side タンザナイト
外へ出てみると、そこには紺色の髪をした白いスーツを身にまとった人物が適当観のメンバー達と対峙していた。
「あなた方が....雲嶽山の誇る、神秘主義者の方々ですか。私は『ダミアン・ブラックウッド』。TOPS財政ユニオン傘下の特殊開発企業、『ポーセルメックス』の最高責任者を務めさせて頂いております」
と、そのダミアンが丁寧にお辞儀した....なんか胡散臭いやつだな。
「いやはや、雲嶽山が衛非地区を離れてからずいぶん経ちますが....そのご帰還という折に、私の管区で飛行船事故などと。まことに遺憾と言わざるを得ません。時に、メイフラワー市長と提携していらっしゃるというのは本当でしょうか?この度衛非地区に舞い戻られたのも、市長の御意向あってのことだと....」
「ああ。メイフラワーからの依頼で、ラマニアンホロウの調査に来た。正式な委任状は、後ほど弟子に送らせよう」
「成程、成程...しかしですね。ラマニアンホロウの状況は、いささか特殊でございまして。生産エリアには、我がポーセルメックスの所有する輝磁の採掘・加工設備があるのです。トラブルを避けるためにも、無用な立ち入りはご遠慮いただきたく....なにせ....輝磁の安定した生産と供給を保証することが、私共の役目なのですから」
安定ね.....でもさっき、福福さんと来た時、労災のことでもめてたよな?
そんなことを思っていると、福福さんが代わりに言ってくれた。
「安定?でも、さっきは街に出た時、ホロウで労災があったって聞きましたよ!ひょっとして、無茶で危ない採掘とかしてたんじゃないですか?何かあってからじゃ遅いんですから!」
「そうだ。弟子の言う通り事故があったのなら、ホロウへの影響も懸念される。我らも雲嶽山も調査に介入すべきだ」
「....労災ですか。ええ、確かにありました。しかし私共は既に、規定に基づいて鉱区を封鎖し、労働者の救助および損害の補填を行っています。安全の懸念がある以上、やはり現在の輝磁生産エリアには立ち入るべきではない...改めて申し上げておきます」
「そして最後に。言うまでもないかもしれませんが――輝磁資源は、TOPSユニオンにとって最も重要な産業の一つです。雲嶽山であれ、誰であれ....深入りすることはおすすめしかねます」
『随分と圧をかけるんだな....』
「――っ!あ、あなたは....」
と、俺がぽつりと話に入った時、ダミアンが驚く。
....ん?なんか俺にようか?
「これはこれは...まさかあの最近エーテル商品で絶賛急上昇中の『ラピス研究社』の最高責任者である『タンザナイト』ではありませんか!まさかここで出会うなんて思いもよりませんでしたよ」
『は...はぁどうも』
「まさか、あなたが適当観に居るとはなんという偶然....こちらは私の連絡先となります。では本日はこれにて失礼.....」
そう言って、ダミアンの連絡先を残し、なんか心なしか上機嫌で適当観を去った....なんだったんだ、あいつ。
『....なんかあいつ、やけに上機嫌じゃなかった?』
「たぶん、タンザナイトと縁ができたと喜んだんじゃない?だってあの人TOPSの企業だし...」
「ってそんなことより!た、タンザナイトくん、あなた社長さんだったんですか!?しかも『ラピス研究所』っていえば最近あたしのトリートメントでよくお世話になってる奴じゃないですか!!」
『まぁ形式上、俺がその役割になっているが....まさか、TOPSと対面するとは....うむ、困った』
TOPSの件について散々嫌というほど見てきたからな...ハルトマンとかハルトマンとか...
「そのことは追々聞くとして....福福、お前さんさっき労災と言ったな。具体的にはどういうことだ?」
「お弟子ちゃん達と適当観に戻る途中、偶然聞いたんです。労働者の人達が、賠償金の支払いを催促してて....」
「ああ、俺も聞いた!この辺の労働者たちの間じゃ、その話でもちきりだ!なんでも、ホロウ内の輝磁生産エリアが侵蝕の被害にあったそうだが....はっきりとしたことは、聞いただけじゃわからなかったな」
「うん...ラマニアンの観測データに異常があるってことだし、そこへきて輝磁の生産エリアに問題でしょ?関係がありそうな予感だね」
なんだか段々ときな臭い感じがでてきたな....
「慧眼ですね、お弟子さん。なにごとも....隠そうとすればするほど、却って露呈するものですから。これで僕たちとしては、ますます輝磁の生産エリアにいかねばならなくなったわけですが....ダミアン氏の口ぶりからして、簡単には入れてもらえそうもありませんね」
「リン、お前さんの技術で生産エリアの位置は特定できそうか?」
「それがね....さっき話してたんだけど、ラマニアンホロウの観測データ異常のせいで、H.D.Dのリアルタイム演算が使えないの。お兄ちゃんが現地まで来て調整しないとダメそう。だから師匠、お兄ちゃんにはなるべく早く来てもらわなきゃ。あと、できるだけ安全な方法で」
「心配には及びません。今しがた、ダミアン氏に市長から委任状を送り正式な調査協力を求めました。手続き上、僕たちは正式な協力関係にあります。TOPSが何かしら小細工をしたくとも、慎重にならざるを得ないでしょう」
と、釈淵さんが眼鏡を少し上げながら言った。し...仕事が早すぎる!
「それに....どのみち僕たちの行動は筒抜けですから。わざわざ飛行船に乗る必要もないでしょう、車で高速を使った方がいくらか安全です」
「高速も事故らないわけじゃないけど....ま、飛行船よりは安心かな」
「.....あっ」
「どうした福福?」
すると、福福さんが何かを思い出したか呟いた。
「安全と言えば....お弟子さんの力で送って行けば車よりも速くて安全にいけるのでは?」
『あっ.....』
その場にいた全員が声が漏れた....そうだった、忘れてたわ。
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side リン
タンザナイトがお兄ちゃんを迎えに行ってる間、私と別々に分かれて聞き込みを開始した。
すると、パロという人物が詳しいと知って早速会いに行くと―――なんか赤と黒のツートン髪のシリオンが話しかけてきた....な、なんか怖い....
「アンタよぉ....さっきからうろちょろしやがって、何が狙いだ?ああ?」
「き、きっとポーセルメックスの刺客ですよっ...!だから言ったでしょう!彼らが僕たちを許すわけないって!」
「ちょっと黙っとけパロ。メンチ切ってる最中だろが....もっかい聞くぞ....何が狙いだコラ。喧嘩売りに来たってんなら買ってやるよ。とっととこの顔面に一発ぶち込め!」
と、シリオンの人がせかすように言う....ん?ぶち込め?ぶち込むぞじゃなくて?
「えっと....自分から殴ってってお願いしてくるの、結構レアだね...?」
「アンタらのやり口だろうが。こっちが手ぇ出したくなるように揉めさせといて、いざ殴られたら被害者ぶって訴訟だ賠償だと....とっくにお見通しなんだよ。ぜってぇ先に手は出させねぇ!」
「オラ、やれよ。先攻はくれてやるって言ってんだ...けどわかってんだろうな....一発入れたら、そっからは『正当防衛』だぜ」
な、なんか勘違いしてるから急いで訂正しないと...!
「落ち着いて、ポーセルメックスの人間じゃないよ。私はリン、適当観から派遣されてきたの。ただ知りたいことがあって...」
「どっから来たって...?え、適当観!?その...えーと、何が知りたいんスか?」
適当観の名を出した途端、急にメンチ切るのをやめ、普通にもどった。
....さっきのことが嘘のように消えたね。
「中で事故が起きたって聞いて、ラマニアンホロウの状況を調べに来たの。でも、当のポーセルメックスが何も教えてくれないから具体的なことが全然わからなくて。とにかく、私はTOPSと関係ないから!」
「....そっちも、ポーセルメックスに手を焼かされているクチってわけか。すんません、早とちりしちまって.....自分は狛野...『
と、誤解が解けた真斗が事の発端を説明してくれた....なんか見た目だけだったね。怖さが。
「アンタもこの件を調査してくれんなら、きっと助け合える」
「びっくりした....ついにポーセルメックスが刺客を送り込んできたのかと思いましたよ...君も侵蝕事故を追っていたんですね」
「侵蝕事故?事情を知ってるみたいだね。詳しく教えてもらってもいい?」
「それはもちろん...なにせ僕は、病気になった人と同じチームにいたんです。侵蝕症状が起きるのを、この目で見ました....」
侵蝕症状?....それっておかしいな。
そう思い、私はパロにそのことを聞いてみた。
「輝磁を生産してた人に侵蝕が?でも...ホロウで作業してたのに耐侵蝕措置とかなかったの?」
「はい...長時間のホロウ内活動にあたったは、防護服の着用と耐侵蝕薬の服用という規定があります...ただ....僕たちホロウで働くことを厭わない人間は、そのほとんどが旧都陥落のときに侵蝕を患って、侵蝕緩和剤による長期的な治療が必要です」
「僕たちがこうして身を粉にして働いているのも、ポーセルメックスから緩和剤の支給があるからだったんですが...どうも今回、その緩和剤に問題があったようです。薬を飲んだ同僚がすぐにバタバタと倒れて、中にはそのまま侵蝕の発作が起きた奴まで....彼らを病院に運ぶだけでも大変でした」
「なのにポーセルメックスは何て言ったと思います?彼らはすぐに緘口令を敷いて、他言無用だと言い放ったんです!いつもお世話になっているロア先生から、薬に問題があると聞いたのはその後でした...ひどい粗悪品らしくて、あの悪徳企業....僕たちの命なんてはなから眼中になかったんです!」
「そんなひどいこと...ポーセルメックスは、平気でやってたって言うの?」
もしそうだったら許せないっ!こんなことしでかして知らん顔するなんて...!
そう思った私の中の苛立ちが込みあがって来た感じがする。
「ああ。それにダミアンは事故の起きたエリアを封鎖したし、あそこは廃棄されたの一点張りでもはや近づくこともできません」
「とことんマズい感じだね...やっぱり何とかして、問題のエリアに行ってみなきゃ。ほんとは私ね、市長さんに派遣された調査員なの。目的は、ホロウの中で何が起きたのかハッキリさせること。協力してくれたら、きっと私たちも力になれるよ!それこそ、充分な補償を勝ち取ってあげるお手伝いとか!」
「そ、それは....」
「市長の、調査員だって?こりゃチャンスだぞ、パロ!ここで賠償金が勝ちとれりゃ、あんたの家族も侵蝕の治療ができるかもしれねぇ!」
「そう、ですね...うん....雲嶽山の先生方には、旧都陥落の時もずいぶんお世話になったことですし....分かりました!ホロウ内にあるロープウェイまで来てください。こっそり乗せてもらえるよう、同僚には頼んでおきます!」
やった!どうやらうまくいきそう!
「僕では侵蝕エリアの中までお連れできませんが、助けてくれそうな人を知っているんです。それに、彼なら今回の侵蝕事故についても詳しい!」
「本当?ありがとう!安心してね。この件、必ずはっきりさせてみせるから!」
「おし....自分にできることがあったら、何でも言ってください。本気でやります!」
おっやる気十分だね...それなら―――
そう思い、私は先生の写真を取り出す。
「それなら、もう一つ聞きたいことがあって...この写真に写ってる人、衛非地区で見かけていないかな?それが、撮影場所だけでもわかったらありがたいんだけど....」
「うーん、僕は見かけたことないですね....場所についても、ホロウの中らしいということしか...」
「すんません、自分もちょっと....けど顔が広いダチがいるんで、聞き込みしてもらいます!」
「そっか...二人ともありがと。他の人にも聞いてみるね!」
そうして、私はこの場から去って師匠たちと合流しにいった....