side タンザナイト
朝、波の心地よい音共に目覚め、テレーゼの所へ行き、挨拶にいった。
「タンザナイト、おはよう!よく眠れた?」
『おう、ばっちり!』
「ゆっくり休めたみたいで良かった!海辺ならではの癒しと心地よさを、来てくださったすべてのお客さんに感じてもらえるように...それがリゾートの存在意義なの!そうだ、柚葉とアリスがフェスのステージ近くで準備してるよ。今は特に急ぎの用事もないし...あなたも興味があるなら、見に行ってみるのはどうかしら?」
『そうか?なら行ってみるよ』
「どういたしまして!正直なところ、アーノルドさんが招待した人たちのリストを見て、私もフェスを楽しみにしてるの.....」
『俺もだぜ』
そう言い残し、俺は柚葉達の所へ向かうのだった。
....着いてみると、会場やらなんやら本格的な所まで準備していた。結構大がかりだな....
「タンザナイトくん、おはよ!丁度よかった!アリスったらフェスのオープニングにクラシックを選んだんだよ?説得するの手伝って~!」
「クラシックだって会場の雰囲気を盛り上げてくれるのだわ!それに、幼いころからクラシックを習ってる私なら、アレンジも上手にできるもの!私たちのフェスなのだから、斬新なアイデアを取り入れるべきなのだわ!」
クラシックって...もっとこう、盛り上がるロック系のアレンジならいいかもしんないけど....
「....初めて会ったときはそんな風に主張することなんてなかったのに、いつの間に...わかった、でももうちょっとだけ考えさせて、とりあえず出演リストのチェックに戻ろう!」
『フェスの準備はどう?』
「一晩たっぷり寝たおかげで、今の私たちはやる気満々だよ~!今日は他のアトラクションの運営を真斗に任せてるから、私とアリスはフェスの準備に集中できるんだ!」
「アーノルドが相当な人気バンドや歌手に連絡を取ったのだけれど...タイムフィールド家の近況を知ってか、ほとんどの事務所には断られてしまったのだわ....それでも来てくれると言ってくれた人はいて、今朝の時点で十数組は揃ったから...タイムフィールドの名にかけて、このフェス――絶対に成功させてみせるのだわ!」
と、アリスが力強く言葉にする...相当張り切っているな....俺も頑張ろう!
「勿論だよ!でも、フェスを成功させるんだったら、やっぱクラシックで始めるのはちょっとね...ポップスにちょこっとクラシック要素を取り入れるならいいかも?でも、今日はまだやらなきゃいけないことがいっぱいあるし....」
『なら、俺も手伝おうか?』
「そう言ってくれると思ってた!けど、思ってるより大変かもしれないよ?疲れたらいつでもビーチチェアで日向ぼっこしててね~」
『ああ、そうするよ』
そうして、俺はフェスの準備を進めることにした。空間で荷物を移動したり、『加工』でモノを上に引っ張り上げたり、海辺で水遊びしたり...そうしている内に、いつの間にか空は夜の色に染まっていた。
「あら、もうこんな時間...私達ずいぶんのんびりしちゃったかしら?」
「でも、もうほとんど準備は終わったんじゃない?アリスったら、ちょっと焦りすぎだよ~?そうだ!これからリンちゃんと真斗を誘ってホラー映画でも観ない?船上バーで夜風に当たりながらさ~!」
『拒否します。拒否します。拒拒拒拒―――』
「何て速い拒否、そんなに嫌なんだ.....だが断る」
『えぁぁぁっ!?』
と、そんなことを言い合っていると、突然女性の悲鳴が聞こえた。
「きゃぁああああ――!!!」
「オ...オバケが、オバケが出たの!!!」
『なにぃ?』
「えっ...いま誰か....オバケが出たって....」
「....そうみたい。しょうがない、映画タイムは後回しだね....タンザナイトくん、アリス、何があったか見に行こう」
「え、ええっ?い、行くの...?本気...?」
『まぁ、所詮オバケと言っても子供だましのレベルの出来だろ....』
そう言って、オバケが出たと言われたところへ行ってみると...そこには人の形をしたブキミすぎる風船が浮かんでいた。
「あああああああれはなんなの!?」
『落ち着けぇ!!』
「あっちで何かあったっぽい」
「タンザナイト、柚葉、まって....」
次に見つけたのは、ぼんやりとした女性の肖像画が壁に飾られていた。な、なんだぁこいつはぁ....今にも不気味に微笑みそうなツラしてる絵だぜ....
「柚葉、あ、あああの絵―――!」
『だだだだ大丈夫だももも問題ない』
「だいじょーぶだよ、アリス、タンザナイトくん。ほら、ついてきて」
「うぅ....行かなきゃダメなの...?」
次に見つけたのは、逆さまに吊るされたボロボロの人形で、頭部が不気味に揺らいでいるように見える...
その時、背後から慌ただしい足音が聞こえてきた。リン、アキラ、狛野、テレーゼにエーゲ、そしてその他の仲間たちもみんな、この騒ぎに引き寄せられたかように集まってきた....
「なにこれ...こんなブキミなの、あったっけ?みんな覚えてる?」
「いや、記憶にねぇ...リゾートにこんな気味悪いもん置くやつがいてたまるか」
「僕もまったく覚えがない...とにかく撤去しよう。お客さんはかなり怖がっているようだし、なんだか僕も具合も悪くなってきた....」
アキラが撤去しようと手を伸ばしたものの――なぜか手は空を切った。何度もアキラは試してみたが、結果は同じだった....なんだと、この不気味なものは実態がないだと!
「どうして触れないの!?ここにあるのに!」
「あり得ないわ...きっと何かの冗談.....」
テレーゼも伸ばすが、その手は空を切るだけで、何もつかめなかった。それをみたお客さんは、みるみる真っ青になっていく。周囲のざわめきで、不安とパニックが伝染してるのがわかる....やばいな、このままじゃ――
「どうして...ずっとウィリスさんのデマだと....でも、実体が全くないってことは――」
「お嬢さん、落ち着いてください。お客さんの目の前です....責任者みずからあのことを認めてしまったら、どうなることか...!」
「....みんな、とりあえず落ち着いて。まだ結論をだすには早いよ、できることからやってこ。真斗、周りのお客さんをよろしく。落ち着かせて、ホテルか安全な場所に移動させて。エーゲさんは、テレーゼを部屋に連れてってあげて欲しいの」
「ああ、まかせろ。」
「お嬢さん、落ち着いて...お部屋まで一緒に行きましょう」
「よし、タンザナイトくん、アキラくんとリンちゃん、それとアリス...あれ、アリス?」
その時やっと、アリスが俺たちの後ろにいないことに気付いた。実体のない不気味なものを何度も見たせいで、彼女の心は限界に達し、完全に固まっている....
『こ...こいつ、立ったまま気絶してる...』
「アリスってホラー耐性ないから、正面からこんなもの見ちゃったから....」
「ねぇアリス?もしもーし?返事しないと、前髪を七三分けにしちゃうよ。いいの~?」
「ひ、ひゃああああ!!風船、肖像画、ぬいぐるみ!!!」
「よかった、戻って来たみたい!よしよし、大丈夫だよ~....誰もアリスを傷つけたりしないからね~」
「ダメ、恐ろしすぎるのだわ!あまりにも非対称すぎるのだわあああ!!」
『いやそこぉっ!?』
どんだけアシンメトリーが嫌いなんだよ....
「あれ自体も恐ろしいけれど、あのアンバランスさが恐怖をよりかき立てるのだわ...!ううっ....タンザナイト、アキラ、リン、柚葉、誰でもいいからあれを早く片付けて.....」
「そうしたいのは山々なんだけどね。そもそもあれに触れなくて...ってあれ?」
アリスから再び不気味な物へと視線を移すと、それが消えてしまった。まるで初めから、そんなものはなかったかのように....
「全部なくなってる...?私たちなにもしていないのに、なんで?」
「うう....話が違うのだわ柚葉....!ここにはオバケなんて出ないって...!触れなくって、跡形もなく消えてしまうなら、それはもうオバケ以外ありえないのだわああああ....」
「大丈夫だよ、アリス。下見に来た時はなーんにもなかったんだから。つまり今になって起きたってことは....」
『...つまり、この『怪奇現象』は何かある...ということか?』
「そ。怪啖屋の古参として言わせてもらえば、ほとんどの怪談は超常現象なんかじゃないの。じゃあなんなの...ってなったら、それを柚葉たちで調べるんだから」
すると、客を避難させた狛野が戻ってきた。
「客は良い感じに散らしといたぜ。ついでにこの辺もぐるっと見えてきたけど、怪しいヤツは見当たらなかった。次はどうする?」
「お疲れ真斗、今日はもう遅いし、今ある手がかりじゃ調査も進められないから....取り敢えず今は休も。今夜の騒ぎが明日に響かないといいけど....」
「柚葉、リン、私一人ではとても眠れないのだわ...一緒にいてくれないかしら...」
「もちろんだよ!ごめんね、怖い思いさせちゃって」
「アリスはまだしばらくは立ち直ないようだな...リン、柚葉とアリスのことは頼んだよ。さて、僕は...」
『..俺と一緒にねようか』
「ああ、ありがとうタンザナイト...」
そうして、俺はアキラと一緒に寝ることになり、眠りについた....朝になると、部屋の外から聞こえる声で起こされた...誰かが喧嘩しているのかな?
そう思い、俺たちは見に行くと――エーゲがお客さんを対応していた。
だが取り乱した数人の観光客と話がうまくいかなかったか、二言三言怒鳴った後、そのまま去って行った....
「アキラさん、タンザナイトさん、おはよう...」
『大丈夫かお前...少しやつれてるぞ...』
「あの観光客は一体?」
「それなんだが、落ち着いて聞いてほしい...昨夜の件、誰かがインターノットに投降したらしくて、それがあちこちにひろがっているんだ...」
『ダニィ!?』
「現場にいなかったお客様でさえ、インターノットで写真を見て、リゾートへの不信感が強まってしまったようで....今朝から沢山のお客様が殺到して、チェックアウトと返金を求めているような状況だ....こっちはまだ何とかなっているが...フロントを手伝ってくれないだろうか。お嬢さんには僕よりも多くの苦情が寄せられているはずだ....一人じゃ手に負えないだろうから、頼むよ!」
『わかった、行こうアキラ』
「あぁ」
エーゲがそう言い、俺たちは急いでテレーゼがいるフロントへ向かった。そこにはクレームを対応してるテレーゼがいた。
「お客様、落ち着いてください....当リゾートは決して皆様の安全と財産を軽視したことはございません。どうか私達を信じていただけないでしょうか!」
「落ち着けだって?どう落ち着けってんだ!怪奇現象の動画も写真も、インターノットで検索すれば山ほど出てくるんだぞ。そんな状況で、お前らの言い訳がどんだけ薄っぺらく聞こえるかわかるか!?」
「皆様、少々お時間を頂いけませんか、必ずご納得いただける説明をいたしますので....」
「心霊スポットみたいなリゾートで説明を待つなんてごめんだ!こっちは一分一秒怯えてなきゃいけないんだぞ!ハッキリ言わせてもらう、今すぐチェックアウトだ!返金、してくれんだろうな!?」
「これ以上ごまかし続けるなら、お前らの詐欺行為を全部ネットに晒してやる!」
「....皆様のご要望は承知いたしました。返金につきましては....お一人ずつ対応させていただきますので、順番にお並びいただけますでしょうか」
....テレーゼのやつ、ちょっと涙が溢れそうじゃねぇか。
と、フロントの様子をみていると、突然誰かに肩を叩かれる。振り返ると、そこには、柚葉とリン、そしてアリスが後ろに立っていた。そしてみんなと話しやすい場所へ移動することにした...
『....やっぱりネットは凄い反面、怖いな....オバケが出たって話がもうここまで広まっていたなんてな....』
「うん...さっさと真相を明らかにしないとね。運営の方は真斗に任せて、柚葉達は事件の捜査をしよ。今のままじゃ。フェスどころじゃなくなりそうだしね」
「柚葉、本当に私たちで調査するの?アーノルドに任せておいた方が...」
「お嬢様?昨日は柚葉とリンちゃんを絞め殺す勢いで抱き枕にしてたのに、もう腰が引けちゃった?いうかふだん家でもぬいぐるみを左右対称に抱いて寝てるわけ?」
そこも左右対称なの!?もはや異常だろそれ....もしかして役職異常なの?異常の人ってなんでこうネジが二三本物故抜いた性格してるんだろ...月城を見習えよ....
「それとアーノルドさんだけど、貴方のお家のことでまだ忙しくしてると思うよ。怪談に立つ向うのは、柚葉達怪啖屋の役目じゃない?」
「でも、今まであなたが連れて行ってくれたのは、どれも大したことないやつばっかりだったのだわ....本当の怪談はこれが初めてなんだから!あんなにも非対称て恐ろしくて、実体のないものが目の前に現れるなんて....!」
「アリス、落ち着いて。昨日も行ったけど、『ほとんどの怪談は....」
「えっと...『超常現象なんかじゃ...ない』?」
「よくできました!でもね、それ、続きがあるんだ。怪啖屋の新メンバーのためにも一回いっとかないとね―――どんな怪談の裏にも、この世の未知なる何かが隠れてるの。それを解き明かした先に見える真実は、人の仕業だったり、超常的なもの....ひょっとしたら、
「.....」
『そうだぜ、アリス。どっかのイギリスのオッサンが言っていた言葉だが....『『勇気』とは『怖さ』を知ることッ!『恐怖』を我が物とすることッ!人間讃歌は『勇気』の讃歌ッ!!人間のすばらしさは勇気のすばらしさ!!』....てな。アリスのその恐怖を乗り越えた先には絶対に真実が見つけられるはずだ』
「うわっ、結構いいこと言ったのに、それを超えること言われた....まぁそう言う事、だから柚葉は怪談が大好きなの」
「むぅ...真斗もきっと、柚葉のその言葉に感銘を受けて怪啖屋に入ったに違いないのだわ」
「え?そんなわけないじゃん、今のはここ何日で考えたやつだし」
えぇぇっ!?今考えたやつなのぉぉ!?何か貫禄がある言葉だったじゃん、今の!!
「なんですって....せっかくちょっと感動してたのに...!」
「ごめんね~。でもすっかり調子が戻ったじゃん。調査モード、オンになった?」
「むむ....本当はまだ怖いのだわ。あのオバケのショックが強すぎて...でも柚葉やみんなもいるなら、私だって少しは勇気が出せるかもしれないのだわ」
「いーじゃんいーじゃん!じゃあ調査の第一歩だね――バカンスを満喫しつつ、リゾートも盛り上げて、この夏をエンジョイしよう!」
「ほ、本気で言ってるの?それはもはや調査でもなんでないのだわ....」
「なんとなく読めた気がするな...さながら守株待兔...といったところかな?」
「そのとおーり!今回の怪奇現象が本物か偽物か...まあ、リゾートの人気が落ちてるって結果でなんとなく当たりは付くけど、手がかりも証拠もないわけだし.....でも、もし怪奇現象がもう一度起きてくれたら?調査が一気に進むかもしれないよ。で、その方法だけど....」
分かるぜ、柚葉....お前の考え!
『これまで通りにリゾートを盛り上げて噂が下火になれば、再び『オバケ』が動き出す...ということだろ?』
「でも...二度もあんなことが起きたら、それこそリゾートの評判はちに落ちてしまうのだわ....何が起きるまでは、静観するしかないのかしら?」
「そんなわけないでしょ、テレーゼたちにこのリゾートで過去に何があったのか聞いてみなくちゃ。『オバケ』が出てくる前にね」
そうして、俺たちは『オバケ』を立ち向かうべく、このリゾートで何があったのか聞くことにした。