The Beginning of the Fighters 作:黒冠
★ヨッシー&ドンキーコング/???&???★
「…ドンキーさん、見てください…!前から誰かが来ますよ!」
使い道の分からないくすんだ鍵を手に、走り続けること、更に5分。ヨッシーの声が新たな視覚情報を運んで来たと分かれば、ドンキーコングは視線を前へ、前へと飛ばす。視線の先には、まだ豆粒程度の大きさとは言え、確実に此方へ向かって来ている動体が確認出来た。桜色の球体と、黄色い四足生物だろうか。黄色い方に関しては、数十分前交戦したホログラム二体と酷似している。考えている内に、相手が此方へ随分接近して来ていることに気付いた。どうやら、相手は自分たちを警戒しているわけでは無いようだ。見れば、桜色の球体は此方に向かって手を振っているではないか。心なしか、声を張り上げ何か語り掛けているようにも見受けられる。その様子は隣を走るヨッシーにも視認出来たようで、静かに頷いていた。
「どうやら、あの二匹。僕たちのことを敵だとは思っていないみたいですね。」
「らしいな。ははッ、そりゃあ良いことじゃねえか!俺たちには疑わしい要素が何も無いってことだろ?それに、もしかしたら彼奴らも俺たちと同じく、絶賛迷子中なのかもしれねえし。兎に角、合流してみようぜ。」
「勿論ですよ。色々話を聞いてみて、協力し合えそうならその方針で。此処からいち早く帰れるのなら、それに越したことは無いですからね。」
「何だよ、ヨッシー。やっとノリノリになって来たかと思ったのに、結局早く帰りたいのは変わらないのかよ!?」
「それはそうでしょう!!どう考えたって長居するべきじゃないですよ。罠の可能性がゼロになったわけじゃないんですからね!?」
───。
不意にズン、と地面が大きく沈み込むような音と感覚を覚え、二人は同時に足を止めた。周囲を警戒しつつ、前方を走っていた二匹の方も気に掛ける。二匹も同様に、走ることを中断し、キョロキョロしている。
「…今の。気の所為では無いみたいですね。」
その一言に何か返そうと唇を開きかけた瞬間、更に大きな衝撃が地表を駆け抜け、ドンキーコングはすぐさま側方へと飛び退いた。ヨッシーの立っていた場所を即座に確認すると、ヨッシーも自身の対角線上へと身を引いている。
無事を確認出来たところで、今度は先程立っていた地面が大きく抉れているのが目に着いた。もし、今の衝撃をモロに喰らっていたら…。想像しただけで、阿寒を感じざるを得ない。
「お~~い!!ゴリラさ~~ん!恐竜さ~~ん!だいじょうぶ~~!?」
近くに聞えるのに、何故かやけにくぐもった声を鼓膜に受け入れ、ドンキーコングは漸く立ち上がった。自分たちの安否を確認してくれていたのは、ついさっき何か叫んでいた桜色の球体生物である。球体生物は、何も無い空間を、激しく両手で叩いている。…奇妙な光景だ。
球体生物に釣られる形で傍に歩み寄ろうとして───、…ゴツン。
「ッッッ痛ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
重い音と共に、鈍い痛覚が額を支配する。声を上げ、痛みを訴えていると、目の前の球体生物は慌てふためき始めてしまった。
「ゴリラさん!?今、すごい音したよね!?だ、だいじょうぶ!?どうしよう、何とか出来ないかな…。」
「カービィ、やっぱり壊れそうにない?」
おろおろする球体生物───カービィの隣から、同伴していた黄色い鼠も姿を現し、ドンキーコングたちとカービィを交互に見ては、困ったような表情を浮かべていた。
「…やっぱり、何だか変な仕掛けがされてるみたいだね。そう簡単に仲間と会わせてくれない気はしてたけど。」
「えぇ!?こんなに目の前に居るのに、僕たち手を繋ぐことも許されないの!?あんまりだよ、ピカチュ~~ウ!」
「カービィ、落ち着いて…!何か、方法があるはずだよ!」
会話を聞いていたところ、黄色い鼠の名前がピカチュウであることと、二人はドンキーコングたちを仲間だと認識していることが伝わる。
ヨッシーの予想は的確であったと証明されたようで、ドンキーコングは内心安堵していた。無限に敵が湧いて来るシステムでは、流石に疲弊を免れない。マスターハンドの元へ辿り着くまで満身創痍の状態となっては本末転倒だ。この世界の創造主と話すだけの気力は、何としても残しておかなければならない。
まだ若干痛む額を抑えながら、ドンキーコングは目の前に立つ二匹へ向けて声を掛けた。
「カービィに、ピカチュウって言ってたな?お前たちも迷子なのか?」
案の定、全くと言い切れる程に警戒心を持たないカービィが間髪入れることなくドンキーコングの声に応じた。
「うん!ボクもピカチュウも、マスターハンドってひとの手紙でここに来たんだ~!でも、迷子真っ最中で、困ってたところ!だって、何処を歩いても森しか無いんだもん!」
「…つまり、目的は僕たちと一緒みたいですね。マスターハンドの勝手に巻き込まれた点も。」
此処で漸く、ヨッシーも会話に参加し始めた。加えて、まだ名乗りを上げていなかった自分たちのことを簡易的に相手へ示す。
「そう言えば、まだ僕たちは名乗ってすら居ませんでしたね。初めまして、カービィさんにピカチュウさん。僕はヨッシー、此方はドンキーコングさん。僕たちは西の森で遭遇して以来一緒に行動しているんです。ドンキーコングさんが、ピンチの僕を助けてくれて。その時、ピカチュウさんそっくりなホログラムを二体も相手したんですよ。」
「ヨッシーに、ドンキー!えへへ、これからよろしくね!」
ヨッシーの紹介を一通り聞き終えるより早く、カービィは小さな手を両者に向けてさらに大きく、ブンブンと振りながら笑った。一方ピカチュウは、自分そっくりのホログラム二体の話に驚愕したようで、其方の詳細を求めて来た。
「僕そっくりのホログラム…!?確か僕も、此処に到着してすぐにカービィそっくりのホログラムと戦ったけど…、てっきりホログラムは全部カービィを基に作られているのかと思ってたよ!」
「…え?ピカチュウさんの方はカービィさんのホログラムだったんですか?じゃあ、エリアによって違う可能性が?」
ヨッシーも当然、驚愕した。ヨッシーが交戦したホログラムも所詮はピカチュウに酷似した二体だけだ。余りに情報が不足しているとは言え、他の誰かを模倣したホログラムが存在しているとは考えもしなかった。情報を擦り合わせる中で、新たな仮説が次々に浮かび上がる。ピカチュウの方も渋い表情を浮かべているものだから、似たような思考を経由している最中なのだろう。他方、カービィとドンキーコングはイマイチ状況が呑み込めていない様子であった。こればかりは、更に仮説を擦り合わせ共有する必要があるだろう。しかし、問題は今、「目の前」に聳え立っている。
先んじて問題を指摘したのは、ピカチュウであった。
「……色々疑問はあるけど、まずは目の前の‶これ〟を何とかしないとね。」
「そうですね。この、‶不可視の壁〟を突破しないと僕たちは合流すら出来ないんですから。」
ヨッシーが何も無い宙を掌でなぞると、一瞬、透き通った壁が四匹の視界へ映り込む。ドンキーコングも彼を真似て壁と思わしき‶それ〟に触れるが、矢張り可視状態となるのは触れた瞬間のみであり、すぐに不可視状態に戻ってしまう。四匹は揃って、不可思議な現象に唸り声を上げる。しかしながら、懸念している点はこの不可思議な壁の存在だけではない。
「さっきの攻撃。周囲に僕たち以外の気配がないことから敵襲では無いと思われます。多分、僕たちがこの壁に接近したことで発動したトラップ…みたいなものでしょうね。」
「ボクもヨッシーの予想に賛成!今こうやって触ってても何も起きないし、多分あの一回でトラップはおしまいなんだよね。」
カービィは両手でペタペタと見えない壁を触り続けている。傍から見れば完全にパントマイムだ。しかし、あれだけ頻りに接触していても先程同様の攻撃が発動する気配はない。ただし、これが必ずしも安全材料になるかと問われれば、四匹とも唸り、複雑な表情を浮かべてしまうものである。
「…こうなったら、全員で強行突破してみる?」
「そんなことで壊れたら、はりぼてにすらならないじゃないですか。」
カービィの突拍子もない発言は、この状況下において到底賛同出来る提案ではない。ヨッシーは冷静に的確な異を唱えたものの、他三匹は意外にもやる気に満ち溢れているもので、思わずその光景を二度見してしまった。
「…あ、あの。皆さん、本気で物理的に突破する心算なんですか!?」
「どう考えても正攻法では無いだろうけど!でも、思い切り技をぶつける良い機会ってことで…!」
体表に電気を纏わせ、前のめり気味に臨戦態勢を整えるピカチュウを皮切りに、カービィはハンマーを、ドンキーコングは自慢の拳を構え───全員一斉に、ヨッシーへ視線を送る。…言うまでもない。これは即ち、全員参加の空気である。ヨッシーは吐いても吐いても足りない溜息をもう一つ塗り重ね、やる気満々の三匹と並び立ち、目の前の壁を見上げた。
「全員、位置に着いたね。───よし、行くよ!」
─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ─── ───
★マリオ&ルイージ/???★
───凄まじい衝撃と共に、遠方から土煙が激しく立ち昇って行くのが見えた。地面の揺れに呑まれないよう、一度立ち止まり、兄弟は赤いガラス玉が放つ光と、土煙の先の照合を試みた。ガラス玉を目線より少し上へと掲げ、光の指す方向を目で追うと、土煙の立ち昇っている先とぴったり重なっている。二人は目を見合わせ、笑顔で頷き合った。
「兄さん、これは…!!」
「嗚呼、間違いないぞルイージ!向こうで何かが起こっているんだ!此奴は本当に俺たちを導いてくれている…!!」
「新たな敵なのか、この世界の仕掛けなのか…。何なのか見当も付かないから、直接行って確かめるのが早そうだ。」
二人が足並みを揃え、進行を再開した途端。今度は、二人の足元に凄まじい勢いでひび割れが生じ始めた。…先程の衝撃由来か?…それとも元々この世界に仕掛けられた罠か?
考えるより先に身体が動き、二人はひび割れ部分から後方へと即座に飛び退いた。ほとんど同時に地面が崩壊し、生じた裂け目の先には奈落が広がる。瓦礫が、乾いた音を立てて奈落に吸い込まれる様はどう考えても恐怖心を煽る為のものにしか見受けられない。流石のマリオもルイージも、息を潜め一部始終を眺めた後、自分たちが難を逃れた地面にぺたんと座り込んだ。
「あ、危ねえ…。死ぬかと思ったぞ……。」
「に、兄さん……。俺たちの周り、こういうのが多過ぎはしないか…?」
互いの安否を確認するも、それは安息の時間を示す口実にはならない。二人が退避したのは、後方であり、進行方向とは真逆も同然だ。少し来た道を戻ったに過ぎず、大きく出来た裂け目を越えなければ土煙の立つ方角へ進行することは不可能である。二人は何とか立ち上がり、裂け目ギリギリの場所まで歩み寄るが、向こう岸を見れば、跳んで渡れることの出来ない距離であると判断するのにそう時間を要さなかった。そんな二人の心情には素知らぬ顔と言った風に、赤い光は進行方向を静かに指し示すばかりだ。
「…此処を渡るには、何か他に条件があるって話か。意地悪だねえ、マスターハンド!」
「言ってる場合か!!何とか方法を見つけないと───」
「……ッ!ルイージ、伏せろ!!」
兄の切羽詰まった声を認識し、視線を彼へと送った頃には、其処に居るはずの兄が見当たらない。時間差で聞こえて来る、何かが地面に叩き付けられる衝撃音。状況判断の時間さえ設けられないまま、今度はルイージの目前に黒い何かが迫る。───間に合わない!咄嗟に腕を前方へ罰点のような形で組み、奇襲を受け流そうと構える。しかし、ダメだ。この距離では然程意味を為さない…!不覚相応のダメージを覚悟し、双眸を伏せ掛ける。
───。
青白い、光線…?
一発目のそれは、短く放たれたかと思えば火花が如く弾け、目の前の黒い影に直撃し、相手を大きく怯ませる。
二発目のそれは、初発と比較し遥かに長く伸び、やがて先端部がルイージの手首を捕捉し、そのまま大きく宙を介して黒い影の強襲を優雅に超越して行く。何が起きているのか、何も理解出来ないルイージは、一連の動作に見入ることしか出来なかったが、手首を捕捉する感触が離れた途端反射的に焦点を取り戻し、再び地面に降り立った。背後に感じた人気を振り返り、助力に対する謝意を示したいところであったが、今はそれどころでは無い。自分は誰かの助太刀により間一髪損傷を免れたが、兄は自分を庇おうとしたことで黒い影の奇襲をモロに喰らっていた。込み上げる罪悪感を一先ず押し殺し、出来る限り声を張り上げ兄の名を呼ぼうとしたところで、突如視界が白く靄掛かり、背後の肩に手を掛けたことで制止されたことを察知する。
「…刺客は今、我々を見失っている。気持ちは分かるが、声を殺せ。息を潜めろ。」
低く、冷静に。縮まった音量にも関わらず、よく通る声。声質から女性であることは分かったものの、振り返って正体を確かめるより先に、すべきことが目の前にある。ルイージは女性の声量に合わせるように、最小限の声量で問いを投げ掛けた。
「……何か、作戦があるのか?」
相手を全く視認出来ない状況であっても、女性が頷いた…何となく、そんな気がする。次の言葉は、待機時間を催すことなく返って来た。
「無論だ。私が連中の気を、先程の射撃により引き付ける。その間に、お前が連中を始末する。…標的は2.所要時間は20秒。行けるな?」
逸る鼓動を落ち着かせるべく肺に溜まりつつある余分な空気をゆっくりと吐き出し、彼女の作戦概要に相槌を返す。正直、兄の居ない緊急戦略なんて、成功するとは思えないし、自分には荷が重い。さっきまで隣に居た兄が、何時も自分を引っ張りながらも守ってくれる兄が、ピンチの時は必ず助ける兄が、居ない。…やれるのは、他でも無い自分一人なのだ。自分を鼓舞するために握り締めたはずの掌が、震える。こんなことでは、火の玉を放つことさえ出来ないのではないか?浮上する懸念を打ち払うのは、自分一人ではやはり難しいのではないか?
「やってみせろ、緑の‶英雄〟。お前の背中は私が守る。」
これまで声を潜め、必要最低限の言葉しか発していなかった女性が、元の声量で、更によく通る声で───ルイージの背中を押した。
白靄が晴れ渡り、視界がクリアに戻る。渦巻いた思考が冴え、懸念の枷が砕け散って行く。気付けば無我夢中で前へ、前へと駆け出していた。黄金色のパワードスーツに身を包んだ誰かが、黒い影二体に囲まれながらも青白い光線を次々発射し、それらの視線を、行動を、翻弄していく。───間違いない、先程の光。自分の背中を押してくれた女性だ。たった一人で、彼女は果敢に敵陣に入り込み、怯むことなく懐を狙い続けている。
一瞬の隙を確実に捉える為、絶えず戦禍周辺を走り続ける中で、ルイージは目を疑った。
黒い影二体はそれぞれ、何処か見覚えのある形状を象っている。丸みを帯びた鍔付の帽子に、二点のボタンで留められたオーバーオール。丸い鼻に、曲線の髭。
「(あれは───兄さんと、俺……!?)」
特質に気付いてしまえば、更に思考が冴え渡り、散り散りだった作戦プランが、ルイージの脳内で纏まっていく。兄のことも、自分のことも。今まで自分が一番近くで見て来た。戦闘スタイルも、次の行動も───大方、読めるはずだ。音を殺し、握り締めた掌に籠った熱を指の隙間から徐々に逃がして行く。熱が増し、収束し始める空気が深緑の火花を放ち始める。
次の射撃。一発目は両者共に相殺する。二発目は片方が相殺し、もう片方は反撃すべく体軸を前へと傾け始める。───今だ。
迷うことなく、地面が抉れるぐらい強く、地面を蹴り上げれば、景色の流動にブーストが掛かり、身体が更に多くの空気を切って進み出る。女性が先に此方の気配に勘付き、僅かに身体を逸らせることでルイージの攻撃射程から逃れたのと同時に、十分に溜め込んだ熱拳を思い切り黒い影の一方に叩き込む。───確実な手応え。このまま、行ける……!
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
深緑の炎はルイージの咆哮と共に燃え盛り、肥大し、黒い影の腹部を抉り続ける。そのままひたすら後方へと押し込み続ける内に、炎一閃が影を貫通した。影は跡形もなく爆散し、それでもなお炎は一直線に伸び続ける。
───後方に、新たな殺気を察知した。恐らく先程捕捉出来なかった方の影だ。…このまま振り返れば行けるか?身体を捩ろうとするより早く、パワードスーツの鋭い足蹴りが影の脇腹を抉り取った。大きく吹き飛んだ影は、正面に構えていた巨大な岩に衝突し、木端微塵となって消滅していく。本当に、20秒程の出来事であった。炎が勢いを失い、直線状に伸びたエネルギーが終息したところで、ルイージは肩で息をしながら、女性が立っているであろう場所を振り返った。パワードスーツ越しであっても、女性と目が合ったと感じられれば、無意識に微笑が零れる。大幅に体力を消耗したことで、たどたどしい足取りはなってしまうものの、敬意を示すべく、そして今度こそ謝意を述べるべく、佇んでいる女性の元へ歩み寄った。彼女に向けて、手を差し出す。
「助けてくれて、有難う。それから───背中を押してくれて、有難う。まだ見ぬ‶英雄〟。」
女性は予想外の待遇であったのか、暫し自分に向けて差し出された掌を見つめていたが、やがて自ら掌を伸ばし、掌同士を重ね合わせる。もう一度ルイージを見る頃には、緊迫していたであろう目尻も緩んでいたように思えた。
「お前こそ、立派な‶英雄〟だったじゃないか。絶対にやってくれると信じていたよ。」
「……!俺も、‶英雄〟……?」
「嗚呼、お前だって‶英雄〟さ!俺たちが太鼓判を押す!そうだろ、お嬢さん?」
「…兄さん!」
気付けば、女性の傍らに、何時もと変わらない様子のマリオがはにかみながら佇んでいた。つい、涙腺が潤みそうになり、ギリギリのところで噛み殺す。共感を求められた女性の方も、何の躊躇いもなくマリオの言葉に頷いた。二人に真向から肯定されてしまっては、目のやり場にも気持ちのやり場にも、困ってしまうではないか。視線を泳がせ次の言葉を探そうとしている内に、マリオはルイージに歩み寄り、その肩を思い切り抱きながらわしゃわしゃと頭を撫で回した。予期せぬ行動には対応しきれないのがお決まりで、ルイージはされるがまま、それでも満更でも無さそうな表情を浮かべている。
「に、兄さん!急に何だよ、…ッおい、くすぐったいって!」
「別に良いだろ~~?自慢の弟の大活躍と成長を目の前で見られて、俺は大・大・大・大・大感激なんだぁぁぁ…!!」
「声がデカいっての!さっきの人も見てるんだぞ!恥ずかしいって…!!」
そう言って女性の方へ目配せするも、女性は目を細め、眺めているだけだ。助けの求めようが無い。口を開いたかと思えば、何故だか肯定的な言葉を投げ掛けて来る。
「良いじゃないか。兄弟の時間は大切にした方が良い。」
「だよな!?お嬢さん分かってる~~!」
「嗚呼、もう!!これじゃあ何時まで経っても真面目な話が出来ないだろ~~~!!!」
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・
数分間の戯れ合いを経て、やっとマリオはルイージから離れ、見知らぬ女性との情報交換へと移行した。
「初めまして。先ずは俺たちを救ってくれて有難う!俺はマリオ!で、こっちが弟の───」
「ルイージだ。本当に、助かった。有難う。…それで、お前は?」
「…サムス・アラン。『サムス』で良い。」
女性──サムスは、改めて、マリオとも握手を交わす。互いが、互いの顔と名前を一致させ終えたものの、まだ共有しなければならない情報は山ほどある。マリオはオーバーオールのポケットから手紙を取り出し、サムスへ差し出しながら新しい問いを設ける。
「それで、だな。サムス。出会って早々質問ばかりで悪いんだが…、お前も手紙に呼ばれて此処に来たのか?」
差し出された手紙を、サムスが受け取ることは無い。ただ、一目見ただけでそれが何を意味するものなのか理解出来ていることが、兄弟にはすぐに感じ取れた。彼女は特に、マリオの質問に嫌悪感を見せることなく簡潔な答えを提示する。
「嗚呼、そうだ。私もお前たち同様、手紙に招集されて此処に来た。差出人の名前は、マスターハンド。居住世界でも、依頼でも聞いたことの無い名前に伴う不信感を払拭する目的で探索していたところ、お前たちが迷う込んで来るところを見掛けたんだ。実は、その時からお前たちを追跡していた。」
「何だって!?!?!?じゃあ、最初から俺たちの跡着けてたってことかよ!?全然気付かなかったぞ!!!なあ、ルイージ?」
「嗚呼、俺も全く気付かなかった…。凄いな、サムスは隠密行動に慣れているのか?」
サムスの言葉には流石に驚愕を隠し切れず、目を見開きながら思いの丈を本人に投げかける。特に深く感心している様子のルイージが目に着けば、サムスは照れ臭そうに視線を逸らした。余り、賛美の声には慣れていない様子である。
「……職業柄、慣れているだけに過ぎない。」
「でも、そんなサムスのお陰で俺たちはあの変なホログラムの餌食にならずに済んだんだ。本当に、感謝しているよ。」
再三伝えられた感謝に、サムスは首を横に振る。余程、羞恥心の方が敏感に働いてしまって、慣れない感覚に少々戸惑いを覚えているのかもしれない。それでも居心地は悪くない様で、積極的に会話を続ける姿勢がはっきりと伝わった。
「あれは私一人の力では無いだろう?ルイージが作戦を滞りなく実行に移してくれたお陰で突破出来た窮地に過ぎない。だが、お前たちの助けになれたのなら良かった。」
「…そうだ、サムス。これはお前が良ければの話なんだけどさ。折角巡り会えた上、目的が一緒なんだ。マスターハンド探し、協力して続けないか?」
マリオの提案に、サムスはまたしても驚いたような表情を浮かべる。自分に誘いが来ている実感が湧かず、彼の言葉を思わず繰り返す。
「……私も、二人と一緒に?協力して?」
「そう!悪くない提案だろ?どうだ?」
サムスは、すぐに是を示す前に思考を挟んだ。
自分は確かに、「招待状」を受け取った「レギュラー」だ。そして、目の前に立つ二人も恐らく例外では無い。マリオが口にした通り、自分たちの目的は全く同じ指標の上にあり、協力関係を結べば、より円滑かつ効率的な作戦プランを展開することも非現実的とは言い難くなる。二人の戦闘技術だって、申し分ない。サムス自身、味方が増えれば助かる部分が多い。…だが、その一方で。
自分の中の懸念点については、現状、二人に明かすことが出来そうにない。これは推論に過ぎないが、サムスから見た二人はこの捜索行動を純粋な冒険として楽しんでいるからだ。そんな二人に、それも出会って間もない自分が。浮かびかけた言葉を呑み込み、別の言葉へと変換する。
「…構わない。私も同行しよう。」
「仲間」になると言及しないのは、いささか卑怯だろうか?二人の様子を瞬時に窺うが、特に何も気にしていないように見え、ほっと胸を撫で下ろす。
可能な限り、穏便に。誰の不利益にもならないように。今のサムスが願うことは、ただそれだけであった。