メカ少女を名乗る魔法少女の変な人 作:メカホー
天創魔法は統括マスコットのところまで行って管理権限をもらって魔法を創る魔法だ。
でも、それには副次効果があって、魔法を作った後私は地上に戻らなくちゃいけない。
この時、戻る場所を指定できるんだ。
たとえ、作成者が封鎖して普通なら入ることのできない魔法空間であったとしても。
”やってくれるじゃないか、エクス・マキナ――!”
「やぁ、お初お目にかかるねフォルネウス」
ゆらぁ……と起き上がった赤い装甲のズゴ……モードキャンサーを身にまとう私。
そのまま、爪をゆっくりと構える。
同じようにフォルネウスも鉤爪を構えた。
「マキナ……!」
「ティアは少し休んでて、回復終わったら頼んだよ」
「わかってるわ」
逃げて、とは言わない。
どう考えても言って聞くタイプじゃないし。
何より上級魔獣は、勝てないわけじゃないけど助けがあるならあったほうがいいくらいの相手だ。
まぁ、フォルネウスが私の想定より強かったらまた別だけど。
”ふぅん、その姿は中々悪くないなぁ、エクス・マキナ。それまでの空臭い姿よりはずっとマシだ”
「空臭いって……私、なんか匂う?」
『マスターは、いつでも干したて布団みたいな匂いがしますよ?』
「それはダニの死骸の匂いじゃんかよ!」
『!?!?!?!?』
バカを言ってるシステムちゃんは放っておいて、ニヤリと笑みを浮かべるフォルネウスと向き合う。
向こうはこちらの出方を伺っているようだ。
そういうことなら、早速仕掛けさせてもらおう。
勢いよく背中のスラスターをふかしてフォルネウスに肉薄する。
”正面から来るか、その意気やヨシ!”
「気を付けて、そいつは決して正々堂々なんてタイプじゃないわ」
「解ってるって!」
そのまま、鉤爪同士が激突。
すると、足元から針のようなものが鋭く私を狙ってくる。
というか針だ! 海から針が生えてくる!
私を離そうとしないフォルネウスの鉤爪を蹴ってずらし、離脱。
剣山のように辺りに生え散らかした針から距離を取った。
「何アレ、あんなの見たことないわ」
”見せずに倒せる相手に、見せる必要はないんだよ!”
『マスター、評価されていますね』
「二対一を警戒して、速攻撃破を狙ってるだけな気もするけどね」
そこからは打ち合いだ。
ずっしり構えたフォルネウスに私が飛びかかり、受け止めたフォルネウスが針で仕留めようとする。
対する私は攻撃にミサイルを織り込んだりして、撹乱しつつ攻撃を続けた。
「針のせいで向こうの防御が崩せないな」
『いっそ針を無視して装甲で受けるというのは?』
「だめだね、あの針に毒仕込まれてたら一発アウトだもん。だから……まずは針をどうにかする!」
言って、私は海の中へ勢いよく飛び込んだ。
針が邪魔なら、針をどうにかすればいいのだ。
幸いモードキャンサーは水陸両用機、水中でも地上と変わらず高機動である。
『地面に針がくっついています』
「あの地面が、一つの魔獣なんだろうね」
水中でも変わらず会話ができることにありがたがりながら、私は地面を目指す。
迫りくる針を避けて、砕いて。
フォルネウスがいると、腕を押さえられて破壊できないけど水中でフォルネウスがいなければなんとかなるな。
と、思っていたが。
”させるかよぉ!”
「まぁ、普通に考えりゃフォルネウスも水陸両用ですよねぇ!」
フォルネウスが追いかけてきた。
針と挟まれる形になる。
迫りくるフォルネウス、私はそれを鉤爪で受け止める。
空中とは打って変わっての高機動、海のほうがフォルネウスにとっては向いている戦場なんだろう。
これは大分ピーンチ……に、見える。
しかし。
「でも戦場を間違えたね!」
”何!?”
迫りくるフォルネウス、それを私は同じく高機動で捌きながら、迫りくる針も同時に破壊する。
理屈は簡単で、向こうの動きが激しくなった分、こちらを抑えることをしなくなった。
するとこっちも自由に動けるので、空中戦のときのように離脱して針を避ける必要がないのだ。
”それは逆に言えば、さっきまでの膠着と違い、戦況が動くということだろうがぁ!”
「そりゃまぁ、そっちが有利になる可能性もあるけどね!」
さっきまでは、ハッキリ言って千日手だった。
ミサイルもぜんぜん効かないし、かといってフォルネウスもこちらより出力が上かと言われればそんなことはなく。
むしろ、ケリだけで離脱できる当たり、地上での出力はこちらが上だろう。
格闘戦をしようとすると針で退避させられるだけで。
何にせよ、状況を打開するにはお互い戦場を海中に変える必要があった。
そして戦闘は続く。
『マスター、間もなく魔獣と思しき地面に接敵します』
「ようし、まずはこっちからだ」
地面の魔獣は間違いなく中級魔獣だろう。
なら、私だったら容易に対処できる。
こっちから先になんとかしようと思うのは当然だ。
故に、針を薙ぎ払いながら地面へ――勢いよく爪を叩き込む。
”……馬鹿め”
直後、フォルネウスのそんな声が聞こえて。
地面が激しく揺れた。
「わわわ!?」
『じ、地面が身悶えしています!?』
「しかもなんか噴出しはじめたぞお!」
なんかこう、墨? 毒性はなさそうだけど、視界が覆われてしまった。
なるほど、これはフォルネウスの罠だね。
”エクス・マキナ”
と、声が聞こえる。
フォルネウスのものだ、反響していて居場所が探れない。
”お前は、何を考えている?”
「……何のつもり?」
”お前という存在を、今日に至るまで観察したが、俺には一向に理解できなかった”
曰く、私は戦いを楽しんでいる。
なのにその戦いぶりは苛烈で、どこか魔物を倒すことに固執している。
その二つは矛盾していて、おかしいのだと。
「……何でそんなことを、魔獣が気にするの?」
”――お前が強いからだ、エクス・マキナ”
「へぇ?」
”俺は強きものを倒してこそ、意義があると考えている。お前は強い、これまで屠ってきたどの魔法少女よりも、ずっと”
だからこうして、二対一の状況を作って油断なく私を倒そうとしている。
なるほど、理にかなっている。
フォルネウスは強さに執着していて、そしてそのために手段を選ばない。
非常にわかりやすい奴だ。
「なるほど、フォルネウスは面白いね。前に倒した奴は、単にゲスだっただけだけど」
”ヴァプラだろう? アレはだめだ、自分を賢しいと思い込んでいる”
「同感、でもねぇフォルネウス――だからこそ聞くけど、何を見てたの?」
”何……?”
端的に、一言。
私はばっさりと、それを切り捨てた。
「ここに来るまで私を見てたなら、私が本質的に”何を”楽しんでるかも、見てきたはずなんだけど」
”知らんなぁ、お前は強い。俺が興味あるのはその強さだけよ”
「じゃあ、だめだ。君にはわからない」
私は、何も視えない視界の中で、けれども絶対になくなることのない場所を見上げた。
上だ。
もっと言えば――
「空を飛ぶのは、あんなにも楽しいのに」
上空だ。
「この世界には、マスコットが齎してくれた魔法という力がある。私達、ただの人間からしてみればそれこそ魔法のような、あり得ざる力」
”それがどうした? 力は力だ、振るい、破壊し、奪うことにこそ意味がある”
「違うよ、力はね――振るって
言い方はアレだけど、ようはそれで誰かを攻撃するつもりなんて私にはない。
ただ、力を振るうことそのものが、私には楽しい。
デカイ魔法空間が発生する少し前、私はただがむしゃらに空を飛んでいた。
私が何よりも好きな時間は、そこなのだ。
”クク……わからん、わからんな!”
その言葉とともに、フォルネウスの気配が膨れ上がる。
どこからくるかはわからない、どころか、全方位四方八方から針を使って攻め立てることもできるだろう。
フォルネウスはここで決めるつもりだ。
もとより、ティアがいつ復帰するかわからない以上、手早く私を仕留める必要がある。
そのためには、一気に決着をつける速攻以外はありえないのだ。
それを分かったうえで、私は――
”さぁ……受けきってみせろ、エクス・マキナ!”
フォルネウスの言葉に、
「お断りだぁ!!」
全力で拒否を叩きつける。
同時、私は最高速度で――上を目指した。
”ぬぅ!?”
驚愕したフォルネウスの横を、通り過ぎる。
まさか、激突する気が微塵もないとは思わなかったのだろう。
ただその場を離脱するための最高速に、フォルネウスは対処できない。
その間に私は――水中から脱出する。
「ティア!」
「ええ!」
そして、ちょうどそこで待っていたティアの剣を掴んだ。
”バカな!? ブレイド・ティアはまだダメージで動けないはず!”
「それは、戦闘する場合の……話よ!」
言って、ティアは勢いよく剣を振りかぶる。
同時に私も体勢を立て直し、再び海に向かって飛び込もうとする。
ティアは確かに、戦闘に耐えられるだけの回復はまだできていない。
でも、私を手助けする程度なら、できるのだ。
先ほど渡したブローチと、システムさんを通しての内緒話で、それは確認済み。
「――マキナの、礎になることならできる!」
「どういう言い方!?」
そして、ティアが私を持てる限りの全力でもって――射出した!
”ぬぅ!”
そこに私自身の速度も相まって、フォルネウスの想像以上の加速を得た私は、一気にフォルネウスへ肉薄する。
「この速度なら、針は私に追いつけない!」
”くぅ! だからといってぇ!”
激しく、何度も私とフォルネウスがぶつかり合う。
針がこちらに迫るよりも早く、フォルネウスを倒すのだ。
しかし、フォルネウスも負けてはいない。
私の猛攻を、何とか受け止めて見せる。
「私は、戦うために力を振るっているんじゃない!」
”同じだろう!? これは我々と貴様ら魔法少女の戦争だ! 戦争はただ力を振るい、相手を殺すだけのものだ!”
「違う! 確かに戦争は間違ってるけど、相手を殺すだけのものだけど……!」
やがて、私の鉤爪がフォルネウスの鉤爪の一つを破壊する。
目を見開いたフォルネウスは、それまで使っていなかった足を武器にこちらを蹴り飛ばそうとしてくる。
けれどもそれは、私の足蹴りによって受け止められた。
フォルネウスの身体が弾かれる。
私は未だ続く勢いのまま、爪を振りかぶり――
「その中で前に進もうとする意思に! 正しいことを貫く姿に! ロマンがあるんだ――!」
――貫手!
フォルネウスの核を、破壊した。
♪
転生したことで、私はこの世界には普通じゃない力が存在すると思った。
なにせ、転生なんていう普通じゃないことの極みみたいな現象が起きるんだ。
それくらい起きてもいいじゃないかと、本気で思ったんだ。
そして、魔法少女に出会った。
魔法少女は願いを叶え、その力で人々を守る。
魔獣という存在を打ち倒す。
でも、それだけだ。
私はそのことを知った時、こう思ったのだ。
惜しい、と。
だってそうだろう?
魔法使いには、デフォルトで飛行能力が備わっている。
人が人の姿をしたまま、自由に空を飛び回ることができるのだ。
空を飛ぶのは、あんなにも楽しい。
最初は確かに怖かったけど、でも慣れてしまえばあんなに楽しいことは早々ない。
でも、この世界の人々は、魔法少女は、マスコットは。
そういったことに目を向けず、魔獣と戦うことだけを考えている。
仕方がないことではある。
魔法は手段だ。
願いを叶えて、手に入れたいものを手に入れる。
そして手に入れたものを守るための力に変える。
力そのものを、魔法少女が考えたことはないはずだ。
むしろ、願いを叶えるなんていう卑怯から目を背けるための免罪符でしかない魔法少女も少なくないのではないだろうか。
「――でも、もし仮に。魔獣を倒して、魔法少女が自由に空を飛べる日が来たら?」
”…………”
「彼女たちが特別な力を、楽しんで振るっていい時が来たら?」
”――エクス・マキナ”
いまだ視界の晴れぬ海の中。
私とフォルネウスの言葉だけが海に響く。
”――お前は、魔法に何の願いをかけた?”
「それ、統括マスコット殿にも聞かれたね」
”あの、バカな黒猫か。今もこうして、愚かに我々に歯向かって――”
むむ、何やら因縁めいたご様子。
いや、まぁフォルネウスは喋らないだろうけど。
統括マスコット=黒猫と認識してるあたり、フォルネウスって色々事情に詳しかったりしない?
まぁ、今はいいか。
「私の答えは、決まってる」
そう、統括マスコット殿にも答えた通り。
私は――
「平和のために、戦ってるのさ」
魔法少女が、笑って暮らせる世界のために。
自由に空を飛べる世界のために。
それこそが、
”――とんだ、矛盾だな。そのために、お前は戦うための力を生み出すのか”
「そうかもしれないね。でも、言葉だけで何もしないやつなんて、君たちが一番嫌いなタイプでしょう」
”…………ク”
その言葉に、フォルネウスは。
”クハハハハハ! ハハハハハハハハハ! そうだな、全く以ってその通りだ!”
ただただ、楽しげに笑って見せる。
”だが、本気でやるつもりか!? 我ら上級魔獣は、いくらか倒されたとは言えまだその大半が生きている! それをすべて相手して、お前は平和を勝ち取るというつもりか!”
「もちろん! 私はそのために、メカ少女になったんだから!」
”いいな、実にイイ。そのメカ少女とやらは理解できんが、それでもお前が本気だということは解る”
やがて、フォルネウスはいよいよ消えていく。
海に溶けるように、最初からそこにいなかったかのように。
”魔法少女でありながら、メカ少女を名乗る変な存在、それがお前だ。そしてそれを、これからも貫くのがお前だ”
「変、とは酷いな」
”だが、それでいい。楽しみにしているぞ。お前が最後まで、お前のままでいられるか”
フォルネウスは、笑っていた。
きっと、私が強かったからなんだろう。
強さを認め、それを上回ろうとするフォルネウス。
相手の強さを理解しているからこそ、フォルネウスはどんな手を使ってでも勝とうとする。
だから、もし。
自分を倒した相手の強さが自分以上だと、本気で思ったなら。
本気で、たたえてくれるのだ。
”お前は、強い! 故に、お前の強さを、その意志を、ロマンとやらを貫いていけ――――!”
かくして、フォルネウスは消滅した。
それと連動してか、地面の魔獣も姿を消している。
たしか、上級魔獣直属の魔獣は、上級魔獣を倒すと同時にきえるんだったか。
まぁ、楽でいいね。
そしてこの魔法空間も、やがては消えていく。
私達が、勝利したことで。
「……終わったねぇ」
『マスターは……普段からそうしていれば、周囲から警戒されることもないと思うのですが』
「えー? 私はいつだって私のつもりだけど?」
『つまり、マスターは常に変な人なのですね』
「あんだとぉ?」
システムを軽く小突きつつ、私は空を見上げる。
海が溶けて消えていくことで、空が視界に入ってくる。
ちょうど、ティアがこちらに近づいてくる。
安心した様子で、笑みを浮かべていた。
うん、ああいうふうに、魔法少女には空を飛んで欲しい。
そのためなら――
「まぁでも、そうだね。それでいいのかもしれない」
メカ少女を名乗る魔法少女の変な人。
まぁ、そう呼ばれることも、少しばかりは吝かではないのだった。
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