殺して、青山。   作:armatum

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第十一話 USJ襲撃 /『whiSper loud .o˚ 』

 

 

 

 

 

 夢を見た。

 

 時間も場所もばらばらだったけれど、全部さみしそうにしているやつの夢だった。

 

 そいつはずっとひとりで高く高く積み木をして、むずかしいプラレールを組んで、暗い部屋でビデオゲームをしていた。

 

 だから、俺は毎回そいつに声をかけた。

 

 こちらに振り向きもしないそいつ、こちらをじっと見つめてからどこかへ行ってしまうそいつ、こちらに気がつき近寄ってくるそいつ。

 

 下から俺を見上げるそいつは――怒っているのか悲しんでいるのかわからない顔をしていた。

 

 そこで夢は終わった。

 

 

 藍色の部屋。がばりと起き上がると、Tシャツがぐしょぐしょに濡れていた。

 

 俺は洗面台へいって、水を含み、吐き出し、また含んで、今度は飲んだ。

 

 ふと水垢の付いた鏡を見ると、俺もそいつと同じような顔をしていた。

 

 

 *

 

 

 マスコミ侵入騒動から一夜明けての朝、クラスのみんなは少し緊張した面持ちで学校へやってきた。

 

 雄英高校で行方不明だった少女が保護された、というのはニュースになっていた。凄惨な事件の現場の様子も添えてである。

 

 テレビ番組は好き勝手に不安を煽った。番組の作り方はとても刺激的だった。

 

 センスの無いメガネをかけたコメンテーターなんかは訳知り顔で「雄英高校とオールマイトへの挑発でしょうな……今後は注意が必要ですよ」なんて話していたので、クラスのみんなの親御さんも随分心配してみんなに色々と言ったのだろうなと思った。

 

 ホームルームで相澤先生が「学校周辺は当分の間プロヒーローと警察が警戒に当たる……オールマイトもいるんだ、心配しすぎるなよ」とは言っていたが、それだけでクラスに漂う不安感を拭い去ることは出来なかった。

 

 だから、その日の授業はみんなどこか元気がなかった。

 芦戸なんかは逆にいつもよりやかましかったけど、彼女もワザとそうしているのは一目瞭然だった。

 

 そして午後、いよいよやってきたヒーロー基礎学、救助訓練。

 

 教室にやってきたのはオールマイト

 ――ではなく相澤先生だった。

 

「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、それからもうひとりの三人体制でみることになった。」

 

 ……増員か。

 

 俺はすぐにそのことを死柄木に伝えるため、事前に決めた周波数で、“個性”を使って簡単な信号を打電する。

 

『ヒ・ー・ロ・ー・フ・エ・タ』

『イ・レ・イ・ザ・ー』

 

 死柄木は今頃対応表とにらめっこしてメッセージを解読しているはずだ。

 ……いい加減、この信号をアイツもまるっと暗記してくれれば楽なんだけどなあ。

 俺がそう言うたびに毎回「いやだ」の一言で袖にされてしまう。

 

「先生! 今日はなにやるのっ?」

 

 そう聞いたのは芦戸だった。

 

「災害水難なんでもござれ、レスキュー訓練。」

 

 その言葉にクラスのみんなは「おぉ!」と少し元気を取り戻す。

 

 ヴィラン退治と救助活動。それは現代ヒーロー活動のふたつの柱。

 通常、ヒーローはこのどちらかを生業に専門性を高めていくケースが多い。

 どっちも万能にこなすヒーローなんて、オールマイトを始めとする一握りのトップヒーローくらいなもんだろう。

 おそらくこのクラスにも救助活動を志してヒーローを目指している人が沢山いるはず。

 

 だからこの救助訓練は、人によっては戦闘訓練よりも、むしろ本番。

 仮にそうでなくとも「誰かを助ける」ことに興味を示さないヒーロー志望なんて居ない。やる気が出ないわけが無かった。

 ……ただひとり「けっ、今日は暴れられねぇのか」みたいな顔をして肘をついてる爆豪くんを除いて。

 

 ……爆豪くん、ウチに来ない?

 今なら、死柄木弔の小間使いの小間使いのポストが空いてるぜ。

 

 相澤先生はリモコンを使ってコスチュームの収納を展開する。

 

「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には活動を限定するコスチュームも有るだろうからな。訓練場まではバスで移動するから、着替えが終わったら校舎裏に集合だ。」

 

「それと……そろそろしみったれた空気は終わりだお前ら。」

 

「オールマイトのようになれとは言わん。けどな、不安がって暗い顔すんのはヒーロー失格だ。芦戸みたく空元気でも良い……他人に見せるための顔をしろよ。」

 

「――以上、準備開始。」

 

 相澤先生が教室から出ていった。

 

 みんなは席を立ち、それぞれ準備に取りかかる。

 相澤先生の言葉を受けてもみんなの顔はまだ固い。けど、それは護られる側の、怯えた高校生のそれではなくなっていた。例えるなら、そうだな。

 ……新米ヒーロー。

 

 切島くんが「どうだ? 漢らしさ出てるか!?」なんて言いながら、上鳴くんに頼んで自分の表情チェックを始める。

 

 名指しで誉められた芦戸はといえば、わかりやすいくらいにやる気に満ちていた。

 彼女はふんすと鼻息荒くして、ずんずんとコスチュームケースを取りに行く。

 

 それを見ていた俺と尾白くんは、顔を見合わせて笑った。

 

 死柄木から『ゾ・ツ・コ・ウ』という返事が届いたのはそんな時だった。

 

 

 *

 

 

 移動中のバスの車内はかなり愉快なことになった。

 蛙吹さんが「緑谷ちゃんの“個性”、オールマイトに似てる」と口火を切って、そこからクラスみんなの“個性”の話になったのだ。

 そしてなぜか、みんな事あるごとに爆豪くんをイジった。

 

 一番強烈だったのは上鳴くんの「クソを下水で煮込んだかのような性格」発言だろう。

 

 無論のこと爆豪くんはひとりひとり丁寧にキレ返し、その度にクラスの重たい雰囲気が爆散していった。

 ちなみに俺は爆笑しないように必死だった。芦戸はそんな俺の隣で好き放題爆笑していたけど。

 ……公然と不都合な事実を指摘するのは名誉毀損罪だ、みんな。

 

 見かねた相澤先生が「もう着くぞ! いい加減にしとけ、お前ら」と一喝するまで車内の盛り上がりは続いた。

 

 やがてバスが停車し、窓から見えたのは巨大なドーム型建造物。

 ……あれが救助訓練の舞台。

 

「みなさん! 待ってましたよ!」

 

 バスを降りた俺達A組を出迎えてくれたのは、もこもこのダウンと宇宙服を混ぜたみたいなコスチュームを着たヒーロー、13号先生だった。災害救助のスペシャリストとして有名なヒーローである。

 

「わーっ! 私好きなの、13号ッ!」

 

 麗日さんは、この13号の登場に大喜び。ぴょんぴょん飛び跳ねている。

 その身のこなしは少しフワフワと、心なしか普段より体重も軽そうだ。もちろん他意はない。

 

 きっと同じ重力仲間の13号が、彼女の憧れなんだろうな。

 

「それじゃあ、早速中へ。皆さんついてきてください。」

 

 13号にそう言われて、俺らは大きなドーム状の施設へ入る。

 

 大きな扉を抜けた先は、まるで別世界。

 

「――すっげぇ、USJかよ。」 

 

 思わず、といった感じでそうこぼす切島くん。

 

 ドームの中は区分けされた災害訓練用設備がいくつも並ぶ、まるでテーマパーク。

 よくよく見れば、遠くの方にはウォータースライダーっぽいのすらあった。実際、ここでみんなで遊んだらめっちゃ楽しそうだ。

 切島くんが言ったUSJという言葉も頷ける規模感の施設である。

 

 まぁ……俺、USJいったことないけど。パンフは前に見た。

 というか、なんなら普通の遊園地すらいったことない。それどころか、マトモに外出した思い出がない。

 

 やっぱり、あの大物気取りのミミズ頭は保護者失格だ。

 もちろん向こうからしたら俺なんて、子供が祭りで掬ってきた金魚くらいの存在なのは分かっている。きっと五百円のエサと七十円の水草は買ってあげるけど、高いエアーポンプは買いませんよ! 的な感じだ。

 

 あんなミミズ頭とそのドラ息子に飼われているおかげで、俺はUSJのスパイダーマンならぬ、USJのスパイなマンをさせられている。ふざけた話だった。

 とりあえず、あのミミズ頭はオールマイトにアメリカの州が足りなくなるくらいぶん殴られて、大気圏外までぶっ飛ばされればいいのに。

 

 俺がひとりで悶々と考えていると、13号先生はくるりとこちらに向き直って少し胸を張った。

 

「ここが水難事故、土砂災害、火災、暴風、エトセトラ……あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名も『ウソの・災害や・事故ルーム』!」

 

「略して――USJ!!」

 

 …………。

 

 それ、いいのか? 主に版権的に。

 みんなもそう考えているに違いない。

 俺だって、雄英側の書類に記載されたUSJの文字を見たときは目を疑ったもんだ。

 

 USJならプロヒーローとのタイアップも盛んだし、某夢の国よりは融通してくれそうなのは確かだけども。

 

 意気揚々と施設の紹介をする13号先生に相澤先生が足早に歩み寄る。

 

「13号、オールマイトは? ここで待ち合わせるはずだが。」

「先輩、それが……」

 

 13号はそう言うと声を抑えて相澤先生と内緒話を始めた。

 

 確かに……オールマイトがどこにも居ない。

 USJ内を「モニター」して探しても影一つ見当たらない。

 

 この授業はオールマイトのヒーロー基礎学。

 相澤先生と13号先生はあくまで補助教員だ。

 今日に限ってオールマイトの姿が見えないというのは 

 ……まずいな。

 

『マ・テ』

『イ・ナ・イ』

『オ・ー・ル・マ・イ・ト』

 

 俺は大慌てで死柄木に打電する。

 ……さて、どうしたものか。

 

「えーっ、始める前にお小言をひとつ、ふたつ、みっつ……みっつ、よっつ、いつつ……」

 

 オールマイトについてのお話かと思えば、どうやら13号先生は相澤先生以上のお小言マシンらしい。頭の中から、ぽこぽことお小言が溢れだしている様子。

 なんか、全然吸い込めていない。もしかするとブラックホールなんて学者の嘘っぱちかもしれない。

 

「――ボクの“個性”は『ブラックホール』。どんなものでも吸い込んで塵にしてしまいます。」

「その“個性”でどんな災害からも人を救い上げるんですよねっ!」

 

 麗日さんが13号先生へ尊敬の眼差しを向けながらキツツキみたいなスピードで頷いている傍らで、ヒーローオタクな緑谷くんがそう13号先生へ言った。

 

「――しかし、簡単に人を殺せるチカラです。」

 

 その言葉に、みんなはハッとする。

 ハッとしてしまう。

 それは俺からすれば……あまりに今更な話だった。

 

「……みんなの中にもそういう“個性”がいるでしょう? 超人社会は“個性”の使用を資格制にし、厳しく規制することで、一見成り立っているようには見えます。」

 

「しかし、一歩間違えば容易に人を殺せる行き過ぎた“個性”を個々が持っていることを忘れないでください。」

 

「みなさんは相澤さんの体力テストで自身のチカラの可能性を知り、オールマイトの対人戦闘訓練でそれを人に向けることの危うさを体験したかと思います。」

 

「この授業では心機一転! “個性”を人命のために活用する方法について学んでいきます。」

 

「キミたちのチカラは人を傷つけるためにあるのではない、助けるためにあるのだと、心得て帰ってくださいな。」

 

「――以上、ご清聴ありがとうございました。」

 

 A組のみんなは13号先生へ大きな拍手と歓声を送った。

 確かにヒーローらしい、立派な信念だと思う。

 

 ――でも、“個性”が無くたって人は殺せる。

 

「さあ、救助現場に無駄にしていい時間はありません。早速訓練を始めましょうか!」

 

 13号先生は「ついてきてください。今日は二本立てですよ~!」なんて言いながら、USJの真ん中の広場に繋がる、長い長い階段を降りていく。

 みんなは張り切ってそれに続いた。

 

「なあ、芦戸。ヒーロー基礎学なのに、結局今日はオールマイト来ないのかな?」 

「んーっ、確かに。」

 

 芦戸は顎に手をやって首をかしげる。それから両手を口に添えて息を吸った。大声の構え。

 

「相澤センセー! 今日って――」

「オールマイトって来ないんですかっ!?」

 

 俺は、芦戸を遮って声を張った。

 相澤先生はちょっとダルそうに、顔だけでこちらに振り向いて言った。

 

「……あの人は野暮用でな、まあ、終わりがけに顔くらいは出すだろう。」

 

 相澤先生はそのまま「13号さえいれば問題ないよ」と言って階段を降りていく。

 

「なーんか、ちょっと残念かも。13号先生もいいけど、やっぱオールマイトだよなあー。」

 

 芦戸は唇を尖らせて小さくぶーたれる。クラスのみんなもどこか残念そうにしているように見えた。

 

「ま、しょうがないよ。オールマイトの救助方法真似するのなんて、誰にもできっこないし。」

「……ワンチャン、緑谷ならできそうじゃない? ――ねっ、緑谷!」

「えッ! あーいやっ、その、芦戸さんっ、ぼぼぼ、僕は――」

 

 いたずらっぽく笑って緑谷くんへにじり寄る芦戸。

 赤面してアワアワする緑谷くん。

 その様子をみて、アハハと笑うクラスのみんな。

 

 それを眺めながら俺はひとり、“個性”を使う。

 

『ア・イ・ズ・ス・ル』

 

 

 *

 

 

「ねーえ!! めっちゃ、イタいよおおおお!! イタいよおおおおおおっ!!」

 

 深い谷底にぐわんぐわん跳ね返る、芦戸の迫真の演技。

 

 いまは山岳救助訓練の真っ最中。谷へ滑落した設定の芦戸と砂藤、それから俺。

 要救助者役に選ばれた三名である。俺達は最大限に要救助者として助けを求め、我らがA組の小さなヒーローたちに救助される、というのがこの訓練のあらましである。

 

 俺も負けじと声を張った。

 

「足がもげたーッ! 腕もーッ! ――あっ、鼻もだー!!」

「……青山、バイオレンスすぎ。」

 

 こちらをジト目で見ながらドン引きする芦戸。

 

「そういうこともあるでしょ?」

「な・い・よぉ! 崖から落ちるだけで、なんでバラバラ死体になっちゃうわけっ!?」

「……カルシウムが足りなかった。」

 

 芦戸が呆れ顔でため息をつき、気絶している役の砂藤は寝転んだまま器用にバカウケしている。

 前から思っていたけど、砂藤は全然ひねらない安直なのがツボらしい。……面白いか? コレ。

 

「ダイじょぉぉぉ――――ぶですかッ!!!」

「お怪我はありませんかッ!! いま行きますッ!! もう安心ですよぉ!!」

 

 谷の上から俺達に向かって叫ぶ飯田くん。

 ……彼が役作りでは優勝だな、こりゃ。

 

 上からゆっくりと緑谷くんがロープを使って降りてくる。

 彼が先遣隊で、タンカーはその後だ。右手には轟くんが作ったであろう氷嚢が握られている。

 

「みなさんっ! 怪我の具合を教えて下さい!」

「砂藤が頭を打って気を失ってる。あーっと、それで、僕と芦戸は手足を痛めた。たぶん折れてる。」

「わっかり、ましたぁ!」

 

 谷底に降り立った緑谷くん。

 

 

「――もう大丈夫。僕が、来たからっ!」

 

 彼は俺達の方に笑いかけて、そう言った。

 

 

 *

 

 

「いやーホントすまない! 急用でね。」

 

 俺達A組は山岳救助訓練に加えて、さらに震災対策の倒壊ビルからの救助訓練を終え、USJ入口付近で最後の講評を行っていた。

 そこに申し訳無さ全開で現れたのがオールマイト。相澤先生の視線に怯えながらみんなの前へ立ったスーパーヒーローは、珍しくスーツを着ていた。

 

「おほんっ! さて、私からの講評だが……今日は君らの訓練の様子を見られたワケじゃないので、先生からは救助現場で最も大切な心構えを伝えよう。それは――」

 

 ――プロヒーロー三人が、一斉に後ろを振り向く。

  

 はるか向こう、USJセントラル広場の噴水前。

 そこにはスプレーで塗りつぶしたかのような、うごめく黒いモヤ。

 

 真っ黒なヴィラン衣装に無数の「手」を絡ませた若い男がそこから姿を現す。

 

 ――ゆっくりと両手を握り込んだ。

 それだけで半径一キロの電磁波が全て俺の手のひらの上。

 雄英高校のセキュリティーシステムが必死に発信していた電波は、もうどこにも届かなくなる。

 

「……Holy shitだぜッ。」

「お前らひと塊になって動くな!!」

 

 ジャケットを脱ぎ捨てたオールマイト。

 そのままじっと彼方をにらみ、拳を固く握り込む。

 そして、ゴーグルをかけた相澤先生。

 振り向いて俺達へ叫んだその顔には、焦燥が浮かんでいた。

 

「なんだ、ありゃ? ……また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」

「――動くなッ!」

 

「アレは……ヴィランだ!」

 

 黒霧のワープゲートからぞろぞろと出てくる死柄木の兵隊。そいつらは遠目でも分かるくらい滾っていた。あの廃工場での高ぶりをそのままに、ヴィラン連合が学び舎を、雄英高校を侵していく。

 

 初めて目にする本物の悪意に、息を詰まらせ怯えるみんな。

 急ごしらえの小さなヒーローとしての矜持は、とても簡単に揺らいだ。

 

 最後、ぬるりとゲートの中から姿を表したのは真っ黒な怪人、脳無。

 その筋骨隆々の肉体に、ドクターがどれだけの悪意を詰め込んだのかは想像もしたくない。

 そしてその怪人は――

 

 『シ・ヌ・ナ・ヨ』

 

 

 まばたきの合間に目の前までぶっ飛んできた。

 

 ――ッ!!!!

 

 世界がスローに変わる。生存本能が一秒を何百等分もして、意識に捉える十数メートル前方の脳無。空を切って。音を追い越して。空中で四肢をバタバタとなびかせて。その頭はそっぽを向いて、左目だけが俺から離れない。アレは死体だ。脳無が両の拳を握る。その電柱ほどはある黒い前腕。アレで俺を殴る? あとコンマ数秒で接触。既に回避は叶わない。俺は脳味噌をフル回転させる。すべての太陽光線の矛先を脳幹に定める。間に合わなきゃ死ぬ。あ、でも、アレの運動エネルギーはどうにもならない。アレの脳を焼いたって、俺は潰れて。あっ死ぬ。 

 

 

「――SMASHッ!!」

 

 拳が、脳無の顔面に突き刺さる。

 目の前には、大きな背中。

 ――オールマイト。

 

 

 次の瞬間、俺は衝撃波に吹き飛ばされた。

 その音を認識する前に、鼓膜が駄目になる。

 床を転がりながら耳鳴りが止まらない。

 

 なんとか顔を上げれば、土埃の中で拳を振り抜いてピタリと静止したオールマイト。

 そしてなぜか後方へ吹き飛んでいく脳無。

 

「私の前で……なにか、出来ると思っているのか?」

 

「なあ――ヴィラン共ッ!!」

 

 その気迫に全身が総毛立つ。

 

 間髪を入れずに飛び出していくオールマイト。あっという間にその背中が小さくなる。

 オールマイトは空中で追いついて、思いっきり脳無を殴りつける。

 脳無は吹っ飛んで、着弾し、地割れの中に埋まった。

 オールマイトは空を蹴ってそれを猛追する。 

 

 

 

「――ああ、出来るさ。」

 

 それはよく聞いた声。

 おどけたような、死柄木の声。

 

 鳴る、五度の銃声。

 

 ゆっくりと相澤先生と13号が倒れ込む。

 ふたりが地に伏せた音が、不思議とよく響く。

 じわりと広がる真っ赤なシミ。

 

「――ッ、イヤああああああああッ!!」

 

 麗日さんの縋るような金切り声。

 みんな固まったままで、誰ひとり動けない。

 

 ワープゲートからゆっくりと現れた死柄木。

 フラフラとみんなの真ん中に降り立つ。

 ほそい右手には、白煙を曳いた黒い拳銃。

 その顔は楽しそうに歪んでいた。

 

「イヒ、ヒヒャ――ハハハハハッ!」

 

「何が、イレイザーヘッド!? 何が13号!?」

 

「なあ――簡単だなッ!!」

 

 死柄木は血走った目で腹を抱えて笑う。この場の全てをあざ笑う。

 そして一頻り大笑いしたあと、俺を横目で見てニヤリと笑った。

 

「――黒霧ィッ!!」

 

 俺達を包みこんだ真っ黒いモヤ。

 吹雪にも似たそれは、一切の光を奪う。

 1年A組は、その全てを闇に呑み込まれていく。

 

 

 

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