「最近、古い友人がいくつか新しい情報を掴んだと言っていました。その人はわたしにとって、半分先生のような人で....インターノットにおける情報収集のイロハは、彼女に教わったのです」
『へー...ん?』
タンザナイトの目には、顔なじみの人物がいた。
「お久しぶりなのです、レイン」
「うん、久しぶり」
『レインじゃねぇか!まさか、ビビアンの知りあいだったの?』
「そうだよ。パエトーン、タンザナイト、久しぶりだね」
「レイン?ま、まさかあなた、こちらのパエトーン様がパエトーン様だと....じゃなくて、リンの様の正体がパエトーン様だと知っていたのですか?」
「わたしも知ったのは後からだけどね。前にちょっとした事件があって、その正体を知った時はその時。普通の人は気づかないよね。伝説のプロキシが、そのへんでビデオ屋やって生計立ててるなんて。そういえばビビアン、君の『推し』って...」
と、その時ビビアンがレインの言葉を遮る。
「レレレレ、レイン!そんな昔のことは今はどうでもいいのです!パエトーン様とタンザナイト様にとっては、面白くもなんともない話なのですから!」
「どうしたの急に?店長さんもタンザナイトは...知らないけど、六分街に住んでるんだし、君の『推し』のこと、知っているかもしれないじゃん。ほら、君....インターノットの投稿を見て、六分街が発信地点だって突き止めたじゃん」
「それから辺りを一帯探し回ってさ....結局、しょんぼりして帰ってきて、なんかわめきちらかしてたっけ。たしか、黒猫しかいなかったんでしょ?発信地点には...君の推しはしゃべる猫だったとか、そんな感じ?」
「その黒猫、たぶん私も見たことあるよ。よくおやつあげてるの!」
「パエトーン様、あの、どうかもう、何も言わないで.....」
『...ンンッ!あーその、本題に入っていいかい?ビビアンから聞いたが、なんか新しい情報があるんだろ?』
と、さすがに可哀想になって来たので、タンザナイトがレインに本題に入るよう誘導する。
「わかったよ。それじゃ、比較的確かなことから話そうか――レイヴンロック家が報告した、例の失踪した労働者たち....事故で亡くなったっていうのは嘘。その労働者たちの信号が最後に確認されたのは、ホロウの近く。だからわたしは彼らがホロウに連れていかれたんじゃないかって疑ってる」
『ホロウだと?』
「昨日、レイヴンロックが秘密裏に何人か雇って、ホロウを中心にあたりを捜索させてるのを検出したから。
『ここじゃん!?』
意外に近かったことに驚くタンザナイト。
「リアルで人を探すのは得意じゃないから、あとは君達で捜して」
「わかった。近くを調査してみるよ。それで、確かなことから話すって言っていたけど...逆に確かじゃないほうっていうのは?」
「ネットの情報をいくつか拾ったんだけど、その中に気になるものがあったんだ――ちょっと前、港に近いとある廃倉庫から恐ろしい声が聞こえてきたんだって。シャッターはしっかり締まっていたみたいだから、中で何が起こってたのかはわからない」
『なにそれ、怖い...』
「君達が追っていることとの関係も定かじゃないけど....このあたりで手がかりを見つからなかったら、そっちをあたってみるのもいいかもね。わたしの情報はそんなとこかな」
「ありがとうなのです、レイン。」
お礼を言うビビアンにレインは照れくさそうにする。
「やめてよ改まって、知らない仲でもないのに.....鳥肌がたっちゃう。それと、今回だけ情報料はタダでいいよ。ビビアンも前、わたしのためにタダで頑張ってくれたしね。恩返しだと思って」
「勿論、君の『推し』のこと.....調べたかったら私に頼んでくれてもいいから。わたしもすごい気になるし――」
「だ、大丈夫です!自分で解決してみせます。レイン、あんまり詮索好きなのは感心しないのです!」
「詮索だなんて。君がそれだけ長い事捜してる理由が、職業柄気になるだけだよ。まぁその人が実際に誰であれ、君にとってはもう自分の一部みたいなもんじゃないの。ビビアン、『追っかけ』の過程で君は、随分成長したみたいだから」
「昔の君より、今の君が私はもっと好き。だからもしその人を探しあてても、会うのを躊躇う必要なんてないからね。今のビビアンが嫌いなひとなんて」
「レイン....」
(物凄く感動的な話だが....もうとっくにあってんだよなぁ....)
タンザナイトは心の中でそう思うのであった...台無しだよ。
「現実世界のほうがどうなっても、あかまり気にしないタチだけど....わたしの知っている人にはなるべく元気でいてほしいからさ。だから、このことは君達に頼んだよ。じゃあ、わたしは用事があるから先に行くね。後のことはよろしく」
レインは手を振って、別れを告げ、去って行った....そうして、その人を探すため、タンザナイト達は捜索するのだった....
あの後、ビビアンのツテで公園の所にいると分かり、向かってみると、弱々しい男性が地面にぐったりした様子で座っていた。
『もしかして....あの人か?』
「如何やらそのようなのです....少し距離を取ってください、特にタンザナイト様。あの精神状態です、過激な行動をとりかねません。そして何よりエーテリアスの姿で反応して、あなたに危害を加えてしまうかもしれないのです。まずは私が彼に話しかけて、様子を探ってみます」
『おう...分かった』
そう言い、タンザナイトとリンは離れ、ビビアンは前に出て、その弱々しい男性の肩をそっと叩いてみた――
「ど、どうか連れ戻すのは勘弁してくれ....!すまない!俺が間違ってた!もうあんたたちの金はいらない!後生だから、頼む―――」
「落ち着いてほしいのです」
「あんたたちは誰だ?オレは何も話さないぞ。放っておいてくれ....俺は知らない。何も知らないんだ....」
「私達は治安局や調査協会のような当局の人間ではないのです。ましてや、レイヴンロックの手の者でもありません。あなたには何も無理強いしませんから、怖がらないで欲しいのです」
と、震える男性をビビアンは冷静に落ち着かせる。
「それならあんたたち、ななな、何の為に俺を探してたんだ....」
「私達はただ、レイヴンロック家があなた方にどこで、何をさせたのか....それを知りたいだけなのです」
「言えない....それは言えない!俺には家族がいるんだ。連中が俺の家族に手を出そうとしたら....俺を見なかったことにしてくれ、そして何も聞かないでくれ....」
「今でも、ご家族に会いたいですか?」
「お...俺にはあいつらに合わせる顔がない。金に目がくらんで....自業自得だったんだ」
「ですが、あなたのご家族はきっと、あなたのことをとても心配しているはずなのです。あなたを責めはしないのではないですか」
「俺のせいだ。全部俺のせいなんだ...あいつらを巻き込む必要はない...」
「いま、大船は沈みかけているのです。誰ひとりとして逃れることはできません」
「俺はただの小物だ。いまさら、何かを変えられるもんか」
「もしあなたが、まだ自分のご家族やお友達に対して未練があるのなら、今のうちにこの災害が起こるのを止めるべきです。蝶の羽ばたきでさえも、遠くで大波を引き起こすことがあるのです。結末は、まだどうなるかわかりません....」
「ですが、もし何もせずにいるなら....結末が訪れたとき、あなたはただ後悔するだけだと確信しているのです。あなたを売ったりはしませんし、あなたが彼らと対面する必要もありません。そのうえで、あなたの安全も保障します。そして、またご家族に会えるようにも...だから私たちに、何が起こったのか教えてほしいのです」
ビビアンは優しい声で説得すると....答えるかのように男性は口を開く。
「俺は....ハルトマンは大金をちらつかせて、ホロウに入ることのできる労働者を募集していたんだ。各目上は、『何か』の監視とのことだった」
「金額からして、合法な仕事じゃないことは俺達の誰もが薄々感じていた....けど俺は、どうせ違法なエーテル資源の輸送か見張りか何かだろうとタカをくくって応募しちまったんだ」
「その後、ハルトマンの部下が労働者たちをホロウに連れて行った。最初は連れてかれた場所には、何やら特別そうな箱がおかれていたよ。到着後、奴らから、俺たちのエーテル適性を高められるという錠剤を渡された。ホロウでより長時間活動できるようになると言われたんだが....」
「きっとあの薬は、やばいやつだったんだろう....飲んだ後のことはよく覚えてない....意識が戻った時、別の労働者が目の前で死んでて....俺の手には血がついていた....そして奴らに言われたんだ、俺はとてもいい実験体だと.....それで別の場所に閉じ込められて、また他の薬を注射しようとしてきた。俺はもう、どうなるか恐ろしくてたまらなかった....!」
「けど....場所を移された先で、金髪の男が俺の所へやって来た。『キャロット』を渡して、俺に立ち去るようにいってくれたんだ。それで俺は逃げ出したんだ....人殺しになるなんてまっぴらごめんだ。けど、わからない。もしかしたらおれはもう....」
と、震え始める男性をビビアンが落ち着かせる。
「あなたの周りで起きた死は、あなたのせいではありません。ただ、彼らに利用されただけにすぎないのですから。最初に彼らがあなたを連れて行った場所をおぼえていますか?そして、箱の中身をあなたは見ましたか?」
「最初は.....屋上のような場所だったことだけ覚えている....やけに高い建物にいるような感じだった....けど、箱の中に何が入っていたのかは...覚えていない....嘘じゃないんだ!やつらが飲ませてきた薬で幻覚が見えるようになった....たったの一錠で意識が自分のものじゃないように感じて....記憶も途切れ途切れになってしまったんだ。責任逃れでデタラメを言っているワケじゃない、本当に覚えていないんだ....何が起こったのか....」
「ええ、わかっているのです。あなたは噓なんてついていません。あなたを守るよう人を手配しますので、安心して休んでください。ご家族にも、手は出させないのです。これが終わったら、きっとご家族と再開できるのです」
ビビアンは、ライカンへ連絡を取り、ヴィクトリア家政に市長の名のもと男性を保護し、その存在を公表しないことを約束した。
やがてリナさんが男性を引き取りに現れ、市長の意向を伝えてくれた。男性の説明を元に、彼らが集まっている場所を確認するつもりらしい。
「ふう....」
「前から言おうと思ってたけど....ビビアン、あんたってこういうときもすっごく肝が据わっているよね。ぱっと見の印象とは大違いっていうか....」
「最初からこうだったわけではないのです。かつてのわたしは、何かにつけて逃げることばかり考えていました。一度は、自分のすべてを投げ出したいと思ったことさえあります。わたしの存在そのものが、痛みの根源のように感じられて....いっそこの世界を離れてしまえば、もう痛くないのではと」
「そんなビビアン、あんまり想像できないかも...最初に会った時はオーラが強烈で、なんかもう怖かったし....」
『たしかに...なんか強者感出てたな』
「あの時わたしは、オークション会場で任務の真っ最中だったのですから。それにレインも言ってくれたように、この数年で私はずいぶん成長したのです」
と、自信が付いた言い方でビビアンは言う。
「レインっていえばだけど、ほんと奇遇だよね!まさか私とビビアンに共通の知り合いがいたなんて....それに1ディニーボンプ*1まで知ってるんでしょビビアンがもしかしたら私とビビアンって、もう何度もすれ違ったのかもね」
「でしたら....パエトーン様、タンザナイト様、是非聞かせてはいただけませんか?あなたが今までどこへ行って、どんな経験をされたのか....」
「今まで、かぁ....思い返してみると、色々あったなぁ。私とお兄ちゃんが初めてタンザナイトと出会ったことから考えると.....」
『邪兎屋のメンバーが『アレ』を分捕ったところからがいいんじゃないか?』
「うん...それがいいかもね!」
そうして、ビビアンと一緒にルミナスクエアの川辺を歩きながら、かつてあった数々の事件について語らった....