かった。しかし、二人が少年に向けて更なる疑問を呈するよりも、少年が自主的に語る口の方が早い。

 

「この世界のことも、‶招待状〟のことも。…情報提供者から聞きました。世界の秩序を維持したいのなら。自分の世界を守り抜きたいなら。マスターハンドの計画を早急に止めるべきだ。その人物は、僕の世界に現れるなりそんな意味不明な言葉を残して行って。…こんなことを言われたら、黙って見過ごすことなんて出来ないでしょう?」

「なら、君はどうしてさっき俺たちを攻撃したんだ?聞く限り、俺たちの目的はマスターハンドを見付け出すことで一致していたはずなのに。」

 

 リンクの疑問と、二人から向けられる視線を少年は真摯に受け取り、決して目を逸らすことなく語り続ける。その相貌には、恐れも後悔も灯らない。

 

「単刀直入に言うなら、僕は情報提供者のこともマスターハンドさんのことも…信用していないからです。だから勿論、マスターハンドさんが呼び寄せた貴方たちのことも信用していませんし、僕がこういった役回りを買って出て、貴方たちがこの先へ進むことを諦めてくれたら話が早かったんですよ。」

「───でも、君の思惑はフォックスに突破された。今こうして、手の内もバレた。身を引くべきは、君の方じゃないかな。実際、‶招待状〟を送られていない君は、この件と無関係なはずだ。自ら危険を冒す必要があるのかい?」

 

 リンクの冷静な忠告にも、少年は首を縦には振らなかった。寧ろ、僅かに悔しさ滲む瞳で、なおも真っ直ぐ目の前の‶英雄〟二人を見据えている。───選ばれし、‶英雄〟二人を、ただ愚直に。

 

「……無関係?世界を守りたいのは、僕だって同じなんです。貴方たちだけじゃない。僕だって、大事な居場所を守りたい。マスターハンドさんの意図なんて知りません。でも、もし情報提供者の言う通り何か悪さをしようとしているのなら、僕はそれを止めたい。何としても。だから、貴方たちに何と言われても僕は此処から離れません。」

 

 少年の言葉も、表情も、全てが真剣だった。二人から見ても、その姿は紛れも無い‶英雄〟であった。

 幼いながらもたった一人で葛藤し、その結論としてこの地に足を運んでいる。危険を顧みることなく、一人で道なき道を進み続け、今こうして自分たちと対峙している。リンクもフォックスも、抱く思いは同じだ。二人にはどうしても、この少年を敵とみなすことが出来なかった。少年の言葉に一区切り着いた時点で、フォックスが彼の前へと歩み出て、目線を合わせるように屈む。そして、柔らかく微笑んだ。

 

「君にとって、俺たちはまだ信用に足る存在では無いかもしれない。でも、よく考えてみて欲しい。世界を守りたい思いも、マスターハンドの目的を暴きたいという目的も。俺たちは初めから噛み合っているんじゃないか?同じ方向へ歩むことが、出来るんじゃないか?」

「……ッ!…で、でも。僕は。貴方たちを勝手に疑った挙句、探索を諦めさせようと画策したんですよ。本来、不要な攻撃だってしました。それなのに、同じ道を歩もうだなんて…。」

 

 続けて、リンクもフォックスの隣に並び立ち、ゆっくりと膝を屈めて少年と目を合わせる。

 

「簡単な話じゃあない。それは、俺たちもよく分かっているよ。…さっき君が口にしていた、この世界のカラクリとか、マスターハンドの企みがどうこう、…とか。正直、どれも訳が分からない。でも、それらを一緒に明らかにして、これからのことを一緒に考えることは出来るはずだ。俺の方こそ、ついカッとなって君に剣を向けてしまって…ごめん。」

「…………二人とも、本当に、変な人だ。僕、二人みたいに凄く強いわけじゃないし、足、引っ張るかもしれないですよ?」

 

 それまで俯き気味かつ申し訳なさそうに表情を曇らせていた少年が、再度二人と視線を交えた。その瞳の奥には、僅かな迷いと躊躇いが見える。

 アイコンタクトも合図も不要なまま、二人は少年の掌を片方ずつにぎった。少年が目を丸くし、見るからに驚いている姿を見つめながら、また笑みを零す。

 

「変人っていうのは、俺もフォックスも言われ慣れたものなんだ。それに、足を引っ張られるだなんて、心配してないよ。だって君、さっきの奇襲時点で十分過ぎるほど強かっただろう?フォックスの機転が無ければ俺、君に負けていたかも。…ね、フォックス。」

「俺も、この世界のカラクリに助けられた部分がある。もし、生身で君と交戦していたら打ち負かされていたかもしれないな。十分強いよ、君は。俺たちが認めるさ。」

 

 少年は、目を見開き二人を見つめる。

 意外な言葉の内容は、どれも自分を承認するものばかりであったからだ。情報提供者の言葉を半ば鵜呑みにし、疑心のまま奇襲を仕掛けたと言うのに、彼らは少年を叱るどころか、称賛している。それに、重ねられた掌は優しくて、温かかった。故郷の友人たちを髣髴とさせるような、そして、この世界に踏み込む前、同じ志で繋がった仲間たちを想起するような。

 …そうか、この二人も、きっとあの人たちと「同じ」なんだ。

 自分の正義を果たすため。自分の世界を守るため。誰も知らない謎の世界で不安に見舞われながらも、出会いを果たした仲間と力を合わせて進んで来たんだ。少年は一度二人の手を自ら離し、深々と頭を下げた。

 

「誤解してしまって、本当に、ごめんなさい…!さっきも言った通り、僕は全然未熟で微力程度の協力しか出来ないかもしれない。でも、僕───二人とも、仲間に、なりたいです。こんな僕でも、この世界を守るために戦う資格があると言うのなら……!僕も、この先、二人と一緒に戦いたい!」

 

「───そんなの、大歓迎に決まっているだろう?なあ、リンク。」

「嗚呼、勿論だよ。俺たちはもう、仲間だ。それに、君だって立派な‶英雄〟だよ。」

 

 少年は、ふと右掌に何か違和感を感じ、そっと掌を開いた。其処に収まっていた物を視認し、更に驚き、そして目の前の二人へもう一度視線を送る。まるで握られた物に対する答えを示唆するように、二人はなお、微笑みを浮かべて少年の様子を眺めていた。

 

 確かな感触を持ち、掌に握られている、一通の‶手紙〟。少年が開封せずとも、‶手紙〟はまるで自我を持っているかのように、ひとりでにその封を開け放つ。封の内にしまわれていた書面はたちまち舞い上がり、少年の目線丁度の高さで留まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

‶ 数々の試練を乗り越え、強く確かな信念を持つ英雄。〟

 

 綴られた文字が、松明の淡い光に照らされ煌めいた気がした。

 

 

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