メカ少女を名乗る魔法少女の変な人 作:メカホー
私、
この世界の裏側では魔法少女が戦っている。
魔法少女になると、願いを一つ叶えることができる。
そんな噂が、まことしやかに囁かれていたのだ。
前世と性別が違うせいで、周囲から浮いていた私ですら聞こえてくるくらいに。
ハッキリ言って、この世界でその噂は完全に眉唾もの扱いされていた。
なにせ、噂が流れているのが年頃の少女の間だけなんだから。
本当なら今の時代、もっとSNSとかでも話題になっていてもおかしくはないのだけど。
どういうわけか、少女たちの間でしか広がらず。
そして、少女たちもそれを当然のものと思っていた。
この時点でピンと来たね、そういう魔法的な認識阻害がかかっている、と。
そもそも私は、この世界にそういう特殊な存在がいることを疑っていなかった。
理由は二つ、私自身が転生というとんでも事象を経験していること。
もう一つは……髪色だ。
私の銀髪もそうだけど、この世界の女子は髪色がカラフルすぎる。
完全にそういう漫画かアニメじゃんって感じ。
だから私は、魔法少女の存在を疑っていなかった。
んで、魔法少女になるには二つの方法があるらしい。
一つは命の危機に瀕すること。
これには二通りのパターンがあって、一つは現実で事故とかで死にかけること。
もう一つは魔法少女の戦場である魔法空間に引きずり込まれること。
そういう状況で命の危機に瀕した時、助かりたいという願いが少女を覚醒させることがあるのだとか。
もう一つはマスコットを呼び出すこと。
古い時代のこっくりさんみたいな感じで、儀式をするとマスコットを呼び出せるのだとか。
魔法少女はこちらのルートで魔法少女になることが多い。
そりゃ、年頃の少女なら誰でも知ってる噂で、試すだけなら誰でもできるからな。
で、その中から願いが強い――魔法少女になる資格のあるものの前にだけマスコットは現れるのだとか。
というか、現れた。
当然といえば当然かも知れないけど、私もマスコットを呼び出して願いを叶えた組だ。
いやまぁできるとは思ってたけど、実際にできると少し驚きもあるよね。
そして、そんな私の元に現れたのが――システムだった。
インカム型のマスコットとかいう、他に類を見ないマスコット。
大抵はぬいぐるみだとか動物だとかを模しているそうだから、インカムってなんだよって感じ。
まぁでも、私みたいにメカ少女になりたい人間にしてみれば、インカムってのは悪くない選択だ。
だって、アレじゃん? AIっぽいじゃん?
魔法少女にマスコットがつきものなら、メカ少女にはサポートAIがつきものなんだよ。
……まぁ、そんなシステムにはちょっと致命的な……AIとは思えない欠陥があるのだけど。
いや、AIだからこそか?
というのも――
♪
『――マスター、起きてください、マスター』
「ん……なんだよもー」
やたら焦った様子のシステムに、私は起こされる。
寝ぼけ眼をこすりながら、ゆっくりと起き上がり周囲を見渡す。
部屋の中は整頓されているが、本棚にはオタグッズが満載されている。
昔はもっと乱雑とした男子みたいな部屋だったのだが、システムが来てからはお小言がうるさいので定期的に掃除しているので部屋はきれいだ。
あと、やっぱり自分は美少女なのである程度は体裁を整えたい。
『起きましたか、マスター』
「そんな焦って起こす必要ないでしょ……」
部屋には大きめの姿見があって、私の今の姿も確認できる。
シャツにショーツというラフな格好、見下ろせばなだらかな起伏がシャツから覗けて結構えっちだ。
朝起きた時に自分が美少女で少しえっちな格好をしているとお得感があるので、寝る時はいつもこの格好である。
で、その直後私の視線はスマホに向かい、時間を確認すると――
「……八時?」
『申し訳ありませんが、マスターの起床予定時刻からすでに一時間を経過しております』
「遅刻じゃん!?」
いやまて、昨日は魔法少女として出撃して帰りが遅くなったから、早めに起きれるようアラームを七時にセットしたはずだぞ。
起きれなかったときのために、五分刻みでアラームはセットされている。
スヌーズしまくって起床時刻がずれ込みまくったならともかく、私はこの時間まで一度も起こされた記憶はない。
『アラームなら解除しておきました。私がいれば必要ありませんので。それと、五分ごとにアラームを設定するのはなぜですか? 非効率的すぎるかと』
「じゃあなんで私は七時に起きてないんだよ!?」
『起こしても、マスターが起きませんでしたから』
「そういう時のために、五分ごとにアラームをセットしてるんじゃん!」
『!?!?!?!?!?!?』
急いで制服に着替えながら、システムとあーだこーだ言い合う。
ああもう、そこで納得するからシステムはシステムなんだ、最後までそれっぽい言い訳を返せないのか!?
もしくはちゃんと私が起きるまで起こし続けてくれよ!
そう、私のマスコットシステムは――ポンコツなのだ。
AIってどうしてこう、極端に優秀か極端にポンコツなのかの二択なんでしょうね!
ちなみにシステムは見た目が電子機器なので、電子機器に干渉できるらしい。
ア◯クサとしては便利だよ、うん。
♪
その後、私は空中を飛んでいた。
魔法少女エクス・マキナに変身し、空をかっ飛んでの登校である。
私の基本装甲であるモードヴィエルジュには、ステルス機能も存在するので見つかることはない。
だが、そもそもステルス機能を実装するに至った理由が、今日みたいなシステムのポンコツが原因だ。
今日みたいに遅刻しそうな状況をゴリ押しで解決するためである。
『申し訳ございませんマスター。かくなる上はこのシステム、腹を切って詫びさせていただきます』
「どこにあるんだよ、お腹」
『……マスターの腹部でしょうか?』
「私にハラキリを強要している!?」
兎にも角にも、システムはポンコツAIだった。
とはいえ、だからといって私はシステムが嫌いじゃない。
というかむしろ好きだ。
何せ、話していて飽きない。
突っつけば今みたいなボケが飛んでくるし、普段は自分はエリートですと言ってはばからないのに、やらかすととたんに情けないこと言い出すのもポイント高い。
それでいて、一日すれば元通りのエリート路線に戻っているのだから本人……本マスコット? のメンタルも強靭だ。
なんというか、安心してプロレスのできる相手って……いいよね。
私は父親が幼い頃に蒸発して、母親が仕事で単身赴任してろくに帰ってこない上。
学校でも友人と言える友人がいないので、こういう話相手は貴重なのだ。
学校の方はほら、元男性としての意識があれとかこれとかで、中学時代にやらかしましてね。
以来、男子とも女子とも距離を置くことにしている。
幸いなのは、距離をおいた結果神秘系美少女認識され、それなりに配慮されたりしてるところかな。
すくなくとも、浮いてはいるけど悪い印象は抱かれていないようだ。
『マスターは素晴らしいお方です、慈悲を持って接すれば相手にも理解を得られると思うのですが』
「かもしれないね、ビジュアルがいいわけだから。ビジュアルのゴリ押しで好意は得られるかもしれない」
『な、内面も素晴らしいかと――」
「でも、面倒だからやだ。私はこう、周囲から一目置かれつつも人に囲まれないくらいの立ち位置が一番心地いいんだ」
『どうやら私の気のせいだったようです、マスター』
「は?」
なんて話をしながら、空中を征く。
足で移動すると途中の電車移動を含んでも数十分かかるが、ヴィエルジュモードなら数分だ。
そんな時である。
『マスター――魔法空間の形成を検出いたしました』
ん? と私は空中で足を止める。
背中のブースターがごーごーと音を立てて、私は浮遊した。
「――それ、ホント?」
『せめてもの償いとして、私は索敵を頑張っていましたので、間違いないかと』
「その償いのせいで、登校が更に遅れそうなんだけど?」
『!?!?!?!?』
ともあれ、無視するわけには行かない。
魔法空間が形成されたということは、そこから魔獣が溢れてくるかもしれないということ。
魔法空間内部での破壊は空間が解除されると無かったことにされる。
しかし、あまりにも破壊されすぎると魔法空間そのものが破壊され魔獣が外に飛び出してしまうのだ。
魔法少女は、基本的にこれを防ぐために戦っている。
魔法空間を形成された以上、魔法少女が現場に駆けつけて魔法空間を解除する必要がある。
「まぁいいや、こういう時のシステムは信頼できるからね。確かめてみよう」
『マスター……キュン』
「この時点でキュンとするのはちょろいと思う」
言いながら、私は方向転換。
システムの指し示す方向へと急ぐ。
そこには――
「……本当にあったね」
『ありましたね』
「なぜシステムまで半信半疑なのか」
『……自分でも気のせいかと思っていました』
まぁ、そりゃそうだろうなぁ。
だって、
街の裏路地に、スマホくらいのサイズの魔法空間が形成されていた。
小さい、あまりにも小さい。
よくこんなもの見つけられたなぁって感じだ。
「お手柄だよシステム! この魔法空間、上級魔獣フォルネウスの魔法空間だ」
『本当ですか!? やりましたね、マスター!』
「うん、システムは凄いね!」
『キュンキュン……!』
魔法空間に、何やら紋章のようなものが描かれている。
これは「シジル」と呼ばれるもので、上級の魔獣が使うトレードマークみたいなものだ。
この世界で最も強い魔獣である上級魔獣はソロモンの七十二柱の悪魔をモチーフにしているらしい。
なので、「シジル」の形で、上級に限れば誰が魔法空間を作ったのか特定可能だ。
『フォルネウスは、この街を根城にしている上級魔獣でしたね』
「海の中に身を隠したみたいに、狡猾で痕跡を残さない魔獣なんだけど。これはちょうどいい手がかりになりそうだ」
いいながら、私は魔法空間にビームライフルを向ける。
魔法空間そのものはここで破壊するけれど、後で魔力の残滓を使って解析とかするんだな。
何か成果が得られればいいのだけど。
――ともかく、システムはポンコツだ。
しかし、時折こうしてとんでもないラッキーを引き当てることがある。
それも回り回って自分のポンコツが原因で。
そういうところも、なんというか一緒にいていて楽しいなぁと思う部分なのだが。
直接いうと調子に乗るので、褒めてキュンキュンさせる程度でいいだろう。
そう思いながら、私はビームで魔法空間を破壊するのだった。
♪
システムは、魔法少女という存在は非効率だと考えていた。
願いを叶えることで、少女に魔力を発生させるという方法がまず間違っているのだ。
システムならば、全人類に願いを叶えさせたうえで発生した魔力を一箇所に集中させる。
そして、自分がその魔力を管理し、魔獣を一挙に殲滅するのだ。
エリートマスコットであるシステムならそれが当然可能である。
少女を魔法少女にするという消極的な方法しか取らない弱腰の統括マスコット殿にはわからないかもしれない。
だが、システムはエリートだから正しいのだ。
と、周囲のマスコットへ高らかに語って以降、システムはずっと冷や飯をくらい続けてきた。
なぜ? どうして自分のようなエリートがこんなふうに塩漬けされなければならない?
他のマスコットは、すでにパートナーとなる魔法少女にあてがわれているというのに。
本来ならシステムは、いの一番に魔法少女のマスコットとなるべき存在のはずだ。
そう思いながら、システムは魔法少女のマスコットとなる日を待ち続けた。
そして、その時は来た。
いつもは胡散臭く、何を考えているかわからない口調の統括マスコット殿が直接やってきたかと思ったら。
「多分この子は、君が最適だから……うん、多分」
とかいって、システムをマスコットに任命したのだ。
なんとも煮えきらない発言だったが、システムがマスコットに選ばれたということは相当優秀な魔法少女なのだろう。
であれば、システムがきっちり導かなければ。
システムが導けば、地上最強の魔法少女になること間違いなし。
ゆくゆくは、その少女を世界の支配者とし、システムは裏から少女を操る影の支配者として君臨するのだ。
あの憎き統括マスコット殿などけちょんけちょんにして、雑用係として登用してやろう。
システムはバカなので、本気でそんなことを考えながら少女の「儀式」によって彼女の前に出現した。
そして、システムを呼び出した少女は、システムの想像以上にぶっ飛んでいた。
何せ、彼女――廣木マキナは
ハッキリ言ってありえない話だった。
そもそも魔法少女とは偶発的に発生する存在だ。
願いを叶えたいから、そのための手段として魔法少女となるか。
生き残るために魔法少女となるか。
どちらにせよ、魔法少女が目的になることはない。
これはシステムも知らないことだが、この世界の魔法少女はマキナを「復讐者」か何かだと思っている。
それは、あまりに異常なことだ……とも。
だが、普通に考えれば「生き残った魔法少女」の中にも周囲の人間を魔獣に襲われて復讐者になる魔法少女がいるのではないか? と思うものもいるかも知れない。
しかしそうはならない。
そもそも、魔法空間に入り込む人間は全員魔法少女の素質があるので、仮に二人同時に巻き込まれてもどちらも魔法少女に覚醒するか、覚醒することで片方の救助が間に合うからだ。
そして事故で死にかけた場合は、そもそも魔獣は復讐の対象にならない。
なので「復讐者」と認識されているマキナは異端なわけだ。
そしてマキナが異端なのは、何も魔法少女たちの間だけの話ではない。
マスコットにとっても、マキナは異端だ。
魔法少女の魔力の強さは想いの強さだと、これまで散々話にでてきたが。
では、想いの強さとはなんだろう。
それはどれだけ願いを叶えたいと強く思っているか。
これに関して、多くの魔法少女は自分はその願いを強く叶えたいと思っているだろう。
マキナも、その強さに関してはさほど他人と変わらない。
だが、マキナが特殊なのは「絶対に願いは叶うと信じている」点だ。
普通の魔法少女ならこうは行かない。
だって、この世界の人間にとって魔法とは胡散臭いもの、非日常なものなのだから。
だからどれだけ強く願いを叶えたいと思っていても、願いが叶うかどうかに関しては半信半疑。
故に、思いの強さにブレが生じる。
しかしマキナにはこれがない。
転生を経験した彼女にとって、非日常的なことなど存在していて当たり前のことなのだから。
故にマキナは異端であり、異端であるがゆえに膨大な魔力量を有していた。
システムが望んでいた、世界を支配しうる能力を持つ魔法少女である。
かくしてここに、システムによるマキナを操作しての世界征服計画が――
始まることはなかった。
このシステム、エリートを自称しているがヘタレである。
長いものにはまかれろの精神が強いのだ。
統括マスコット殿に対して、散々内心では愚痴をいっていても「殿」を外せない当たりに人間性(もしくはマスコット性)が出ている。
加えて、マキナはシステムの想像を越えていた。
あまりにも想像を越えて魔力量が多すぎたために、システムは即座に屈服してしまったのだ。
結果システムは、マキナの従順なマスコットとなった。
他の魔法少女なら、システムは増長していただろう。
あとは、単純に。
マキナはシステムをポンコツだと言うが、同時にシステムと楽しそうに話をしてくれる。
ボッチだったシステムにとって、初めてできた友人でもあった。
そして何より、時折システムが大手柄を上げると本気で褒めてくれる。
結果、システムはほだされた。
システムはポンコツであると同時に、チョロかったのだ――――
メカ少女にサポートAIがいると掛け合いが楽しくなります
ポンコツだと更に楽しいです