side リン
師匠が戻って行くのを見守り、私達は休んだ後、師匠とタンザナイトを抜いて、エリックさんに話を聞いてみることにした。
「お弟子ちゃん、エリックさんを見つけてきました。それと....パロさんのことも、もうお伝えしてます」
「みんな....騙されてたんだ。もうどこも、ポーセルメックスの薬が悪いって噂で持ち切りだ!町であった騒ぎも、全部そのせいだと思われている!それもその精々また労災が起きたか、って程度のもんで.....くそっ....讃頌会なんてのが暗躍してるなんて、みんな夢にも思っちゃいない....!」
「やっぱり...讃頌会は、ポーセルメックスを悪者に仕立て上げようとしてるんだね。こうなってくると最初の侵蝕事故も、あいつらが薬に細工をしてたように思えてくるね....エリックさん、あなたは互助会の責任者でしょ?エリックさんの口からみんなに説明してもダメなの?」
「それが....俺はもう互助会の連中を制御できないんだ。構成員は好き勝手人を集めて、ところかまわず抗議をぶちあげようとしてる....!」
エリックさんは困ったように言葉を返した。
――ええっ!?どういうこと!?
「さっきも連絡してみたんだが....何度か鼻で笑われたあげく、そのまま電話を切られちまった!」
「そんなぁ!ほ、ほんとに責任者なんですよね....?」
「どうも妙ですね....エリックさん。もしかすると、互助会の構成員は、あなたを除いてすべてロア先生側の人間だったのかもしれません。いうなれば、あなたは彼らに祭り上げられた神興....ポーセルメックスの身元調査をかわすための、偽りのリーダーに過ぎなかったのかと」
釈淵さんの説明に私は納得する....ロア先生の影響力を見る感じ、讃頌会は相当な数のスパイを送り込んでいるもん。
「そんな馬鹿な....俺達みんなは労働者のため、賠償を勝ち取るために、一丸となってポーセルメックスと戦おう、そう誓い合ったのに....何もかも、あのカルトじみた連中に利用されたってことか.....!すまねぇパロ、みんな...!俺は、俺はなんてことを....!」
と、エリックさんは拳を握りしめ、悔しさで顔を歪める....
「エリックさん、しゃっきとしてくださいっ.....!ご自分を責めちゃいたい気持ちは分かりますが、まだあの人たちは生きてます!だからみんなでこのピンチを何とかしましょう!互助会の動きで、何か新しい情報はないですか?」
「あ、ああ....互助会は今夜にでもみんなをホロウを集めて、大規模な抗議デモについて話し合うらしい」
「ホロウで集会って、そんな...ロア先生は今までも、治療だって言って患者をホロウに行かせてたんだよね...?もしかしたら、また誰かを生贄にしようとしてるんじゃ?」
「福福もそう思います!きっと追悼とかなんとかいって、皆を焚きつけるだけ焚きつけて.....沢山人を集めようするに決まってます!」
「だめだだめだ!そんなこと、絶対にやらせちゃならんぞ!」
タンザナイトも師匠もいま無理だし...どうしよう.....そんな中、突然電話が鳴り出した....出で見ると、意外な人物が話しかけてきた。
「どうもどうも皆様....たいへんお久しぶりです」
「あれぇ、ダミアンさんじゃないですか?」
「事の次第は既に聞き及んでおります。本来直接お伺いすべきなのですが....なにぶん、いま弊社と私は文字通り
「目下がこうなってしまった以上、私ごときに風説の流布を止めることは難しいかもしれませんね....それに今しがた、ホロウ内に設置していた侵蝕緩和剤の供給地点が、何者かに破壊されたとの情報が入って来たばかりです」
十中八九讃頌会の仕業だろうね.....あらかじめ緩和剤の供給を断っておけば、今夜の集会で皆を『解脳水』漬けにできるもん
「風説の流布にはもはや対処しかねますが...地区内でこれ以上の医療インデントを予防すべく、侵蝕緩和剤を緊急配布することは可能です。そこで大変ぶしつけなお願いなのですが....緩和剤の供給地点を、適当観の傍に設けさせていただくことは可能でしょうか?少なくとも、それで
「つまり、薬の配布を私達に見張っててほしいってこと?」
「ええ、ご安心ください。緩和剤は市政当局から供給されるものを、市民全員に無償でご提供したく。これに生じるコストや損失は、すべてポーセルメックスが全額負担させて頂きます」
「侵蝕緩和剤を無料で!?すっごい大盤振る舞いですね...!でもこれなら、みんなあたしたちの話を聞いてくれるかもしれません!」
「そうだな!急いでみんなに呼びかけよう、そしてそのついでに真実を伝えるんだ!」
「じゃあ決まり。また街で騒ぎが起きないように、今夜は私たちが緩和剤の供給地点を見張るね。それと、ホロウの集会も阻止できる方法をなる早で考えるから」
「では、適当観の先生方各位....何卒よろしくお願いします」
そうして、私達は衛非地区の人達に緩和剤を渡し続け、お兄ちゃんの所へ戻って来た。
何か進展があったかな?
「リン、お帰り。メモリディスクにあったデータを分析してみたところ、『解脳水』を飲んだ人たちと、飲んだ時間を記録したリストがあった。そこで、リストの名前と街で侵蝕症状がでた人たちを照会してみたんだけれど....どうも、最初に解脳水を飲んだのがその人たちだったようなんだ」
「街中で一気に侵蝕が起きたのは偶然なんかじゃなく、あえてそうなるように仕組んでた....ということにならないか?」
「やっぱりね....!あれで皆を不安にさせて、抗議の輪に加わる人を増やそうって魂胆だったんだよ、きっと」
「それだけじゃないんだ、ロア先生が薬を卸した記録を見てみたけど....最初に起きた生産エリアの侵蝕事故も、彼が薬を汚染したせいだったということがわかったんだ。あれは、今回の為の予行練習に過ぎなかったのかもしれない」
最初から自作自演だったってわけだね....許せない!
「それと、資料の中にホロウデータの観測地点が座標で示されていたのだけれど.....市長さんが、観測データ異常のことでくれた座標があったろう、あれと合わせてみたらぴったり一致したんだ。おまけにミアズマが
「なるほどね。讃頌会は最初っからホロウの中で何かをこっそり進めてた....おまけにミアズマの力を借りて、
と、私は怒りで握りこぶしを作る....急いで止めないと!
「お兄ちゃん!ミアズマの異常があった地点、今どうなっているか調べられる?そこに讃頌会がかくれてるかも!」
「ああ、僕も同じことを考えていた。すべて調べた上で、怪しい場所に目星をつけておいたよ。そこまでいければ、讃頌会の尻尾を掴めるかもしれない」
さすがお兄ちゃん!よし、なら早速皆を呼ぼう。絶対に逃がさないんだから!
「ありがとねお兄ちゃん、今回も大助かりだよ!今すぐみんなを呼んでホロウの中で確かめてくるね!」
そうして、急いでみんなを集め、今の状況について説明した。
「ええっ!あの悪者たちの隠れ家、みつかったんですか!?やった!これでやっと本丸に突撃して、こてんぱんにしてやれるんですねっ!」
「よくやってくれましたね、お弟子さん。あなたに計画を任せたこと....まさしく師匠の目利きが確かであったと言わざるを得ません」
「おうよ!本当のことが分かった今、あいつらを徹底的に懲らしめる時だ!」
そうだね....だけど――
「師匠とタンザナイトが一緒に来られないのだけが残念....それに、誰かが傍に残ってた方がいいよね?釈淵さん、このまま適当観で師匠とタンザナイトとお兄ちゃんの護衛をお願いしてもいい?」
「いささか多い気がしますが....ええ。共にあの恥知らずたちに教訓を与えてやりたいところですが...他ならぬお弟子さんの頼みです、ぼくが残りましょう」
「安心してください!釈淵さんの分も、あいつらをボコボコにしてきますからっ!」
気合十分!その勢いで私たちはホロウの中へ向かっていった。