side タンザナイト
アキラを無事に連れてくるのに成功した俺は師匠たちと合流した。
「タンザナイトのおかげで、何事もなくスピーディーに来られたよ」
「やっぱり便利だねそれ...」
『んで...俺が迎えに行ってる間、何か情報は聞けたのか?』
「すいません、おれんとこはボウズで....」
「あたしもですぅ....ポーセルメックスがしっかり緘口令を敷いてるみたいで、何があったかだ~れも教えてくれません!ホロウにあるロープウェイも行ってみたんですけど...どさくさに紛れて入るのは、ちょっと無理がありそうでした~....」
『さすがTOPSの人間....付け入るスキがねぇな』
しかしそうなると、ますますホロウに入ることが難しくなってしまうな....うーむ....
と、皆が考えていると、リンが『心配ない』とかけながら言う。
「大丈夫。労働者さんたちと話して、助っ人を見つけたよ。ホロウの中まで連れてってくれるって!」
『おお、マジで!?』
「うん、それに....その人、労災の現場にいたみたい。TOPSが支給していた侵蝕緩和剤が原因で、侵蝕症状を起こした労働者がいっぱいいたんだって」
「なんだって?それはひどいな....」
「なるほど...だからみんな賠償金じゃなくて、医療費も欲しいって言ってたんですねっ」
と、福福さんが納得した様子で言う。
「リン、その情報は確かか?」
「もちろん嘘をついているようには見えなかったけど...現場を調べないことにはなんともだね。そういえば、こんなこともあったよ。その人、私が適当観から来たって言ったら、急に親切にしてくれたの。昔助けてくれたからって....」
「ああ、まさに昔のことだ」
リンの言葉に師匠は過去のことを話し始めた。
「旧都が陥落したあのとき、雲嶽山は山を下りて、住民の避難を手伝った。当時生き残った人々は、衛非地区にも移り住んでいる。もっともそれを境に、我らが適当観を訪れることはあまりなくなったが....そうか....あれからずいぶん経つが、まだ覚えてくれている者もいるのか」
「そうだったんだ...」
雲嶽山にそんな過去があったんだ.....知らなかった。
―――あれ?でも...
『なんでここに来なくなったんだ?適当観の周りも居心地よさそうだが...』
「あー、コホンコホン....!ちょっと話題を変えませんかっ...!?」
「そ、そうだそうだ!ホロウに行く前に腹ごしらえしておかないか?よし、ちゃちゃっと作ってくるかぁ!」
「取り乱すな阿保。昔のことだと言ったろうが。いずれ機会があれば、彼女たちに話すさ」
と、露骨な話題を変更する福福さんと引壺さんに喝を入れる師匠。
....なんか触れてはいけないやつだったか?
「さぁ、今は調査に集中するぞ。リン、お前さんの友人とやらが、ホロウに案内してくれるのはいつになりそうだ?」
「明日の朝から動くって約束したの。集合場所はロープウェイのとこ。ラマニアンホロウの観測データに異常が出てて、H.D.Dシステムを調整しないとリアルタイムでの解析ができないけど....お兄ちゃんが何とかしてくれるって」
「まかせて、なんとかしてみせるさ」
「だから、明日ホロウに入るときはなんとか間に合わせるよ!」
「そうか...わかった、お前さんに任せたぞ。もう遅くなってきたし、お前さん達もとっとと休め。明日は朝イチでホロウだぞ....そうだ、リン、タンザナイト」
ん?師匠が俺たちを呼んだけど...何だ?
「後で時間があったら、私の所に来い、話がある」
『話...?』
そう言われ解散し、辺りが暗くなってきたころ、リンと共に師匠の所へ向かった.....
「来たか」
『師匠、こんな夜中に何を?』
「リン、タンザナイト、この間話したろう。お前さん達の潜在能力を引き出し、雲嶽山の術法をいくつか教えてやると.....覚えてるか?」
「おお!もしかしてその儀式的な!」
「ああ、時間があるなら、今から始めよう」
『俺はいいぞ』
「私も!師匠、私達は何をすればいいの?」
一体どんなものなのかワクワクしてる中、師匠が説明をする。
「我ら雲嶽山の術法は様々な流派があるが、もとを辿れば、全てエーテルを操る術だ。コツを会得するには、エーテルの周波数を感知し、共鳴できるようになる必要がある....そのためには全身の経穴....ツボだな。そこを整え、体内にある経路の流れを良くしてやる必要がある」
『ツボ...マッサージ的なものか?』
「雲嶽山の正統とされる文献によれば、元々は香を焚いて身を清め、吉時を待って儀式をやらなければ成功しないものだ、が....古書をいろいろ紐解いてみると、少しくらい端折っても大丈夫だとわかってな。時間と場所、方角さえきちんとしておけばいい」
「そうなんだ!さっすが師匠....」
言葉だけでも工程がめんどくさいのにそれを短縮できるなんてすごいな....
「場所はもう選んでおいた。善は急げだ、今すぐ経路を調節しに行くとしよう」
そうして、師匠に案内されたまま、決められた時刻に、指定された静寂な場所にやってきた。そして師匠の指示通りに、足を組んで座り、目を閉じて呼吸を整えた。*1
師匠はそっと、背中に手を当ててきた。触れ合った瞬間、優しい暖かさがゆっくりと体内に流れ始める....夜の静けさの中、まるで時が止まったかのように感じた。
「よし、これでお前さんの経路は整った、今ならエーテルの周波数を感知できるだろう。雲嶽山の術法は、次にホロウに入ったら教えてやる。会得できるかどうかは、お前さんの素質次第だが....なに、焦ることはない.....会得するまで付き合ってやるさ」
「本当!ありがとう師匠!」
「そしてタンザナイト...お前さんの場合、ちと
『えっマジ?』
「むしろ電気とか空間が術法では....?」
「だが、いままでの力をいつもより
『ん?そうだけど?』
「今までだと、補充でしか使ってないが、経路が整ったことで新たにエネルギーの収納ができるようになったはずだ」
「エネルギーの収納....?」
「まぁ簡単に言えばスマホの『もばいるばってりー』みたいな予備充電だと思えばいい、余分なエネルギーをいざという時の為に取り込む能力だ」
『おお、これならガス欠にならずに済むかもしれないな!』
これ、ト●コの『食没』みたいな感じだよな....
「術法の一種ではないが、様々なものに応用できる実用的な技だ。細かいところは、お前さん達自身で徐々に会得していけばいい。しばらくは経路の変化を感じ取ってみろ。私も待っててやる」
『「ありがとう師匠!」』
師匠は呼吸を整えながら静かに見守り、リンと一緒に師匠に感謝した。
すると、リンがパッと何か思い出す。
「そういえば、お兄ちゃんにも術法を教えてくれるの?こうやって経路の調整もして....」
「ああ、同じことを改めて教えてやる。そういえば....お前さん達は実の兄妹だったな、ずいぶんと仲がよさそうだと思っていたんだ」
「そうだよ。たまーに喧嘩もするけどね。私のプリンをこっそり食べたり、在庫の補充でつまんないアート系の映画を仕入れようとしたりして....まぁそういうことがあっても、なんだかんだ許しちゃうんだ....兄妹だから。同じように兄妹がいる人ならきっとわかってくれると思うんだけど」
「ああ。私にもよくわかるぞ」
『ってことは、師匠にも兄妹がいたのか?どんな人?』
師匠に兄妹のことを聞くと、何かを思い出したようで、顔にかすかな哀愁が浮かんだ。
「『いた』、というのが正しいな....ただもう全部過ぎたことだ」
あっ...(察し)、過去形ということはもう...
『えっと...その、ごめん....』
「構わないさ、私にとっても宗門にとっても、昔のことだからな。お前さん達が私の弟子になった以上、話しておかねばならないこともいくつかある。とはいえ、今じゃない」
と、咄嗟に謝ったことを許す師匠。
「もう時間も遅いし、明日はホロウの調査がある、早めに休んでおけ。お前さん達の経路は、後でもう一度くらい整えてやる必要がある。その時にまた声をかけよう」
「うん、師匠も休んでね!」
師匠に言われたまま、先にその場を去ることにした。1人になった彼女は、物憂げな表情でその場を歩き回っていた。
ねじれポイント
いつもよりアキラが到着する。