side タンザナイト
「ゴホッゴホッ.....ゴホッ!」
『....大丈夫か?』
師匠が戻ってきて早々、ふらついて倒れそうだったので、上半身だけ『
『いったい何があったんだ...俺がいない間に....』
「...そうだな、話せば長くなるが....」
師匠を近くまで運び出し、ふとんを敷いた後話してくれた....侵蝕症状が大量に出始めたこと、術で人々の侵蝕症状を治したこと....だが、今師匠がこうなっているのは恐らく....
『話はわかったが....今その状況になっているのは、その皆を救うために使った術法の副作用か?』
「....そうだ。先ほどの術法は、エーテルを己の体内に吸収するものだ。当然、副作用は避けられない」
『なんだと...!それは俺と同じ力....だがそれはエーテリアスだからこそ出来た技。それでは師匠の体は今....』
「....我が雲嶽山の術法は、大抵このようなものだ....強力な術法ほど、リスクも大きい。結局のところ....世を救い、人々を助けるということは決して容易なことではないからな。お前さんも身を知って分かっただろ?」
『.....』
それは...俺がミアズマによって暴走した時のことか....
「ミアズマに当てられるたびに、私は何度もあの日のことを思い出した。ホロウが拡がり、都市が崩れ去ってゆくなか....私がホロウに飛び込んだ頃には、兄弟子も姉弟子もみな救助の傍らで犠牲となったあとだった」
「彼らが人知れぬところで、ぽつりぽつりと倒れていた。慣れ親しんだ面影をとどめないほど血に塗れてな....そして、宗主儀降はホロウの中にいた。儀降は....彼女は、私の姉でもあったんだ」
『姉だと...?先代宗主が?』
「ああ。姉様は使命を果たすため、あらゆる力を使い果たし....私の目の前で死んだ」
それは....とても辛かったろうに...
すると師匠は苦しそうに咳を吐き出す。
「ゴホッ....ゴホッ....」
『し...師匠!』
「...ミアズマに侵蝕されて以降、この冷たい記憶の断片が頭から離れなくなってしまってな」
『そうだったんだな....待ってろ、今俺が治療して....』
「よせ....いくらお前でも、この体内に残るエーテルは病み上がりのお前では対処できない....」
『じゃあ...だったら、このまま師匠が苦しんでいるのを黙ってみてろと言うのか!』
「.....ふっ、もしあの頃、お前のような門下生を迎えることが出来たら、今とは違う未来は変わっていたのかもしれんな...」
『師匠....』
横になって寝ている師匠を目にして、俺は強く拳を握りしめた....クソッ.....俺がミアズマを何とかすれば助けられるのに....!
「....ひとつ昔話をしよう」
『...昔話?』
師匠の口から、語られたのは....師匠とその姉の話だった。
師匠とその姉はかつて、街をさまよう孤児だったらしい....ゴミ箱を漁り、物乞いをして生き延びてきた。それでも、最も辛かった時でさえ、師匠たちはお互いに見捨てたりしなかった。
二人でまともに生き延び、共に太陽のもとで世界を見ようと約束していたらしい....だけど、師匠の姉が雲嶽山の門をくぐってから、何もかもが変わった。全ては、『青溟剣』と呼ばれる武器によって....
それは雲嶽山に伝わる秘宝らしく、代々の宗主に受け継がれていく決まりとなっており、短時間ではあるが、使い手に凄まじい力をもたらし、その能力は虚狩りに匹敵するともいわれる物凄い代物。とりわけ優秀な使い手であれば、一時的にその限界を超越するようなこともできるのだが...そんな強力なものには当然デメリットが存在する。
それは....濫用すればするほど使い手の記憶や五感を消耗させ....果てにはその命までも奪うそんな危険な代物だったのだ。現に師匠の姉も、やむを得ない任務からこれを使い続け、心身ともに弱り果て....最後は息を引き取ったらしい.....重い、重すぎる!クラ●カの『
やがて、師匠の姉が宗主となり、あの剣を受け継いだ日....師匠たちはもう一つ約束をした。けして、前の師匠と同じ轍は踏まないと...そうして彼女と道術の研究を始めた。『青溟剣』の代償を抑制する....『青溟鳥』の術を。
最も、師匠の姉は宗主の身であり、日を追うごとに忙しくなっていったが、それでも符文の一筆一筆を共に書き入れ、『青溟鳥を傍に置いておけば、それは姉様が傍にいるのと同じだと』そう言い、改めて約束する....『たとえ誰かの命を救うためであったとしても、自らを犠牲にするようなことは厳に戒める』と....だが旧都陥落の日、師匠の姉は約束を破った....
そこからの師匠はどこか悲し気な表情を浮かべながら、旧都が陥落したあの日の出来事を語り始めた。
「旧都陥落時、姉様はエリー都の人々を災害から死守すべく『青溟剣』を抜いてしまった。私が駆け付けた時、彼女は虫の息だった。それでも彼女は命尽きるその瞬間まで、青溟剣を繰り続けた」
「私は....そんな姉様をただ見ていることしかできなかった。使い手が死に、暴走した『青溟剣』の力はあたり一切に及び.....私の記憶にもいくらか影響を残した。思い出せる最後のことは、こちらを見つめる姉様が茫然と放った一言だけ―――『あなたは、誰?』.....姉様は...かつて姉様だったその人は、もう私が誰かも分からなくなっていた」
『そんな....』
これは、とてもショックだっただろうな....たった一人の家族に.....
「ミアズマに当てられると、私はこの断片的な記憶を繰り返し思い出す。姉様はいつも虚ろな眼差しで私を見つめ、今にも消えそうな声で私が誰なのか繰り返し問いかけるんだ。彼女の言葉には、
「今でも私は思い出すたびに
『師匠....』
「だが最近衛非地区に舞い戻り、ここで暮らす人々を見た時、ふと気づいたんだ。誰もが必死にもがき、懸命に生きている...たとえぼろを纏っていようと、その顔には笑みと希望がある。彼らこそ、姉様が自分の命と引き換えに守ったものであり....そして彼女が、私との約束よりも優先したものなのだと。その理由にまだ納得はいっていないが....今はただ、そんな彼らに、
『....師匠...!』
俺は師匠の思いを聞いて、己の心を奮い立たせる。
そうだ...俺は....俺は!ここにいる、大切な人々を守りたい!大切な人々の笑顔のためにも.....これ以上、大切な人々が悲しみの涙を浮かべて欲しくない!
だから俺は....強くなると心に誓ったんだ!!誰も悲しませないためにも、誰からも犠牲にさせないためにも.....俺が、俺自身が!この世のひん曲がってるとこやネジ曲がっているところも受け止めて、人々の明るい未来を作り出すんだ!!
「....どうやら、己自身の心が決まったようだな....ゴホッ....」
『....ああ。だがその前に師匠....俺を、信じてくれないか?』
「ゴホッゴホッ....何?」
『上手くいけば.....今も苦しんでいる人たちを助けられるはずです』
「...本当か?」
俺は心が入った声で師匠に言い聞かせた。
ねじれポイント
師匠の過去編はだいぶ先だったけど、タンザナイトにしか言ってないからまきで来た。
おや?タンザナイトの様子が?