殺して、青山。   作:armatum

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第十三話『ピースサイン』

 

 

 水面にプカプカと浮かぶ気絶したヴィラン。それから峰田くんの“個性”である紫色のもぎもぎ。

 

 現在、俺はそれに当たらないように慎重に、水難ゾーンを泳いで渡っている。

 息継ぎの度にカルキに混じって鉄臭い味がした。それを無視して黙々と目指すはUSJの正面出口付近――俺が脳無に殺されかけてしまったあの場所である。

 

 正面出口付近からは断続的に土煙が上がり衝撃音が鳴り響いていた。さっきから戦況は“個性”で把握しているけれど、クラスのみんなが次々にヴィランを撃破してしまう中で唯一、そこでオールマイトと脳無が一進一退の攻防を続けていた。

 

 正面出口付近の様子を「モニター」しながらしばらく泳ぎ続けると、対岸に人影が見えた。その人影は全部で三人。

 

 切島くん、蛙吹さん、それから峰田くん。

 

 しぶきを上げてバタフライしていた俺に、はじめは三人とも身構えていた。切島くんがふたりを庇うように前へ出て――ふっと顔を緩める。

 

「大丈夫だったか!? 青山っ!」 

「青山ちゃん!」

 

 どうやら俺だということに気がついてくれたみたいだ。ふたりは本当に嬉しそうな顔をしてくれていた。峰田くんだけは頭のもぎもぎに手をかけたまま、ハァハァと荒く呼吸をして、ちょっと泣きそうにも見えたけれど、まあこんな状況では無理もないなと思う。

 

「よいっ――しょっと。」

 

 ざばり、俺は岸べりを引っ掴んで陸地へ上がる。顔を拭って、長い髪をかき上げ、左右に撫で付けた。

 ちらりとコスチュームを見れば血のシミは完全には落ちていなかったけど、ちょうど激戦の後くらいの汚れ具合にはなっていた。

 

「なんとか無事みたいだね、お互い。」

「ああ! ――ま、俺と峰田は爆豪がいなきゃヤバかったけどな。」

 

 爆豪くんだって? 爆豪くんはさっきまで土砂ゾーンで暴れていたはず。今だって緑谷くんや爆豪くんと一緒に土砂ゾーンでへばっている。……どういうことだ?

 

「爆豪くんは?」

「あーっ、それがな、爆豪あいつ、あっという間にここのヴィランをのしちまった後に向こうの土砂ゾーンからすっげー音と、砂煙が上がってんの見てさ――」

「アイツ『あのナードじゃ何にも出来ねぇ』って言ってオイラたちのこと置いて行っちまったんだよぉ! オイラのほうが何も出来ねぇってのによ~!」

 

 切島くんは「そんなことねぇし、俺が残ってんだろ?」と峰田くんに笑いかけ、蛙吹さんは「大丈夫、いまは私もいるわ」と峰田くんに声をかけた。

 

 なるほど……緑谷くんの救援に。

 仲が悪いふたりが共闘してるのを見て不思議に思ってたけど、やっぱり爆豪くんも腹の底の部分ではヒーロー志望だな。

 

 そんな風に考えていると、俺の顔を蛙吹さんが下からじっと伺っている事に気がついた。

 

「私は火災ゾーンを他のみんなに任せてこっちへ来たけれど、青山ちゃん、今までどこに居たの?」

 

 俺はちょっと顔をしかめて、クイッと後ろのウォータースライダーを指差す。

 

「あの上だよ。気がついたらあの上に転がってて、ヴィランに囲まれててさ。」

「お前っ、一人で戦ってたのかよ青山ぁっ!」

「それは、大変だったわね、青山ちゃん。」

 

 上着の裾を固く絞る。少しえんじ色に濁った水がボタボタと滴って、足元に小さな水たまりが出来た。

 

「いや、実は逃げてきた。……僕の“個性”、同時に『ブラインド』かけられる数は集中力次第なんだ。なんとか何人かは倒したんだけど、その後でボッコボコにやられちゃってさ。流石にヤバそうだったから、“個性”で作った隙に逃げてきた。」

「え――ってことはぁ!?」

 

 ぶわっと涙を流す峰田くん。その声も身体もぷるぷると震えていた。

 

「ごめん。一応は撒いたはずだけど、来るかも、ヴィラン。」

「うわあああああ!! オイラに近づくなぁ~!!」

「言い過ぎよ、峰田ちゃん。」

 

 わんわん泣きながら後ずさる峰田くん。なんだか小さい子みたいだ。

 余程、怖い思いをしたみたいで、ちょっと申し訳なくなってきた。ヴィランが来るかもなんて嘘八百なのに。

 

 切島くんは“個性”を発動し、がちんがちんと硬い拳を合わせる。

 

「いいぜ、何人来ようがここなら俺がぶっ倒す。――俺のダチはやらせねえ!」

 

 切島くんだって疲れているだろうに、怖くないはずがないだろうに、彼は好戦的に笑う。

 蛙吹さんは言葉はなかったけれど、まん丸な目でじっと水難ゾーンの方を睨む。そのツンとした横顔がなんだかとても頼もしかった。

 

 ……だから、俺はそんな彼らに甘えることにした。

 

「あのさ、頼みがあるんだ。」

「ケロッ?」

 

 蛙吹さんがこちらに向き直って、まん丸な目を見開いて小さく首を傾げた。

 

「僕を入口に――オールマイトのところへ行かせて欲しい。」

「はあ~!? 危ねえって青山っ!」

 

 いつの間にか涙を止めた峰田くんが俺に向かってぴょんぴょんと飛び跳ねて「お前がいれば、目眩まししてさ! ヴィランが来ても負けねーじゃんか!」と続ける。……器用だな峰田くん。

 

「……お前も、助けに行くのか。」

「うん。――オールマイトに助けてもらえなければ、僕はさっき死んでた。……あの黒いのは、ヤバイよ。ずっと、嫌な胸騒ぎがするんだ。」

 

「だから――今度は、僕が助けたいんだ。」

 

 俺は切島くんの目を見てそう言い切る。

 切島くんは一瞬目を閉じて身じろぎし、真っ直ぐに俺のことを見つめ返した。

 

「なら――行って来い!」

「本当に……気をつけてね、青山ちゃん。」

 

「……ああ、ありがとう。」

 

「切島くん、蛙吹さん、峰田くん――ここは任せる!」

「――おうよ!!」

 

 尚も俺のことを引き止めようとする峰田くんに「ごめんね」のジェスチャーをして、俺は入口に繋がる階段へ走った。我ながら主演男優賞ものの怪演だ。

 

 ……彼らに沢山嘘をついたことに、心残りがないと言えばそれも嘘になる。けど、オールマイトを助けたいってのは、まるっきり嘘じゃない。

 オールマイトに命を救われたのは事実だし、ここで万が一オールマイトが死ねば先生の対抗馬が居なくなる。それに、あの脳無だって俺と死柄木に必要な駒のひとつで、失うわけにはいかない。

 

 土砂ゾーンで暴れていた死柄木は既に撤退した。きっと、脳無が今暴れてるのは死柄木の「オールマイトを殺せ」って命令に愚直に従っているだけのこと。もうオールマイトの底だって見えた。だから、何か意味があってオールマイトと脳無が戦い続けているわけじゃない。

 

 黒霧がオールマイトと脳無から少し離れたところに居て、恐らくは脳無を格納しようとしてるけど、オールマイトと脳無のマッハの乱打戦に手出しが出来ないでいる。

 

 だから、俺が「ブラインド」であの両者の視界を奪う。

 ただ「ブラインド」を掛けるだけじゃダメだ。オールマイトに言い訳が立つタイミングで、機転の利かない黒霧が俺に合わせられるタイミングで、「ブラインド」を掛けることが出来なければ失敗する。

 

 それが「青山翠」としても「ミドリ」としても最善の選択。

 

 ……どっちが、とか難しく考えるのはやめた。

 これまでの人生で、自分で選んだことのあまりない俺には、向いてなかった。

 彼らは眩しくて、俺は割とどうしようもなくて。でもそのままでいい。

 友達と笑えるならひとまずそれでいい。

 ありのままを、ありのまま受け入れる。

 難しいことは、その時になったら考える。

 いま選ばなくてもいいなら、選ばなければ良い。

 それはひどく単純な話。

 

 つまりは、これまでの人生と同じだった。

 

 俺は階段を二段飛ばし、三段飛ばし。

 乱れる呼吸に無理を承知で、長いUSJの階段を駆け上がる。

 さあ、もう少しで頂上。そんなタイミング。

 

 一際大きな衝撃音。頭上で突風――視界の端に黒い影。

 それは俺の真上を一瞬で通り過ぎ、USJの天井を突き破って、空の彼方へ消えた。

 は……脳無?

 

 虚を突かれて固まっていた俺は、慌てて残りの階段を上る。

 そこにいたのは、ああやはり、オールマイト。

 真正面、大きな拳を天に突き出したまま、スーパーヒーローが土埃の中で白煙を立ち上らせながら荒く息をしていた。その胸元から腹にかけてはシャツが引き裂け、だらだらと血だらけ。歯を食いしばった口からも、幾つもの赤黒いスジを垂らしている。

 

 オールマイトが大きく呼吸する度、どんどんと白煙の量が増えていった。

 ――体温で汗と血が蒸発するほどの運動量。

 

 見れば相澤先生と13号先生は変わらずうつ伏せに倒れている。

 なら……脳無の「ショック吸収」を力押しで破ったとでも言うのか? 

 愚かしいまでに、その拳だけで打ち倒した?

 一切の打撃を無視し、一息で身体を再生させる無尽蔵の怪物を?

 

 どんな、でたらめだよ。

 

 俺は先生が滑稽なまでにオールマイトを恐れ、執着している理由を知った気がした。

 

「ハァ、ハァ――青山、少年か。」

「大丈夫ですか、オールマイト!」

 

 俺はちらりと黒霧を見る。黒霧は口惜しそうにぐっと頷くと、そのままゆっくりと黒い渦となって消えた。――早く行け、使えない奴ッ……と思ったけど、俺も今回は人のことは言えない。

 

「すまない、少年。……校舎から応援を、呼んできて欲しい。私にはまだッ、やることが、あるから。」

 

 オールマイトは膝に手をついて、ぜぇぜぇと肩で息をしながら、眼光だけは少しも翳ることなく俺の目を見た。

 深く窪んだ眼窩の奥底から、俺のことを明け透けに貫くオールマイトの碧い目。

 

「みんなが――私を、待っているッ。」

 

 うなずくことしか、出来なかった。

 彼の気迫に突き飛ばされるようにして、俺は走った。重たいドアをこじ開け、森を突っ切って。

 走って、走って、走って、青山翠が非常事態を知らせに行った。

 

 

 *

 

 

 ヴィランによる襲撃。その火急の知らせを受けた雄英高校教師陣は、校長を筆頭としてすぐさま事態の鎮圧に乗り出した。ミッドナイト、プレゼント・マイク、スナイプ、セメントスにブラドキング……他にも錚々たるベテランヒーローたちが、果敢にUSJへ突入しA組の生徒及び相澤先生と13号を保護。そして同時にヴィランの確保を行った。

 

 各エリアに散らばっていたA組生徒はプロヒーローによって保護された後にひとまず広場へ集められた。USJ内部の安全確保が完了したからだ。

 通報を受けた警官隊が雄英の敷地内全域の安全を確認するまで、一先ずUSJ内部に留まるとブラドキング先生は俺達に伝えた。十人以上のプロヒーローとオールマイトが集結したここUSJが、現状この雄英で最も安全な場所だから安心しろ、とも。

 

 ヴィランの襲撃という一大事を乗り越えたA組の面々には深い安堵の表情が浮かんでいた。俺は砂藤や芦戸と無事を祝いあった。全身をボロボロにした緑谷くんも、泣き腫らした目の峰田くんも、みんながみんなお互いの無事を喜んでいた。

 

 ただ一人、しきりに辺りを見回していた尾白くんを除いて。

 

 粉々になった広場の噴水の前にはA組の生徒と数名のヒーロー。ブラドキング先生に、ミッドナイト、それからプレゼント・マイク。

 校長先生をちょこんと肩に乗せたブラドキングが、先ほどから難しい顔をしながら生徒たちの人数を数えている。

 

「十七、十八、十九……まずいな、やはり一人足りない。」

「――ブラド先生! 葉隠です! 葉隠が、どこにもいないッ!」

 

 ボロボロの道着を着た尾白くんが、顔を真っ青にしてブラド先生へ叫んだ。

 朗らかな雰囲気すらあったA組の面々に、一気に緊張感が戻る。みんな「言われてみれば」という様子だった。

 

「この中に――誰か葉隠を見たものは居るか?」

 

 みんなは顔を見合わせる。結局、誰も彼女を見ていた者はいなかった。

 少なくとも、名乗り出はしなかった。

 

「――ひとつだけ、まだ生徒が保護されていないエリアが有るね。」

「倒壊ゾーン、ですか? 校長先生。しかしあそこはパワーローダーとセメントスが既に捜索を……」

 

 校長先生はその明晰な頭脳ですぐさま葉隠さんの居場所に当たりをつける。

 そして校長先生は真剣な顔をして、肩の上からブラドキング先生のことをじっと見て、少し含みを持たせた声色でこう言った。

 

「葉隠さんは、教員の呼びかけに答えられない状態なのかもしれない……例えば、パニックを起こしているとかね。」

 

 正確に校長先生の意図を理解したであろうブラドキング先生は、一瞬ちらと下をみて、目つきを鋭くして、ぐっと校長先生へ頷く。

 

「マイクは外にいるハウンドドッグを呼んできてくれ。ミッドナイトはこのまま生徒たちを。ブラドは私を連れて倒壊ゾーンへ。」

「――校長先生! 俺もつれて行って下さい!」

 

 ブラドキング先生の上に座る校長先生へ向かって、大きな声で立候補する尾白くん。

 隣にいた砂藤がちらりと俺の目を見て、俺と砂藤は頷き合った。

 

「……いいだろう。私達教員が呼びかけるより、きみたち友人の声が必要かもしれない。」

「――先生! 俺も行かせてくれ!」

「……僕も、いいですか。」

 

 尾白くんは俺と砂藤の顔を順々に見て、俺達三人は再び頷き合った。一緒にいた時間は短いけれど、そこには確かなつながりがあった。言葉を抜きにしても伝わるものがあった。それを感じた。

 

 そんな様子を見て、根津校長はぽんと白い手を合わせて言った。

 

「――さあ、友だちを救けにいこう。」

 

 

 *

 

 

 結論から言えば、葉隠さんはすぐに見つかった。彼女がいたのは半壊したビルの一階の隅、倒れた柱と壁の隙間。そこで息を潜めていた葉隠さんは、近くで繰り返し葉隠さんの名前を呼んでいた尾白くんの声に反応して、走って飛び出してきた。

 

 交互に空を泳ぐ手袋が、顔をぱっと明るくした尾白くんにぶつかって、その胸元に縋る。

 彼女は短く不安定な呼吸を繰り返して、尾白くんはそんな彼女にどうすればいいのか迷っていて。

 頬を緩ませた砂藤が、両手をつかって尾白くんへ向かって合図する。少しやりすぎなその合図が、そっと尾白くんの背を押した。

 

 尾白くんの無骨な手が、葉隠さんの背を優しくさすった。

 

「もう……大丈夫。絶対に大丈夫だ。」

 

 葉隠さんの呼吸は段々と定まって、それでも深くて大きな呼吸を繰り返す。

 言葉はまだ、出てこないみたいだった。

 

「先生たちもみんな来てくれたんだぜ! 尾白が葉隠が居ないって気づいてよ!」

 

 努めて明るく声をかけながら、砂藤が葉隠さんと尾白くんへ歩み寄る。

 だから俺もその後に続いて、じゃりじゃりとうるさい瓦礫を踏みつけて、葉隠さんへ歩み寄る。

 

「葉隠さん、無事で良かったよ。」

 

 俺が本心から伝えた、その言葉。

 

 ――葉隠さんがその身を強張らせる。

 尾白くんがふらついてしまうくらいに強く。

 そして叫ぼうとして、悲鳴が声にならない。

 

 彼女が今どんな顔をしているのか判らない。

 透明だからじゃない。

 

 ふっと力の抜けた彼女の手袋。

 するすると尾白くんの身体を伝って、地面へ落ちていく。

 

「――ッ、葉隠さん!?」

 

 ジェンガみたいに崩れ落ちる彼女の身体を尾白くんが懸命に抱き留めて、尾白くんは困惑しながらすぐに彼女の脈を取った。

 

「……気を失ってる。」

 

 それが、USJ襲撃事件の幕引きだった。

 

 

 *

 

 

 午後八時、とあるテナントビルの一室。そこは俺と死柄木がたまり場にしているバー。格好つけて呼ぶとすればヴィラン連合のアジト。

 カウンターがあって、酒があって、バーテンダーの真似事をする黒霧がいて、赤いソファがあって、小さなテレビがあって、ゲーム機があって、奥にはチープなベットがあった。

 

「今回は残念だったね……弔。」

 

 テレビに表示された「SOUND ONLY」の文字。その向こう側から語りかけてくる先生と、ドクター。

 

「なぁ……話が、違うぞ先生。オールマイトは、弱っちゃいなかった。」

「弱ってたさ。あれでも弱っていたんだ。……けど、見通しが甘かった。」

「マァ、舐め過ぎじゃな。」

 

「――ところで、ワシと先生の共作、脳無は?」

「回収して無いのかい?」

 

 俺はカウンターの黒霧を見て、くいと顎をしゃくる。

 死柄木はソファに座って、ずっとカウンターを眺めていた。

 

「なんとか回収しようとしたのですが……先に警察に確保されました。」

「なにィ? ――苦労して苦労して、オールマイト並みのパワーに仕上げたというのに……」

 

 苛ついたドクターの声。その声に萎縮しているのは黒霧だけだ。

 

「まぁ過ぎたことは仕方がないね。……弔、君は今回の襲撃で何を感じた?」

「……壊したいものが、壊せなくて……ムカついたよ。」

 

 死柄木の声は落ち着いていた。静かに深いところで、くすぶっているような、そんな声だった。

 

「本当に……ムカついて、ムカついて、仕方ないよ。……あのさ、先生。俺の何が、ダメだった?」

「……君にダメなところなんて無かったさ、弔。ただ、君の周りが足りなかった。」

 

「ずうっと、その怒りを忘れずにいなさい。そしてじっくりと時間を掛けて、君に足る精鋭を集めなさい。」

 

「そうすれば、叶う。」

 

「死柄木弔――君が、新しいシンボルだ。」

 

「次こそ、そのことを知らしめなさい。」

 

「先生とドクターは、いつだって、君の味方だ。……おやすみ、弔。」

 

 先生はそう言って通話を終了させる。いつも通りな通話だった。

 そしてテレビに映る「NO SIGNAL」。

 俺の隣に座っていた死柄木は結局、最後までずっとカウンターを見つめていた。

 

 

 俺は、ソファに置いたリモコンのボタンを押した。

 

 パッと画面が切り替わり、映し出された「終点」。

 赤と青、相反した要素が半分半分のそのステージ。まるで誰かに似ていた。

 

 死柄木はいつの間にかその手にコントローラーを握っている。

 そして、無言のままポーズを解除した。まったく、良いところで先生からの通話が入ったもんだ。

 

 ――死柄木が操る透明なボクサーが鋭い二連撃を繰り出す。

 

「やっぱりさあ、お前らのせいだよな。先生だってそう言ってた。」

 

 ――俺の操るゴリラがパンチをモロに食らって、軽く吹っ飛んだ。

 俺は急いで自分のコントローラーを握る。

 

「お前が高校生にボコボコにされたのが、俺のせい?」

 

 ――着地の隙を狙って追撃を仕掛ける死柄木のボクサーを紙一重で躱して、俺のゴリラは距離を取った。

 

「ありえねぇ超パワーのガキと、あのエンデヴァーのガキがお前には――『高校生』に見えてんのか?」

 

 ――死柄木のボクサーがステップで距離を詰めて俺のゴリラに強烈な右ストレートを放った。

 

「……でも、ボコられたんだろ? 俺の同級生にさ。」

 

 ――俺のゴリラはバリアを張ってボクサーの攻撃をガードして、すぐさまボクサーへ反撃を食らわせる。

 

「……爆発するガキが来てからも俺がボコってたんだ。お前は、いつもの気色悪い発作で見てないだろうけどな。」

 

 ――吹き飛んだ死柄木のボクサーはすぐさま受け身を取って、俺のゴリラへ反撃を仕掛けた。

 

「発作って……お前がいきなり脳無で俺を殺そうとしたせいだとは――思わないか?」

 

 ――俺のゴリラは寸前でボクサーのダッシュ攻撃をガードし、すぐさま死柄木のボクサーを殴り返す。

 

「お前と俺のさ、ライン切りするため、だろッ!」

 

 ――死柄木のボクサーは寸前で俺のゴリラのパンチを見切って、強烈なカウンター技を俺のゴリラへ決めた。

 

 吹き飛んでいく俺のゴリラ。

 

「あーあ、そのせいで俺はお前のサポートが出来なくって――お前はバカみたいなコルセットを腹に巻いてる!」

 

――ステージ外まで吹き飛ばされた俺のゴリラは、追撃しようと追いかけてきた死柄木のボクサーに、溜めに溜めたパンチをお見舞いする。

 

「……お前がさあ、適当なこと資料に書くからだよな? ――アレのどこが『極めて不仲』なんだ?」 

 

 ――派手に吹っ飛んだ死柄木のボクサーが、パンチの反動で空中を移動して終点へ舞い戻る。

 

「緑谷と爆豪のことか?」

「ああ……多分そうだ。」

 

 ――俺と死柄木のキャラはステージ中央で再び向かい合った。

 

「あのガキども、俺がエンデヴァーのガキを壊しかけたら急に目の色変えやがって……完璧な連携だったぜ! オイ――ミドリッ!」

 

 ――死柄木のボクサーが神速で駆けるッ。

 

「俺はさっ、ちゃんと『幼なじみ』とも書いたよな!」

 

 ――俺のゴリラはカウンターの構えッ。

 

「わかりづらいんだよッ!」

 

 ――死柄木のボクサーがパンチを繰り出す!!

 

「俺しか友だち――居ないもんなッ!」

 

 ――俺のゴリラがヘディングを繰り出す!!

 

 一歩も譲らない両者! 勝ったのは――突然画面が真っ暗になった。

 死柄木が最近中古で買ってきたゲーム機が、カラカラという音を立ててゲームディスクを吐き出した。

 

 何も言わず、死柄木がコントローラーを手首にスナップを効かせて投げる。

 コントローラーが飛んでいった先、ばんっと音がして、テレビ画面には蜘蛛の巣みたいなヒビが入った。

 ここを管理している黒霧は少しだけ俯いて、どこか悲しそうに見えた。

 

「……俺は緑谷とかいうガキに殴られてこうなったワケじゃない。パンチは躱したんだ、寸前で! ……風圧だけでアバラが四本持っていかれた。」

 

 死柄木が立ち上がって、不健康そうな顔を痛みでしかめる。

 

「……あいつは、オールマイト級だ。」

「じゃあ、勝たなきゃな。」

 

 その言葉に死柄木はシワシワの唇をくっと歪めて俺を睨む。俺は「俺らで」と付け足した。

 ――死柄木はため息を吐いた。

 

「今回は、縛りプレイだ。」

「……“個性”、使わなかったのか?」

 

 死柄木は胴体を動かさないように慎重に、ゆっくりと、よたよた歩きで俺の前を横切る。

 

「奥の手は、痛ぇッ、ハァ……取っておくもんだぜ。」

 

「直接見てさあ、確信したよ――俺の全力の『崩壊』とお前が揃えば」

 

「俺らは誰にだって、オールマイトにだって勝てる。」

 

 死柄木はよたよた歩きのまま、扉の向こうの暗がりに消えていった。

 

 

 






 
 19時でごめんなさい…ぶたないで…
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