夜廻・暁   作:生焼け肉G

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続きました

やったね

間隔すごい空いちゃった…


おうまがどき

 

短くて永い 夜のはじまり

 

──────────────────────────

その日は、朝からなんとなく、嫌な日だった。

 

お気に入りのお茶碗を落として真っ二つに割ってしまったり。

たまたま巣が近くに有りでもしたのか、凄まじい剣幕のカラスの襲撃を受けたり。

何も無いはずの場所で、何かに足を引っ掛けて転び、鼻の頭を擦り剥いてしまったり…。

 

元からあなたは、自分は別にそれほど幸運な方では無いとは思っている。が、それにしても今日は厄日とすら言えるほど特に酷いものだった。

 

日が落ち始め、青黒い、夜の色に染まり始めた空とカラス達があなた達を見下ろす夕暮れの帰り道。

あなたは夕日に背を照らされ、げんなりとした表情で今日の不幸な出来事の数々について、ことりと話しながら下校していた。

 

『左スティックで移動します。』

 

鼻に絆創膏を貼り付け、如何にもしょぼくれた雰囲気を出しているあなたの小さな背中をポンポンと優しく叩きながら、彼女は苦笑いし、

 

「塞翁が馬、なんて言う言葉もあるし、明日はきっと良いことがあるよ。」

 

なんて言う。

微妙に納得のいっていない様子のあなたは、そういうものかなぁ、と溜め息をついて。

ふと、いくらか前方の道路の真ん中に、キラリと何かが光ったのが見えた。

 

『Rボタンを押しながら移動で、ダッシュします。』

 

眩い夕日を反射してねずみ色のアスファルトの上で、キラリ、キラリと輝く何か。

行動の節々が子供らしい、などと言われるあなただが、流石に路上に落ちている物に気を引かれて拾いに行く、なんて事は普段からする訳では無い。

しかし、あなたはそれがどうにも気になって、気付けば駆け出していた。

 

「!待って、急に走ったら危ないよ!」

 

『アクションが行える物の近くでは、☆が表示されます。』

 

『◯ボタンでアクション/拾う』

 

右手で拾い上げたそれは、黒曜石のような滑らかに磨き上げられた石で作られた、手のひらに乗る程度の大きさの、鋭く尖った、細い杭のようなものだった。

 

『いしのくい』

 

『かえりみちでひろった

 まっくろできれいないしのくい

 ちいさいけれどとってもするどい

 うっかりけがをしちゃいそう

 …どこかでみたことあったっけ』

 

石の杭を拾い上げ、手のひらの上のそれをしげしげと眺めるあなた。飾りっ気の一つもない、ただただ鋭い釘のようなそれに魅入るあなたの後ろで、突然置いていかれ、慌てて追ってきたことりが文句を言おうとして…。

──普段の飄々とした、余裕のあるそれとはかけ離れた、緊迫感と僅かな恐怖を感じさせる声色であなたに叫ぶ。

 

「それを早く投げ捨てて!どこでも良いっ!どこか遠くに!」

 

『△ボタンを押してアイテムを選択』

 

『□ボタンでアイテムを使用』

 

明らかに異常を感じさせる親友の声を耳にしたあなたは、手のひらのそれを手放す事を僅かに惜しみながらも、思い切り振りかぶって投げ飛ばす。

黒く輝くそれががさり、と音を立てて離れた茂みへと落ちて、背後で親友の息を呑む音が聞こえる。

 

草葉の立てるがさがさ、という音が止み、カラスの鳴き声までもがいつの間にか消えて、ぞっとする程の静けさと沈みかけの真紅の陽光、そして辺りに立ち込め始めた夜闇だけがあなた達を取り囲んでいる。

 

…二秒、三秒…、息を止めて身構えて、何かが起きる様子は…無い。

ふうっ、と息を吐き、緊張感から解き放たれたあなたは、ことりの方へと振り向こうとして

 

「ツ か マ エ た ぁ」

 

ノイズの混ざった、悦に浸るような声が、あなたとことりの背後から響いた。

 

振り向けない。それを見るべきでは無い。そう、あなた達の生存本能が告げる。

 

ナニカが、とてつもなく強く、嫌な気配を放つナニカがあなたたちの後ろに、居る。

男か女か、老人か子どもか。そのどれの判別も付かない声だが、ただ一つ、この声の主が恐ろしい、良くないものだという事だけは、その姿を見るまでも無く二人ともはっきりと認識できた。

 

あなたの首元の青いお守りが、燃えているかのように熱い。

 

背筋が凍る。というのはこういうことをいうのかな、と逃避地味た事を頭の隅で考え始めたあなたの手をことりが引き、あなたが少し引っ張られる形で、二人は夕暮れの街に全速力で逃げ出した。

 

──────────────────────────

 

ことり

 

物憂げな雰囲気を感じさせる緑髪の少女

主人公の親友であり、

去年この街へ母親と共にと引っ越してきた。

オバケへの対応が妙に手慣れているが、

本人曰く「前の町にもたくさん居た」とのこと。

幼い妹がいるらしく、

時折懐かしげにどこか遠くの方を見ている。

 

──────────────────────────

 

太陽はどんどんと山際に落ちていき、夜に飲み込まれていく街の中、少し混乱の色が見えるマユの手を引き、未だに私たちは走っていた。

 

何か有効な手段は無いかと石を投げ、塩を撒き、取っておきの藁人形までも使った。なんとか撒けないかと複雑な路地裏も走り回り、可能な限り混乱させるように走った。

それでも、一向に距離が離せない。

 

「ニ お ウ  に お ウ」

 

…なんとなく、そんな気はしていた。追ってきているアレが放つ気配や害意は、そこら中に現れるオバケなんかとは余りにも違う。それこそ、お母さんと入ってしまったあの森で見たアレに近い、言うなればカミサマとすら呼べるほどの強い力を持つものだ。

撃退するのはおろか、逃げ切れるかどうかも怪しい。

 

「はっ…はっ…」

 

マユの体力は限界が近く、その上、もうすぐにも夜が来る。夜になれば、後ろのアレが追跡を終えるなんて事は無いだろう。

そうなれば、オバケたちを避けながら、疲れ果てたマユの手を引いて夜の真っ暗な街を逃げ回る事になるだろう。

───無理だ。

 

(どうする、どうする、どうする…)

 

酸欠で考えのまとまらない脳みそで私は必死に考える。

 

マユを置いていく?

…おそらく、一番合理的なのはこの手段だろう。

アレの目的はおそらくマユだ。アレと同じ、嫌な気配を放っていた物にマユが触れてしまったのと同時にアレが現れて追いかけてきた事、そして何となくだけれど、アレは今現在も私よりもマユの方を注視している様に感じる事からそれは推測できた。だからマユを置いていけば、少なくとも時間は稼げる。

 

…でも、そんなのは嫌だ。

体力が尽きかけのマユはきっとすぐに捕まって、どうなるかは知らないが…きっと、ひどい目に遭うだろう。

それで、私一人が逃げ切れたとしても一生後悔するはず。

そもそもマユは私の友達だ。あんなカミサマ崩れなんかに渡すつもりは最初から無い。

 

…それに、そんな事をしてしまえば。きっと私はもう二度と、ユズに、妹に、お姉ちゃんとして顔向けできない。

 

ここまで考えれば、私にできる事は一つだけだった。

 

マユの手に、お守りの鈴を握り込ませて、道端の茂みへと放り込む。

 

「周りからなんの気配もしなくなるまで、目を瞑って息を殺してて。この鈴はお守り、絶対に大丈夫だから!」

 

そうまくし立てて立ち去ろうとした私の袖に、弱々しく伸ばされたマユの手が触れる。

 

てをとる? 

      はい  →いいえ

 

…時間も、これ以上の手段も無い。これが最良だった。そう自分に言い聞かせ、追ってきているモノに向き直り、その姿を正面から直視する。

 

「まって…おねがい…」

 

「ゲホッ…ゴホっゴホ…ほら!こっちに丸腰の女の子がいるよ!」

 

「ミた?ミたみタミたミたみタミたミタ」

 

それの姿を視認した瞬間、身体中を病気に蝕まれている時のような鈍い痛みと、息苦しさが貫く。

この突然の苦しさは目の前のカミサマ由来の呪いか何かで間違いないだろう。視認しただけでペナルティとは、ずいぶん不公平な鬼ごっこだ。

僅かに頭によぎった後悔を振り切って挑発し、再び背を向けて走りだす。

 

「ヒ、ひ、ひヒひひヒひヒヒひ」

 

楽しそうに嗤うその声は、確かに私の後を追ってきている。

獲物はちっぽけな子ども、それも身体を呪いの毒に蝕まれ、疲れ果てた状態のモノ。それはそれは楽で簡単な狩りだろう。

 

上等だとも。

私だってこんな所で、こんなモノに食われてやるつもりはさらさら無い。

マユに貸した鈴。明後日の休日にした遊びに行く約束。大きくなった妹と会ういつか。

沢山の心残りが、震えて倒れそうな身体に力を込め直す。

 

「おいていかないで…」

 

最後に、小さく聞こえたその声だけは、聴こえなかったフリをした。

 

──────────────────────────

 

カミサマ

 

かえりみちでわたしたちをとつぜん

おいかけてきたオバケ

すがたはみていないけど、

ふりむかないほうがいいきがする

 

 

 

…あなたはこのオバケをしっている。

おもいだせ。おもいだせ。おもいだせ。

 

 

──────────────────────────

 

…友人の足音が遠くへと消えていき、その後ろを追う恐ろしい気配も何処かへ消え、その更にしばらく後。

辺りはすっかり夜に沈み、出歩く者の気配もしない、時の止まったような静寂の中、あなたはとうとう、ごそごそと茂みから這い出した。

 

周りを見回しても、見えるのは街を覆い隠す夜闇と、その中を彷徨うオバケたちだけ。

…この夜の中を、あなたの手を引いて連れ帰ってくれる友人は居ない。

 

当然だ。

 

あなたが、彼女を巻き込んだのだから。

 

あなたのために、またひとりいなくなった。

 

視界が滲む。自己嫌悪、恐怖、絶望。様々な感情が混じり合って、瞼からぽろぽろと溢れ、零れ落ちていく。

頭を抱えて呻くあなたの足下で、何かがチリン、と小さく音を立てた。

 

「ことりちゃんの、すず…。」

 

拾い上げたそれは、彼女に渡されたお守りらしき鈴。

──そうだ、まだ、彼女が居なくなってしまったとは限らない。

アレに追い掛けられて、どこかに隠れているのか、それとも、逃げ切って家まで辿り着けたのかもしれない。

 

チリン、チリン、と小さな鈴の鳴らす音を聞く内に、あなたの心には、同じく小さく頼りない、けれど確かな希望が湧いてきていた。

 

…あなたは、周りに聞こえないよう、喉から出てこようとする啜り泣きを何とか抑え込み、くしゃくしゃの顔のまま、覚束ない歩調で進み始めた。

 

今は、家に、帰らなければいけない。

 

──────────────────────────

 

きれいなすず

 

ことりちゃんにわたされたすず

ふると、とてもきれいでやさしいおとがする。

でも、これをもってると

そらからなにかにみられてるような

かんじがする。

すこしふしぎで、すこしこわい。

 

──────────────────────────

 





続け、私のモチベーション。
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