side タンザナイト
俺たちが拠点に戻ると、いつもは静かな防衛軍の駐屯地から、歓声と笑い声が絶え間なく聞こえる....なんだ?
『やけに今日は賑やかだな....なにがあった?』
「うーん...周りの兵士たちに聞いてみようよ」
と、周りにいた兵士たちの話を聞くと....讃頌会と戦いで撲滅できたので打ち上げをしようみたいな感じの話らしい....いや気がはやくないか?
『フン、呑気な奴らだ.....勝利を収めたばかりだというのに、もう打ち上げの準備か』
『鬼火!....なあ、次の計画って....』
『計画?もう計画もなにも....讃頌会の主要メンバーは既に殲滅されたと少将は考えてる、敵の本拠地も掃討した。我々はもう『勝利』を手中に収めたのだ』
「まさか....『勝利』がここんなにもあっけなく訪れるとは思わなかったであります」
『....ほんとかぁ?』
今まで結構讃頌会と戦ったが....そんな簡単に勝利があり得るのか?
『騎士君、讃頌会と何度も戦ってきたぶん、やつらのことはよく知ってるだろうが....オブシディアン大隊のとして、一介の『違法団体』に時間と戦力を割きすぎるわけにはいかない』
「オブスキュラに関してですが....イゾルデ大佐は自分たちの情報とサクリファイスの危険性を重く受け取ってくださりました。今は衛非地区の市民たちの避難を手配している最中であります!市民の避難が完了するまで、自分たちはここで警備を続け、オブスキュラの調査が終わるまでに、民間人の安全を守り続けるであります」
『作戦開始前にこれだけの数のオブスキュラの位置をは把握できたのも、イゾルデのおかげだと言えるだろう』
「もしかして、大佐は最初からそのリスクを....?」
「まぁとりあえず、プロキシ殿、騎士殿、少し休憩することになったんでありますから、しばらく肩の力を抜きましょう!自分と隊長はあっちのテントに戻りますが、プロキシ殿もご一緒にいかがでか?」
そうして、不安を抱えながらも、夜の帳と歓声に包まれ、二人の兵士とご一緒に、灯りの中で一息つくことにした....オボルスの隊員達と拠点に到着するなり、部隊の兵士たちの早すぎる祝杯を目撃した。
「諸君!衛非地区を蝕んできた讃頌会という病害は―――今この時をもって、我々の勇敢果敢なる攻撃により一掃された!正義と勝利が、再び新エリー都市民の手に戻ったのだ。過去、これまでに繰り返されてきた全ての勝利と同じようにッ!」
「兵士よ!己が勇気を讃えよ!兵士たちよ!勝利の栄光に歓呼せよ!」
ロレンツが締めると、終結した兵士たちの間から、歓声が沸き上がった――
「我らが聡明なる指揮官、ロレンツ少将閣下、万歳!」
また歓声が再び沸き上がった――
「こんなこと言ったら台無しだけど....まだ勝利をお祝いするには早いんじゃない....?」
『僕もそう思います』
「ロレンツ少将、歓声を浴びてすっかりご満悦でありますね」
「典型的な、『お~えらいえらいさん』だね~」
『その心配は至極まっとうだ、プロキシ君、騎士君。ホロウの内部には、まだ讃頌会の残党がうろついてやがる。市内にあるオブスキュラだって処理しきれてない』
確かにそうなんだよな....それってどう対処すんだろう?
「私が知ってる限り、讃頌会の主要な幹部ってまだ誰も捕まってないんだよね。もう何度もやり合ってきたけど、毎回うまく逃げられちゃってる。あいつらを何とかしない限り、讃頌会の脅威はなくならないもん」
『そうだな....師匠がメヴォラクに痛手を負わせたし、オルカにも戦闘離脱させたし、讃頌会だって相当損耗が激しいはず....なのにあいつらもミアズマも一向に大人しくなる気配がないのは、たぶんサラとかストラスとかみたいなやつが悪さしているんだろう....』
『師匠....儀玄か。またその名前を聞くとは、ふん、腐っても雲嶽山の宗主だな』
「そうえば、イゾルデ大佐がいないけど....あの人が実際の指揮官だったんだし、お祝いの場にもいるべきじゃないの?」
『イゾルデはこのところ体調が優れないらしく、街の方で休んでいる。ここ数日は会議にも顔をだしていないそうだぞ』
ああ....だからさっきからせき込んでいたんだな....
「も、もしかすると、イゾルデ大佐もこういう場が苦手で、何かと理由を付けて、席を外されているのかもでありますね....?」
『....まぁ、それもあの女らしいが。だが讃頌会に痛手を与えたことは確かだ。死線を乗り越えてきた兵たちに、『勝利』が必要なこともな』
「あれ?『鬼火』隊長、なんだからしくないというか、ちょっと意外であります....」
『――フン、せめてもの慰めをくれてやってるんだ。所詮軍人なんてものは、『命令』に従うしかないんだからな。どんなに内心では疑ってようと、命令がなければ動くこともままならん』
「勝手に動いたら、軍法会議ものだからね~『シード』は別にそれでもいいけどぉ、『ビックシード』は止めようとしてくるだろうなあ~」
「自分としても....軍に裁かれる皆さんなんて、見たくないのであります.....」
『そうだ、これも命令のやっかいなところなんだが....正式に作戦の終了が宣言されるまでは、少将によるお前たちへの制限命令も解除できない。すまないな』
と、鬼火が謝って来た。
...しかねぇよ、軍ってのは命令が重要なんだし....
「うん...わかってる。オボルス小隊も、他の兵隊さんたちも...新エリー都を守るために色んなものを犠牲にしてるんだもん。それを思えばね、だから.....いまだけはせっかくの勝利を、ちゃんと味わってほしいなって気持ちになってきたかも」
『俺もそう思うぜ』
『....ありがとう、プロキシ君、騎士君』
その後、俺たちは寝ようと準備していると、1人の兵士に声を掛けられる。
「失礼します、『特使』殿。上官から伝言を預かっています。TOPSのお客様が訪ねていらした、とのことです」
『TOPS~?なんでまた....』
「詳しい状況とお客様のご身分につきましては、自分も把握しかねますので、お手数ですが、ご自身で確認いただければと.....」
そう言って、兵士は去って行くのを見た後、俺たちは訪ねてきた場所を言ってみると....そこにはダミアンが立っていた!
その後、ダミアンにルクローの動向についての情報を伝える.....
「ええ、もちろん....ルクロー氏が自らホロウに出向いたことも、例の少将とその部隊の動きについても....すべて私の耳に入っております。ポーセルメックスと讃頌会、双方の輝磁の在庫を移送する傍ら、フェロクスのもとで働いていた腹心たちを片っ端から捕まえているのです。粛清を恐れホロウの研究所に逃げ込んだ、哀れな私の同僚たちもこれに含まれます」
「まだすべての決着がついたわけでもないというのに、あちこちで尻尾切りが始まっているわけですが.....はぁ。暗君より恐ろきは、また別の暗君ということなのでしょうか。TOPSが拾い上げてくれるとも思えませんし、防衛軍が私のような野良犬に、思いやりを示すこともないでしょう」
『....話聞く限り、ルクローからあんまりいい印象を貰っていないな?』
「ええ、そうなのですよ....『目の前の餌に迷わず食らいつく野良犬』という、実にありがたい評価を頂きました。まるで私に選択があったとでもばかりではありませんか....こちらとしては、食い扶持を失いたくない一心だったのですがね」
可哀想なダミアン。ひとえに上司が悪いが....
「率直に申し上げましょう。当初はリン先生たちをはじめとして、雲嶽山の皆様にお縋りする覚悟もできていました。立場がどうあれ、今の衛非地区で公平を重んじ、私なんかの話を辛抱強く聞いてくれる方は、他にいませんから。ええ....誰かに頭をさげるなんて、とうに慣れっこですからね」
『....悪いけど、俺たちも今のダミアンと似たり寄ったりな状況で....いまは動きを封じられているんだよな.....だから、雲嶽山のみんなにも、簡単に連絡がとれん―――一応、ダミアンだけなら保護してもらえるが...』
「ああ、ですがもうご心配なく。途方に暮れていたところに、ちょうど――『救世主さん』が来てくださったところですから」
救世主?と、そんなことを思っていると、ダミアンの背後から、ちょこんと小さな影が飛び出してきた。見た目が兎?のような薄ピンク色の小さなシリオンだった。
「はいはーい、ダミっちの『救世主さん』にこと、
「コホン....ご紹介いたしましょう。こちら、TOPSよりお越し頂いた、照様です。『クランプスの黒枝』に属されています」
『クランプスの黒枝』?はて....なーんか聞いたことあるような.....
『えーっと...初めまして照さん。その『クランプスの黒枝』ってどんな企業なんですか?』
「うん、知らないと思うよぉ。『黒枝』は会社の名前じゃないもん。審査、裁定、『ルール』の維持....それが、ザオちゃんたちのオシゴト」
その言葉を聞いた俺はああ、とうなずき理解した。
そうえばアリスと一緒に会社との合同のときに聞いたことがあったな....
円卓が定めた「不文律」を守ってるか各企業を常に監視し、人身売買や武力支配などの超えてはならない一線を超えたと判断した際には、容赦無く「処断」する....また事態解決の為にTOPS内部でも一握りしか知らない開発段階の試作兵器の持ち出しも許可されるなど、強い権限を有しているんだっけ.....
『今回のポーセルメックスは明らかにアウト寄りだからここに来た...というわけか』
「ピンポ~ン、大正解!さすがエーテル研究の社長さんだね」
「成程ね、なんとなくわかって来たかも。どうして『黒枝』の人が企業にとって『死神』って呼ばれてるのか....でも、そういうルールの番人がいるからこそ、TOPSはこの街でお師も押されぬ立場にいられるんだろうね」
「私が彼女を『救世主』と呼ぶ理由も、これでご理解いただけたのではないでしょうか」
「まぁ、ダミっちの『救世主』になるか、『死神』になるかは、全部調べ終わってからじゃないとわかんないけどねえ」
「ふっ....そうだとしても、ルクロー氏のような人に生殺与奪を握られているよりは、ずっとましですよ」
『ダミアンは....まぁ色々思うことはあるけど、絶対に一線は超えないっていう信頼はあるからな』
「ふぅん....キミ、いい眼をしてるんだねぇ。見えなくても分かる....とってもシャープできれい.....『黒枝』としては、敵になってほしくないかも?ふふ...次にザオちゃんと会うときは―――その眼が『おこ』じゃないといいなあ~」
照がそう言うと、踵を返し、その背をダミアンが慌てて追う。その小さな体とは裏腹に、彼女の放つ圧は、隣のダミアンを飲み込まんばかりだった......